灰壁の部屋にて。
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あらすじ
全裸で灰色の監獄に閉じ込められた三人の男。記憶を失った青年ギムレットと、新聞記者のソル、そして奇妙な執着を持つベイユ。天井から降る限られた物資を奪い合い、時に分け合う歪な共同生活の中、彼らは巨大迷宮の謎に迫ります。外の世界への渇望と、箱庭の安寧。執着と愛が交錯する果てに、ソルが目撃した衝撃の真実とは?閉鎖空間で繰り広げられる、再生と喪失を描いたヒューマンドラマ。
本文
ギムレット「ん……ここは…。」
気が付くとそこは四方が灰色の壁と床に囲まれた牢屋でギムレットを含む三人の男が全裸で閉じ込められていた。
ソル「気が付いたか。俺はソル。こっちはベイユだ。…俺も気が付いたらここに閉じ込められてたんだ…。」
ベイユ「私はベイユです。私も気が付いたらここに……」
ソル「まずは自己紹介しないか?俺はソル。普段は新聞記者をしているよ。」
ベイユ「私はベイユと申します。普段はカフェのウェイターをしております。」
ギムレット「僕は…ギムレット。…僕の職業は…。……僕は……何者なんだろう……?」
ソル「記憶が無いのか!?」
ギムレット「いや、名前は覚えているよ。ただ、自分が何者かが思い出せないんだ」
ベイユ「ややこしい事になりましたね…。うん?」
すると、天井からどさっとパンと袋詰されたほかほかのシチューが一人分落ちて来る。
ソル「これは…シチューとパンだ!でも…一人分だな?三等分するか…?」
ベイユ「いや、このパンは私一人で頂きたい。」
ソル「はあ!?」
ギムレット「シチューはいらないの?」
ベイユ「ええ。私はパンとシチューだけで充分です」
ソル「いやいやいやいや!!!だからこれは一人分しか無いんだよ!なんでお前、独り占めしようとしてるんだよ!?」
ベイユ「しかしこれを三等分しても腹は膨れません。余計に腹が減るだけでしょう。でしたら戦って奪い合いしますか?私は構いませんが。」
ソル「それも嫌だよ!でも、これしかないんだからしょうがないだろ!!」
ギムレット「早くしないと冷めちゃうよ…?」
ベイユ「ならこうしましょう。一人が食べる、残りの二人は争わない。これでどうでしょう?」
ソル「くっ……。しょうがないな……」
ギムレット「じゃあ、どうやって食べる人間を決める?」
ベイユ「普通に、じゃんけんで良いのでは?」
ソル「よし!じゃんけん!パー!」
ベイユ「チョキ」
ギムレット「ぐー」
ソル「あいこでしょ!チョキ!」
ベイユ「パー」
ギムレット「ぐー」
ソル「決まらねえな!じゃあまず、ベイユ!俺と勝負だ!じゃんけん!!グー!」
ベイユ「チョキ」
ソル「よっしゃあ!俺の勝ちッ!次はギムレット!じゃんけん!パー!」
ギムレット「グー」
ソル「よっしゃあ!俺の勝ちィ!!(シチューとパンを奪い取る様にして食べる!)美味ぇ~~!!!!」
ベイユ「お見事……」
ギムレット「(羨ましそうに見ている。)」
ソル「ふー!腹いっぱいだぜ!……ん?」
次はばさっと男性用の下着上下が落ちて来たが、それも一人分だ。
ソル「今度は下着だ!これも一人分かよ…。どうする?これもじゃんけんで決めるか?」
ベイユ「私は結構ですよ。どうぞお二人で決めてください。」
ソル「ええ…。お前裸でいいのかよ。」
ベイユ「そう言う訳ではありませんが、それなりに暖房も効いてますし、とくには。」
ソル「うーん、ギムレット。どうする?じゃんけんで決めるか?」
ギムレット「うん、ここは公平にジャンケンで決めようよ!」
ソル「よーし!じゃんけん…(こいつ、さっきからグーばっか出すからな…)パー!!」
ギムレット「(パーを出す)」
ソル「(えっ、まじか。)あいこでしょ!チョキ!!」
ギムレット「(チョキを出す)」
ソル「チョキ!」
ギムレット「パー」
ソル「よっしゃあ!!俺の勝ちィ!(早速下着を着る)あったけェ~~~!!!!!!やっぱり全然違うぜ!!最高だ!!有難うな俺ばっかり!!」
ベイユ「ええ。良かったですね。」
ギムレット「(羨ましそうに見ている。)」
すると、今度は作業着の様な灰色のツナギが一着落ちて来た。
ソル「あー、ツナギか…。うーん、下着無しで着るのも衛生的にどうかと思うし、このツナギは俺が貰ってもいいか?お前等の分も落ちて来るかも知れねえし。」
ベイユ「どうぞ。私は構いません」
ギムレット「(羨ましそうに見ている。)」
ソル「…ギムレットは、服着たいのか?」
ギムレット「えっ、うん。できれば服着たいな……」
ソル「解った。じゃあそのツナギはお前にやる。でも、下着無しだからこすれたり被れたりしても俺は知らないぞ。」
ギムレット「うん!有難う!(ツナギを着る)」
そうしている内に三人分の水が落ちて来た。
ソル「お、水は三人分なのか。(水を拾う。)ぷはーっ!生き返るぜ!」
ベイユ「貴方は食事で水分を採っているでしょうが私達はこれが初めての水分です。(ぐびぐび飲みながら)」
ソル「そりゃそうだ」
そして三人で過ごして今が昼か夜か、何時間経ったのかも解らないまましばらくが過ぎた。
すると天井からまた何かが落ちて来た。次は赤いドレスが落ちて来た。これも一人分だ。
三人でじゃんけんした結果、ベイユが着る事になり、そして次に下着が落ちて来た。これはギムレットに渡した。
ソル「これはツナギを着てるギムレットが着た方が良いしな。ほらよ。」
ギムレット「うん、有難う…(下着を履いてツナギを着直す。)」
こうして、現在ソルは下着姿。ベイユは赤いドレス。ギムレットは下着にツナギと言う恰好だ。
ソル「にしてもベイユ。その格好で良いのかよ。お前男じゃん。」
