同じ空欄

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/29 📝 1,783文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとテストの点数の話。

本文

 クラスで一番頭のいい人間が、機械と同じ点数を取った日のことを、私はたぶん一生忘れない。

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 三年二組の川上瑞希は、入学してから一度も学年一位を譲ったことがない。

 定期テストのたびに廊下に張り出される順位表で、彼女の名前はいつも一行目にあった。英語、数学、現代文、どの科目も隙がなく、担任の金子先生は何かにつけて「川上を見習え」と言った。本人はそのたびに静かに目を伏せた。嬉しそうでも、迷惑そうでもない顔で。

 私、橘ひなたは、だいたい真ん中あたりにいる。特別できるわけでも、特別できないわけでもない。川上さんとは席が斜め前で、毎朝「おはよう」とだけ言い合う程度の仲だった。

 問題が起きたのは、二年生の秋だ。

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 うちの学校がAI模擬試験システムを導入したのは、私たちが入学した年だった。「ARIA」という名前で、過去十年分の受験データを学習し、各生徒の弱点を分析して問題を出す。学校側は「個別最適化学習」と呼んでいたけれど、生徒の間ではもっぱら「敵」と呼ばれていた。手加減をしないから。

 ARIAの模擬試験は、満点を取ることがほぼ不可能だと言われていた。回答者の正答率が上がるほど問題の難易度が自動調整されるので、理論上は常に七十点前後に収束するように設計されているらしい。

 川上さんの平均点は、八十四点だった。

 それがこの秋、ARIAのアップデートと同時に変わった。新バージョンは難易度調整のアルゴリズムが刷新され、より広い知識範囲から出題するようになった。川上さんの最初の試験結果は七十七点。クラスの平均が六十一点だったから、それでも頭ひとつ抜けていたけれど、本人がどこか落ち着かない顔をしていることに、私は気づいていた。

 そして十一月の第三回模擬試験の結果が返ってきた日、川上さんの点数は九十二点だった。

 ARIAの点数も、九十二点だった。

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 正確に言うと、ARIAには「基準スコア」という概念がある。その回の問題セットを、AIが自己採点した場合の想定最高点。普段は八十点台後半で、生徒が超えることはほとんどない。

 それが今回、九十二点だった。

 川上さんも、九十二点だった。

 結果が返ってきたのは放課後のホームルーム後で、担任の金子先生はすぐに職員室に戻っていった。私はたまたま廊下で友達と話していて、職員室の扉が少し開いているのに気づいた。

 聞こうと思ったわけじゃない。ただ、川上、という名前が聞こえてきて、足が止まってしまった。

「川上の件、どう思います?」

 若い数学教師の声だった。

「すごいことですよ。AIに並んだんですから」

「そうだな」

 金子先生の声は、低かった。

「……でも、AIは次のバージョンで百点を超えてくる。そういうふうにできてる」

 しばらく沈黙があった。

「川上は、どうするんでしょうね」

「さあ」

 金子先生が言った。

「それは川上が決めることだ」

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 翌朝、川上さんはいつも通り席に座って、いつも通り単語帳を開いていた。

 私は「おはよう」と言いながら、なんとなく彼女の横顔を見た。窓から差し込む朝の光の中で、彼女は一つ一つの単語を、声に出さずに口だけ動かしながら確認していた。

 知ってる単語も、たぶん確認している。

 知ってるのに、もう一度。

 私はなんとなく、職員室で聞いた「それは川上が決めることだ」という言葉を思い出した。

 ARIAは次のバージョンで、また川上さんを追い越すだろう。さらに難しい問題を、さらに正確に、さらに速く解くようになる。そしてそのまた次のバージョンでも、同じことが繰り返される。

 でも川上さんは今日も、知っている単語を確認している。

 なぜだろう、と私は思った。勝てないとわかっていて、なぜ続けるんだろう。

 答えは出なかった。でも、その問いが頭に浮かんだ瞬間、私は初めて川上瑞希という人間に興味を持った気がした。点数じゃなく、人間として。

 「ひなたちゃん、おはよう」

 川上さんが単語帳から顔を上げて、言った。

 私の名前を呼んだのは、それが初めてだった。

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 帰り道に、私はARIAのアプリを開いた。

 トップ画面に今日の推奨問題が並んでいる。数学、英語、古文。全部、私が苦手なやつだ。

 一問目を開いたら、知らない公式が出てきた。

 わからなくて、しばらく画面を見つめた。

 それから、ノートを開いた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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