ベンチの景色

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/4/30 📝 1,761文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと補欠の話。

本文

 俺はたぶん、このチームで一番バスケが下手だ。

 少なくともAIはそう言っている。

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 今年の春から、うちの部はSPORTS AIという分析システムを導入した。練習中のカメラ映像を解析して、各選手のシュート成功率、ドリブルの判断速度、ディフェンスのポジショニング精度を数値化してくれる。監督の大石先生は「感覚じゃなくデータで選ぶ」と言い、レギュラーの選考基準は一気に透明になった。

 俺、二年の宮本涼は、総合スコア61点。チームの平均は74点。レギュラーの下限は72点で、俺はそこから十一点も離れている。

 補欠だ。数字で見ても、感覚で見ても、どう見ても補欠だ。

 なのになぜか、キャプテンの黒沢はことあるごとに俺を呼ぶ。

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 最初に気づいたのは、六月の練習試合の前日だった。

「宮本、ちょっといいか」

 黒沢に呼ばれて更衣室に残ったのは、部員が引き上げた後だった。黒沢は背が高くて、SPORTS AIの総合スコアは91点。どこからどう見てもエースだ。

「明日の相手、どう思う?」

 俺は少し面食らった。

「データ、見たけど」と俺は言った。「三番の選手、左に切れ込む癖がある。スコアには出てないけど、映像で何度も確認した」

「やっぱりそう思うか」黒沢は頷いた。「俺も気になってた」

 それだけだった。黒沢は「ありがとな」と言って先に出ていった。

 翌日の試合で、黒沢は三番の選手の左側を徹底的に塞いだ。うちが七点差で勝った。

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 夏になると、黒沢が俺を呼ぶ頻度は上がった。

 相手チームの映像を一緒に見ることもあったし、練習メニューについて意見を求められることもあった。最初は戸惑ったけれど、だんだんわかってきた。黒沢は俺に、データの話をしたいわけじゃない。

 データの外側にある話をしたいんだ。

 SPORTS AIは数字を出すのが仕事で、「なぜこの選手はここでパスを選ぶのか」とか「この場面で無理にシュートに行く心理はなにか」とか、そういうことは教えてくれない。黒沢はそっちが知りたかった。

 俺がなぜそれを考えるのか、自分でもよくわからない。ただ、ベンチから試合を見ていると、コートの中にいる人間がよく見える。体の動きだけじゃなく、迷いとか、焦りとか、そういうものが。出ていないから、見えるのかもしれない。

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 九月の新人戦の前、黒沢がまた俺を呼んだ。

「宮本、一個聞いていいか」

「なに」

「お前、なんでまだバスケやってんの」

 俺は少し考えた。

「下手なのに、っていう意味?」

「そういう意味じゃない」黒沢は頭を掻いた。「AIのスコア、毎週更新されるじゃないか。お前のスコア、上がってないだろ。本人が一番わかってると思って」

 そうだ。六月から三ヶ月経って、俺のスコアは62点になった。一点しか上がっていない。

「やめようと思ったことはある」と俺は正直に言った。「でも」

 言葉が出なくて、少し止まった。

「ベンチから見える景色が、好きなんだと思う」

 黒沢は黙って聞いていた。

「コートの中にいると、自分のことしか考えられない。でもベンチにいると、全部見える。お前が迷ってるときも、相手が疲れてきてるときも。それが……なんか、楽しい」

 我ながら変な話だと思った。試合に出たくないわけじゃない。ただ、ベンチにいることで見えているものが確かにある。

「そっか」黒沢は言った。「新人戦、頼むな」

 何を頼まれたのか、具体的には言わなかった。でも俺にはわかった。

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 新人戦の当日、俺はいつも通りベンチにいた。

 第三クォーター、黒沢が二つ目のファウルをもらって、ベンチに下がってきた。俺は隣に座った黒沢に、小声で言った。

「相手の七番、左足の踏み込みが弱くなってる。さっき着地で少しよろけた。攻めるなら今だ」

 黒沢は頷いた。

 第四クォーター、黒沢がコートに戻って最初のプレーで、七番のマークを剥がして得点した。その後も七番は精彩を欠いたまま、うちが逆転した。

 試合終了のブザーが鳴った瞬間、黒沢がこっちを振り向いた。

 何も言わなかった。ただ、頷いた。

 俺も頷いた。

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 帰り道、SPORTS AIのアプリを開いたら、今週のスコアが更新されていた。

 62点のままだった。

 俺はアプリを閉じて、空を見上げた。

 秋の空は高くて、どこまでも続いていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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