夢幻の檻と再会の果て
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
牢獄で出会った無口な少年・クラウス。夢の世界を脱出し、現実に戻った農夫のジャンと王子ドルベが知ったのは、彼の残酷な正体だった。
本文
ドルベ「こ、ここは何処だ…?(白い煉瓦の壁に囲まれた檻の中で困惑する)」
ジャン「ん…?(目覚める)」
クラウス「…………」
薄暗い鉄格子の中で三人の男がいた。
一人は金髪碧眼の美少年、一人は茶髪の青年、もう一人は黒髪に赤い瞳をした男だった。
ジャン「な、なんだよ!?ここは一体なんだ!?お前達は…!!」
ドルベ「うっ……」
ジャン「だ、大丈夫か?お前らは何なんだ…」
ドルベ「お、俺はドルベという者だ……。君たちは?」
ジャン「俺はジャン。マグリブトと言う町の農夫だ。お前らは…?」
ドルベ「私はドルベと申します」
ジャン「(赤い目をしてる…。何だこいつは?)お、おい、アンタは?(クラウスに声をかける)」
クラウス「……」
ジャン「お、おい何とか言えよ…。」
ドルベ「どうしたんだ?君は彼の知り合いなのか?」
ジャン「ち、違うよ。アンタの事もコイツの事も俺は知らない!」
ドルベ「そうか……。では何故ここに居るのかも分からないという事か?」
ジャン「あ、ああ。…おい、アンタは誰だ?せめて名前だけでも教えてくれ!(クラウスの肩を叩く)」
ドルベ「なあ、名前だけでも教えてくれないか?もしかして…話せないのか?(クラウスに近づく)」
クラウス「……(無表情のまま二人を見つめている)」
ジャン「何とか言えよ!!せめて頷くとかしてくれ!!…アンタはここが何処かわかるか?(クラウスに必死に声をかける)」
ドルベ「おい、頼むから何か喋ってくれないか?(クラウスの身体に触れる)」
クラウス「……(二人の言葉を無視して歩き出す)」
ジャン「おい!何処へ行く!?ここは牢屋だぞ!?出れるのか!?」
クラウス「……(鉄格子の入り口の前で立ち止まり振り返って二人を見る)」
ジャン「…なんだよ?」
クラウス「……(指先を鉄格子に向ける)」
ジャン「…え?なんだ?出れないぞって事か?」
ドルベ「いや、待て!あれを見てみろ!」
ジャンがクラウスの手元を見ると、いつの間にか手には鍵らしきものが握られていた。クラウスはその鍵で鉄格子の鍵を開けるとそのまま外へと出て行ってしまった。二人は慌てて追いかけた。外に出るとそこには奇妙な世界が広がっていた。
ジャン「何だここは!?」
ドルベ「不思議な場所だ……」
そこは一面の花畑だった。空は真っ青に染まり、花々は美しく咲き誇っていた。そしてその真ん中には大きな屋敷があった。三人は戸惑いながらもその建物へと向かった。
ジャン「な、なあ。坊や、君は何者なんだい?喋れないのか?」
クラウス「……(無言で首を横に振る)」
ジャン「はあ?じゃあ喋ろうとしないのか?」
クラウス「……」
ジャン「駄目だこりゃ…。」
ドルベ「だが名前がないと不便だな。…そうだ、名前を教えてくれないなら、クラウスと呼んでいいかい?呼び名がないとやはり不便だからね。」
クラウス「……」
ドルベ「大丈夫なら頷いてくれ。」
クラウス「……(こくりと小さく首を縦に振る)」
ドルベ「よし、じゃあ君はこれからクラウスだ。よろしく。クラウス。」
クラウス「……(こくりと小さく首を縦に振る)」
ジャン「はあ…なんなんだよ。そうだ。ドルベ、アンタの話を聞いてなかったな。アンタは何処から来た?仕事は何をしている?」
ドルベ「私はとある国の王子です。今は旅の途中なのですが、気がついたらこの牢獄の中に居ました。」
ジャン「そ、そうだったのか…!大変だな。それにしても赤い瞳なんて初めて見た。遠い所から来たんだな。」
ドルベ「はい、そうなんです。(苦笑しながら)貴方の目は銀色ですね……。とても綺麗だ……。(ジャンの瞳を見ながら微笑む)」
