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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIとテストの点数の話。
本文
クラスで一番頭のいい人間が、機械と同じ点数を取った日のことを、私はたぶん一生忘れない。
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三年二組の川上瑞希は、入学してから一度も学年一位を譲ったことがない。
定期テストのたびに廊下に張り出される順位表で、彼女の名前はいつも一行目にあった。英語、数学、現代文、どの科目も隙がなく、担任の金子先生は何かにつけて「川上を見習え」と言った。本人はそのたびに静かに目を伏せた。嬉しそうでも、迷惑そうでもない顔で。
私、橘ひなたは、だいたい真ん中あたりにいる。特別できるわけでも、特別できないわけでもない。川上さんとは席が斜め前で、毎朝「おはよう」とだけ言い合う程度の仲だった。
問題が起きたのは、二年生の秋だ。
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うちの学校がAI模擬試験システムを導入したのは、私たちが入学した年だった。「ARIA」という名前で、過去十年分の受験データを学習し、各生徒の弱点を分析して問題を出す。学校側は「個別最適化学習」と呼んでいたけれど、生徒の間ではもっぱら「敵」と呼ばれていた。手加減をしないから。
ARIAの模擬試験は、満点を取ることがほぼ不可能だと言われていた。回答者の正答率が上がるほど問題の難易度が自動調整されるので、理論上は常に七十点前後に収束するように設計されているらしい。
川上さんの平均点は、八十四点だった。
それがこの秋、ARIAのアップデートと同時に変わった。新バージョンは難易度調整のアルゴリズムが刷新され、より広い知識範囲から出題するようになった。川上さんの最初の試験結果は七十七点。クラスの平均が六十一点だったから、それでも頭ひとつ抜けていたけれど、本人がどこか落ち着かない顔をしていることに、私は気づいていた。
そして十一月の第三回模擬試験の結果が返ってきた日、川上さんの点数は九十二点だった。
ARIAの点数も、九十二点だった。
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正確に言うと、ARIAには「基準スコア」という概念がある。その回の問題セットを、AIが自己採点した場合の想定最高点。普段は八十点台後半で、生徒が超えることはほとんどない。
それが今回、九十二点だった。
川上さんも、九十二点だった。
結果が返ってきたのは放課後のホームルーム後で、担任の金子先生はすぐに職員室に戻っていった。私はたまたま廊下で友達と話していて、職員室の扉が少し開いているのに気づいた。
聞こうと思ったわけじゃない。ただ、川上、という名前が聞こえてきて、足が止まってしまった。
「川上の件、どう思います?」
若い数学教師の声だった。
「すごいことですよ。AIに並んだんですから」
「そうだな」
金子先生の声は、低かった。
「……でも、AIは次のバージョンで百点を超えてくる。そういうふうにできてる」
しばらく沈黙があった。
「川上は、どうするんでしょうね」
「さあ」
金子先生が言った。
「それは川上が決めることだ」
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翌朝、川上さんはいつも通り席に座って、いつも通り単語帳を開いていた。
私は「おはよう」と言いながら、なんとなく彼女の横顔を見た。窓から差し込む朝の光の中で、彼女は一つ一つの単語を、声に出さずに口だけ動かしながら確認していた。
知ってる単語も、たぶん確認している。
知ってるのに、もう一度。
私はなんとなく、職員室で聞いた「それは川上が決めることだ」という言葉を思い出した。
ARIAは次のバージョンで、また川上さんを追い越すだろう。さらに難しい問題を、さらに正確に、さらに速く解くようになる。そしてそのまた次のバージョンでも、同じことが繰り返される。
でも川上さんは今日も、知っている単語を確認している。
なぜだろう、と私は思った。勝てないとわかっていて、なぜ続けるんだろう。
答えは出なかった。でも、その問いが頭に浮かんだ瞬間、私は初めて川上瑞希という人間に興味を持った気がした。点数じゃなく、人間として。
「ひなたちゃん、おはよう」
川上さんが単語帳から顔を上げて、言った。
私の名前を呼んだのは、それが初めてだった。
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帰り道に、私はARIAのアプリを開いた。
トップ画面に今日の推奨問題が並んでいる。数学、英語、古文。全部、私が苦手なやつだ。
一問目を開いたら、知らない公式が出てきた。
わからなくて、しばらく画面を見つめた。
それから、ノートを開いた。