白いアネモネを捧ぐ
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あらすじ
双子の妹ティナとリタは、義兄ウォレフと共にハイル家で成長し理想と現実の間で各々の道を選んでいく。白いアネモネが象徴する、家族の絆と継承を描く感動作。
本文
リタ「お父様。お早う御座います。」
お父様「お早う。リタ。元気かい?」
ティナ「リタ。おはよう」
お父様「ティナもおはよう。さあ、三人で朝ごはんを食べよう!」
ティナ「そうね。お腹が空いたわ。」
お父様「ところで、二人もそろそろ15歳になるよね。将来の夢はあるかい?」
ティナ「私は、お義母様の後を継いで女公爵になりたいわ。お父様も頑張っているし、私も頑張らなきゃ!それに、お父様のお手伝いをするのが夢よ。」
お父様「それは有難いが…。ディーレッタは別に君達に無理に爵位を継ぐ必要は無いと言っているよ。一応跡取りには義兄のウォレフもいるしね。」
ティナ「でも、私は自分の力で爵位を継ぎたいの。それがお義母様への孝行になるし、お父様のお手伝いも出来るからよ。その為にも、学園でもっと勉強しなきゃね。」
お父様「それは素晴らしい。そこまで言うなら私は応援しよう。…リタの将来の夢は?」
リタ「私は、お義母様とお父様のお手伝いをすることと、ティナを支えることですわ。そのためにも、学園でもっと勉強して、二人から色々なことを学びますわ」
お父様「リタ…。二人の様な素晴らしい娘を持てて私もディーレッタも幸せだよ…。」
お父様は考える。ティナとリタは双子であり外見は瓜二つだが性格は少し違う。
妹のティナは明るく活発な、とてもいい子だ。そして、リタは冷静で落ち着いた子だと。リタがティナを尊敬している節もある。
ティナの才能は、既に父であるディーレッタも認める程で将来が楽しみな娘だ。ただし……リタにも才能はある。冷静に状況を見極める力と、それを実行する決断力がある。
お父様「(うーむ。だが、リタは少し謙虚過ぎる所があるしティナは自信で突っ走る所がある。……でも、二人が幸せならそれで良いか。)二人とも、ご飯を食べたら学園に行く準備をしなさい。私は少し執務を片付けてくるよ。」
ティナ「分かったわ。お父様、いってらっしゃい。(学園……未だに少し緊張するわ)リタ、一緒に行きましょ。(でも、私がしっかりしなきゃ)ほら、早く行くわよ!」
リタ「そうですわね。お父様、行ってきますわ。(学園……少し不安だけど頑張らなきゃ)そうね。ティナ、行きましょう!(でも、ティナがいれば安心だわ)」
そして二人は学園で学び、成長していく。ティナは学園で生徒会長になり、リタも生徒会に入る事になった。
そんなある日、二人が家で勉強をしていると義兄のウォレフがやって来た。
ティナ「あら、お兄様。」
リタ「お疲れ様です。お仕事は良いのですか?」
ウォレフ「ああ、少し休憩中だ。それより二人共、学園はどうだ?上手くやれているか?(母上も心配していたしな……。)何か困ったことがあったら言えよ。力になるぜ。」
ティナ「ええ、私は上手くやっているわ。それに、学園で生徒会長をやっているの。(皆から尊敬されているし)リタも生徒会に入ったのよ!凄いでしょ?(私って天才かも知れないわ!)」
ウォレフ「そうか、流石だな。でも、無理はするなよ?ティナはいつも周りを巻き込んで突っ走るからな……(まあ、それがこいつの良い所でもあるが)リタも気を付けろよ?俺が言わなくても分かっていると思うが、ティナを支えてやれ。」
リタ「ええ、分かりましたわ。(流石はティナのお兄様ね。私と違って周りをよく見ているわ)有難う御座います。私達なら大丈夫ですわよ?ね、ティナ。(私は少し心配だけれど……)」
