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第48話:【新生】神の失脚、王都の静寂

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あらすじ

物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中― - 第48話:【新生】神の失脚、王都の静寂

本文

地下核を埋め尽くしていた黄金の旋律が止み、耳を劈くような静寂が戻ってきた。

 イグニスという狂信の巨像は分子レベルで解体され、彼の執念に塗り潰されていたマザー(母機)のインターフェースは、淡い翡翠色の「中立」を示す輝きを取り戻している。事象の強制書き換えに伴う不快な熱歪みは霧散し、地下空間には2000年前のクリーンルームのような、研ぎ澄まされた冷気だけが漂っていた。

「……終わった、のね」

 私は、震える足で一歩を踏み出し、倒れ伏したリュウガのもとへ駆け寄った。

 Admin権限の大部分を最後の一撃に焼き尽くした彼の瞳からは、超常的な黄金の燐光が消えている。そこにあるのは、2000年前から変わらぬ、一人の青年としての穏やかな黒い瞳だった。

「……ああ。……プログラムの束縛が、消えた。……寒いな。エリー、人間っていうのは、こんなに空気の冷たさを感じるものなのか?」

 リュウガ・アスカは、実体を取り戻した自身の血の通う手を不思議そうに見つめ、力なく笑った。世界を管理する力はもうない。自己修復ナノマシンによる強引な肉体維持(パッチ)さえも消え、ただ一人の、脆くて温かい「人間」として、彼はそこにいた。

「バカね……。それが, 生きるってことよ。……おかえり、リュウガ」

 私は彼を力一杯抱きしめた。鉄の匂い、油の匂い、誠に確かな鼓動。私の涙が彼の胸元に吸い込まれていく。

 リュウガは静かに私を抱きしめ返しながら、空いた手で宙に漂う八つの淡い光――パージされた聖騎士たちの魂(ログ)へと手をかざした。

 彼の掌から現れたのは、Admin権限で急造された八つの「高密度データ・ストレージ」。クリスタル状のその小瓶が、彷徨う光を一つずつ丁寧に吸い込んでいく。

「これを……。イグニスというバグから切り離した、彼らの純正なバックアップだ。これをお前の作る器に流し込めば、彼らは再び、アステリアの騎士として稼働できる」

「リュック、あんた……最後まで準備がいいわね」

「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \! 父様と母様が……物理的に密着しながら、愛の共同作業(ストレージ保存)をしてるお! これこそ最高に『てぇてぇ』瞬間だよぉぉぉおおおお!!」

「「「てぃてぃですわーーー!! 至高ですわーーーーー!!!」」」

 不意に、十女ボーンが自身の通信機能を全開にし、王都中の街頭モニターへこの光景をプッシュ通知で強制配信し始めた。

『王都の皆さん!! 緊急速報! 地獄は終わったよ! あとはこのバカップルを見守るだけだよ!』

「ちょ、ちょっとボーン! 何配信してるのよ!? あと、バカップルってなによ!!!」

 叫ぶ私に、長女チェロがひび割れた眼鏡を拭いながら微笑む。すると、待ちかねたようにオルガや三馬鹿たちが次々と私たちにダイブしてきた。11人の娘たちの愛情(物理的な質量)に押し潰され、リュウガが幸せそうな悲鳴を上げる。

「セフィラ……! おい、嘘だろ、セフィラ!!」

 地下に駆け込んできたヴォルフが、瓦礫の中に横たわる銀色の少女を見つけ、絶叫した。彼はボロボロになった彼女を抱き起こし、人目も憚らず号泣する。

「すまねぇ……俺たちが不甲斐ねぇばっかりに……! こんな小さな身体で、最期まで……!」

「ヴォルフ、泣かないで。セフィラはまだ、終わってないわ」

 私が静かに告げると、ヴォルフは涙に濡れた顔を上げた。

「……セフィラは、私たちのために自分のバッテリーを使い果たして、物理的に限界まで戦い抜いた。これは『死』じゃないわ。高出力駆動に伴う一時的なシステム・フリーズと、ハードウェアの損耗。これは技術者(わたし)への挑戦状よ」

 私は傍らに立つリディアを見た。リディアは動力の失われたドローンの残骸を足元で見つめ、複雑な表情を浮かべていた。

「……ねえ、リュウガ。Admin権限を焼き尽くしたってことは、この世界の『魔法』はどうなるの? 制御を失ったマナが、また暴走するんじゃないかしら」

 リュウガは実体化したばかりの身体を私の肩に預けながら、静かに首を振った。

「いいえ。魔法が『失われる』わけじゃない。マザーのOSが再起動し、アステリア近郊のマナ・プロトコルが更新されただけだ。……エリー、これからのこの国では、今まで通りの魔法も使えるが、より効率的な『魔道式(物理コマンド)』への移行が進むだろう」

