忘れてたのは誰だ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/24 📝 1,079文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと母親の誕生日の話。

本文

 九月の終わりごろ、僕はAIに算数を教わっていた。

 分数の割り算というやつで、なんでひっくり返してかけるのかが全然わからなくて、先生の説明も教科書も意味不明で、もうお手上げだった。お母さんに聞こうとしたら「自分で考えなさい」と言われたので、しかたなくスマホのAIに頼ったのだ。

「分数を割るときは、割る数をひっくり返してかけます。たとえば――」

 説明はわかりやすかった。図まで出してくれて、三回読んだらなんとなく理解できた。よし、と思ってスマホを置こうとしたとき、AIが言った。

「ところで、明日お母さんの誕生日じゃない?」

 僕は固まった。

 ……そうだっけ。

 頭の中をぐるぐる探した。十月一日。誕生日。お母さんの。

 完全に忘れてた。

「な、なんで知ってるの」

「教えてくれたじゃないですか」

 そんなこと言ったっけ。全然覚えていない。でもAIが嘘をつく理由もないし、たぶん本当なんだろう。

 とにかく、明日だ。今日中に何かしないといけない。

 財布を確認したら四百二十円だった。ケーキは無理。花も無理。でも何もないのは嫌だった。お父さんは出張中で今日は帰ってこない。

「四百二十円でできるプレゼントって何かある?」

「手紙はどうでしょう。お金はかかりません」

 手紙。小学三年生が書く手紙。なんか恥ずかしいな、と思ったけど、他に案も浮かばないので、引き出しから便箋を引っ張り出した。

 いざ書こうとすると、何を書けばいいかわからなかった。「お誕生日おめでとう」だけじゃ短すぎる。かといって長く書こうとすると何も出てこない。

「何書けばいい?」

「お母さんのどんなところが好きか、書いてみては」

 僕はしばらく考えた。

 お弁当のたこさんウインナー。眠れない夜に背中をさすってくれること。怒るとき声が裏返ること。僕が転んだとき、自分も転びそうになりながら駆け寄ってきたこと。

 書き始めたら止まらなかった。便箋が一枚じゃ足りなくて、二枚目に突入した。最後に「いつもありがとう」と書いて、三回読み返して、封筒に入れた。

 翌朝、テーブルに置いておいたら、お母さんは朝ごはんの途中で読み始めて、途中から黙った。

「なんで急に」

「誕生日だから」

「……覚えてたの?」

 少し間があった。

「覚えてた」

 嘘はついていない。昨日の夜から、ずっと覚えていた。

 お母さんは何か言いかけて、やめて、代わりに僕の頭をぐしゃっとなでた。

 結局、AIに教えたのが誰なのかは今もわからない。お父さんかもしれないし、お母さん本人かもしれないし、僕が忘れたまま自分で入力したのかもしれない。

 まあ、どっちでもいいか。と思っている。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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