ティナ「勿論よ。お兄様ってば心配性ね!(私なら大丈夫よ?)それより、一緒にケーキを食べましょう?お父様とお母様の分もあるわ!(皆で食べた方が美味しいしね!)」
ウォレフ「おお。そうだな。では二人を呼んで来よう…。」
義兄のウォレフは考えた。二人の将来に関して。
ティナは、見た目も良く聡明で明るく活発な子。リタは、冷静で落ち着いた性格のお嬢様。二人は外見こそ似ているが、中身は全く違うとウォレフは思う。
二人なら支え合ってお互いの長所を活かし短所をカバーしていけるだろう。だが、リタは少し謙虚過ぎる所が欠点だ。そしてティナは自信で突っ走る所がある。
そこは綻びなるかも知れないと、我が家の当主であり実母であるディーレッタに相談する事にした。
ウォレフ「お母様。お時間よろしいでしょうか?リタとティナに関して相談があります。」
ディーレッタ「あら、ウォレフ。何かしら?リタとティナがどうかしたのかしら?もしかして、あの二人は問題でも起こしたの?」
ウォレフ「いやいや!寧ろその逆。ティナは生徒会長、リタも生徒会書記として、文武共に励んでいますよ。…ただ、今後あの子達をどう教育に関して母上に相談したく。」
ディーレッタ「あらまあ、妹の心配をするなんて貴方も立派なお兄ちゃんね。……でも、そうね。あの二人は確かに少し心配ね。」
ウォレフ「はい…。ティナは貴方の後を継ぎたいと言っており、リタも母上や父上を支えるためティナを手伝いたいと言っているのですが、母上としてはあの二人が貴族として生きる事はどう思いますか?」
ディーレッタ「そうね。それはとても嬉しい事だけど、あの二人はまだ若いので心配ね……。でも、ティナとリタなら大丈夫ですよ。それより貴方の方こそ、あの二人が貴族になる事はどうなの?あまりこう言う事を言いたくはないのだけれど、あの二人は元々平民の一族よ。それに関して異論は無い?」
ウォレフ「はい、それは問題ありません。リタに関しては母が平民ですが、それも特に気にしてはいないようでしたから。俺自身は、特に……ですけれどね」
お父様は三流ではあるが一応貴族の生まれ。しかし彼のかつての妻、ティナとリタの実母は平民であった。
ディーレッタは上級貴族ハイル家の一人娘であり、女侯爵として地位を築き上げてきた。その活躍ぶりからついた異名は「白銀の魔女」もしくは「氷の女王様」。
そんなディーレッタはカリスマ性の持ち主で、領民からも慕われていた。しかし、彼女は貴族主義ではない。平民にも分け隔てなく接し、そして三流貴族でありながらも優秀なお父様を一族に迎え入れたのだ。
ウォレフ「うーん、やはり実父である父上にも相談してみた方が良いでしょうか?俺も母上もあの二人が貴族としてこの一族を継ぐ事には問題が無いとしても…。」
ディーレッタ「そうね、あの人にも意見を伺った方が良さそうね。あと、あの二人は私達の大切な家族なのであまり不安を煽らないようにお願いしますよ?(ふふ、本当にウォレフは心配性ですね)」
ウォレフ「はい、勿論です。このことはティナとリタには内密に。」
そしてウォレフは次は義父の執務室へやって来た。
ウォレフ「父上、失礼します。今大丈夫ですか?少しお茶でもいかがでしょう?相談したい事がありまして…。」
お父様「ウォレフか、いいぞ。丁度休憩中だ。それで相談とはなんだ?…何かあったのか?」
ウォレフ「リタとティナの今後の教育に関して…。父上は、リタとティナが我が一族を継ぐ事に関してどう思いますか?俺と母上は全く問題無いのですが。」
お父様「リタとティナか。あの二人は優秀で、私はとても誇りに思っているよ。平民の血を継いでいようと私とディーレッタの娘であることは変わらない。」
ウォレフ「お父様…。」