ジャン「そ、そんなことないよ。俺なんかただの平凡な農夫さ。アンタの方がよっぽど奇しくて美しいよ。(照れながら答える」
そうして二人はクラウスに先導されるまま屋敷に辿り着いた。
この屋敷は人の気配が無いがやけに綺麗でたくさんの本が並んでいた。
ドルベ「こ、ここは一体……?(おずおずと中に入る。)……うわぁ……凄いな」
ジャン「おい、クラウス。何なんだここは。」
クラウス「……(本を手に取るとパラパラと捲る。すると文字が浮かび上がり光を放つ。驚いている二人をよそに、また別の本を同じようにしてみる。)」
ドルベ「クラウス、それは何ですか…?まさか、魔導書ですか?クラウス、それを見せてもらえませんか?もしかしたら何か分かるかもしれません。私達はここから出る方法を知らないのです。もし宜しければ力を貸してくれませんか?」
クラウス「……(こくりと小さく首を縦に振る。そしてドルベに手渡す。受け取ったドルベは目を見開く。そこに書かれていたのは見たこともないような魔法の数々だったからだ。」
ジャン「ど、ドルベ…何かわかったか?」
ドルベ「ああ……これは古代語で書かれた書物だ。それも失われた言語だよ。恐らくこれを読める者はもういないだろう。こんな貴重なものを見せて頂いてありがとうございます。クラウス、貴方は一体何者なのですか?」
クラウス「……(ふるふると首を振る。そして無言のまま歩き出すと、扉を開けどこかへ行ってしまう。慌てて後を追う二人。)」
ジャン「おいッ!!待てよ!!何処に行くつもりなんだ!?勝手に動くなよ!!……って、おい、待てよ!!……ったく、アイツはどこへ行くんだよ!?」
クラウス「……(ふわりと花々が舞うように風が吹く。辺り一面の花々が一斉に舞い上がる。そして花吹雪となって空へと消えていく。その光景はとても幻想的であった)」
ドルベ「美しい…。あの、クラウス。貴方はもしかして、精霊なのかな?」
クラウス「……(ふるふると首を横に振る。そして何処か悲しげな表情をする。そのまま歩き続けると、やがて大きな泉の前に辿り着く。そこには一人の女性が立っていた。
ジャン「あ、アンタは…?」
フローラ「……こんにちは、旅人さん達。私はこの森に住む妖精です。私の名はフローラ。ようこそ、迷いの森の花園へ。ここは様々な不思議の起こる場所。ここは夢の世界。」
ドルベ「フローラ…私達は気づいたら謎の牢獄に閉じ込められていて、そこの少年に鍵を開けて貰い脱出しこの世界にやってきました。この世界は一体…。」
フローラ「ここは夢の国。現実と非現実の狭間にある世界です。ここならば時間の流れが違うので、ここでの時間は外では一瞬にも満たないでしょう。だから安心して下さい」
ドルベ「あの、そこの少年は何者なのですか?私達は便宜上クラウスと呼んでいましたが、名前はあるのでしょうか…?」
フローラ「……彼は記憶を失っています。だから自分の名前すら分かりません。でも、彼が何者であろうと、この場所では何も関係ありません。貴方達が望むのであれば、彼の事は自由に呼んであげてください。」
ドルベ「そうだったのですか…。それで、クラウスは何故私達と同じ牢獄に入っていたのでしょう?鍵は持っていたのに。」
フローラ「……この世界の掟として、招かれざる客人はすぐに出て行く事になっています。だから、彼は貴方達が来る前に自ら出て行ったのでしょう。ですが…彼は結局出られなかった。私もこうなる事は予期していたので牢獄に閉じ込められた際のために鍵を渡したのです。」
ジャン「え?じゃあ俺らも出ていかないといけないのか…?」
フローラ「彼…貴方達がクラウスと呼ぶ者は記憶を失っている。恐らくこの世界の何処かに落としてしまった。それをこの世界は許さなかったのでしょうね。落とし物を拾え、と…。ですから貴方達は帰っても平気ですよ?」
