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第130話:【修理・前】世界一の修理屋

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あらすじ

物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中― - 第130話:【修理・前】世界一の修理屋

本文

世界が、白くなっていく。

 名前が消える。顔が消える。声が消える。私の中から、何かが抜け落ちていく。

 ……誰? ここは、どこ?

 私は何をしていたんだっけ?

 手の中に、何かがある。冷たくて、硬くて、重い。

 あ、これは、スパナ。

 柄に傷がある。深い傷。いつかぶつけた。いつか……誰かと、一緒に。

 この傷は、データじゃない。物理的な凹み。ナノマシンでは消せない。消せない、記録。

 指が、傷をなぞった。

 ――あ。

 思い出した。

 この傷は、リュウガと初めて一緒に修理をしたとき。重い機材を二人で持ち上げて、スパナを落として、柄に傷がついて。リュウガが「不注意だ」って言って、私が「うるさい」って言い返して。

 リュウガ?

 そう、リュウガ。私の、旦那。

 私の最強の助手。

 霧が、裂けた。

 データは消せても、身体の痛みとこの手のマメは消せない!

「――私は、世界一の修理屋よ!」

 自分の頬をスパナで叩いた。痛い。痛みは物理。痛みはデータじゃない。痛みは消せない。

 視界が戻った。

 工房のコア。

 中央にガーディアン。そして――倒れているシスターズ。

 チェロが膝をついている。コルネが壁にもたれている。ボーンが床に突っ伏している。全員の目から光が消えかけている。記憶が、消されかけている。

 でも、身体はある。金属のフレームがある。関節がある。物理的な振動を伝える構造がある。

 データは消せても、身体は消せない。

 私は走った。チェロの肩を掴み、スパナの柄で胸部装甲を叩いた。正確に、振動が伝わる角度で。

「チェロ! あなたは長女! 委員長! みんなを仕切るのが生きがいの、うちの一番上!」

 振動がフレームを伝い、チェロのコアに届いた。チェロの目が、瞬いた。

「……母、様……?」

「次!」

 オルガの背中を叩いた。

「オルガ! 次女! 笑顔で怖いこと言う天然毒舌の慈愛の女神!」

「……あら……お母様……? 私、どこか壊れましたか……?」

 コルネの胸を叩いた。

「コルネ! 三女のボクっ子! 炎剣を振り回して、いつも前に出すぎて怒られる子!」

「……ボク、は……コルネ……」

 ルーテの腕を叩いた。振動だけ。言葉は短く。ルーテには、それでいい。

「ルーテ。四女。無口でめんどくさがり。でも料理だけは誰にも譲らない」

「……」

 ルーテが親指を立てた。目に光が戻っていた。

 ユーフィ。ヴィオラ。テューバ。ハープ。ボーン。オーボエ。

 一人ずつ、叩いた。一人ずつ、名前を呼んだ。一人ずつ、その子だけの言葉をぶつけた。

「ユーフィ! 五女のギャル! 『マジ?』が口癖の突撃娘!」

「ヴィオラ! 六女の悪役令嬢! 扇子を手放したら許さないわよ!」

「テューバ! 八女! 恥ずかしがりのくせに火力だけは誰より重い!」

「ハープ! 九女! 効率バカのアサシン! 非効率って最悪なんでしょ!?」

「ボーン! 十女! 声量がおかしい実況娘! ほら、叫びなさい!」

「……ボーンさん、復ッ活ァァァァァァッツ!」

「オーボエ! 十一女! 軍曹! みんなの声量を管理するのはあなたの仕事でしょ!」

「……ボーン、声量セーブして」

 オーボエが目を開けた瞬間に出た最初の言葉がそれで、私は泣きそうになった。

 10人。全員、目に光が戻った。

 その瞬間、ファーファが動いた。

 小さな妖精型端末が、記録用レンズを閉じ、通信アンテナを全開にした。

「ファーファより緊急通信! リディアさん、みんなやばいだお! でっかい敵が出て、ロールバックっていうのが止められないだお!」

 10キロメートル上。門の入口。リディアが通信を掴んだ。

『リディアよりカイルへ。至急応答』

 さらに上。廃都の外縁。カイルが応答した。

『カイルだ』

『デリート・ガーディアンって怪物が出現したみたい。火力ではなく射線が足りないみたい。今すぐハンドレッドスウォーム全機とクララを降ろして!』

『了解。――クララ、出番だ。バイクで門まで行け、ぶっ壊れるまで回せ。その先は走れ』

 キャラバンの格納庫が開いた。100機のドローンが一斉に浮上し、螺旋階段の入口へ向かった。

 クララがロングライフルを背負い、バイクに跨った。スロットルを限界まで捻る。時速200キロ。廃都の瓦礫の間を縫い、枯れた草を巻き上げ、30キロの荒野を9分で駆け抜ける。そこから地底まで10キロ。全力降下で6分。