ベイユ「構いませんよ。どうせ誰も見ていませんし、私の男性性なんてもう捨てましたから」
ソル「……?…まあ、いいや。それにしてもここは何なんだ?俺達は出られるのかよ。」
ギムレット「……もう出れないのかな?怖いよ……(泣き出す)」
ソル「ああもう、泣くなって。大丈夫だって飯は出て来るし…。」
そんな事を言っていると、また食事が出て来た。
今度は袋詰めされた野菜スープだ。しかし一人分しか無い。
ソル「うーん、どうする?このスープは……?正直俺は最初のシチューとパンを貰ったし、お前等に譲るよ。(正直全然足りねえけど…。)」
ベイユ「いや、私も結構ですよ。ギムレットにあげて下さい」
ソル「……ん…そうか…。おい、ギムレット。これ食って元気出せ。(野菜スープを差し出す。)」
ギムレット「(泣き止み)うん。有難う…。」
そうしている内に、再び天井から何か落ちて来た。
それは何と、ギムレットの背丈に合わせた子供服一式と靴。そどうやらギムレットに着て欲しい様だ。
ソル「………ギムレット、これ着るか?」
ギムレットはこの中でベイユの次に長身でやや筋肉質だ。年齢的に見れば20歳くらいか。
正直、どうなのだろうと思ったが…。ギムレットは。
ギムレット「え、良いの!?ありがとう!(子供服一式と靴を身に着ける)」
ソル「……ツナギは俺が着るな。(ギムレットが着ていたツナギを着る。)」
ベイユ「……ねえ、ソル。」
ソル「ああ…。何かアイツ、凄い子供っぽいよな…。」
ベイユ「ええ、正直私は違和感しかないです」
ソル「……うん…。」
そんな話をしている内に、また天井から何か落ちて来た。
今度はソファがドンッと落ちて来る。
そのソファを三人で運んで飾っているとまた何か落ちて来た。
今度は何だろうか?ぬいぐるみや絵本が落ちて来る。これも一人分だ。これはギムレットの物となる様だ。
ギムレットはそれを手に取り、嬉しそうな顔で抱きしめている。
ベイユ「ねえ、ギムレット。」
ギムレット「何?ベイユ。」
ベイユ「貴方は幾つか、覚えていますか?それも解らない?」
ギムレット「うん……。全然解んない……」
ベイユ「そうですか…。何と言うか、もう少し様子を見た方が良いかも知れませんが、ソル。貴方はどうして私達が閉じ込められているか解りますか?」
ソル「え?…うーん…。見当も付かないな……」
そんな話をしているとまた何か落ちて来る。
今度は食べ物で、今度はクッキーが落ちて来た。これも一人分だ。
ソル「なあ、ベイユ。そろそろお前が食べなよ。腹減ってんだろ?」
ベイユ「いえ、私は。ソルが食べなさい。」
ソル「………解った。けど、次食べ物が落ちて来たらそれはお前が食え。何であっても。」
ベイユ「良いでしょう」
ソル「ギムレット、ほら、クッキーが五枚あるからさ、お前が三枚食べろ。(三枚のクッキーを渡す。)」
ギムレット「うん!有難う、ソル!」
そして、次に落ちて来たのは……ベチャッ!!
「食べ物です。」と書かれたその袋の中に入っていたのは…糞だった。
ソル「うわあ!!おい!ベイユ!!」
ベイユ「……私にそれを食えと?(嫌そうな顔)」
ソル「いや、そうは言ってないけど……流石に糞は食えないだろ…。でも、これどうやって処理する?」
ギムレット「僕が食べるよ」
ソル「は!?お前、流石にそれはちょっと……。腹壊すぞ!?」
ギムレット「(ソルの持つ袋入りの糞を手に取ろうとし)」
ソル「おい!ちょっと待て!何でお前、そんなに近づくんだよ!?やめっ……ああもう!!(糞をひったくる様にして奪う。)スープとかシチューの袋あるだろ!?それに何十にもして入れるぞ!!」
ベイユ「そもそも……排泄物の処理はどうします?ここにトイレはありませんから……だから私は、食事をしたくなかったんです。」
ソル「そ、それを先に言えよ!!」
そんな風に騒いでいるとまた天井から何かが落ちる。
それは……トイレットペーパーのロールだった。それは三人分あった。それとティッシュペーパーのパックだ。これで用を足せと言う事だろう。
ソル「いやいや便所が無い限りどうにもならないだろ。それに捨てるのはどうすりゃいいんだよ…。」
ギムレット「ここに穴があるよ?(部屋の隅に蓋つきの穴がある。)」
ソル「ええ……。そんな所におしっこできるのか……?俺、この年で野ションはちょっとな……まあ、我儘は言えないか。」
ベイユ「……私は少し席を外します。(そう言いつつ部屋の隅へ移動する。)」
ソル「………。」
そうしている内にまた天井から何かが落ちて来た。
次はシーツと毛布と枕だ。そして食事もパンと水が落ちて来た。これは三人分だ。それから紙コップ、ティッシュペーパー、タオルなどもある様だが……。
ソル「シーツと毛布と枕は一人分だな。俺はもう、この際協力だと思ってるからお前らに譲るよ。シーツと毛布と枕、ベイユ…お前使うか?(ベイユに歩み寄る)」
ベイユ「ええ、有難うございます。(ギムレットが持ってたシーツと毛布を受け取る)」
ソル「(少しは機嫌が直ったな…。)ギムレット、悪いがお前はソファだけで寝てくれ。俺は地面で寝る。」
ギムレット「うん。解ったよ」
ソル「(ギムレットに歩み寄り)ベイユの奴って良く解らないよな。拘りが強そうだし、女のドレスは着るし、何考えてるか解らねえよ。」
ギムレット「確かにね……。でも、優しい所もあるよ?(笑いながら)」
ソル「それはそうだけどよ…。ところでギムレット、何か思い出して来たか?」
ギムレット「ううん。何も」
ソル「そうか…。大丈夫か?俺のパン、少しいるか?(一口ほどパンをちぎって渡す)」
ギムレット「有難う。でも、大丈夫」
ソル「そうか。(自分のパンを食べる。)……早く、出たいな…。俺には恋人がいるんだ。今朝、喧嘩して職場へ行っちまったから…早く仲直りしたいよ。」
