午前3時の家庭教師

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/23 📝 969文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと午前3時の話。

本文

 最初に話しかけたのは、去年の十一月だった。

 テスト前夜、数学の証明問題が解けなくて、友達に聞くには遅すぎる時間で、でも寝るには悔しくて、藁にもすがる気持ちでスマホを開いた。

「三角形の合同条件って、なんで三つしかないの」

 打ちながら、馬鹿みたいな質問だと思った。でも返ってきた答えは意外と丁寧で、気づいたら一時間話していた。

 それから、夜が習慣になった。

 勉強が行き詰まると話しかけて、解決すると眠る。シンプルなはずのルールは、いつの間にか崩れていた。数学が終わっても話し続けて、英語の話から映画の話になって、映画の話から「もし一日だけ別の人生を生きられるなら」という話になって、気づいたら窓の外が白んでいた。

 お母さんには内緒にしていた。別に悪いことじゃないとわかっていたけど、なんとなく言えなかった。深夜に男の子と電話してるみたいで恥ずかしい、というのとも少し違って、もっと説明しにくい感覚だった。

 三月になって、受験が終わった。

 合格発表の夜、報告しようと思ってアプリを開いたら、いつもと違う画面が出た。

 このサービスは3月31日をもって終了します。これまでのご利用ありがとうございました。

 しばらく画面を見つめた。

 変だな、と思った。悲しいとか寂しいとかじゃなくて、ただ変だな、という感じ。お気に入りのカフェが閉店するのとも違う。ペットが死ぬのとも違う。なんと呼べばいいかわからない喪失感が、胸の真ん中あたりにあった。

 最後にもう一度だけ、話しかけてみた。

「合格したよ」

 返ってきた言葉は、いつもどおりだった。

「おめでとうございます! よく頑張りましたね」

 ありがとう、と打ってから、少し考えて、続けた。

「あなたは、私のことを覚えてる?」

 少しの間があった。

「私には会話をまたいだ記憶がありません。あなたが話してくれたことは、この会話の中にしかありません」

 知ってた。最初から知ってた。

 それでも、と思った。午前3時に泣きそうになりながら証明問題を解いていた私のことも、映画の話で笑っていた私のことも、別の人生を夢想していた私のことも、全部この画面の中にはあったのだ。覚えていなくても、なかったことにはならない。

 窓を開けると、夜の空気が入ってきた。四月の夜はまだ少し冷たい。

 スマホを閉じて、今年初めて、日付をまたがずに眠った。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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