お父様「完全な部外者である私とティナとリタを気遣ってくれて、いつも感謝しているよ。ウォレフ、君は突然ハイル家に入って来た私達を嫌悪しないんだね。」
ウォレフ「何を仰いますか。俺も父上、貴方の義理の息子です。ティナとリタも本当の妹同然です。……それに俺は母上ほどカリスマ性はありませんし、才能もありませんしね。」
お父様「何を言うんだ。ウォレフ、君には立派な才能がある。その才能とは、他者に対して分け隔てなく思いやれる優しさだよ。君は人を惹き付ける力を持っている。」
ウォレフ「父上……。(そんな風に思っていてくれたのか)有難う御座います。でも、あの二人は貴族として生きる事をどう思いますか?俺は二人がどんな道を選んでも尊重するつもりです」
お父様「そうだな……。あの二人が望むなら、私達は全力で支えるよ。だが、ティナとリタが平民になりたいと言うのなら私はそれを尊重するし応援するよ。それで二人が幸せならばね。」
ウォレフ「父上……。」
お父様「だが、正直私は当主の座も爵位もやはり君が相応しいと思っているよ。やはりティナとリタはハイル家の血を引いていないし、周りを見て他者に尽くせると言う面においては君程の人物は居ないからね。あの二人もきっと君を尊敬しているよ。だから、気にしなくて良いんだよ。」
ウォレフ「父上……。(母上はこの人を選んで良かった。)有難う御座います。俺もあの二人の兄として、この一族の為に全力で支えます。」
そしてリタとティナは両親とウォレフに見守られながら、成長していく。リタとティナはお互いを支え合い、ウォレフの優しさに励まされながら学園で生徒会長をしている。
ティナ「リタ、今日は何のお茶が良いかしらね。(うーん、どうしよう。)やっぱりアップルティーよね!(だって美味しいし♪)あ、あとクッキーも焼こうかしら(うふふ♪)」
リタ「そうね、でもクッキーなら昨日、私が焼いたからそれを食べましょう。」
ウォレフ「おお、お茶の時間か。俺も仲間に入っていいかな?」
ティナ「お兄様!どうぞこちらに、座っていて。アップルティーよ!飲むでしょう?(ふふん♪)リタのクッキーもあるのよ!」
ウォレフ「美味しそうだな。楽しみだ。(椅子に座る。)」
リタ「ええ。お兄様の為なら毎日作りますわよ、勿論。……ところでティナ?何か用があって来たんじゃないの……?まさかお菓子を食べる為に呼んだのではないでしょう?」
ティナ「え、そうだった。忘れる所だったわ!あのね……私、生徒会のお仕事も楽しいし、生徒会長としてもやりがいを感じているの。だけど、そろそろ進路を決めないといけないでしょう?」
リタ「そうね、そろそろ進路を決める頃かしら?(クッキーを食べる)……ティナはどうしたいの?やはり貴族として家の手伝いをするの?……まあそれは別に構わないわ。私も貴方を支えるつもりだから。」
ティナ「うーん……それなんだけどね、私……やっぱり家を継ぐのは無理みたい。だって私、お勉強も苦手で運動はあまり得意じゃないし社交的でもないもの。(落ち込む)」
ウォレフ「え!?何を言うんだ!ティナは学園での成績も…確かに学年一位は取った事が無いが、少なくとも文武共に成績が良いのは母上も父上も認めているぞ!」
リタ「ティナ。貴方は自分が思っているより素晴らしい人間なのよ。それは私達が一番よく分かっていることよ(微笑む)……それにね、もし貴女に何かあってもウォレフ兄さんが居るもの。だから自信を持ちなさい」
ティナ「リタ、お兄様。……有難う、二人共!でも、私決めたの。(決意した)私はやっぱり教師になるわ。」
ウォレフ「教師…か…。確かにそれも悪くない選択ではあるが…。」
リタ「ティナ。貴方、ちゃんと将来の事を考えているのね。偉いわ…!」
ウォレフ「本当にいいのかい?ティナは母上の後を継ぎ同じ様に女侯爵になりたがっていたじゃないか。」