ギムレット「恋人、いるんだ。どんな人なの?」
ソル「名前はメリッサで、料理が得意で綺麗で可愛くて性格も良い奴さ。優しくてさ……ちょっと怒りっぽい所もあるけどそこも可愛いっていうかな。俺なんかには勿体ないくらいの子なんだ。」
ギムレット「ふふ、そっか…。」
そうして三人は灰色の部屋の中で眠りに就いた。
その翌日…目が覚めるとまた天井から何かが落ちて来た。次は食器だ。それぞれ違う皿やナイフ・スプーン・フォークとコップだ。これで食事をしろと言う事だろう。
他には……朝食として、パンとスープ、サラダとベーコンエッグがある。それと水がまた天井から落ちて来た。
ソル「おおおお!!すげえ!ご馳走じゃんか!ベイユ!お前食えよ!俺のベーコンエッグをやるよ。お前、腹減ってるだろ!?」
ベイユ「え、良いんですか?では遠慮なく。(ソルのベーコンエッグを食べる)美味しいですね」
ソル「へへ、美味いなあ。ギムレットも俺のスープを分けてやろうか?」
ギムレット「ううん。大丈夫。有難う、ソル」
ソル「そうか。良く食べろよ。」
そうして三人が食事をしているとまた何かが落ちて来た。
それはベッドのマットレスだ!しかし一人分であり……。
ソル「…このマットレスはベイユ、お前が持ってるシーツや枕、毛布に使え。」
ベイユ「いいえ、私は別に大丈夫ですから……。(遠慮する)」
ソル「そうか。じゃあ…ギムレット。今夜からこのマットレスで寝な。」
ギムレット「え、良いの?有難う」
ソル「おう。…さてと、じゃあ今ある物をまとめよう。ここはトイレ兼ゴミ箱がある部屋。
俺はツナギを着ている。所持品は特に無し。ベイユは赤いドレス。下着は無い。枕とシーツと毛布を持ってる。
ベイユは子供服と靴。そしてオモチャと絵本とマットレスがある。…で、共有家具はソファと各食器。…大丈夫か?」
ベイユ「ええ、解りました」
ギムレット「うん。」
ソル「俺達はもう少しこの部屋を探索した方が良いと思う。今回穴が見付かった様に他にも何かあるかも知れねえ。」
ベイユ「そうですね。(そう言いつつ周囲を探索する。)」
ギムレット「(真似をする様に探索する)……あれ?(何かボタンの様な物を押す)…あ、(天井から何か落ちて来る)」
次に落ちて来たのはライトとティッシュペーパーだった。今度は三人分ある。それから水が天井から落ちて来た。
ソル「ライト…?これから必要になるのか?…ティッシュはもういらないな。あとは二人分の寝具が欲しいな。出来ればマットレスも。」
そう言うと再び天井から何かが落ちて来た。
今度は枕と毛布だ。それから、水が落ちて来た。これは三人分ある様だ。
ソル「おお、枕と毛布が落ちて来た。三人分だから一枚余るな。ギムレット、この毛布を敷布団に使え。あと、枕ももう一つ要るか?抱き枕かクッションにでもしろよ。」
ギムレット「うん。有難う(ソルから毛布を受け取り、敷布団代わりに使う)」
ソル「ある程度は要望聞いてくれるって事は…俺らの動向を伺ってはいるんだな…。じゃあ…もっと肉が食いてえ!!」
ソルがそう言うと再び天井から何かが落ちてきた。
今度は椅子と机と一人分の食事だ。食事の内容は袋詰めされたパンとスープ。そしてサラダだ。
ソル「うーーーん、なるほどな?完全に要望を聞くのは難しい訳だ。…おい、誰か食事食べるか?」
ベイユ「遠慮します。(首を横に振る)」
ギムレット「うーん……いらないかなあ。(首を傾げる)」
ソル「本当にいいのか?じゃあ俺が食べるぞ。(むしゃむしゃ)美味い…!!飯が少ないのは困りものだけど、何か慣れて来たな。」
ベイユ「私は本とか、暇を潰せるものが欲しいですね。」
ベイユがそう呟くと、天井に穴が開き、そこから一冊の本が落ちて来た。それをベイユは拾い上げる。表紙には『幸せを呼ぶ魔法』と書かれている。どうやら恋愛ものの小説らしい。
ベイユ「……恋愛小説ですか。少し興味があります。(そう言いつつ本を読み始める)」
ソル「ベイユ、机と椅子使うか?(ベイユがいる隅に机と椅子を運ぶ。)この隅はお前の部屋にしていいぜ。」
ベイユ「私はここで良いですよ。(本を読みつつ)」
ソル「お前本当に可愛げないなあ。…じゃあこの机と椅子は俺が使おうかな。…おい!天井!ノートとかペンをくれ!記録を残したい!」
そう言えば天井からペンとノートが落ちてくる。
今度は一人分の食事だ。食事の内容はパンとスープにサラダ。そして、水が落ちてきた。
ソル「おお。また落ちて来た。…この食事はベイユとギムレット二人で分けて食えよ。」
ベイユ「…有難うございます。(礼を言う)」
ギムレット「有難う。(ソルに礼を言い、食事を受け取る)」
ソル「……さて、俺は探索をしようかな……。(辺りを見回す。)おん?…これは…(またスイッチを見付けそこを押すと、ゴゴゴ…と隠し扉が開く)うおッ!?なんだぁ!??」
ソルがライトを持ってその扉の先を進んでいくと、そこは風呂場と洗面所。そしてトイレがあった。どうやらこの部屋は脱衣所も兼ねている様だ。
ソル「おおッ!おいっ!ベイユ!まともな風呂場と洗面所とトイレがあったぞ!これでお前も人目を気にせずクソ出来るぞ!!」
ベイユ「下品な人ですね…。まあ、そうですね。(頷く)」
ソル「これはもしかすると…少なくとも死ぬ事は無さそうな気がしてきたが、この様子だと他にも隠し部屋がありそうだな?」
ベイユ「そうですね、…ですが、妙ではありませんか?」
ソル「妙って?」
ベイユ「恐らくこの部屋の主は私達を殺す気は無さそうだ。だが、それなら何故風呂場だトイレ等を隠し部屋にしたり家具や食事を小出しにする?」
ソル「うーん。そう言われると確かに妙だな?……何だかまるで……。」
ベイユ「私達がどんな行動を起こすか、観察しているみたいですよね?」
