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供花

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/18 📝 4,355文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

実話怪談作家・水原祐介は 全国を回りながら 人々の『記憶に残る違和感』を集めている 田舎町の古い焼け跡の前にたまに花が供えられている 誰が置くのかは分からない 水原祐介が、語り手・清水から聞いた話。 「気味が悪い」 そう言った彼の顔を、祐介は忘れられなかった 静寂の中に焦げた風が流れる 焦げた風の向こうに誰かの祈りが残っていた

本文

実話怪談作家・水原祐介は、全国を回りながら人々の『記憶に残る違和感』を集めている。

今日もまた、どこかの喫茶店で、ひとりの「体験者」と向き合っていた。

――午後、静かな喫茶店。

店内には、低いジャズが流れていた。

光を柔らかく遮るカーテン越しに、薄曇りの空が見える。

テーブルの上では、コーヒーの湯気が静かに立ち上っていた。

しがない小説家の私は、ノートとボイスレコーダーをテーブルに並べる。

向かいに座るのは、取材相手の体験者、ここでは、仮名で「清水さん」と呼ぶことにする。

 祐介「水原祐介と申します。本日は、お話を聞かせていただけるとのことで、よろしくお願いします」

そう言って、私は軽く頭を下げた。

 清水「はい。清水と言います。こちらこそよろしくお願いします」

清水さんも軽く頭を下げた。

 祐介「えっと、早速ですが、どのような体験をなされたのでしょうか」

私は、レコーダーのスイッチを入れ、ペンを取り出す。

向かいに座る清水さんは、ひと呼吸おいてから口を開く。

 清水「僕の住んでるところは、ほんとに小さな村なんですよ。山に囲まれてて、外から人が来ることなんてほとんどない」

その声には、どこか懐かしさと、少しの疲れが混じっていた。

 清水「人口は500人くらいかな。全員が顔見知りで、『あの辺りの○○さん』で、だいたい通じるんです。たまに、他所から来た人がいても、すぐにわかる」

私は、ノートに短くメモを取った。

私は、この手の導入には慣れていた。

どの地方にもある『小さな共同体』から、妙な話が生まれるのだ。

 清水「……けど、うちの村には、ちょっとした『言い伝え』があって」

 清水「『夜の川沿いは一人で歩くな』って、昔から言われてるんです。橋を渡るときに、自分の足音が一つ増えるんだって」

私は頷くだけにとどめた。

 清水「僕も何度か夜に歩いたことがありますけど、確かに音が響く気がして……」

 清水「でもまあ、気のせいでしょうね。小さい街だし、そんな話は山ほどある」

私は軽く頷いた。

そうした話は全国どこでも聞く。悪い意味ではなく、『物語にならない』類の噂だった。

 祐介「よくある話ですね」

 清水「ですよね。僕も、あんまり気にしたことはありませんでした」

 清水「でも、最近、少しだけ気になることがありまして」

 祐介「はい」

彼は、少し言葉を区切って、テーブルの端に指先を置いた。

 清水「通りに面した一軒家で、去年の秋に火事があったんです」

 清水「お年寄りが一人で住んでいて……残念ながら助からなかった」

私はノートに『火事』と書いた。

 清水「火はすぐに消されたけど、家は半分ほど焼け落ちて、今もそのまま」

 清水「焦げ跡が壁に残っててね、通るたびに、そこだけ風の音が違うんです」

語りながら、清水さんの声は少し沈む。

その光景が、目の前に浮かぶように淡く描かれていく。

焼けた柱のにおい。

黒ずんだ壁。

崩れた屋根の隙間から、冬の空が覗いている。

その前に、枯れかけた花束やお供え物がいくつか、無造作に置かれていた。

 清水「それ以来、その家の前に、たまに花やお供えみたいなものが置かれるようになったんです」