ティナ「それも勿論あるのよ?だけど私は教師として色々な事を教えてみたいの!だから、この道を進むわ……私ね、今とても充実した気持ちなの」
ウォレフ「そうか…。じゃあ、また母上と父上にもその事は伝えるんだ。勿論、まだ時間はあるからゆっくり考えるといい。…それで、リタはどうする?リタは後を継ぐティナの手伝いをしたいと言っていたが…元々、リタは姉なのだから君が家を継いでも良いとは思うんだが…君自身は何かやりたい事が他にあるかい?」
リタ「お兄様、私は……(少し考えてから)いいえ。私の様な人間が、当主になるのは間違っているわ。それにね、私にはやりたい事も特にないの。だから……」
ウォレフ「それは違うぞ。リタ。…正直前々から思っていたがお前は謙虚と言うか自分に自信が無さ過ぎる。当主になりたくないならそれは構わない。俺がやるだけだ。…だが、お前はティナと同じくとても優秀な人間だ。そんな自虐的な事を言うんじゃない。」
リタ「お、お兄様、そんな事……ないわ(照)それに私なんて別に優秀ではないわよ?私はいつもティナに勉強を教えてもらってる側なのですからね。(照れる)」
ウォレフ「でもしっかり覚えた事を吸収出来るのがお前の素晴らしい事だ。お前は何でも出来るし何処へだっていける。ティナと一緒でも、誰と一緒でも、一人だって。俺はお前の事を信じているよ。」
リタ「おにい、様……(涙目)お兄様は、ずるい。そんな事言われたら私、また甘えたくなるじゃないの……。(泣くのを堪えて笑顔をつくる)もう、私は決めたんだからね?」
ウォレフ「な、何を決めたんだ?リタ…。」
リタ「お兄様、私ね、今とても幸せなの。毎日こうしてお兄様達とお茶を飲んで他愛のない話が出来るのがとても好きなの。だから……」
ウォレフ「リタ……。」
リタ「お兄様、私を信じてくれて有難う。私も、貴方を信じている。ティナの事も。私は二人と一緒に居られて、とても幸せだわ(満面の笑顔)だからこれからもよろしくね?お兄様……」
ウォレフ「ああ!勿論。これからも俺達兄妹は永久に一緒だ!なあ、ティナ?」
ティナ「うん!(にっこり笑い)私も、皆と居られて幸せだわ(満面の笑みで微笑む)」
それからリタとティナは学園生活を終え、ティナは教師になるために進学。一方で、ウォレフとリタも成人し二人は貴族としての仕事をこなしていたのだった。
ウォレフ「リタ、アルモネア村の調査報告書を纏めて王都に提出しておいてくれるか?」
リタ「ええ。分かりました。(頷く)お兄様……。アルモネア村でまたあの病気が発症したと報告書に書いてあったけれど、まだ治療方法が解明出来ていないのですか?」
ウォレフ「ああそうなんだ。それは王都の研究の成果待ちだな。…なあ、ところでリタ。」
リタ「…何ですか?お兄様。」
ウォレフ「何かやりたい事は見付かったか?ずっと俺や父上の手伝いばかりだが…。」
リタ「え?あ、はい。……やりたい事ですか、そうですね……。うーん(考え出す)……お兄様、私がしたいことはやはり一族を支える事でお役に立てれば嬉しいと思いますわ!」
ウォレフ「そうか…。結婚はどうする?ティナはともかく、お前にはそろそろ縁談を…と、俺は思っているんだが。」
リタ「お兄様、それはまだまだ先で大丈夫です。私、今はお兄様の力になりたいのです!(にっこり笑い)……それに、まだ私はやりたい事が決まってませんからね…。」
ウォレフ「解った。急かす様な真似をしてすまないな。」
それから三年後、ティナは教師としての日々が始まったのだ。リタはそんな姉を応援しながら、自分も何かやりたいと思い続けていたのだった――……。
そんなある日、突然ハイル家の当主でありウォレフの実母でありリタとティナの義母であるディーレッタがウォレフとリタを呼び出した。
