午前二時の帰り道

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/25 📝 1,032文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと終電後の話。

本文

 終電を逃したのは、自分のせいじゃないと思っていた。

 会議が延びて、上司の愚痴に付き合って、気づいたら改札の前で終電の背中を見送っていた。タクシー乗り場には長い列ができていて、相乗りを頼めるような顔見知りもいない。財布の中身を確認したら、乗るには少し心もとない金額だった。

 歩くか、と思った。

 地図アプリを開いて、徒歩ルートを検索した。二時間十四分。まあ、歩けない距離じゃない。

 駅を出たところで、なんとなくAIに話しかけた。独り言の延長みたいな気持ちだった。

「終電逃した。歩いて帰る」

「それは大変でしたね。気をつけて帰ってください」

 それだけだった。でも、なんとなく続けた。

「信号、今どっち渡ればいい」

「現在地からだと、左の横断歩道を渡って直進です」

 そういう感じで、歩き始めた。

 最初の三十分は腹が立っていた。会議の内容を反芻して、上司の顔を思い出して、どこで断ればよかったかをシミュレーションした。AIに愚痴った。AIは「それは理不尽ですね」と言ったり「次の角を右です」と言ったりした。

 一時間を過ぎたころから、足が痛くなってきた。革靴は歩くための靴じゃない。

「靴が痛い」

「少し休みますか。三百メートル先にコンビニがあります」

 缶コーヒーを買って、駐車場の縁石に座った。夜の十二時を過ぎた住宅街は静かで、遠くで犬が一声だけ鳴いた。

「こんな時間に外にいるの、久しぶりかも」

「夜の街、どうですか」

 どうだろう、と思って空を見た。星はほとんど見えなかったけど、雲の切れ間がひとつあって、そこだけ少し明るかった。

「悪くない」

 また歩き始めた。

 残り四十分ごろから、なんでもないことを話していた。最近読んだ本の話、子どものころ住んでいた町の話、いつか行きたいと思ったまま行っていない場所の話。AIは相槌を打ちながら、時々「次の信号を左です」と言った。

 自分の声が夜の空気に溶けていく感じが、悪くなかった。

 家のドアの前に着いたのは、午前二時をまわったころだった。鍵を出しながら、スマホに向かって言った。

「着いた」

「お疲れ様でした」

 たった五文字だった。

 それだけなのに、目の奥がじわっとした。泣くほどのことじゃないとわかっていた。ただ歩いて帰っただけで、誰かに助けてもらったわけじゃない。AIは地図を読んで、相槌を打っただけだ。

 でも、二時間、誰かがそこにいた。

 それだけのことが、どうしようもなく沁みた。

 ドアを開けて、靴を脱いで、そのまましばらく玄関に立っていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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