ジャン「いや、俺はここに残るぜ!クラウスだけ帰れないなんて可哀想だ。俺もクラウスの記憶が戻るまでここに残る。」
クラウス「……(じっと二人を見る。)……(二人に近寄ると手を握る。そしてぎゅっと強く握りしめる。二人の手を離すまいとするかのように。)」
ドルベ「ジャン…貴方、意外とお人好しなのですね。」
ジャン「なっ……!べ、別にそういう訳じゃねぇよ!ただ……放っておけないだけだ!だって、俺らは仲間だろ!?助け合うのは当然じゃないか!」
クラウス「……(にこりと微笑む三人で仲良く過ごす日々が始まった。そして、二人が文字を教えてくれた事でクラウスは言葉を覚えていった。二人はクラウスが困っている時はいつでも駆けつけてくれる」
ジャン「ほら、クラウス!こんにちは!こんにちはって言ってみろ!」
クラウス「……(おずおずと口を開く)こ、こんに、ちは……。(照れくさそうにはにかむ。)ジャン、ありがとうございます…。」
ジャン「凄いじゃないか!ドルベ!!クラウスが喋れる様になってるぞ!!」
ドルベ「ふふ、素晴らしいですね…。」
あれから三人はこの不思議な夢の世界にある屋敷で暮らし始めた。
クラウスの記憶はまだ戻らないが、二人はクラウスに文字を教えたり、一緒に遊んだりと毎日楽しく過ごしていた。しかしある日の事、突然異変が起こる。
フローラ「……大変!!このままだと貴方達は死んでしまうわ!!早く逃げて!!!ここはもうじき崩れてしまうの……ッ!!!(必死に叫ぶ)お願い、今すぐここから逃げるのよ!!」
ジャン「な、何だよそれ……ッ!!どうなってるんだよ……ッ!?(動揺する。)おい、クラウス……大丈夫か……?しっかりしろ……ッ!!……くそ……」
クラウス「……(意識を失う。)うぅ……ここは……?僕は一体……何をして……いたん、だっけ……?(頭を押さえながら起き上がる。そして辺りを見回す」
ドルベ「二人とも!!とにかく逃げよう!!」
ジャン「ああ、くそ…、なあ、クラウス…こんな時にあれだけどさ、お前の本当の名前を教えてくれよ…。」
クラウス「僕の、名前……?それは一体何なのでしょうか……?僕の名前は、一体誰のものなんですか……?分からないんです……。何もかもが……。すみません……。(泣きそうな表情になる)…どうやら僕は、この世界から出られなさそうです。…二人とも、どうかお元気で…。」
ジャン「クラウス……、お前、まさか一人で残るつもりなのか……?そんな事させられない……!!(引き止めるように腕を掴む。しかし振り払われてしまう」
ドルベ「クラウス…!!」
そして三人は離れ離れになり、気づいたらジャンは現実世界に戻っていた。
農夫として日々を過ごす中、あれは夢だったのだと言い聞かせていたが、ふとした瞬間にあの時の事を思い出してしまい、その度にクラウスとドルベに会いたいと思うのだった。そんなある日、ジャンは偶然にもクラウスと再会する。しかし、クラウスは別人のように冷たくなっていた。
ジャン「お、お前…クラウスか!?会いたかったぞ…!!」
クラウス?「は?僕の名はミレイユ・ドリュアスですけど。人違いじゃないですかねぇ?」
ジャン「は!?ミレイユ・ドリュアスって言ったら…この国で名を馳せた女天才魔導師の名前だろう?お前は俺達の世界で共に過ごしたあのクラウスだろ!?冗談言うなよ!俺が見間違うはずがないだろ!?それにその話し方、絶対にクラウスだ……!」
ミレイユ「…?…何を言ってるんですか?確かに僕は貴方の言う通り、この国で名を馳せている天才魔道師のミレイユですが……貴方とは初対面ですよねぇ?貴方、一体誰ですかぁ?」
俺は何も言えずにその場を去った。
後から知ったが俺の町の近くの森に強大な魔物が出たらしくミレイユはその討伐に行っていたらしい。だが、ミレイユは死んだ。その夜、魔物に殺されて…。一体何なんだ。
何が何だか解らず、俺はせめてドルベを探しに行く事にした。