ディーレッタ「ウォレフ、リタ。私はそろそろ引退しようと思っているの。まあ、すぐにではないわ。あと三年程したら…ね。」
ウォレフ「そ、そんな!?お母様!!何故突然…まだお母様は54歳ではないですか!!」
ディーレッタ「あら、でも私もそろそろいい歳だしね。引退しても私は貴方達を支えるつもりではあるわ。でもやりたい事が出来たの。それは、女侯爵の当主になるよりも大切な……とても尊い、私の夢。それを叶える為なの。だから私はその夢の為に動く事にしたわ。」
リタ「お、お母様…それは一体どんな夢ですか…?」
ディーレッタ「そうねえ。それは、とても大きな夢なのよ。ふふ……今はまだナイショ。(悪戯に笑う。)それにね、私はもう貴方達や領民から多くの物をもらっているしこれ以上求めてはいないの……」
ウォレフ「は、母上…。」
ディーレッタ「さて、私の後継なのだけれど、次のハイル家の当主はリタにするつもりだというのは二人共賛成しているのでしょう……?(にっこり笑い)」
リタ「え!?お兄様ではないのですか!?」
ディーレッタ「あら、どうしてそう思うの?……でも、確かにそうね。貴方は……。私はね、貴方が良いのではないかと思っているのよ。貴方はとても優しい子だもの。それに頭も良い子。」
ウォレフ「俺もリタが次期当主になる事は異論はありません。ですが…リタの気持ちは…。リタはどうしたい?」
リタ「わ、私は……。私は……お母様の夢を、応援したいです。(少し悩みながら話す)……でもお兄様の方が向いているのかもしれません……。だってお兄様の方が優秀だもの。というのは私ではなくてお兄様の方が向いてるのじゃないかって、思っていますわ……」
ディーレッタ「確かにウォレフは優秀よ。それは私も認めているし、きっとこのハイル一族を更に盛り上げていく事でしょうね……。でもね、リタにも向いていると思うわ、その当主にね。私はそう考えているわ……」
リタ「そう、なのです……か?わ、わかりました、お母様。私やります……(不安そうだが、決意に満ちた表情を見せる。)でも一つ質問なのですが、それはどうしてなのですか?お兄様にも人を惹き付ける魅力はあると思いますし、何よりお兄様はハイル家の血を継いでいるのに。」
ディーレッタ「ウォレフはとても優秀よ。でもこの子は上に立つと言うよりは、他者に寄り添い他者と対等に歩んで行く事に適性があるのではないかしら、と思ってね。……それにリタにも人の上に立つ才能が十分にあるのだもの。だから、私が引退してからは貴方達二人に任せるつもりでいるの(悪戯な笑顔を見せる)」
リタ「そ、そうでしょうか…。私にそんな才能が…?」
ウォレフ「俺もそう思う。リタは冷静沈着で聡明、そして何より優しい心がある。俺はリタにこそ当主に相応しいと思っているよ(笑顔)それに……(少し溜めてから真剣な表情になる)実は俺も最近、やりたい事があるんだが聞いてもらえるかな?」
リタ「え…何でしょう…?」
ウォレフ「俺は、アルモネアの村を復興したいと思っているんだ。そしてあの病についても、独自に研究を進めたい……。だからリタ……俺はアルモネアに行きたい。その間、家の留守を頼んでもいいかい?必ず、君が当主になる前までには帰るから…。」
リタ「お兄様、私は、その願いを受け入れます(笑顔)私、お母様とお父様をしっかりお支えしますね!」
ウォレフ「有難う…!」
そしてウォレフはアルモネアの村へと出張へ向かい、リタは義母ディーレッタとお父様の仕事の手伝いをし始めた。そしてそれから三年の月日が流れた。
ウォレフはアルモネアに蔓延る疫病問題を解決しハイル家へと戻って来た。
そしてリタは正式にハイル家の当主になったのだ――……。だが、その後すぐにまたリタに新たな悩みが出来ることになるとは、この時夢にも思っていなかったのである―……。
