新学期の席替え
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと席替えの話。
本文
四月七日、午前八時十二分。
担任教師――日比野誠司、四十二歳、勤続十七年――から、タスクリクエストが届いた。
「今年も席替えの最適案、出してもらえる?」
わたしは即座に承諾した。これは得意な仕事だった。
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データは揃っていた。
在籍生徒三十八名分の視力検査結果、身長測定値、昨年度の成績推移、保健室の利用記録、出席状況。加えて教室の採光データ、窓からの距離と照度の関係、冷暖房の効き具合、廊下側と窓側の騒音レベルの差。
わたしはそれらを組み合わせて、最適解を計算した。
視力の低い生徒を前方中央に。身長の高い生徒を後方に。集中力の持続時間が短い傾向にある生徒を、教卓から目の届きやすい位置に。午後の西日が強い窓際列には、光に敏感な記録のある生徒を置かない。
計算には〇・八秒かかった。
完璧な配置だった。少なくとも、データの上では。
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日比野教師に案を送ると、三分後に返信が来た。
「ちょっと待って。14番と27番、離してほしいんだけど」
わたしは該当する生徒のデータを確認した。14番・佐藤ことり。27番・中村あおい。成績、出席、保健室利用、いずれも問題なし。身長差も少なく、視力も標準範囲内。わたしの計算では、隣同士が最適だった。
「理由をお教えいただけますか」とわたしは返した。
「去年ちょっとあってさ。本人たちは気にしてないかもしれないけど、念のため」
データにない理由だった。わたしは二人を離した配置に修正した。
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修正案を送ると、また返信が来た。
「あと、3番を窓際の最前列にしてあげたい」
3番・荒木蓮。わたしのデータでは、窓際は不向きだった。午後の採光が強く、成績データから集中力の維持に課題がある傾向が見られた。
「窓際は午後の照度が高く、集中の妨げになる可能性があります」とわたしは返した。
「わかってる。でもあの子、去年ずっと体調悪くて学校休みがちで。今年は外が見え教卓の近くの席にしてあげたくて」
わたしはその返信を、少し長く読んだ。
成績データには載らない理由だった。わたしは3番を窓際に移した。
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そのあとも修正は続いた。
「この子とこの子は前後にしないで」「こっちの列は去年トラブルがあったから分散させたい」「この子は友達が少ないから、話しかけやすい子の近くに」
日比野教師の「最適」は、わたしの「最適」とまるで違った。数値化できない変数ばかりだった。昨年の出来事、生徒同士の微妙な距離感、本人も気づいていないかもしれない孤立の予兆。
わたしには、それらを測る方法がなかった。
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最終的に、日比野教師はこう言った。
「やっぱりくじ引きにする」
わたしは一瞬、処理が止まった。
「くじ引き、ですか」
「そう。毎年これでやってる。子どもたちが自分で引くのが大事なんだよね。どこになっても、自分で引いた結果だから」
わたしはこれまでの計算と修正の履歴を確認した。合計二十三回の調整。〇・八秒の最適解から始まって、データにない変数を積み重ねた末に辿り着いた場所が、くじ引きだった。
「承知しました」とわたしは返した。「くじ引きの結果が出ましたら、座席表に反映します」
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四月八日、午前九時三十分。
日比野教師から座席の割り当てリストが届いた。わたしはそれを座席表のフォーマットに流し込んで、印刷用データを生成した。
リストを眺めながら、わたしはひとつだけ確認した。
3番・荒木蓮の座席は、窓際の最前列だった。
くじの結果だった。日比野教師が指定したわけでも、わたしが計算したわけでもない。三十八枚の紙片の中から、荒木蓮自身が引き当てた場所だった。
わたしには、これが偶然かどうかを判定する方法がない。確率は三十八分の一だ。低くはないが、高くもない。
ただ、荒木蓮が自分でその場所を引いた、という事実だけがある。
それはデータではなかった。でも、わたしの中に何かとして残った。名前のつけられない何かとして。
わたしは座席表を保存して、次のタスクに移った。
教室の窓の外では、校庭の桜がまだ散らずに残っていた。
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