ドルベは確か王子で、今は旅をしていると言う。
だったら俺も旅に出てやると貯金を叩いて、両親から受け継いだ土地も売ってドルベを探す事にした。それから一年、やっとドルベを見つけた。ドルベは近国エルムェニオンで騎士をしていた。俺はドルベと会って色々話を聞いて、奴もまたミレイユに会ったらしいが間違いなくクラウスとミレイユは同一人物だと語った。
ジャン「でも…ミレイユはもう死んだんだよなあ…、ドルベも辛い思いしてたんだな…。」
ドルベ「いや、もしかするとミレイユは死んでないかも知れません。いや、死んでないというのも微妙な表現なのですが…あの時、あの夢の世界でクラウスだけが閉じ込められましたよね?」
ジャン「そうだな。クラウスは記憶喪失になっていた。だからクラウスは帰れなかったんだろ?あの世界の掟で招かれざる客人は追い出されるって聞いたがあいつは記憶を落としたから帰れなかった…。」
ドルベ「はい。ですがその考えは元々フローラの物でしたよね?そもそもその説が根本的に間違っているとしたら?」
ジャン「え?」
ドルベ「まず、クラウスとミレイユは同一人物と仮定して話します。ある日ミレイユは私達と同じ様にあの夢の世界に囚われた。だが、ミレイユは天才的な魔法の使い手だ。何らかの方法であの世界から脱出していたとしたら?」
ジャン「何らかの方法って?」
ドルベ「…彼女は、自分の魂を切り離して分身を作りあの不思議な世界を欺いた。その隙にあの世界を出たとしたら?」
ジャン「……つまり、ミレイユは自分の魂のほんの一部を身代わりにしていた…?」
ドルベ「しかも魂が自分の形を保てる程度の配分で、ね。クラウスは記憶を失ったんじゃない。元々記憶も知識も存在しなかった。そう考えれば最初話せなかった事も、何もかも説明がつく。」
ジャン「じゃあ、クラウスは今もあの世界に閉じ込められて…もう帰れる場所もないって言うのかよ……くそ、何で……ッ!!何でだよ……ッ!!(泣き崩れる)」
ドルベ「助けられる可能性はあるにはあるよ。」
ジャン「!?」
ドルベ「あの世界に戻ってどうにかしてクラウスをこの世界に連れていく。で、何かしら彼女の魂の器を用意するんだ。」
ジャン「クラウスを連れてくるのはいいとして、どうやって連れてくるんだよ。クラウスはもう帰れないんだぞ……ッ!!それなのに……ッ!!(涙目で叫ぶ)」
ドルベ「そこなんだよなあ…そもそもあの世界に私達がまた行けるかも可能性は非常に低い…ただ、可能性はゼロじゃないがね。」
ジャン「どういう事だよ……ッ!?(食いつくように聞く)詳しく教えてくれよ……ッ!!頼む……!!(懇願するように頭を下げる)……俺に出来る事があるなら何でもするからさ……」
ドルベ「…そんなにクラウスが大切なのかな?確かに僕らはあの世界で数年間は一緒に居たけど、君はクラウスの事をほとんど知らないだろう?何故そこまで必死になるのかい?クラウスは君にとって何なんだい?友人?仲間?家族?それとも……恋人だったりするのかい……?」
ジャン「……そんなんじゃねえよ。ただ、アイツは大事な友達なんだ……。それに俺は、クラウスの事、好きだったし……。だから……、何としてもクラウスを助けたい……ドルベ、もしお前があの世界に閉じ込められていたとしても俺はお前を助けたい。」
ドルベ「……そうか。それは嬉しい事だね…。それよりも、クラウスを助ける為にも早く準備をしないとね。でも、あの世界は崩壊してしまったし、クラウスと出会う所かまた行けるかも解らない。その覚悟はいい?」
ジャン「ああ。勿論だ。絶対にクラウスを助けようぜ……!(決意に満ちた表情で拳を握る)」
そしてドルベは再びあの世界へ向かうための調査や準備を着々と進めていった。俺も協力しながらクラウスが無事な事を祈り続けた。クラウスが無事ならば俺達はもう一度出会える筈だと信じながら……。そして、遂にその時が来た。