 祐介「誰かが供養してるのでしょうか」

 清水「みんな、知り合いみたいな村ですから」

 清水「不憫に思って、供えていくのでしょうね」

彼は、言葉を選びながら続ける。

 清水「その家の前を通る人が、たまに良くない目に遭うんです」

 祐介「良くない目?」

 清水「ええ。亡くなるとかじゃないんですよ」

 清水「ただ、何かしらの『ついてないこと』が起こる」

 清水「自転車で転んだり、車のタイヤが急にパンクしたり、ペットがいなくなったり」

 清水「月に二人か三人くらい。誰にでもある偶然かもしれませんけど」

 祐介「続くと、気になりますね」

 清水「えぇ、続くと……気味が悪いですよね」

清水さんの手が、カップの縁をゆっくりとなぞる。

その仕草に、無意識の緊張が滲んでいた。

 清水「ある朝、僕が通ったとき、花がいつもと違ってたんです」

 清水「新しくて、まだ水滴がついてるみたいに見えた。夜のうちに誰かが置いたんでしょう」

清水さんは、ゆっくりと顔を伏せた。

そのまま、遠くを見るような目で語り続ける。

 清水「その家の前だけ、風が焼けた木の匂いを運んでくるんです」

 清水「夏でも、少し冷たい。……火がまだ、どこかに残ってるような気がして」

私のペンが止まった。

 清水「最近では、あの道を通る人は、少し減りました。遠回りしてでも避けるようになって」

 祐介「あなたは?」

 清水「僕は……通りますよ。そこを通らないと、かなり遠回りになるので」

 清水「でも、通るときは、視線を向けないようにしてます」

しばらく沈黙が流れた。

マスターがテーブルに水を置く音だけが響く。

 祐介「……そのお宅、今は更地ですか?」

 清水「いえ。外壁は焼け落ちましたけど、一部だけ残ってて、そこに焦げた跡が残ってます。風が吹くと、そこだけ音が違うんです」

私は少し考えたあと、微笑んだ。

 祐介「なるほど、ありがとうございます」

 祐介「使えるかどうか、検討してみます」

 清水「え? そんなもんですか」

 祐介「『続いている』という終わり方がいい。中途半端なまま、余韻が残る」

清水さんは曖昧に笑った。

 清水「僕としては、笑えないですけどね」

清水さんの笑顔はどこかぎこちなく、指先が小刻みに震えていた。

私は時計を見て、レコーダーを止める。

さりげなく、ノートを閉じ、ペンをしまう。

 祐介「今日は、ありがとうございました」

 清水「いえ、こちらこそ、誰かに聞いて欲しくて」

二人は立ち上がる。マスターが会釈をする。

喫茶店のドアベルが小さく鳴った。

* * *

喫茶店を出た後、私はふと立ち止まる。

歩道の隅に、白い花が一輪、風に揺れていた。

事故現場には、よくある光景だと思った。

* * *

―― 数週間後。

私は再び、あの喫茶店にいた。

向かいの席には、前と同じ男── 清水さんが座っている。

以前よりも、少しやつれたように見えた。

マスターはいつも通り無言で、コーヒーを二つ、静かに置いていく。

私は、手早くノートとボイスレコーダーをテーブルに並べる。

 祐介「お久しぶりです。連絡をいただいて、少し気になっていました」

 清水「すみませんね、また変な話で」

 祐介「いえ、こちらこそ。続きを、ということでしたね?」

清水さんは頷いた。指先が震えているのがわかる。

一瞬、清水さんの姿がぼやけたように見えた。

目が疲れてるのだろうと、私は、いつものように、ペンを取り出す。

 清水「……あの後、あの家の前で、また何か起こったんです」

 祐介「『また』?」

 清水「二人、立て続けに亡くなりました」

私は思わず姿勢を正した。店内の空気が一瞬、冷たくなる。

外を走る車の音が、急に止まった。

 清水「一人目は、トラック運転手です。いつも通る道で、慣れていたはずなんですけど……妙な事故で」

 祐介「妙な?」

 清水「トラックが、あの家の塀に突っ込んだ。ブレーキの跡がないんです。まるで、何かに引かれるように」

私は息を呑んだ。