 リディアの声がファーファ経由で工房に届いた。

『エリー、援軍を出したわよ! 到着まで15分。――何とか持ちこたえて!』

 15分。とてつもなく長い時間。

 だが、やるしかない。

 ガーディアンが回転を速めた。記憶消去が効かなくなったことを検知し、物理攻撃に切り替えている。光の刃が4方向に伸び、工房の壁を切り裂いた。

「近接じゃロールバックに追いつけない。射撃戦に切り替えるわよ!」

 チェロが叫ぶと同時にシスターズが一斉に武装を換えた。近接武器を腰に収め、射撃兵装を展開する。

 チェロがダブルガトリングを両腕に装着した。回転砲身が唸りを上げ、毎秒数百発のパルス弾がガーディアンに叩き込まれた。3,000メートル射程の弾幕が、工房の空間を青白い光で埋め尽くす。

「全員、散開して射線を分けろ! ロールバックは同時多方向で飽和させる!」

 オーボエが指揮を取った。

 コルネとユーフィが左右に展開し、ビームハンドガンを二丁抜いた。

「ボク、こういうのも悪くないね!」コルネが二丁拳銃で連射した。

「てかマジ楽しいんだけど!?」ユーフィが叫びながら引き金を引き続けた。

 ルーテとハープが無言でビームハンドガンを構え、二人の弾道が交差してガーディアンの同じ点に集中した。ヴィオラがロングライフルで回転軸を撃ち抜き、テューバのランチャーが正面に直撃して衝撃波が工房を揺らした。オルガとオーボエのパルスガンが中距離から面制圧をかける。

「ロールバック間隔、0.47秒!」

 オルガがビットの解析データを叫んだ。

「0.47秒! 了解ッ! ボーンさん的にはぜんっぜん余裕ですけどォ!」

「ボーン、集中。口より手を動かして」

「すごい……! すごいわ、あんたたち!」

 私はとにかく叫んでいた。

「最強よ! うちの子たちは最強!」

「母様、感動してないで撃ちなさいまし!」

 オーボエに怒鳴られた。

「え、私も!?」

「てかお母様、ハンドガンくらい撃てるっしょ!?」

 ユーフィが叫んだ。

 ピッコが工具箱からハンドガンを引っ張り出して私に投げた。

「エリー、適当でもいないよりマシだから!」

 適当でもいないよりマシ。……微妙にへこむ。

 でもとにかく撃った。撃ちまくった。

 両手で構え、だいたいの方向に引き金を引いた。弾は当たったり当たらなかったりした。

「……母様の射撃、感想を述べることを控えさせていただきますわ」

 ヴィオラがスコープから目を離さずに言った。

「うるさい! 気持ちで撃ってるのよ!」

「母様の射撃ィ! 命中率推定15パーセントォ! でも気合いは100パーセントですゥ!」

 ボーンの実況。それって褒められてるのかな?

 リュウガも腰からハンドガンを抜き、義手で支えて正確にガーディアンの亀裂を撃った。

「……お前は後ろにいろ」

「いやよ! 私も撃つの!」

「当たってないが?」

「当たってるわよ、たまに!」

 射撃戦は膠着していた。ロールバックの速度はわずかに落ちたが、亀裂は修復されていく。

「射線が足りないのよ……!」

 オルガが叫んだ。

「13方向じゃ処理の飽和に届かない! 最低でも同時50方向以上の着弾が必要!」

 そのとき、ガーディアンの動きが変わった。

 回転が止まった。多面体の表面から、触手状の光の腕が6本、伸びた。

「――戦術変更してきた!?」

 オーボエが眉間にしわを寄せる

 遠距離射撃で削られ続けることを嫌ったガーディアンが、物理接近攻撃に切り替えてきた。光の腕がチェロのガトリングの砲身を掴み、ねじ曲げた。

「「「チェロ姉!?」」」

 チェロがガトリングを捨て、後退した。だが2本目の腕が、援護に入ろうとしたコルネの胴を掴み、壁に叩きつけた。3本目がルーテを薙ぎ払い、4本目がボーンの脚を絡め取った。

「くっ……!」

 テューバがランチャーを構えたまま、5本目の腕の前に立ちはだかった。光の腕がテューバの肩装甲に食い込む。テューバが歯を食いしばって踏ん張った。

「テューバ!」

「……大丈夫……まだ、立てる……!」

 射撃戦の距離を潰された。6本の腕が工房中を暴れ、シスターズの射線が乱れていく。

「あと何分!?」

 私はファーファに叫んだ。

 リディアの声が返ってきた。

『あと2分! さっきクララが門を通過した! 2分だけ――』

 光の腕が、私の目の前に迫った。

 リュウガが私を突き飛ばし、義手で腕を受け止めた。金属が軋む音。

「15分持つと言ったな」リュウガが歯を食いしばった。

「あと2分だ。――全員で持ちこたえろ!!」

「持ちこたえるわよ! うちの子たちは最強なんだから!」

「母様、それ何回目!?」

 チェロが予備のパルスガンを抜きながら叫んだ。

「何回だって言うわよ!! うちの子たちは最強なの!!」

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ざつ

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