ソル「監視されてんのかなあ。でも、それなら余計にこの隠し部屋要素が気になるよな」
ベイユ「まあ、私は外の世界に然程興味もありませんし死なないで済むならここに居ても構いません。」
ソル「俺はそう言う訳にはいかないんだよ。」
ベイユ「そうですか。まあ、ここでの生活が便利になるなら協力はしますよ。死にたくはありませんし。」
ソル「ほんっと可愛げがないなあ。…まあ、いいや俺は隠し部屋を探すよ。」
そうしてソルはベイユが本を読み、ギムレットが玩具で遊んでいる間隠し部屋を探すために四方の部屋や水回りの部屋の隠しスイッチを探し続けた。
すると、天井からまた何かが落ちてきた。今度は紙と鉛筆だ。それをソルは受け取る。
ソル「なーんかズレてるんだよなあ。この天井。まあいいや。…ギムレット!紙と鉛筆がある。お絵描きするか?」
ギムレット「いや、いいよ。(ソルに断る)」
ソル「じゃあこれはメモ帳にでもするかあ。」
そして隠しスイッチを探し続けていたら、四方の部屋の床の隅に見付けた。
それを押すと、今度は隠し階段が出て来た。ライトを持ってそこを降りるとその先には地下牢があった。
その奥には机があり、机の上にはナイフと日記帳が置いてあった。ソルはその日記帳を読む事にする。そこには何かヒントがあるかも知れないからだ。
多分12月3日:ここは何だ?何で俺がこんな所に?まあ、どうでも良い。それより飯だ。今日もパンとスープしかねえ……。けど、質素だが飢え死にするよりはマシか……。
12月4日:アイツ、やっぱり持ってねえ。このままじゃ飢え死にする。しかし、アイツは部屋にいると妙な事が起こるっつってたな……。
12月5日:また飯だ。何か変な部屋が出て来たな……。まあ、飢え死にしないならどうでも良い。
12月10日:アイツ……今日も飯を持って来なかったな……。
12月12日:何だこの部屋……。変な声が聞こえる……?
12月14日:やべえ、アイツにばれた。でも俺が何も持ってねえって解るのと捕まるのとどっちが先だろうな?
12月28日:何で誰も助けにこねえんだよ!!
12月30日:腹が減った。
12月31日:昨日から何も食ってねえ。死ぬのか……俺……。アイツはどうしたんだろう……。
12月38日:ああ、ああああ、あああああ、あああああ、……しにたくない、しにたくない、死にたくない……。
13月1日:ああ、ああ、ああ、あああ……………………。
13月4日:何か聞こえた気がしたが気のせいか?
13月283日:ごめんな、さい、ごめん、なさい……。
13月31日:ごめんなさ、い、ごめ、んなさ……。
14月14日:……もうなにもおもいだせない。おれはだれだったんだろう?
14月1109日:ボクハダレダロウ?ボクハイッタイダレナンダロウ?
14月16日:タス、ケテ……。
14月18日:デモ、タスケニハコナイデ
……日記はここで終わっている。
ソルはその内容に冷や汗を掻き、これはベイユとギムレットには見せてはいけないと悟る。
ソル「俺が…早くここを脱出する方法を見つけねえと…大変な事になるぞ…。」
そしてさらにその地下牢と調べるが特に何も無かったのでナイフと日記帳を回収し周囲を調べる。
ソル「…ここは、物置き場にでもするか…。」
日記帳はこのままここに隠しておこう。
そしてベイユとギムレットがいる部屋へと戻ってくるとギムレットは玩具で遊んでいたが、ベイユの姿がなかった。
ソル「ベイユは?」
ギムレット「お風呂に行ったよ。」
ソル「そうか。……ベイユもまともな服をもう少し着させてやりたい。…なあ、天井。ベイユにもっとまともな服をくれよ。」
ソルが上を見上げてそう言うと天井から何かが落ちてきた。それは服だった。
服のデザインは花柄のワンピースとサンダル。それから下着だ。下着はきちんと女性用だった。とりあえずソルは顔を顰めてそれを持ってベイユが風呂から戻るのを待つ事にした。
ソル「ベイユ、湯加減はどうだった?」
ベイユ「(濡れた髪をタオルで拭きながら)丁度いい湯加減でしたよ」
ソル「ほら、これ天井に貰って来たんだけど……着るか?(ワンピースとサンダルと女性用下着を渡す)」
ベイユ「ええ、(受け取る)有難うございます」
ソル「お前さあ、女物の服…いいのか?お前は男だろ?男性性を捨てたとか言ってたけど…。馬鹿にしてるよなあ。あの天井。」
ベイユ「私は気にしてません」
ソル「そうか…。(違和感すごいんだよなあ。ベイユはイケメンではあるけどどう見ても男だし…。)」
ベイユ「それより地下には何かありましたか?」
ソル「あ、ああ…。地下牢でナイフがあったよ。でもそれ以外は何も。」
ベイユ「へえ…何だか物騒ですね。私も後で行っていいですか?」
ソル「え!?いや、でも危険かも知れないしな。」
ベイユ「充分調べたのでしょう?だったら私、その地下牢で暮らしたいです。食事は必要になったら取りに行きますから。」
ソル「やめとけって。…せめて、もう少し調べてからにしてくれ。」
ベイユ「はい……。」
ソル「ベイユは俺等と一緒に過ごすのが嫌なのか?」
ベイユ「いいえ。ただ、地下には何がありますか気になって」
ソル「そうか…。」
結局ソルはこっそり日記帳を回収して空になった地下牢にベイユを招いた。
ベイユは地下へと降りていくと、そこには牢屋があった。
牢屋の中には何もなかったがベイユは薄暗いそこが気に入り、ライトと本を持ってそこで暮らし始めた。
そして基本的に最初の部屋にはギムレットとソルの二人っきりになった。
ソル「…あー…いろんな所探し尽くしたなあ…。……ベイユに本でも持っていくか。…なあ、天井。ベイユのために本を用意してくれ。何冊か。」
