最後の727
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ボーイング727が好き。 それだけ。
本文
夕陽が滑走路を橙色に染め始めた頃、エプロンの片隅に、ひとつの異質なシルエットが浮かび上がった。
ボーイング727。かつて世界の幹線航路を席巻した三発ジェットの雄も、今やその姿を定期便のゲートに見ることはほとんどない。しかしその機体は確かにそこにあった——くすんだ塗装に時代の風雪を刻みながら、なお現役の貨物機として成田の夜を待っていた。
注意深く目を凝らせば、この機体が単なる"生き残り"でないことに気づく。主翼端には、後付けのウィングレットが毅然とそびえ、左右のパイロンには原型のJT8Dとは異なる換装エンジンが吊り下げられている。燃費と騒音規制への現実的な回答──オペレーターの執念と合理主義が、翼の下に静かに息づいていた。
対照的に、垂直尾翼の付け根に抱かれた第二エンジンは、727がこの世に生まれた日のまま、円筒形のナセルを空に向けている。近代化と原形保存が同居するこの矛盾こそ、働く飛行機だけが持つ凄みではないか。
管制塔とのやりとりが終わり、フライトエンジニアが親指を立てた。コックピットに走る、短く確かな意思の確認。やがて機体はランウェイエンドへと向かい、三基のエンジンが声を揃え始めた。
そのサウンドは、現代の高バイパス比エンジンとは明らかに異なる──甲高く、鋭く、どこか昂揚感を孕んだ咆哮。かつて羽田や伊丹で日常的に轟いたあの音が、令和の成田に一瞬だけ復活した瞬間だった。
ブレーキリリースと同時に、機体は滑走路へと躍り出た。加速は鋭く、往時の設計者たちが短距離離陸性能に賭けた自信そのものを体現するかのように、滑走路の半ばにも達しないうちに前輪が浮き上がった。あとはノーズが天を向き、三発の咆哮を大気に刻みながら、機体は夕闇へと吸い込まれていった。
やがて翼端灯の緑と赤だけが夜空の点となり──それもまた、消えた。
考えてみれば不思議な光景である。設計図が引かれたのは半世紀以上前、初飛行は1963年のことだ。それが今夜、21世紀の電子管制と衛星航法に導かれ、成田から世界のどこかへ貨物を運ぶ。
航空の歴史とは教科書の中にあるのではない。ああして今夜も、どこかのランウェイを蹴って、空の現役として生きているのだ。
・・・
次にターミナルの窓から見慣れない三発機のシルエットを見かけたなら、どうかその離陸を、最後まで見届けてほしい。それは単なる"旧式機"ではなく、飛び続けることを選んだ航空史の生き証人なのだから。
作品統計
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