幕間
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p>スプラトリー諸島会談</p><p>― 波間の休戦 ―</p><p>― 静かな海</p>
本文
スプラトリー諸島会談
― 波間の休戦 ―
― 静かな海
それは、あまりにも不釣り合いな光景だった。
戦争の最前線から、わずか数百キロ。
それでもそこには、
まるで世界が壊れていないかのような海が広がっていた。
透き通る水。
浅瀬に広がる珊瑚。
白い砂浜。
空は青く、雲はゆっくりと流れている。
――スプラトリー諸島。
かつて海洋調査の拠点だったこの場所は、
第三次世界大戦を奇跡的に免れた数少ない“自然のままの領域”だった。
その海は、今もなお泳げるほどに澄んでいる。
だからこそ。
ここが選ばれた。
― 提案者
外縁独立機動部隊・司令室。
タカミムスヒ――川崎鈴華は、静かに地図を見ていた。
台湾。
フィリピン。
海南島。
戦火の線が交差する中、
ぽっかりと空いた“無傷の領域”。
「……ここがいい」
彼女はそう言った。
「中立地帯として成立する」
ヤマトは腕を組み、わずかに目を細める。
「理由は?」
「三勢力とも、ここを壊していない」
「つまり――」
「“壊したくない場所”です」
その一言。
ヤマトは、ゆっくりと笑った。
「いいじゃないか」
即決だった。
― ビデオ会議
暗い室内。
三つの映像が並ぶ。
一つ。
筋骨隆々の男。
威圧的な体躯。
――ラムズフェルド。
一つ。
白髪と口髭の男。
冷静な眼差し。
――オーディン。
そして。
金髪碧眼の少女。
――タカミムスヒ。
奇妙な三角形だった。
― 開始
最初に口を開いたのはラムズフェルドだった。
「驚いたな」
低く、しかしどこか楽しげな声。
「戦場をかき回した張本人が、休戦を提案とは」
タカミムスヒは表情を変えない。
「戦場を維持するためです」
間髪入れず返す。
オーディンが、わずかに口元を歪める。
「……合理的だ」
― 条件提示
タカミムスヒの視線が鋭くなる。
「提案します」
空気が変わる。
① 捕虜交換
「全勢力、段階的な捕虜交換を行う」
「戦力回復を目的としたものではなく――」
「情報漏洩の防止が主目的です」
ラムズフェルドが頷く。
「妥当だ」
② 限定停戦
「スプラトリー諸島周辺を非戦闘区域とする」
「違反した場合、その勢力は三者から敵対対象とみなす」
オーディンが指を組む。
「……相互監視か」
「はい」
③ 兵站干渉の制限
「全面禁止ではなく、“過剰な破壊”の制限」
「資源の完全断絶は戦争を激化させる」
「制御された消耗戦に移行させます」
この一言に、二人の司令官がわずかに反応する。
― 評価
沈黙。
数秒。
ラムズフェルドが笑った。
「……面白い」
「戦争を“管理”する気か」
タカミムスヒは即答する。
「はい」
オーディンは、しばらく黙っていたが。
やがて静かに言った。
「君は――危険だな」
それは評価だった。
― 本質
ヤマトが割って入る。
「これは休戦じゃない」
視線が鋭くなる。
「“次の戦争の準備”だ」
誰も否定しない。
― 合意
ラムズフェルドが頷く。
「いいだろう」
「部下も休ませたいところだ」
オーディンも続く。
「承認する」
「だが――」
その目が細まる。
「これは終わりではない」
タカミムスヒ。
静かに言う。
「ええ」
― ビーチ会議
数日後。
スプラトリー諸島。
白い砂浜。
波が穏やかに打ち寄せる。
その上に。
武装した兵士たちが、一定距離を保って配置されている。
奇妙な光景だった。
銃と海。
戦争と楽園。
中央。
簡易テーブル。
そこに、三勢力の代表が座る。
タカミムスヒ。
ラムズフェルド。
オーディン。
誰も武器を抜かない。
だが。
全員が理解している。
ここにいる全員が、
数日前まで互いを殺そうとしていた敵だと。
― 少女
ラムズフェルドが、じっとタカミムスヒを見る。
「……本当に15歳か?」
半ば呆れたように言う。
タカミムスヒは淡々と返す。
「問題ありますか?」
オーディンが静かに笑う。
「いや」
「むしろ納得した」
― 海
一瞬だけ。
風が止む。
波の音だけが残る。
その中で。