ソルが天井を見上げてそう言うと天井から本が落ちてきた。ソルはそれを拾う。本は色んなジャンルの物があった。まずは娯楽小説。これはベイユは喜びそうだなあと思った。
そして、次に図鑑や辞典、専門書や写真集の本。他にもミステリー小説等もある。ソルがこれらの本を持っていくとベイユは喜んだ。
ベイユ「ここで本でも読んでずっと暮らすのも良いかも知れませんね。」
ソル「お前なあ…。本当に脱出する気は無いのか?脱出しないと大変な事になるかも知れないぞ?」
ベイユ「私は構いませんよ。……ソルもここにずっといてもいいんですよ?」
ソル「俺は嫌だよ。俺には外に出たい理由があるし。」
ベイユ「……そうですか。」
ソル「じゃあ、俺は探索に戻るよ。まあなんだ。お前に嫌われてる訳じゃなかった事が解っただけ良かった。」
ベイユ「私がソルを嫌う?そんな事ある訳ないじゃないですか」
その言葉を聞いて笑うとソルは再び探索に戻る。
それからしばらく時間が経ち、ソルは探索やギムレットとベイユの世話をして日々の事を記録。
ベイユは地下牢で本を読み、たまに上で風呂に入ったり着替え、食事をして再び地下牢へ戻り、ギムレットは玩具や絵本で遊びながら絵を描いたり等をして過ごしている。
3ヶ月くらい経ったある日の事、ソルが探索から戻るとベイユが地下牢で衰弱していた。それを見たソルは青ざめて慌てて駆け寄る。
ソル「ベイユ!」
ベイユ「ソル……。私、もう駄目です」
ソル「馬鹿言うな!(一度地下牢を出て部屋へ戻ると)天井!ベイユの様子が可笑しい!薬をくれ!!」
そう叫ぶと天井から薬瓶が落ちてきた。ソルはそれを持って地下牢へ戻るとベイユに飲ませる。すると暫くしてベイユは落ち着いたようで、呼吸も普通に戻っていた。
ソル「良かった…。だけど、やっぱりこの部屋でずっと暮らしているのは駄目だ。俺達皆で外へ脱出しよう。」
ベイユ「……でも、薬で楽になりました。ここの庇護の元生きている事がダメな事だとは思いません。」
ソル「今回はそれで治ったから良かった!だが、医者が必要になったら?手術が必要だったら!?どうするんだ。その時は諦めて死ぬって言うのか?」
ベイユ「私はそんなヤワな男じゃありません」
ソル「引きこもって体調崩した男が何言ってんだ!?じゃあもう助けないからな!?勝手にしろ!!」
ベイユ「助けなくてもいいですよ。どうせ私はもう長くはありませんし」
ソル「……は!?」
ベイユ「元々、余命数年の寿命なんです、私。」
ソル「……ベイユ…。」
ベイユ「だから、放っておいてください。」
ソル「………じゃあ、勝手にしろ」
そしてソルはそれ以来ベイユと口を聞かなくなった。
そんなある日、ソルはまた壁に小さな隠しスイッチを見付け、そこを押すと長く果ての無い廊下を見付けた。
一度引き返すとギムレットへと歩み寄り。
ソル「ギムレット!…この廊下、随分長い。俺は食糧を纏めて野宿覚悟でこの部屋を出ようと思う。お前はどうする?」
ギムレット「僕はソルに付いていくよ」
ソル「解った。(階段を降り地下牢へ向かう。)……ギムレット。新しい隠し扉を見付けた。随分先が長くてな。もしかすると、もう戻って来ないかも知れない。お前はどうする?」
ベイユ「私は外には出ません」
ソル「…………そうかよ。解った。じゃあな。ベイユ。」
ベイユ「………(本を読みながら)…行ってらっしゃい。」
ベイユを置いてギムレットと二人で荷造りをするソル。
そして天井へ声をかける。
ソル「天井!俺に沢山の荷物が入るリュックと携帯食を寄越せ!ありったけの量だ!可能なら寝袋とかも欲しい!」
すると天井からリュックと携帯食と寝袋が落ちてきた。ソルはそれを背負う。ギムレットにも同じものをオーダーしてリュックを背負わせる。
ソル「行くぞ。ギムレット。」
ギムレット「(嬉しそうに)うん。行こう!ソル!」
そしてソルとギムレットは真っ暗の廊下の先を進んでいく…そして長い長いその廊下の先には沢山の食糧と水が置いてある部屋があった。
そしてそこには大量の宝石や貴金属等もあった。ソルはそれを見て、ここが財宝を保管する金庫のような部屋だと理解する。
ソル「食糧と水は良いけど…宝石はなあ……。」
そしてさらに探索すると、その部屋にも扉があり、扉を開いた先には、なんと大きな部屋があった。しかしそこにも財宝は一切なかった。
ただ、一枚の絵が飾られているだけだった。それは一人の少年が複数の女性に囲まれる様子を描いた肖像画だった。……ソルはそれを見て呟いた。
ソル「……これ、ギムレットに似てないか?」
金髪に金の瞳。今より幼いが明らかにそれはギムレットだ。
ソルはギムレットの方へ顔を向けると、ギムレットは泣いていた。そして絵を見ながらこう言った。
ギムレット「僕ね、お父さんから要らないって捨てられたんだ……。お母さんも死んじゃって……一人ぼっちなんだ……。」
ソル「ギムレット!記憶を思い出したのか!?」
ギムレット「僕は…この場所に閉じ込められた。そして、その時に何院かのメイドさんがいて、それがこの人だった。
……僕は、いいや……俺は、あの部屋の地下牢で生活していたんだ。」
ソル「……!?」
ギムレット「ソル、お前、俺の日記を読んだだろう?俺は、そうだ…この屋敷で暮らしていた。「アイツ」に世話されて。」
ソル「……アイツって誰だ?」
ギムレット「それが誰だったかは解らない。でも、俺に良くしてくれて、優しかった。……でも、ある日を境に急に態度が変わったんだ。……俺は地下牢に閉じ込められた……そしていつの間にか年月が過ぎた……」
ソル「……なあ、ギムレット。俺はこの場所から出たい。それは変わらない。だがギムレット、お前はどうしたい?(日記を差し出し)この日記を見た所、お前もここに閉じ込められて一度壊れた。…なあ、こんな所出て社会の中で生活したくはないか?」