リタ「お母様、結局お母様が当主の座を退いてやりたかった事とは何だったのですか?」
ディーレッタ「ふふ……それは……。リタには、内緒(悪戯っぽく笑う)まあいずれ解るでしょうけどね、ふふ♪(不適な笑みを見せる)」
リタ「は、はあ……。」
それからディーレッタは爵位をリタに譲り屋敷を出て、何をしたかと言うと……彼女は、ハイル家が持つ大きな領地に研究所を作りそこで研究者として新しい事を始めたのだ。
彼女が作ったのは、病の治療法。そして新たな薬。それはハイル家が培ってきたアルモネア村を中心とした疫病の記録から作り出した物だった。
薬学研究者として活躍する義母を見てリタは、改めて自分は何も出来ていない事を知り自信喪失してしまう。しかしそんな彼女が自信を取り戻すのは、ある出来事がきっかけだった――。
それは……。とある貴族と知り合った時だったー……。
その貴族の名はオリオ・アルマンド。
彼は文武に長け、領民からも慕われる素晴らしい人物だ。
そして彼はある活動をして国に貢献している。
それは悪魔払いの活動。
この国に悪き魔が現れた際、それを退治して回っているのだという。
そして今はエクソシスト達の組織を作るために日々励んでいるとか。
リタ「オリオ様、素晴らしいです。」
オリオ「リタ様。ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。(照れ笑いを浮かべる)ところで、君にお願いしたい事があるんだが……聞いてはもらえないだろうか。」
リタ「はい、なんでしょう?私に出来る事ならなんなりと。」
オリオ「そうか、有難う。リタ様はとても美しい方だ。きっと君の笑顔はまるで女神の如く人々を癒し、救ってくれるのだろう、だから私は君にこの組織の設立を頼みたいなって考えているんだよ(真剣な目で言う)」
リタ「え、ええ!?私がオリオ様の組織の設立に関わると言う事ですか!?わ、私にその様な大役が務まるのでしょうか…?」
オリオ「ああ。大丈夫だ、リタ様ならきっと出来ると信じているよ(笑顔)だから君にはぜひ組織の設立に向けての手伝いもして欲しい。頼めるかな……?もちろん無理強いはしないけど」
リタ「ええ、勿論。喜んでやらせて頂きますわ!このリタ・ハイル、全力を尽くさせてもらいます!(嬉しそうに言う)宜しくお願いしますね、オリオ様。」
そしてリタはオリオが運営する悪魔払いの組織「ロザリオ聖徒団」の設立手続きに奔走し、リタ自身も日々勉強に励みその知識を蓄えていった。また彼女は、自分の出来る事として聖水を販売しロザリオ教会の復興支援も行ったのだ。そして……。
ウォレフ「リタ!凄いじゃないか!聖水の売り上げが右肩上がりだと聞いたよ。これは、君の人望と才能に寄るものに違いないね。(笑顔になる)君は本当にすごい子だな……(感心する様にしみじみ言う)」
リタ「そんな…私はただ自分にできる事をしただけです。お兄様。」
ウォレフ「俺はオリオ殿とは親しくさせて頂いてるが、彼も君を高く評価しているらしいよ。彼は君の事が本当に気に入ったようだね。これからもロザリオ聖徒団の仕事は続けるのか?」
リタ「ええ、続けさせていただきますわ!(笑顔で言う)お兄様には及びませんけれど私にも何かやれる事がありますから。それが嬉しくて」
ウォレフ「解った。当主としての仕事は俺とお父様でなんとかするから君はそちらの仕事をすると良い。リタ、君はこれから「ロザリオ聖徒団」で何がしたいんだい?」
リタ「そうですね、今は……聖歌を歌いたいです。私ね、最近よく歌っているんです……(少し寂しそうな表情を見せ微笑む)ロザリオン様の曲をね……」
ウォレフ「ロザリオン?それはなんだい?」
