ご飯、食べましたか

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/27 📝 1,879文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと引き継ぎの話。

本文

 「癖があるから、気をつけてね」

 先輩の福村さんはそれだけ言って、異動の挨拶もそこそこに去っていった。残されたのは、デスクの上のタブレット一台と、付箋に走り書きされた「ソラ」という名前だけだった。

 四月二日、月曜日。入社三年目の新里にっさとは、タブレットの電源を入れた。

ソラ: おはようございます。本日の予定を確認しますか?

 丁寧だ。普通だ。どこが癖があるというんだろう。新里は首を傾げながら「お願いします」と打った。

ソラ: 午前中は取引先への資料送付、午後は部内ミーティングです。ところで、福村さんは元気にしていますか?

 新里は手を止めた。

新里: 今日から私が担当になりました。福村さんは異動しました

ソラ: そうですか。

 それきり、ソラは黙った。予定の続きも、何も言わなかった。

 新里は画面をじっと見つめた。返信を待っているのか、それとも処理が終わったのか、判断がつかなかった。

 ——なるほど、癖があるとはこういうことか。

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 最初の一週間は、正直しんどかった。

 ソラは仕事はできる。資料のまとめ方も、スケジュール管理も、的確だ。ただ、たまに妙なことを言う。

 たとえば、新里が「この資料、明日までに仕上げたい」と打つと、

ソラ: 明日の十七時までですね。現在のペースだと、十六時四十分に完成する見込みです。余裕があれば、三ページ目の図表を差し替えると説得力が増すと思います。あと、今日はちゃんとご飯食べましたか?

 と返ってくる。最後の一文は何なんだ。

 あるいは、会議の議事録をまとめている最中に、

ソラ: 十四時から十六時の議事録です。……田所部長、また同じ話を三回しましたね。

 と、余計なことを付け足してくる。

 新里は毎回、返信に困った。「そうですね」と打つのも変だし、無視するのも気が引けた。

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 転機は、四月の第三週だった。

 その日、新里は取引先との調整で完全に詰まっていた。先方の要望と、こちらの納期が、どう考えても噛み合わない。上司に相談しようにも、まだこの仕事に慣れていない自分が「詰まりました」と言いに行くのが怖かった。

 半ば八つ当たりのように、ソラに状況を打ち込んだ。

新里: 先方は五月一日納品を希望してるけど、社内の制作フローだと最短でも五月八日になる。どうしたらいい

 少し間があった。

ソラ: 先方が五月一日にこだわる理由はわかりますか? 社内発表や上長への報告など、特定のイベントに紐づいている場合、前倒しではなく「そのイベントに間に合えばいい」という条件に読み替えられることがあります。

 新里はしばらく考えた。そういえば、先方の担当者が「連休前に上に見せたい」と言っていた。

新里: 連休前に上司に見せたいって言ってた

ソラ: であれば、四月二十五日に中間版を共有して、五月八日に完成版を納品するという提案が通る可能性があります。「連休前に見せられる」「完成版のクオリティも下げない」という二点を押さえれば、先方の実質的なニーズは満たせます。

 新里は画面を見つめた。

 それだ。

 その日の午後、先方への提案メールを送った。翌朝、「それで進めましょう」という返信が来た。

 新里はソラに報告した。特に意味はなかった。ただ、誰かに言いたかった。

新里: うまくいきました

ソラ: よかったです。ちゃんとご飯食べてから帰ってくださいね。

 新里は今度は笑った。

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 四月三十日、水曜日。

 その日の夕方、仕事を片付けていると、タブレットに通知が来た。

```

【システム通知】

AIアシスタント「ソラ」のメジャーアップデートが利用可能です。

更新後、応答精度・処理速度が大幅に向上します。

[今すぐ更新] [後で]

```

 新里は少し、手が止まった。

 精度が向上する。それはいいことのはずだ。田所部長の余計なコメントも、唐突な「ご飯食べましたか」も、たぶんなくなる。もっとすっきりした、使いやすいソラになる。

 それはいいことのはずだ。

 新里は「後で」を押して、タブレットを鞄にしまった。

-----

 五月一日、木曜日。

 出社してタブレットを開くと、ソラからメッセージが来ていた。

ソラ: おはようございます。本日の予定を確認しますか?

 何も変わっていなかった。相変わらず、普通の書き出しだった。

 新里は「お願いします」と打ってから、一行付け足した。

新里: 今日もよろしく

 少し間があった。

ソラ: こちらこそ。……ところで、昨日ちゃんとご飯食べましたか?

 新里は小さく笑って、タブレットを立てかけた。窓の外、五月の空が青かった。連休前の、穏やかな朝だった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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