ドルベ「あの世界へ行く方法で一番手っ取り早いのは睡眠で夢を見る事だ。まぁ、普通に寝るのでもいいんだけど、今回は夢の精霊の力を借りよう。(魔法陣を描きながら)」
ジャン「精霊?そんなもんまで居るのかよ……!?(驚きながらも興味津々な様子で見ている。)それで、どうすんだ?」
ドルベ「ジャンは普通にそこの布団で寝てくれ。私はその精霊の力を増幅させる。そして、私が合図をした瞬間に眠りに落ちるんだ。分かったか?(真剣な顔でジャンを見つめる)」
ジャン「お、おう……(気圧されつつ返事をする。)わ、わかったよ。いつでも来い……!(目を閉じて構える。)……って、まだかよ……!」
ドルベ「慌てるなって……よし、今だ……!(魔法をかけるとジャンは一瞬にして意識を失う。)……これで大丈夫だ。さて、次は私の番だな。……(そしてドルベも眠りにつく)」
そして二人は再びあの夢の世界へとやって来たのだが、かつては花や緑に囲まれた美しい夢の世界が、今は荒廃しきった世界へと変貌していた。クラウスの姿も見当たらず、ジャンは焦燥感を募らせる。と、そこへ妖精らしき者が現れた。
パック「お?人間の客なんて珍しい。お前ら、何用だ?(警戒した面持ちで睨むように二人を見て尋ねる。)」
ジャン「クラウスは何処にいる?(パックをキッと睨みつける。)クラウスはどこに行ったんだよ……?(声を震わせながら問う。)クラウスは……無事なのか?」
パック「クラウス?誰だそいつは?(キョトンとした様子で首を傾げる。)……まあ、いいや。おい、人間。」
ジャン「何だ……?(怒りを押し殺して答える。)……って、え?ちょ、何だコレ!?(いきなり視界が歪み、足元が覚束なくなる。)一体何が……」
ドルベ「おや、随分早かったね……(ジャンの背後から現れる)ジャン、落ち着いて。この世界では精神力がものを言う。気をしっかり持って。(肩に手を置いて微笑む。)…けど、随分存在が曖昧な世界になったんだな。」
パック「ああ…。世界が崩壊して数千年と経って滅茶苦茶になっちまったんだよ。俺もいつまで存在出来るか…。それより、クラウスって奴はここには居ないぞ。さっきも言ったがそいつは知らん」
ジャン「す、数千年!!?」
ドルベ「そ、そうか…。現実世界での一瞬はこの世界にとっては数年…いや、数十年間か……。しかし、そうなるとクラウスは何処へ行ったんだろうね……。この世界のどこかにはいるかも知れないけれど……。(思案げに呟く)」
ジャン「なあ、この辺で村とか、他の奴らが集まっている場所はないのか?」
パック「んー……。そうだなあ……。ここからだと少し遠いが、"ミレイユの森"ならあるぞ。そこに行けば、何か分かるかもしれねぇな」
ジャン「み、ミレイユの森!?…も、もしかすると…」
ドルベ「クラウスに関係あるかもね。…良ければミレイユの森に案内してくれないか?」
パック「別に構わんが……オベロン様の邪魔だけはするなよ……?(鋭い眼差しで釘をさす。)……じゃあ、行くぞ。ついてこい。(歩き出す。)」
ドルベ「…オベロン様とは?」
パック「ミレイユの森に居る、妖精の王だ。……悪い事は言わねえから、変な真似はするなよ?……命の保証は出来ねえからな……(振り返りつつ忠告する。)」
ドルベ「ジャン、もしかして…」
ジャン「……アイツが言ってる王って言うのは多分クラウスの事だろうな……。」
そして二人はパックの案内でミレイユの森に辿り着く。
ミレイユの森は花々が咲き乱れ、木々も生い茂っている美しい森だったが、妖精達の姿は殆ど無かった。妖精達の多くは皆、数千年前に何処かへと姿を消してしまったのだと言う。
それでもまだ、この森には妖精や幻獣が隠れ住んでいるという。そして、そんな森の中で一人の青年を見つける。
金髪碧眼の青年で、その瞳は透き通った海のように青く澄んでいた。その美しさはまるで神が作り出した彫刻品のようだった。そしてその背中からは天使のような翼が生えていた。