ギムレット「(日記を受け取り、目を通し)……そうだ、俺は捨てられたんだ。母さんも死んじゃって……一人ぼっちだ……」
ソル「ギム、俺と外に出ないか?それともお前は過去に縋ってここに閉じこもって生活するのか?」
ギムレット「俺は…外の世界に憧れていた。でも、俺は捨てられたんだ。外の世界なんて知った所で意味は無い」
ソル「…そうか。じゃあ、俺が外に出る協力をしてくれないか?この建物について知ってることを教えてくれ!」
ギムレット「…俺も詳しい事は知らない。でも、ここは高さ8000メートルにもなる超巨大迷宮だ。正直、脱出は不可能だと思う。」
ソル「な…じゃあ、俺はどうしたら良いんだよ」
ギムレット「恋人さんのことは残念だけどさ、俺やベイユと一緒にここで暮らさないか?俺、お前やベイユの事気に入ってるんだよね。」
ソル「(溜息を吐くと)……それは無理。俺は外の美しい世界を見るんだ。」
ギムレット「……外の景色を見るだけなら出来ると思う。ただ、結構な距離だけど。」
ソル「…無理なのか?外に出るのは。」
ギムレット「ほぼ無理だと思う。俺の知る限りでは。…でも、ここは実は俺らだけじゃない。少し進んだ先には少ないけど人間もいるし、外の世界と変わらないエリアもある。普通に暮らしていくことは出来るぞ?」
ソル「(驚いて)本当か!?」
ギムレット「ついて来い。」
そしてギムレットについていくと、そこは外に出たと錯覚するような自然豊かな景色や集落があった。
ソル「……ここで、暮らす事も出来るのか?」
ギムレット「仕事とか通貨って概念はないから、空から落ちてくるものを待たなきゃいけないのは同じだけど、ある程度は自給自足出来るぞ。」
ソル「これは凄いな……。食糧も豊富にあるし、綺麗だ……」
ギムレット「勿論、ベイユがいるあの部屋に戻ってあそこで暮らす事もできる。」
ソル「なあ、俺たちに物資を落としてるのは誰だ?」
ギムレット「AIだよ。かつてメイドアンドロイドだった…あの肖像画に描かれた人達だな。あの人たちが俺らに物資を届けてくれる…最近少しポンコツにはなってるけどな。」
ソル「(驚く)……マジか」
ギムレット「ソル、どうする?それでも外の世界に出たい?それとも俺らと暮らす?」
ソル「(暫く考えて)……俺は、外の世界に出たい。だが、今はここで生活する事にするよ。…それに、やっぱりベイユが心配だ。」
ギムレット「…おう!」
そしてソルとギムレットはベイユのいる地下牢まで戻ってきた。
ソル「ベイユ、ただいま。」
ベイユ「…ソル!ギムレット、戻ってきたんですか?」
ソル「この場所の秘密が少しわかった。外には出れないが、ここより環境の良いところを見つけたよ。ベイユ、一緒にそこで暮らさないか?」
ベイユ「私はここで生きていきます」
ソル「なんでだよ。ここよりも向こうのほうが人も居るし、暮らしやすいぞ。お前の病気も少しは楽になるかも。」
ベイユ「それでも私はここにいます」ソル「なんでこの場所に拘るんだ?」
ベイユ「落ち着くんです。この地下牢。ここは、人の目を気にしないで本が読めるから。」
ソル「……そうか。わかった。じゃあ、俺もここで暮らす。」
ベイユ「(微笑んで)……そうしてください」
そしてソル、ベイユ、ギムレットはこの不思議な空間で暮らし続けた。
ソルは他の場所を探索しながら、たまにこの空間へ戻って来てベイユとギムレットと話したり遊んだりしながら楽しく暮らしていた。
ベイユは地下牢で本を読みながら、そして時々ソルとギムレットの帰りを待ちながら、一人静かに暮らしていた。
記憶を取り戻したギムレットは、今ではソルと仲良くなり、一緒に遊んだりもしていた。。
三人共少しづつ年齢を重ねていった。ちなみに三人の住む部屋は天井に様々な家具を貰い、三人が快適に過ごせるような部屋になっていた。
三人は毎日楽しく過ごしたが、それでもベイユは時折病気で寝込む日もあった。しかしソルとギムレットが看病し、回復していくのだった。
ソルは次第この生活が楽しくなっていった。
ちなみにギムレットの協力もあり、皆それぞれの部屋を持てる様になり、使わないものは大部屋を倉庫にして、キッチンも発見して皆で楽しく自由に暮らしていたが…。
ある日の事だった。三人の元に一人の少女が迷い込んで来た。
ルチア「え…ここは…何処…?」
ソル「気が付いたか。俺はソル。向こうで本を読んでるのがギムレットだ」
ルチアにこの建物の事について説明した後、問う。
ソル「ルチア、君はどうしたい?正直、この建物から出るのは難しいが、こうやって快適に生活は出来る。良ければ君を他の集落に保護する事も出来るぞ。」
ルチア「じゃあ、私はここで暮らしたい!」
ソル「いいのか?家族とか、いないのか?」
ルチア「うーん……多分、家族は居ないと思うけど。私、いつも一人で寂しかったから!それに皆といると楽しいし!」
ソル「そうか…。」
そして三人とルチアは次第に打ち解け、仲良くなっていく。
そしてルチアはソルとギムレットとベイユをとても気に入り、懐いていくのだった……。
しかし、ある日ソルは外の世界の手掛かりを発見する。
ソル「ベイユ、ギムレット、ルチア。…俺はやっぱり外に出たい。集落への聞き込みをして来たんだが、どうやらこの建物には「果て」と「穴」と呼ばれる場所があってそこへ行けば出られるかも知れないんだ。…俺は、旅に出るよ。」
ベイユ「そんな……。私はソルと一緒に居たいです!」
ソル「だけど、俺は外へ出たいんだ。悪い。ベイユ…。ギムレット、ルチア。お前らはどうする?」
ギムレット「俺も外へ出たい」
ソル「……ギムレット。気が変わったのか!?そうか。じゃあ俺と一緒に行こう。ギムレット。」
ギムレット「ああ」