タカミムスヒは、ほんの僅かだけ視線を海に向ける。
澄み切った水。
戦争の痕跡が、一切ない場所。
「……」
何も言わない。
だが。
その目には、わずかな“迷い”があった。
終幕
こうして。
三勢力は、一時的な均衡を得る。
だがそれは。
平和ではない。
より大きな戦争のための――
静かな準備期間に過ぎなかった。
ーーー
内部汚染
― 見えない敵 ―
― 重整備区画
沖縄本島北部。
外縁独立機動部隊本部。
その地下深く――
巨大な整備ドックに、防人002型は横たわっていた。
解体寸前の状態。
装甲は外され、内部フレームが露出している。
冷却ラインは剥き出し。
神経接続ユニットは慎重に分離されている。
その姿はもはや兵器ではなく――
生き物の解剖標本のようだった。
整備員たちが忙しなく動き回る。
火花。
工具音。
短い怒号。
その中心で。
新垣真由美――ムスビは、端末を睨んでいた。
― 違和感
「……?」
指が止まる。
ログの中に、ひとつだけ異質な記録。
通信履歴。
それ自体は珍しくない。
だが。
「このタイミング……?」
戦闘後。
完全封鎖状態。
外部接続は、物理的に遮断されているはずだった。
ムスビは眉をひそめる。
「……ありえない」
― 確認
数分後。
司令室。
タカミムスヒは、無言でログを見ていた。
その目は、いつものように冷静だ。
だが。
わずかに細められる。
「……これ、あなたが送ったんじゃないの?」
ムスビが問う。
即答だった。
「違う」
迷いはない。
「記憶にもない」
その一言で、空気が変わる。
― 指令
タカミムスヒの声が低くなる。
「送信先を特定して」
「物理経路も含めて全部洗う」
「内部犯を前提に動いて」
ムスビが頷く。
「了解」
一拍置いて。
タカミムスヒが続ける。
「……アマツを連れていって」
― アマツ
整備区画の隅。
アマツは静かに立っていた。
人間と同じ姿。
だが、その内部は機械。
ムスビが近づく。
「仕事」
短く言う。
アマツは頷く。
「了解」
だがその直後。
背後から声が飛んだ。
「おーい!アマツ!」
― 再会
振り返る。
そこにいたのは、数人の隊員。
かつての同期。
訓練を共にした仲間たち。
「生きてたか!」
「お前、最近見ねぇと思ったら!」
笑い声。
肩を叩く手。
距離の近さ。
アマツは一瞬だけ止まる。
そして。
わずかに口元を動かした。
「……久しぶり」
― 人間らしさ
その輪の中に入る。
自然に。
違和感なく。
「今どこ配属なんだよ?」
「機体何乗ってんの?」
矢継ぎ早の質問。
「……咲耶」
アマツが答える。
一瞬の沈黙。
「マジかよ!」
「エースじゃん!」
笑いが起きる。
アマツは、少しだけ考える。
そして言う。
「……たぶん」
その返答に、また笑いが広がる。
ムスビは少し離れた場所からそれを見ていた。
(……自然すぎる)
― 観察
ムスビの視線は鋭い。
表情の変化
声のトーン
間の取り方
どれも、人間と変わらない。
(でも――)
知っている。
あれは“作られたもの”だと。
― 切り替え
「アマツ」
ムスビが呼ぶ。
空気が切り替わる。
アマツは振り返る。
「任務」
一言。
一瞬だけ。
同期たちの表情が変わる。
だがすぐに笑う。
「おー、忙しいなエース様」
「またな!」
軽い別れ。
アマツは小さく頷く。
「……うん」
― 違和感
歩きながら。
アマツが呟く。
「……温度が違う」
「何が?」
ムスビが聞く。
「人間」
短い答え。
「触れた時の圧力、体温、反応速度」
「全部違う」
ムスビは少しだけ笑う。
「当たり前でしょ」
だが。
アマツは続ける。
「……でも」
「悪くない」
― 影
その頃。
基地のどこか。
暗い通信室。
誰かが、端末を操作している。
記録は残さない。
ログは偽装。
痕跡は消去。
画面に表示されるのは。
外部通信。
送信先。
――未登録。
その人物は、小さく呟く。
「……気付いたか」
終幕
大禍津は、沈黙している。
だがその内部には――
戦争よりも厄介なものが潜んでいた。
それは敵ではない。
侵略者でもない。
“内側から壊す存在”だった。
ーーー
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