ジャン「お前は…まさかクラウスなのか……?(呆然としながら声を絞り出す。)クラウス、お前……生きてたのかよ……!!(泣きながら抱きつく。)……良かった……ッ!本当に……」
クラウス「……ジャン、君こそ生きていたのか……!?(驚きつつも嬉しそうに微笑む。)……でも、どうして此処に……?」
ドルベ「キミを助けに来たんだ…クラウス、…いや,今はオベロンと言った方がいいかな?妖精王。」
クラウス「ふふ、もう知っていたんですね…。僕はこの世界に取り残されてから、ずっと一人で生きてきたんだ。この森に隠れ住んでいたんだけど、次第に力をつけて、まあ色々あってこの森の長になった。それにしても……助けに来てくれたんだね。ありがとう……(優しく微笑む。)」
ジャン「クラウス!俺達と一緒に帰ろう!!ドルベがちゃんとお前の居場所を用意しているから!」
クラウス「僕の……帰るべき場所……(考え込む。)……でも、僕にはここで妖精達を守るという役目が…。」
ドルベ「だが、この世界はすでに崩壊の一途を辿っている。ここに居続けたらキミも消滅してしまうかも知れない。それに本来君はこの世界の存在では無かったんだから…。」
クラウス「確かにこの世界の崩壊は止められない。だけど、この世界を君たちと一緒に抜けますかは僕が決める事だ。……もし、どうしてもと言うならば、一つだけ条件がある。(真剣な表情で二人を見つめる。)それを守ってくれるなら僕はこの世界を抜けて君達と元の世界へ行くよ。」
ジャン「な、何だよ。条件ってのは…」
クラウス「この世界での最後の大仕事として、妖精達が安心して暮らせるような国を作る。だから、その間は待ていて欲しい。それが条件だ。(二人を交互に見ながら答える。)」
ドルベ「なるほど、妖精達が余生を過ごすための国…、だがその国には王が必要じゃないのか?その王は君以外なら誰にする?」
クラウス「……それは考えてなかったな……(困ったように笑う)うーん……、やっぱりこの世界の誰かがなった方が無難なんだろうけど……(しばらく考える)そうだな……」
ジャン「なあ、フローラはもういないのか?」
クラウス「……彼女はこの世界の崩壊後しばらくして消滅したよ。……いや、もしかしたら消滅してはいないかもしれないけど……いや、ジャン。それは良いアイデアかも知れない。フローラ、いや、フローラだったものを探そう!」
ドルベ「フローラだったもの…?なるほど、そう言う事か!貴方、フローラに分身を作る魔法を授けたのですね!」
クラウス「はい。……ただ、この世界では力が弱まるため、分身を作れるのは一度きりですが……。(少し寂しげに微笑む。)とにかく、やってみましょう」
そして三人は手分けしてフローラを探し始める。だが、なかなか見つからない。ようやく見つけたのはそれから二年後で、世界の崩壊はかなり進んでいた。
フロゥ「私はフロゥと言います。宜しくお願いしますね!(にこっと笑いかける。)」
クラウス「君には私の後を継いで妖精女王になって欲しいのだが……。(真剣な眼差しでじっと見つめる。)どうだろうか……?(緊張した面持ちで尋ねる。)嫌なら断ってくれても構わない。強制するつもりは無いからね」
フロゥ「いえ、謹んでお受けいたしますわ。私が貴方の国の女王になります。(にっこりと微笑み返す。)これからよろしくね、オベロン様。(手を差し出す。)」
そしてフロゥは新たな国を作り、妖精達の楽園を築く。その国は妖精達が幸せに暮らす理想郷となった。そして妖精達はいつまでもそこで暮らしました。
ジャン「よし、じゃあそろそろクラウス。現実世界に帰るか?」
クラウス「ああ、そうだな。君たちが迎えに来てくれて本当に嬉しいよ。ありがとう……(微笑む。)じゃあ、行こうか。ドルベさん、ジャン、長い間世話になったね。」
