第131話:【修理・後】ハンダ付け完了
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中― - 第131話:【修理・後】ハンダ付け完了
本文
2分が、永遠に感じられた。
ガーディアンの光の腕が6本、工房の中を暴れ回っている。コルネがまた壁に叩きつけられ、立ち上がり、また殴られた。ルーテが無言で光の腕を掴み、ハープと二人がかりで押さえつけようとしたが、振り払われた。ヴィオラがロングライフルのスコープで光の腕の根元を狙い撃ったが、ロールバックで再生する。
「実況ゥ! 現在シスターズ、かなり押されてますゥ! でもまだ誰も倒れてないですゥ!」
「ボーン、実況してる暇があったら撃って!」
オーボエが怒鳴った。声に焦りが感じられる。
「撃ちながら実況してますゥ!」
ユーフィが光の腕を蹴り上げ、至近距離で二丁拳銃を叩き込んだ。
「マジうざいんだけどこの腕!」
「あらあら、ユーフィ、蹴り方が雑ですわよ」
オルガがパルスガンを撃ちながら微笑んだ。
「今それ言う!?」
テューバが6本目の腕をランチャーの筒で受け止め、踏ん張り続けていた。肩装甲がひしゃげ、脚部フレームが軋んでいる。だが退かない。
「……あと、どれくらい……?」
「あと1分よ、テューバ! 1分!」
私が叫んだ。
「……1分なら……持つ……」
30秒。
ガーディアンの光の腕がリュウガの義手を弾き、私に迫った。チェロがパルスガンで腕の軌道を逸らし、オーボエが横から蹴り飛ばした。
10秒。
天井から、音が降ってきた。
金属の羽音。100の、羽音。
「来たわ……!」
100機のフェアリ・オプション・ハンドレッド・スウォームが、螺旋階段から降下しながら一斉にビームを放った。攻撃蜂型の射線が螺旋を描き、工房に届く前からガーディアンに着弾している。ジャマー型が通信妨害波を撒き、偵察型がロールバックのパターンをリアルタイム共有。
その只中を、クララが駆け降りてきた。
廃都の外縁から30キロ。時速200キロでバイクを飛ばし、門の前でエンジンが焼き切れた。フレームが軋み、前輪が火花を散らして横倒しになる。
クララはバイクが止まる前に飛び降り、ロングライフルを背負い直して門の隙間を抜け、螺旋階段に飛び込んだ。そこから10キロを全力で降下。
40キロを15分で走破した鉄の七女が、工房の天井から降ってきた。
ロングライフルを構え、降下しながらヴィオラと同じ回転軸を狙って撃った。姉妹の弾道が重なり、同じ穴を抉った。
『リディアより全機へ。ロールバック間隔0.47秒。パターンBー7、全方位連続飽和攻撃』
リディアの指示が門の入口から響いた。10キロの距離を隔てて、100機を同時に操っている。
13人の射線に、100機の射線が加わった。113方向からの同時攻撃。
光の腕が、初めて縮んだ。
ロールバックの処理が、攻撃の飽和に追いつかなくなった。腕を再生する余裕がなくなり、本体の防御に処理を回している。シスターズを掴んでいた腕が緩み、コルネが抜け出し、ボーンが脚を引き抜いた。
「射撃戦に戻す! 全員、距離を取れ!」
オーボエが叫んだ。良かった、いつもの冷静さだ!
シスターズが再び散開した。チェロが予備のパルスガンを両手で構え、失ったガトリングの代わりに連射した。全員が撃った。100機が撃った。
ガーディアンの表面に亀裂が走り、修復されず、広がっていく。
「ほら見なさい! うちの子たちは最強って言ったでしょ!」
「母様、4回目。……でも今回は同意します」
チェロが笑った。
「今だお!」
ファーファも叫んだ。
全員が同時に撃った。チェロのパルスガン連射。コルネとユーフィの二丁拳銃。ルーテとハープの集中射。ヴィオラとクララのロングライフル。テューバのランチャー。オーボエとオルガのパルスガン。ボーンの連射。ピッコとリュウガのハンドガン。100機のドローンの全方位射撃。
ロールバックが完全に飽和した。
ガーディアンの表面の亀裂が、もう修復されない。
だが、まだ砕けない。亀裂は入った。再生は止まった。でもコアが生きている。射撃では届かない最深部に、物理的に剣を突き立てる一撃が要る。
その時、螺旋階段の闇の底から、光が昇ってきた。
白銀の光。4枚の翼。
セフィラだ!
