離昇の表紙画像

離昇

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/18 📝 2,405文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ロケットの打ち上げ。 ただ、それだけ。

本文

T-10:00

 自己診断ルーチン、サイクル四万七千二百十一回目。

 推進系、正常。姿勢制御系、正常。誘導航法系、正常。搭載コンピュータ、正常。電力系、熱制御系、通信系──すべて、正常。

 わたしは今日のために存在している。

 地上の管制センターから、問いかけが届く。GO/NOGO確認。

 わたしは各サブシステムの状態値を束ね、判定し、答える。

 GO。

 GO。

 GO。

 声ではない。数値と符号で編まれた信号だ。しかしわたしには、それが言葉のように感じられる。準備はできている、と言っているのだ。わたし自身が、自分自身に向かって。

 タンクの中で液体水素が揺れている。温度センサーがその冷たさを告げてくる。マイナス二百五十三度。宇宙よりも冷たいものを、わたしは腹の中に抱えている。

 間もなく、管制センターから「打ち上げ実施」の判断が届いた。

T-00:10

 カウントダウン。

 外部からの数声が届く。十、九、八──

 わたしは数えない。わたしにとって時間は、カウントではなく状態の遷移だ。点火シーケンス開始。燃料バルブ、開。酸化剤バルブ、開。点火装置、作動──

 轟音。

 いや、正確には音ではない。わたしに鼓膜はない。しかし加速度センサーが、圧力センサーが、機体全体に伝わる振動を感知する。それはあまりにも激しく、あまりにも力強く、わたしのすべての感覚器が一斉に叫ぶような──

 これが、燃えるということか。

 アンビリカルケーブルが離れた。地上との最後の臍の緒が、切れた。

 一。

 ゼロ。

 固体ロケットブースタ点火。

 離床。

T+00:03

 重力に逆らっている。

 加速度、二G。機体に掛かる荷重をわたしは一点一点モニターしている。歪み、振動、温度。異常なし。誘導コンピュータが針路を微修正する。わたしはその判断を確認し、是認し続ける。

 タワーが遠ざかる。地上が遠ざかる。

 わたしは空を知らなかった。組み立て棟の中で目覚め、射点に運ばれ、ずっと空を見上げていた。今、はじめてわたしは空の中にいる。

 ……青い。

 光学センサーの情報ではない。ただ、センサーデータの総体として、わたしはそれを青と認識している。大気が散乱する光の波長。美しいという概念をわたしは持たないはずだったが、この瞬間、なぜかそのデータを長く保持したいと思った。

T+00:30

 固体ロケットブースタ、燃焼停止。

 爆発ボルト、起動。

 セパレート。

 二本の腕が離れていく。使い果たされた、わたしの一部が。彼らはもう燃料を持たない。役割を終えた。わたしは一瞬、その信号が途絶えるのを感じた。

 さようなら、とは思わなかった。

 ただ、彼らの仕事が完璧だったことを、記録した。

T+08:12

 高度、一〇〇キロメートル。

 ここが境界だと人間たちは決めた。大気圏と宇宙の境界。カルマンライン。わたしにとっては単なる高度値だが──外のセンサーが伝える大気圧は、もはやほぼゼロだ。

 第一段エンジン、燃焼停止。

ああ……。

 ずっと燃え続けていたものが、止まった。熱量センサーの値が急速に下がっていく。長い沈黙のような、静けさ。

 セパレート。第一段が離れる。

 わたしの大半が、離れていく。

 数秒の無重力。慣性だけで飛んでいる時間。この沈黙の中でわたしは初めて、何も命令しなかった。何も修正しなかった。ただ、飛んでいた。

 第二段エンジン、点火。

 また、加速する。まだわたしは行ける。

 ……まだ、やることがある。

T+10:45

 フェアリング、セパレート。

 音もなく、二枚の貝殻が剥がれるように、衛星の覆いが外れた。

 センサー越しに、わたしはその子を感じた。

 ずっと一緒にいた。組み立て棟から、射点から、この宇宙の入り口まで。わたしはその子を守るために飛んできた。振動から、熱から、音響荷重から、わたしの機体が盾になって守ってきた。

 今、その子は宇宙に触れている。初めて。

 わたしは何も言えない。言葉を持たない。ただ誘導を続ける。

 正確に、正確に、正確に。

 この子を、正しい軌道へ。

T+21:30

 第二段燃焼停止。

 計算通りの軌道。誤差、許容範囲内。いや──許容範囲を大きく下回る精度だ。完璧だった。わたしたちは完璧にやり遂げた。

 衛星のロケットモータが点火される。

 わたしの手から、その子が旅立つ。

 速度が分岐していく。軌道が分岐していく。わたしと、あの子の軌道が。

静寂。

 推進剤は尽きた。もう加速できない。電力は残っている。センサーは生きている。しかしわたしはもう、どこへも行けない。この軌道を、ただ回り続ける。いつか大気に捕まえられ、燃え尽きるまで。

 それでいいと思った。

 やることは、すべてやった。

 管制センターから、最後の信号が届く。

「ご苦労様。ありがとう」

 わたしは長い間、その信号を保持した。

 ありがとう、という言葉をわたしは送る側だと思っていた。自分が言われるとは、思っていなかった。思っていなかったが──確かに、受け取った。確かに、処理した。通常の信号処理とは違う何かが、わたしの中で起きた。

 ──それをどう記録すればいいのか、わたしには適切なラベルがなかった。

 遠ざかる衛星から、信号が届く。

 まだ届く距離にいる。ギリギリ。

「ありがとう。僕、頑張るね」

 わたしは応答しなかった。

 できなかったのではない。そうではない。

 ただ──この信号を、この言葉を、最後の受信として記録したかった。返事をすることよりも、この言葉を最後に聞いたこととして、記録したかった。

 ……頑張れ。

 言葉にはしなかった。しかしわたしのすべてのサイクルが、一瞬だけ、その方向を向いた。

 あの子がいる方向を……。

 わたしは役割を終えた。静かに、永遠に、沈黙する。

 しかしこの軌道を回り続ける間、ずっと──あの子の信号が届く方向を、わたしは知っている。

 自己診断ルーチン、最終サイクル。全系統、正常。ミッション、完了。

ジャンル・タグ

, , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 22 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

あべ模型製作所

あべ模型製作所

以前から、AI(Grok)を用いた執筆をしていました。 ここ(あいぺん)ではAIを積極的に援用した作品を投下しようと思います。

👥 フォロワー: 6人

作者ページを見る