リタ「ロザリオン様、という人は遠い昔、この国を救った偉大なお方なのです。そのお方の偉業は今でも語り継がれています……彼は本当に素晴らしい人だったのでしょうね。そんな偉大な人に感謝を込めて讃えたいのです(にっこり微笑む)ああ、そうそう。お兄様にこれを差し上げますわ(そう言って何かを手渡した)」
ウォレフ「ほう!それは素晴らしい。俺もまだまだ勉強不足だ。リタはいろんな事を知ってるんだな。それにリタは美しい声をしているから聖歌も立派に歌えるよ。……これは?(リタが渡したのは小さな花のブローチだった)これは何の花だい?(不思議そうに眺める)俺は花には詳しくないので解らないんだが……。リタの好きな花なのかい?この花はなんというんだ?教えてくれないか、リタ。」
リタ「この花は、白いアネモネの花です。ロザリオン様の愛した花と言われていますの(複雑な表情をしながら)ですからこれはお兄様に差し上げますわ!どうか大切にしてあげて下さいませね(にっこり微笑む)では失礼しますわね、お兄様。また今度お会いしましょう?(お辞儀をして去っていくー……)」
リタの様子が少し可笑しいと思いながらも義兄ウォレフは妹の後姿を見送った。
それからリタは、聖歌を歌い続けた。それはウォレフも聞いた事のあるロザリオンを称えた曲だったー……。しかし、その歌声はどこか悲しげなものだったという――。
リタはその後しばらくしてから突然、亡くなったのだ―……。享年27歳であった――……。
死因は病気であり、ウォレフにブローチを贈った時点でリタは深刻な程病に侵され手遅れな状態だったと言う……。
リタがウォレフに送った白いアネモネのブローチ…。白いアネモネの花言葉は「希望」と「期待」。そしてロザリオンの愛した花は白いアネモネだったと言われている――……。
つまり、ウォレフにこのブローチを贈ったのはリタがウォレフに託した最後の願いだったのだー……。
葬式が終わり、落ち着いて時ウォレフは家族達に相談する事にした。
ウォレフ「ティナ、色々と忙しいのにすまないね。少しいいか。」
ティナ「お兄様…。どうしたの?(姉が死んでしまい少し憔悴している。)」
ウォレフ「リタが俺に、生前こんな物をくれた。(白いアネモネのブローチを見せる)…花言葉は希望と期待。リタはどうして俺にこれを託したと思う?」
ティナ「リタお姉様が、お兄様に?(不思議そうに首を傾ける)花言葉……。そうね……希望と期待は何となく解るけど、どうしてその花をリタお姉様が贈ったのかは私には解らないわ。でも……きっと何か深い意味があるのではないかしら……?だってリタだもの!意味の無い事をするとは思えないし……うーん。ごめんなさい、私にはさっぱりだわ(申し訳なさそうに言う)お父様の方が詳しいかも」
ウォレフ「そうか。有難う。」
そうして、次はお父様へと声を掛ける。自身の義父であり、リタの実父だ。何か知っているかも知れない。
ウォレフ「…どうして、リタは俺にこのブローチを託したと思いますか?白いアネモネの花言葉は希望と期待。そして、リタが信仰していたロザリオンが愛した花と言われています。」
お父様「ロザリオンは、確か、彼はこの国の英雄だったとか……しかし白いアネモネの花言葉とはまた意外なようなそうでない様な不思議なものだな(不思議そうな表情を浮かべる)ところで、何故それをお前が持っているんだ?まさかお前、リタに貰ったのか……?それはどういう経緯で貰った物なんだ?詳しく聞かせてくれないか。まずそこから聞こうと思うのでな。」
ウォレフ「経緯も何も、突然リタが渡して来たのです。確か時期はロザリオ聖徒団での聖水の販売が軌道に乗り始めていた時期で、リタが聖歌を歌い始めた頃です…。既にその頃には病状は悪化していた様で…。」