「物理コマンド……?」

「マナへの指示の出し方が変わるだけだ。マナが安定すれば旧来の詠唱魔法も発動する。だが、ここ王都周辺では、俺たちが使ったような物理工学に基づく高効率な手法が主流になるだろう。……もっとも、それを行使できるのは魔法の適性を持つ『新人類』だけだがな。他国では、これまで通り古き良き『不完全な魔法』が使い続けられるはずだ」

 リディアはふんと鼻を鳴らし、少しだけ口角を上げた。

「……つまり、王都周辺は世界で最も『物理的に研ぎ澄まされた場所』になるってわけね。……技術者にとっては、これ以上ない最高の遊び場じゃない」

 リディアの瞳に知性の光が戻る。私は彼女の手を取り、力強く頷いた。

「そうよ、リディア、手伝ってくれる? アークの旧式な素体じゃ、セフィラの出力には耐えられない。貴女のロストテクノロジーに基づくコンパイラと、私のオートマタ技術……二つ合わせれば、最強の末っ子をリブートできるはずよ」

「……ふん、不器用なジャンク屋に貸しを作るのは癪だけど。……いいわ、あの子の『意地』には私も感動したしね。物理法則を再びハッキングできる、最高の身体を用意してあげましょう」

 セーラが、リュウガの持つストレージに収まった八つの光を見つめていた。

「リュウガ様。アルフレッドたち……彼らはその器の中で、眠り続けるのですか?」

 リュウガに代わり、私が前に出た。

「消い去るなんてさせないわ。……彼らの魂を宿す、新しい『器』も私が作る。シスターズのような共通素体じゃない。アステリアの守護者に相応しい、八人それぞれの個性を反映した、私にしか作れない最高のオートマタをね。……新生アステリアの騎士として再雇用してあげて。……彼らもきっと、今度は自分の意志でこの街を守りたいはずだから」

 セーラは目を見開き、やがて晴れやかな笑顔で頷いた。

「ええ。……教団の駒ではなく、私たちの誇りとして。……お願いします、エリー」

 王宮の上層では、摂政貴族たちが市民の手によって引きずり下ろされ、廃人と化した国王や教皇、およびギルベルト院長らは、歴史の闇へと消えていった。公爵家と工業区が手を取り合う、新しい時代の鼓動が聞こえ始めていた。

「Admin権限が消えて、自動の魔法は失われていくわ。……これからは大変よ?」

 私はリュウガの頬を、今度は優しく撫でた。

「ああ。……でも、不安はない。世界一の技術者(エリー)が隣にいるからな」

 ――とその時。再び地下核に、情緒もへったくれもない電子音が爆音で響き渡った。

『( ゚∀゚)ヒョウ! 今の台詞、全アステリアの記録媒体に保存完了だお! ボーンちゃん、あまりの「てぇてぇ」に回路がショートしそうだお! ヴィオラ姉さん、今の甘ったるい空気について、スナイパー視点での冷静な解説お願いしますだお!』

『……ええ。母様のあの潤んだ瞳の仰角15度、および父様の僅かに震える口角の引きつり具合……。計算によれば、これは理論上の「恋に落ちたバカ」の数値を300%上回っていますわ。非常に非合理的で、素晴らしいですわね』

『ボーン姉様、さらにこちらの秘匿データも公開すべきかと。……なんと、先ほどの精神世界ダイブ中、母様が叫んだ「アスカ、世界で一番大好き!」という音声ログの周波数、並びにその際の父様の脳内快楽物質(ドーパミン)の異常分泌グラフを全画面表示だお! どうぞ!』

「ちょ、ちょっとあんたたち!! 全部筒抜けじゃないのよ!! 消しなさい! 今すぐそのデータを物理削除しなさい!!」

「……はは。やっぱり俺たちの家族は、バグどころかノイズだらけだな」

 私は、赤面しながら騒ぎ立てる娘たちの声を背に、苦笑いするリュウガと共に、崩れかけた地下核から地上へと歩き出した。

 神の管理を離れ、自分たちの手で火を灯し、自分たちの足で歩む。

 バグだらけで、不自由で――それでも最高に騒がしく自由な、人間の時代の始まりだった。

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ざつ

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