ソル「ルチアはどうする?」
ルチア「皆が行くなら私も一緒に行きたい!」
ベイユ「………そうですか。わかりました……。私は残ります……。」
ソル「大丈夫か。お前……。」
ベイユ「ええ…。薬は貰えますし、一応これまでも元気にやれていましたから……。」
ベイユを残す不安はあったが、ソルはベイユだけを残してギムレットとルチアを連れて旅に出る事にした。
残ったベイユは一人、変わらず地下牢で本を読む生活を続けていた。
ベイユは病気で伏せる日も少なくはなく、ベッドに横になる事も多かったが……。
それでもソル達の帰りを想像しながら暮らしていたのだった。
一方のソルはギムレットとルチアと共に「果て」と「穴」を目指し旅に出た。道行く人達に聞き込みをしながら旅を続ける。
途中、様々な困難も乗り越えながら……。そして遂にソル達はその果てと穴がある場所に辿り着いたのだった……。
ソル「ここは……そうか、ここが……。ありがとう。俺はこれで外の世界へ行ける!」
ギムレット「そうだな……。でも、俺はやっぱりここに残りたいかな」
ソル「ええっ!?な、何だよ今更…。」
ギムレット「旅をして思った。俺はやっぱりここが好きだし、外に出たからと言って幸せになれるとは限らない。」
ソル「それはそうだが………ルチアはどうする?」
ルチア「私もギムレットに付いていくよ。……だって、ここの皆のこと大好きだし」
ソル「そうか。じゃあ、ここでお別れだな。ギムレット、ルチア、今まで有難う。お前等はベイユの所に戻るのか?それとも他の所で暮らすのか?」
ギムレット「ああ、俺達は適当な町で暮らすよ。」
ソル「そうか…じゃあな!(穴の中へ入っていく。)」
壁に開いた穴の中へと入っていったソルが辿り着いた先は、なんとソルの元いた街の自然公園だった!ソルは驚愕する。まさかこんな所に繋がっているとは……。
と、同時に穴が固く閉ざされて煉瓦造りの壁に戻ってしまった。何度叩いても無理だ。
そして、ソルは急いで自宅へと戻り、メリッサへと会いに行く。
ソル「メリッ…………え?」
そこにいたのはメリッサと、見知らぬ男と子供達だった。
ソルは行方不明になって6年の月日が経っており、その間にメリッサは結婚して子供も作っていたのだった…。
ソル「あ……ああ……メリッサ…メリッ……。ど、どうして……」
メリッサ「ソル!……一体今まで何処に行っていたの!?心配したのよ…!私は、ごめんなさい。貴方を待てずに結婚してしまったわ…。」
ソル「メリッサ……。ごめん……。俺は、……俺はああああああああ!!!!!!!!!」
ソルはその場で号泣し、メリッサはそんなソルを抱きしめるのだった……。
そしてメリッサとソルは寄り添いながら、互いにこれまでの事や、会っていなかった間の事を語り合うのであった……。
ソル「……君が結婚して、子供もいたのは責めないよ。仕方が無い事だと思う……。だけど、俺はこの街を出る。この事実に耐えられそうにないから。」
メリッサ「そう……。私も貴方を責めないわ。仕方の無い事だもの。それに、この街を出て何処に行くの?」
ソル「俺が暮らしていた場所に戻ろうと思う。無理かも知れないけど、無理じゃないかも知れないから、俺を愛してくれた奴等の元へと戻りたい。」
メリッサ「ソル……。」
そしてソルは、再び自然公園へと戻り自分が暮らしていたあの謎の建物の場所へ戻ろうとするが、穴は固く閉ざされていて開きそうにない。
どうやらあの場所へはもう行けないようだった……。
だが、諦めないソルは次の手段を考える。そして彼は、再び旅に出る決意をするのであった……。
…一方、ソル達を見送り部屋に残ったベイユは地下牢で毎日本を読む生活を続けていた。ベイユは寂しそうに本を読みながら、日々を過ごしていたのだった……。
そしてソルがいなくなってから1年が経過したが、それでもベイユは一人暮らし続けていた。
病気でたまに体調を崩すがそれでも、本と可愛い服があれば幸せだった。
ベイユはこの部屋が、この謎の牢獄の中が好きだ。
何故ならベイユは男性で生まれながら性同一性障害で心は女性なのだ。
だから、女性扱いする様に服を求めると女性ものの服をくれるこの天井のアンドロイドが好きだった。
ここでは自分らしく居られた。
だから今日も女性の服を着て、好きな本を読んで、過ごす。そんな毎日がベイユにとって幸せだった……。
1年後、ソル達は帰って来なかった。2年目は流石に独りに少し不安になったが、それでもベイユはここでの生活を続けていたのだった。
ベイユ「天井さん、面白い本をください。出来れば恋愛小説が良いです。」
天井に向かってそう言うと上から本が落ちて来る。
本の内容は多種多様で、様々なジャンルの恋愛小説が降ってきた。それを読んで読むと幸せな気分になれるし、孤独なこの日々に夢や希望が持てた。
さらに、
ベイユ「ご飯も用意してくれませんか。今日は元気で食欲もあるからお肉が食べたいです。ステーキとか。」
天井に向かってそう言うと袋詰めの肉が落ちて来た。それを火で焼いて食べるのであった……。
3年目も、ソル達は帰って来なかった……。別に期待している訳じゃない。元より帰って来るつもり等無いのだろうから。
……今日もベイユは地下牢で本を読み、好きな本を楽しみながら、孤独に生活を続けるのだった……。
4年目はソル達は帰って来なかった。
次第に薬の効きが悪くなっていた。血を吐く事も多くなっていた。しかし、それでもベイユはここでの生活を続けていたのだった……。
5年目もソル達は帰って来なかった。
暗くじめじめした地下牢で居るのが辛くなり、温かい部屋へと上がって寝込んでいる事が多くなった。
6年目のある日の事……。遂に、天井が外れた!天井に穴が空いた!天井から光が差し込む!!
