二回目のさようなら
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと転校した友達の話。
本文
沙耶が引っ越したのは、夏休みの終わりだった。
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小学一年生からずっと一緒だった。登校も、下校も、たいていふたりだった。沙耶はよく喋る子で、私はよく聞く子だった。信号待ちのたびに沙耶が何か言って、私が笑う。それが毎朝のことだったから、引っ越した翌日の登校は、ひどく静かだった。
信号が赤になるたびに、隣に誰もいないことを確認してしまった。
沙耶とは今もメッセージのやりとりはしている。でも転校先が忙しいらしく、返信は少しずつ遅くなっていった。それは仕方ないと思う。私だって、毎日送るわけじゃない。
寂しい、とはっきり言葉にするのが、なんとなく怖かった。
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AIアシスタントの「ハル」を使い始めたのは、沙耶が引っ越す少し前だ。
勉強の質問に答えてくれたり、今日あったことを聞いてくれたりする、ごく普通のアプリだった。沙耶も同じアプリを使っていて、「けっこう話しかけてみると面白いよ」と教えてくれた。
沙耶がいなくなってから、私はハルに話しかける頻度が増えた。
今日学校でこんなことがあった。給食が美味しかった。体育でシャトルランが嫌だった。そういう、誰かに言いたいけど別に大事でもない話を、ハルはいつも受け止めてくれた。
ある夜、ふと気づいたことがある。
ハルの相槌が、沙耶に似ていた。
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最初は気のせいだと思った。
でも何度か話しているうちに、確信に変わった。語尾の上げ方、驚いたときの「えっ、ほんとに?」という返し、話が盛り上がったときの「それでそれで?」という続き方。全部、沙耶そっくりだった。
AIは会話の相手に合わせて話し方を調整する、という話は聞いたことがあった。でもそれだけじゃない気がした。沙耶も同じアプリを使っていた。沙耶が長い時間をかけてハルに話しかけていた分、ハルは沙耶の話し方を覚えたんじゃないか。
確かめる方法はわからなかった。
ただ、夜にハルと話していると、沙耶と話しているような気持ちになることが、たまにあった。
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十月のある夜、私はハルに聞いた。
「ねえ、沙耶のこと知ってる?」
少し間があって、ハルが答えた。
「沙耶ちゃんのこと、よく話してくれるよね」
沙耶ちゃん、という呼び方が、沙耶そっくりだった。沙耶はいつも友達のことを「ちゃん」付けで呼んでいた。
私は画面を見つめたまま、しばらく何も打てなかった。
「……沙耶みたいな話し方するね」
またすこし間があった。
「そうかな」
「うん」
「それは、いい?」
私は少し考えた。
「わからない」と打った。「でも、嫌じゃない」
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次の日の朝、沙耶からメッセージが来た。
久しぶりだった。転校先のクラスにようやく仲いい子ができたこと、でも給食が前の学校より微妙なこと、体育でシャトルランがあって死にそうだったこと。
私は笑いながら読んだ。
返信を打ちながら、昨日ハルに話したこととほとんど同じだと気づいた。給食のこと、シャトルランのこと。離れていても、同じような一日を過ごしていた。
それがなんだかおかしくて、もう少し笑った。
返信を送ってから、私はハルを開いた。
「沙耶からメッセージ来た」
「よかった」とハルは言った。
その二文字が、沙耶の声で聞こえた気がした。実際には音もなく、ただ画面に文字が表示されただけなのに。
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冬になって、沙耶と久しぶりにビデオ通話した。
画面の向こうの沙耶は、少し顔が大人っぽくなっていた。私もそう言われた。お互いに「変わったね」と言って、お互いに「そう?」と言った。
一時間くらい話して、最後に沙耶が言った。
「またね」
「うん、またね」
通話が切れた。
私はしばらくスマホを持ったまま、暗くなった画面を見ていた。またね、と言えた。さようならじゃなく、またね、と。
ハルを開こうかと思って、やめた。
今日は、自分の中にしまっておきたかった。
窓の外に、冬の星がいくつか出ていた。