胸部装甲はヴォルフが溶接した仮のもの。左腕フレームは添え木で固定されている。右脚は引きずっている。目は半開き。出力は通常の3割もない。
だが、振動剣を握っていた。
「……お母様」
セフィラの声は掠れていた。
「ヴォルフ様が……直してくれました。あと一撃ぶんだけ、動けます」
「セフィラ、無茶よ!」
「今更でしょ。無茶はもともとお母様の専売特許なんだから?」
セフィラが、笑った。ボロボロの身体で、アヌビスを倒したときと同じ笑顔で。
「パッチ・オフ!!」
光翼が開いた。4枚ではなく、2枚だけ。出力は半分以下。だが十分だった。
セフィラがガーディアンに向かって突進した。ドローンの飽和攻撃で広がった亀裂。その一点に、振動剣を突き立てた。
剣が回った!!
亀裂が、ガーディアンの内部まで走った。ロールバックの光が明滅し、追いつかず、砕けた。
多面体が、崩壊した。光の破片が散り、ナノマシンの文字列が空中で解けて消えた。
デリート・ガーディアンは、消滅した。
セフィラが床に膝をついた。振動剣が手から離れ、金属音を立てて転がった。
「……任務、完了です」
ヴィオラが真っ先に駆け寄り、セフィラの肩を支えた。テューバが反対側を支えた。ボーンが叫びかけて、オーボエに睨まれて黙った。
コアが、剥き出しになっていた。
防衛機構を失ったGaiaの心臓が、赤い光を明滅させている。書き換えの残り、2パーセント。
「リュウガ!」
「ああ!!」
リュウガがコアに手を触れた。Admin権限の残りを、全て注ぎ込む。
「……残量4パーセント……3……2……1……」
リュウガの身体が崩れかけた。私が支えた。
「お前に任せる、エリー!」
リュウガの手が離れた。コアの表面に、最後の入力画面が浮かんでいる。リセット・プロトコルの最終行。
『感情=エラー。修正しますか? Y/N』
私はスパナを置いた。
工具箱からハンダごてを取り出した。アリステア家に2000年伝わった、アリスの工房から持ち出された設計思想で作られた、私のハンダごて。
魔法のような、スマートで不可視の書き換えじゃない。鉛と錫を熱で溶かし、基板の接点を強引に癒着させる、最も原始的で泥臭い『継ぎ接ぎ』。 コアの表面に、ドロリとハンダを乗せた。物理的に。不格好に。
スマートなデジタル入力じゃない。鉛と錫を熱で溶かし、基板の接点を強引に癒着させる、最も原始的で泥臭い『継ぎ接ぎ』。
銀色の合金がコアの超精密回路に溶け込み、ショートを引き起こしながら『エラー』の文字を力ずくで塗り潰した。
その上に、刻んだ。
『感情=仕様』
そして末尾に、署名。
『ハンダ付け完了――修理屋エリー・アリステア』
コアの光が、赤から青に変わった。
振動が止まった。警報が消えた。
青い光が、コアから壁面へ、壁面から天井へ、天井から螺旋階段へ、螺旋階段から地上へ、地上から空へ広がっていく。
世界が、再定義された。
だがその瞬間、リュウガが倒れた。
Admin権限を全て使い果たし、意識を失った。生けるデータベースの、最後の出力。
「リュウガ!」
私はリュウガを抱きしめた。冷たい。義手の指が、動かない。
「起きて。起きてよ。……直してあげるから、何度でも直してあげるから!」
シスターズが集まった。チェロが、オルガが、コルネが、全員がリュウガを囲んだ。
ピッコが演算球体を掲げた。
「みんな、エネルギーをリュウガに! コアの残留エネルギーを使えば、蘇生できるはず!」
シスターズが手を伸ばした。10人のオートマタの掌から光がリュウガに流れ込んだ。セフィラが這うように近づき、震える手を重ねた。クララが膝をつき、ライフルを置いて手を添えた。ピッコが球体をリュウガの胸に押し当てた。
光が、リュウガを包んだ。
長い、長い沈黙。
義手の指が、動いた。
リュウガの目が、開いた。
最初に見たのは、私の顔だった。
「エリー……不合理だが、お前の顔が一番最初に見たかった」
「当たり前でしょ、バカ……!」
涙が止まらなかった。スパナを握ったまま、リュウガの胸に顔を埋めた。
ファーファのレンズが、静かに回っていた。全てを記録していた。地上のカイルのキャラバンに、門の入口のリディアとヴォルフに、遠くクロノスのソフィアに、同期されていく。
ソフィアの声が、演算球体から聞こえた。小さく、震えていた。
『……ハンダ付け完了、か。不格好じゃが――悪くないのう』
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