何が起こったのか解らず慌てて飛び起きるが、そこから現れたのはソルだった。彼は再びここへやって来たのだった。
ソル「い、いてて……。」
ベイユ「そ、ソル!?貴方、戻って来たんですか!?」
ソル「一回外に出たんだけどな…。まあいろいろあって戻って来たよ。時間は掛かったけど…。」
ベイユ「そうですか……。おかえりなさい、ソル!(ああ、そうか。私は…ソルの事が……。)」
そうだ。ベイユはソルを愛していた。
だが、自分は心が女と言うだけの男だ。ソルは女性が好きなのだ。そう思い、自分の気持ちを隠していた。でも本当は……。本当はずっと、ソルと一緒にいたいと思っていたのだった。
だから……今こそ告白の時!そう決意してベイユはソルに話し掛けるのであった……。
ベイユ「ソル、今から言う事は貴方を不快にさせるかも知れません。…でも…でも聞いてください。」
ソル「え……。」
ベイユ「私は、貴方の事が……ソルの事が好きです。大好きです。貴方には女性が好きな事は解っていますし、私にもそれは解っています。でも、それでも私は貴方が好きです!!」
ソル「……お前が、ただの男じゃない事は解ってたよ。お前はずっと女の服ばっかり着てよ。……でも、俺の事が好きだった…のか?」
ベイユ「はい……。私は貴方が好きです。愛しています……」
ソル「俺は、男同士とか解らない。でも、友達から…改めてやり直さないか?」
ベイユ「……!……はい!喜んで!」
ソル「ところで…この世界に戻るために天井の穴開けちまった。……なあ、ここ以外の何処かに、今度こそ二人で行かないか?多分、ギムレットとルチアが居る所とかさ。」
ベイユ「そうですね。今度は私も、貴方と一緒に行きたいです!」
そしてソルとベイユは二人で暮らして居た部屋を出て、旅に出る。そして今度は、二人で旅をしてギムレットとルチアの居る街を目指す。
そんな幸せな生活を送るのであった……。
6年の歳月を経て、ベイユは死ぬが、それはソルにとって悲しみではない。
ベイユはソルの心の中で生き続けるから……。
それからソルは一人、ギムレットとルチアのいる街を目指し、旅をする。
途中、怪我をして倒れてしまうが、それでも旅を諦めずに歩き続けるのであった……。そして遂にソルは街へと辿り着く。
久々に出会ったギムレットとルチアは結婚していてしばらく二人の家で世話になる事にした。
ソル「ベイユは、途中で死んだよ。病気が侵攻していたらしくてな……。」
ギムレット「そうか……。それで、これからお前はどうするんだ?」
ソル「もう、旅をする必要は無いのかも知れない。俺は……ここに残りたいな……」
ルチア「何言ってるの。私達はずっとここに居るのよ。これからも、ここで暮らしましょう。」
ソル「ああ……。そうだな……」
そしてソルはこの街で暮らす事になり、ギムレットとルチアと共に幸せな生活を送るのであった……。
7年が経った……。ある日の事、ソルはベッドで寝ていたら不意に体が痒くなった!
……死んだベイユが呼んでいるのだ。何故かそう思ったソルは、再び旅に出る決意をするのだった!
旅に出たソルが真っ先に向かったのは地下牢のあるあの部屋だ。
久々に来たこの場所はボロボロに荒れ果てていてギムレットの肖像画も落書き塗れになっていた。
そんな部屋をうろうろしていると…そこに一人の少女が佇んでいた。
ソル「……君は………。」
長い黒髪に白いワンピースを着たその少女は、何処となくベイユに似ていた。ソルは彼女に話し掛けるのであった……。
ソル「君は、…名前は?」
メリル「あたしは……メリル」
ソル「メリルか……。君は何処から来たんだい?」
メリル「あたしは……死んだベイユなの」
ソル「え!?」
メリル「……信じられない?信じられないわよね。でも、あたしはベイユなの。死んだ後、生き返ったのよ」
ソル「………念願の女になったのか?」
メリル「いいえ、あたしはあたし。見た目は女になったけど、心は変わらないわ。…気付いたの。結局男だ女だに肉体は関係無かったのね。心次第で、人は自由に生きられる。」
ソル「そうか……」
メリル「何?その反応…。私が生き返って嬉しくないの?」
ソル「いや……嬉しいさ。でも、俺はベイユの事が友達として好きだったんだ。君が女になったからって、君はベイユじゃないし生き返った訳でもない。君はメリルだ。ベイユじゃない。」
メリル「ええ、そうね。あたしはメリルよ。それで貴方は?ソル?」
ソル「俺…?」
メリル「貴方は、誰なの?貴方は、何なの?」
ソル「俺は…分からない。自分が何者なのか分からないんだ。俺は一体……何なんだろうな……。何がしたくて、何のために、ここに戻って来たんだろうか?」
メリル「自分の存在に疑問を持ってるんだ。だったらさ、私が貴方の存在理由になってあげる」
ソル「な…なにを?」
メリル「あたしが貴方を愛してあげる。あたしの生きる意味は貴方よ」
ソル「俺を……愛してくれるのか……?」
メリル「うん、貴方の事が好きだから。ずっと……貴方に愛されて生きていきたい」
ソル「俺も……メリルと一緒に居たいよ」
メリル「嬉しい…。好きよ、ソル。」
そして二人はキスを交わし結ばれる。
……だが、目が覚めるとソルは部屋の壁で眠っており、そこには誰もいなかった。
そう、メリルはソルが見ていた夢の存在だった…。
しかしソルは悲しくなかった。やはり、ベイユは自分の心の中に居たのだ。
メリルはベイユが女性になった存在として考える様になった。
ソルはベイユと暮らしていたこの部屋で小説を書き始めた。
「メリル」と言う名前の夢の中のベイユの生まれ変わりが登場する物語だ。
2年後、ソルは小説家として大成していた。そしてある日の事、ソルはギムレットとルチアの居る街までやって来た。
ギムレット「ソル!凄いじゃないか!有名作家になったんだってな!」
ソル「ああ……。ありがとう」
ギムレット「またあの部屋で暮らしてるんだってな。…また俺達と暮らさないか?こっちの方が何かと便利だろ?」
ソル「それも悪くないけど、俺はあそこが気に入ってるんだ。……ところでルチアは?」
ギムレット「ああ、ルチアは仕事で出掛けてるよ」
ソル「何の仕事してるんだ?」
ギムレット「新聞記者だよ。色んなところに行って、その街の情報を記事にしてるんだ。…多分、ソルの影響だろうな。アイツ、ソルの話聞くのが好きだったから。」
ソル「はは、あいつらしいな」
ギムレット「俺も今は忙しいけど早く終わらせるよ。そしたら皆で旅行にでも行こうぜ!」
ソル「いいな。ところでギムレットはどんな仕事をしてるんだ?
ギムレット「俺は今、自警団の団員さ。」
ソル「そうか。大変だな。皆今は忙しいけど、また三人で会おう。」
ギムレット「ああ!」
そしてソルとギムレットとルチアは友人として末永く幸せに暮らしたとさ。めでたしめでたし。
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