──もしくは誰も知らない想像主の話─後
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
佐東仁美、五十歳。 いい歳のばばあ───仕事も家庭も、もうやり直せないと思っていた。 そんなある日。 目を覚ますと、見知らぬ、だけど“自分にひどく優しすぎる”場所にいた。 その優しさの奥に、ゆるやかに絡み合う別の景色── 剣も魔法も陰謀もない異世界。 静かな日常と、人との縁がすべてを動かす物語です。 恋愛もありますが、騒がしい恋ではありません。 多層的な視点で描く、 少し変わった異世界「恋愛」顛末譚。
本文
「それに、勢雄さんの、セイレンをテルルで見つけたって、なんなんです?」
ゲーム屋さんは、キョトンとしてる。
「あー、その…夢かなー」
勢雄さんは挙動不審だ。
「……そんな、二次創作な夢を勢雄さんが見られるとは思いませんでしたよ」
ゲーム屋さんは何の気なしに言ったんだろうけど、勢雄さんは泳がしていた目をあたしに向けた。
…んと…どうしようか?あ。
「志山さん、石。ブルーナくんには貰ったでしょ?川原の石」
「あー、貰ったねぇ…で…指輪貰うんだよね」
「あ、貰っちゃったんだ」
「え?割とすぐくれない?」
志山さんはホントに知らないようだ。
あたしは、ゲーム屋さんの顔を見た。
「指輪は貰うと、いくら周回してもアイテールとメルクリオス家の人は攻略できませんよ」
うんうん。あたしは正しかった、
「なんですって?!」
志山さん…「しぃー」て、人差し指を立てると、志山さんは、辺りを見回した。だから、
「指輪貰って他の人って、どんな倫理観ですか」
って、ちょっと意地悪してみる。
「…コレクション?」
…志山さーん、倫理!
「折角なので、そのデータは職人エンドコレクションしてください」
意地悪、続けるぞ?
「確かに山賊エンド見た時は、何?これは?とは思ったけど…」
「山賊…?指輪貰って?逆にすごいよ、志山さん。でも…」
流石に二の句が継げなくなって、ゲーム屋さんの顔を見たら、
「指輪貰ったら、そうですね。他の攻略は出来ない仕様です」
って、フォローしてくれた。ナイス。
「なんだ?最近のゲームって、そんなめんどくさいことになってるのか?」
いつの間にか会話に入ってなかった勢雄さんがコーヒーを持ってきてくれた…けど、志山さんから飲んじゃダメですよって速攻、怒られてる。
志山さんが立ち上がって、小さな紙コップを勢雄さんに渡す。
「これにしといてください」
って、なんか勢雄さんは不満気だけど、
「勢雄さん!ゴチになります」
「あー、飲め飲め。俺は水だけどな」
しかもこれだけ、って胃潰瘍って可哀想だな。
あたしはカフェ・オ・レを貰って、クリス様を眺めていた。
「女の子はハーレムより一人のヒトに大事にされたいって…」
ゲーム屋さんが、ぽつりと話し始める。
「選ばれるだけじゃなくて、選びたい。翻弄されるだけじゃなくて、自分で切り開きたいって…」
ゲーム屋さんは一所懸命、言葉を探してるみたい。
「誰が言ったんだ?」
「…派遣さん、なんです。このゲームのプロジェクトが立ち上がる前に、カスタマーサービスに来てた派遣さん…」
「アイデアだけ横取りしたの?」
あたしの口からぽろっと飛び出した。
なんか、素直に出ちゃった。
「違いますよ!彼女の言ったことはもっとふわっとしてて…想像の世界が別世界のトリガーになればとかなんとか…でも…結果的にそうなのかな…」
肩を落としてるゲーム屋さんに、志山さんが追い討ちをかける。
「で、その方は?」
「契約が切れて…退社しました。あ!社員登用に推薦はしたんですよ!!目の付け所が面白いし、何より真面目だし…でも…年齢が…ちょっと高齢だったんですよ…」
勢雄さんが、渋い顔してる。ステキ。だけど。
「年…って…仕事じゃなくてか」
ああ、仕事より年齢で線を引いたことに、苦渋を感じてるのか。
「ごめんね、若い子の前で言いたくないけど、意外と社会ってそういうもんなんだよ」
ゲーム屋さんがあたしを見て言った。
「世知辛い世の中ですものねー。で、その人って年齢だけがネックだったんですか?シャカイベンキョウに教えてくださいよ、もちろん個人を特定する気は無いですよ?」
勢雄さん、なぜ溜め息をつく?
「仕事は早くて、段取りが上手い。目の付け所も斜め上、で面白い人でしたよ。アメリカ人の研修が来たときも、頑なに日本語で話してました」
「外人さんが、日本語出来たの?」
「出来ません。でも通じてるんです。私は英語が得意なので、彼らの通訳をしていたんですけど、要らないくらい会話してました。英語はからきしなのに、筆記体が上手くて、そのアメリカ人に代筆を頼まれたりしてたみたいです」
「それで、ゲームでの共通語が筆記体なの?」
と、志山さん。あれ?そうだっけ?
「…公式設定ではないはずなんですけど…そうですよ?よく気付かれましたね」
志山さんは何だか考え込んでいて、ゲーム屋さんの声は聞こえていないみたいだ。
「そんだけ、非公式とはいえ屋台骨になってるなら出来たゲームを進呈くらいしてやったのか?」
勢雄さん…派遣さんの“年齢だけで”無碍にしたことを、気に食わないみたい。
「提案はしたんですよ?でも、携帯型ゲーム機は老眼で字が読めないから遠慮するって、さとうさん…」
志山さんが、はっとする。
ああ、やっぱりそうか。
あたしは、勢雄さんと目を合わせて頷く。
「懐かしいな…元気かなあ…」
ゲーム屋さんがしみじみ言った。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。