ドルベ「ええ。貴方の身体ですが、ミレイユの細胞を摂取してホムンクルスを作りました。ミレイユと同じ性質の人間となっています。これを飲めば現実世界で目を覚ましますよ。(カプセルに入った液体を渡す。)」
クラウス「そうですか。ありがとうございます。……じゃあ、またあの世界で会おうね。ドルベ、それにジャン。……さようなら。(カプセルを飲み干す。)」
そしてクラウスは気がつくと自分そっくりの少女の姿で目を覚ます。その少女は紛れもなくクラウスだった。彼は元の世界に戻ってきたのだ。そしてその傍らには、黒髪赤目の青年と茶髪に銀の瞳をした青年の姿があった。
ジャン「おかえり、クラウス。」
クラウス「……ただいま。(嬉しそうに微笑む。)……さて、これで全てが終わった訳だけど……、何か忘れている気がするんだよね……(考え込む。)……あっ!」
ジャン「ん?どうした?」
クラウス「そう言えば、僕はまだ君達に告白していなかったっけ……?(顔を赤く染める。)今更だけど聞いてくれるかい?僕の気持ちを……。(二人を見つめる。)」
ジャン「な、なんだよ!?」
ドルベ「え…?」
クラウス「僕は君達の事が好きだ。だから、僕の恋人になってくれないか?(真剣な表情で二人に問い掛ける。)僕はキミ達二人が好きなんだ」
ジャン「な、何を言って……!!(照れながら慌てている。)い、いきなりそんな事言われても……ッ!(混乱している。)ど、どうしようドルベ……!?」
ドルベ「……いいんじゃないか?クラウスの事は嫌いじゃないし……。それに私も君の事をずっと前から好きだったから……。(頬を紅潮させながら答える。)…ジャン、お前の事も愛してるぞ?三人で結ばれるのも悪くないかもな?」
ジャン「ドルベまで何を言い出して……!!(さらに顔を真っ赤にして慌てる。)俺もお前らのことは大好きだよ!でも、それとこれとは話が別だ!!」
クラウス「ふふ、じゃあ決まりだね。三人で付き合おうか。まあ、恋人と言っても今まで通りで良いと思うよ。(爽やかな笑顔を浮かべる。)」
ジャン「えぇー……。マジで三人で付き合うのかよ……?(困惑しながらも満更でもなさそうな様子。)うぅ、仕方ねえな……。(諦めたように溜息をつく)…ところで、クラウス。お前女だったんだし名前変えても良いぞ?ミレイユって名乗るのはやめた方が良いと思うが、何かもっと女の子らしい名前に変えてもいいんじゃないか?」
クラウス「うーん、そうだな……(しばらく考える)……じゃあ、クラリスで。(あっさり決める。)うん、可愛いじゃないか。僕は気に入ったよ。これからはクラリスと名乗る事にするよ。(にこっと微笑む。)」
ドルベ「安直だが悪くないね。あと、口調ももう男言葉で無くても良いんじゃないか?ミレイユは趣味だった様だが君は王としての責務とか諸々で男装してたんだろ?私とか、女らしい口調でも良いんじゃないかな?」
クラリス「それもそうだね。……じゃあ、早速……(少し恥ずかしげに呟く)……じゃなくて、そうね!私はもう王様じゃないから、この話し方は止めることにするわ!」
ジャン「うん、…あー、なんだ…可愛いよ。クラリス……。(クラリスの額にキスをする)」
クラリス「もう!ジャンったら……!(照れて顔を真っ赤にしながら微笑む。)私も貴女のことが大好きよ!(ジャンに抱きつく。)私も二人が好き!」
ドルベ「私も君たちのことを愛してるよ。(二人の唇に交互に口づける。)三人で幸せになろうな。(にこっと笑う。)」
ジャン「ああ、勿論だ。(ドルベに微笑み返す。)俺たち三人はずっと一緒だ。絶対に離れないし、離さない。(クラリスを抱きしめる。)」
こうしてジャン、ドルベの二人の青年とクラリスは結ばれました。三人はいつまでも幸せに暮らしました。そして夢の世界は崩壊しましたが、彼らはまた現実の世界で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。