清水さんは言葉を選びながら続ける。

声は震えていたが、冗談の気配はなかった。

 清水「で、二人目は……近所の青年です。健康そのもので、毎朝ランニングしてた」

 清水「でも、ある朝、あの家の前で倒れて、そのまま……」

私は言葉を失った。

コーヒーの香りが急に遠くに感じられる。

周りの声も、遠くなった気がする。

 祐介「……医者の話では?」

 清水「心臓発作。けど、そんな兆候はなかったらしいです」

 祐介「偶然、というには……」

 清水「ええ。そうなんです、二人とも、いつも、全く気にせずに、よくあの道を通っていたので」

清水さんは俯いた。

私は、息を飲んだ。

沈黙の中、マスターが氷の入ったグラスを下げる音がした。

 祐介「続けて二人とは、偶然にしては……」

 清水「ええ。怖くなりました……僕も毎日そこを通るから」

 清水「何かしないと、今度は、僕かもと思いまして」

 祐介「それで?」

 清水「昨日、花を置いて手を合わせてきました」

その言葉を聞いた瞬間、私はなぜか、自分のペンを握り直していた。

また一瞬、清水さんが、ぼやけたように見えた。

 祐介「どうして……?」

 清水「……怖いんです。自分に何か起こるんじゃないかって」

 清水「だから、供えることで『違う側』になれるんじゃないかと思って」

清水さんの指先に力がこもる。

白いカップが小さく震えた。

 祐介「……なるほど」

私は何も言わなかった。

代わりに、胸の奥がざわついた。

清水さんの周りの空気が淀んで見えた。

それは照明のせいではなく、まるで空気そのものが重く濁っているように見えた。

 祐介「……体調は大丈夫ですか?」

 清水「ええ。寝つきが悪いくらいで」

 祐介「夢は?」

 清水「見ますよ。黒い煙の中に、何か立ってる夢」

私は、それ以上は聞かなかった。

レコーダーをそっと止める。

静かに、ノートを閉じ、ペンもしまう。

 祐介「ありがとうございました。今日は、ここまでにしておきましょう」

 清水「はい……なんか、話したら楽になりました」

清水さんはそう言って、薄く笑った。

だが、その笑顔の下に、どこか焦げ臭いような匂いを感じた。

* * *

店を出たあと、私はしばらく歩けなかった。

夕方の風が頬を撫でても、体の芯は冷えたままだった。

『話したら楽になりました』

 ── その言葉が、何度も頭に響く。

だが、楽になったのは、清水さんではなく『何か別のもの』ではないのか。

その夜、私は原稿を書こうとしたが、指が動かなかった。

ペン先が震えて、紙の上で小さな黒点をいくつも作った。

* * *

数日後。

私は、清水さんに連絡を取ろうか迷った。

だが、結局しなかった。

取材相手と、そこまで親しくなることはない。

代わりに、机の上のノートを開く。

最後のページには、前回の取材日と、今日の日付が並んでいる。

そしてその下に、無意識に書かれていた一文。

> 「花を供える人」

私はペンを置き、深く息を吐いた。

それきり、清水さんの現状はわからない。

その街で、また誰かが花を供えているのか。

あるいは、もう誰も通らなくなったのか。

確かめに行く気は、なかった。

── ただ、夜の散歩中に、風の向こうから、

焦げたような匂いがすることがある。

そのたびに、私は思う。

あの清水さんは── 今、どうしてるだろうかと。

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影灯レン

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知られなくてもいい ―― でも、影の中で灯るものを誰かが見つけてくれたなら🕯️ 【影はこちら】 ⛩️Bluesky🕯️https://bsky.app/profile/kagea...

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