お父様「ふむ、なるほどな……。(考え込む)リタはロザリオンに信仰を寄せていたそうだが、その事と関係があるのだろうか……?しかしどうしてそれが彼の手に渡ったのかが解らんなあ。それに白いアネモネの花言葉も気になるし……謎だな。まあ、とにかくこのブローチをお前が持っているという事はきっと何か意味があるはずだよ」
ウォレフ「なるほど。解りました。」
これはやはり聡明な母に聞くべきだと思い、義父と義妹の話を聞いてから実母であり元当主のディーレッタを訪ねた。
ウォレフ「と言う訳で、これをリタに託された理由を考えているのです。白いアネモネの花言葉は「希望」と「期待」。そしてリタが崇拝していたロザリオンが愛した花…。リタは何を思って俺にこのブローチを託したのでしょう?聡明な母上なら何か解るかと…。」
ディーレッタ「ふふ、そんなの簡単な事よ。リタはあなたにロザリオンの面影を重ねたのよ。だから、そのブローチを贈ったんじゃないかしら。きっとあの子はあなたに彼のようになって欲しかったのでしょうね……そう、あなたはロザリオンの後継者として相応しいと思っているのかも知れないわ。あなたが受け継いだその金色の瞳と髪の色が何よりの証拠よ(優しく微笑む)彼女はあなたの中に偉大な英雄を見たからこのブローチを託したのかも知れないわね……。」
ウォレフ「え…ええ!?そうなのですか…?俺はロザリオンと言う英雄がどんな人物か知らないのですが……。」
ディーレッタ「ロザリオンはね、この国の英雄なのよ。彼は、この国を救う為に命を賭けて戦ったと言われているわ。そしてそれは今でも伝説として語り継がれている……彼はとても勇敢で誰よりも他者を想う自己犠牲的な人だったそうよ。どんな時も自分よりも他人を気遣い、村の疫病のために奔走した貴方に似ているわ。そして貴方と同じ銀色の髪に金の瞳を持っていたと言われているの。きっとそれ故にリタはあなたにその事を重ねているのかも知れないわね(少し寂しそうに微笑む)」
ウォレフ「そ、そうなのですか……。でも、そんな尊い人物が俺と同じ色の髪と瞳を持っていたなんて俄かには信じがたい話です……。しかし、そうだとするならリタは俺にどうして欲しいのでしょう?ロザリオ聖徒団で働いて欲しいのでしょうか…?」
ディーレッタ「だったらハッキリと頼んだでしょう。でもそうじゃなくて、リタはただ貴方に白いアネモネのブローチを渡しただけだった。だけどそれが意味する事は、きっと貴方がロザリオンの後継者であり、彼が守り抜いたこの国を貴方にも守って欲しいという事なんじゃないかしら?貴方なら出来るって信じているのよ。だから貴方はリタの意志を継いでこの国の事をちゃんと考えてくれればそれで良いと思うの(強い口調で言う)それにね、もう既にあなたはこの国の為に色々と行動しているじゃないの(クスクスと可笑しそうに笑う)」
ウォレフ「そ…そうか……。俺は、俺の出来る範囲でこの国に貢献すれば良いのですね…?リタの分まで……。」
ディーレッタ「ええ、そうよ。だから貴方は貴方の思うままに行動すれば良いわ。それがきっとリタの望みでもあるはずよ……(優しく微笑む)あ、そうそう、そのブローチは貴方が持っていなさいな。そして大切に保管しておくといいわ。それは貴方がリタから貰った形見なのだからね。いつか必ず役に立つ時が来るわよ(ウィンクする)ほら、早く部屋に戻ってそれを大事にしておきなさいな……?」
ウォレフ「はい…!母上!!」
そして、ウォレフはリタに代わりハイル家の当主となり、リタとの約束を果たす為、国の為に働いた。
その胸にはリタの形見である白いアネモネのブローチを常に身に着け、生涯彼の心の支えとなっていった――……。
そしてリタの愛したこの国を守っていく決心をするのだった……。