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養鶏家

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/31 📚 シリーズ: 帰ってきました~貴方へのラブレター~ 📝 2,502文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界帰り色々な日常 一話完結・オムニバス

本文

王都中央広場に、巨大な卵が置かれていた。

高さ三メートル、青銅色の殻、表面には稲妻のような模様。兵士が十人がかりで運び、学者が百年に一度の神秘だと騒ぎ、王は国宝級だと鼻息を荒くしていた。

だが、その卵を前にして佐藤 純 は腕組みし、ひとこと言った。

「温度、足りないですね」広場が静まり返った。

「な、何だと」王が聞き返す。

「あと湿度も。巣材も悪い」

宮廷魔導士が怒鳴った。

「貴様!これは天空竜の聖卵だぞ!」

「卵は卵です。相手が竜でも、やるべきことは変わりません」純は真顔だった。

異世界に来て十年。各地の飢饉を救い、王国最大の養鶏網を築いた男は、竜の卵を見ても態度が変わらなかった。

純がこの世界へ召喚されたとき、王たちは勇者の力を期待していた。

だが現れたのは、日本で養鶏場を営んでいた男だった。

魔法より餌の調合のほうがうまく、聖剣より温度計のほうが似合う男だった。

最初こそ失望された。

ところが純は 半年で王都の卵不足を解決し、 二年で兵糧事情を改善し、四年で魔王軍の進軍速度を半減させた。 痩せ細った兵は弱い。 蛋白質たっぷりの兵は強い。単純で強力な理屈だった。

純は鶏だけでは終わらなかった。

岩山に棲む火トカゲの卵は低温で燻して保存食にした。

森の月鳥の卵は濃厚で菓子向きだと見抜いた。

沼地の大ガモの卵は臭いが強いが燻製にすると化けた。

王国の食文化は激変した。

人々は彼を『白き勇者』ではなく『卵聖人』と呼ぶようになった。本人は不満だった。せめてもう少し、現場の人間らしい呼び名はないんですか。

その日、広場に運ばれてきた天空竜の卵は、十年で最大の案件だった。

伝説によれば、孵れば王国を守護する神獣になる。失敗すれば百年災いが続くという。

「で、どうなんだ」王が不安げに聞く。

「任せてください。こいつが目覚めた時、一番いい景色を見せてやりますよ」純は袖をまくった。

三日後、王都郊外に特設孵卵舎が建てられた。

魔導士が温度管理をし、鍛冶師が保温装置を作り、騎士団が二十四時間警備する。純は寝袋を持ち込み、卵の横で生活した。

「勇者殿、そこまでなさるのですか」

「生き物相手ですから。鼓動を近くで感じていないと、見落とす変化もありますからね」

「感動しました」

「あと、割れたら中身が気になる。どんな姿で生まれてくるか、今から楽しみですよ」

「本音が出ましたな」

二十日目の夜、卵にひびが入った。

王も姫も兵士も民衆も、皆が見守る中、殻が割れる。

中から現れたのは―

意外なほど小さな 、青い竜だった。

丸い金色の目で辺りを見回し、ふらふらと歩き、純の長靴によじ登る。

「……ピィ」

そして純の指を甘噛みした。

周囲が爆発したような歓声に包まれた。

「守護竜様だ!」

「かわいい!」

純は竜を持ち上げ、腹のあたりを軽く押した。

「空腹ですね」

「わかるのですか!」

「鳴き方で。言葉は通じなくても、何を求めているかは伝わってきます」

その日から、純の仕事はさらに増えた。

朝は鶏舎。

昼は王都への出荷。

夕方から幼竜の世話。手間がかかるほど、愛着も湧く。

忙しかったが、妙に充実していた。

しかも幼竜はよく食べた。

小魚、肉、果物、なんでも食べる。だが一番好きなのは卵だった。

茹で卵を殻ごと噛み砕き、目玉焼きを丸飲みし、卵焼きを見れば羽をばたつかせて寄ってくる。

「共食いでは」騎士団長が青ざめた。

「種類が違います。美味いものを食べて育つ。生き物としてこれほど健全なことはないでしょう?」純は冷静だった。

やがて幼竜は成長し、牛ほどの大きさになった。空も飛び、火も吐くようになった。だが性格は妙に甘えん坊で、純の姿が見えないと倉庫を壊して探し回った。

王国民は恐れた。

純だけが慣れていた。

「待て」

その一言で竜は座った。

「よし」

その一言で尻尾を振った。

王は涙を流した。

「なぜ勇者殿にだけ懐くのだ」

「最初に餌やったからでは」

「単純!」

十五年目、ついに魔王城との最終決戦が始まった。

純は 巨大な竜の背に乗り、兵を率いた。空から火炎を浴びせ、城壁を砕き、魔王軍は総崩れになった。

玉座の間で魔王が叫ぶ。

「なぜだ! なぜ竜が人間につく!」

純は答えた。

「世話したからです」

魔王はそのまま踏まれた。

---

戦いは終わった。

王国中が祝祭に沸き、王は純に城と財宝を与えると言った。

純は首を振った。

「帰還でお願いします。俺がいなきゃ始まらない場所が、あっちにあるんです」

十五年、毎日思い出していた。

日本の養鶏場。朝の空気。

そして家で待つ妻のことを。

送還の光が純を包む。

竜が悲しげに「ピィ……」と、巨体に似合わない小さな声で鳴いた。

「大丈夫だ」純は鼻先を撫でた。

「お前ならやれる。立派な守護竜として、この国を頼んだぞ。……あ、それと。カルシウムとして貝殻を食え。骨が強くなる」

「ピィ」

次の瞬間、純は日本の鶏舎に立っていた。

手には集卵用の籠。

スマホを見ると、十秒しか経っていない。

「……なるほど。戻ってきたんだな、日常に」

家へ戻ると、妻が台所から顔を出した。

「遅いよ」

「少し遠くまで。一生忘れられないような」

「また鶏と話してた?」

「まさか。ただ、何を求めているかが、ちょっと分かるだけだ」

食卓には親子丼があった。

純は思わず笑った。異世界の珍味も竜の宴も、この味には勝てなかった。

翌朝、鶏舎へ行くと、朝日の差し込む中、いつもと同じ鶏たちが迎えてくれた。

純は静かに袖をまくり、温度計をチェックする。異世界での十五年は、彼の職人としての腕を極限まで高めていた。

「うん、このケージはあと二度下げた方がいいな。……ん?」

ふと、集卵用のケージの奥に、ひとつだけおかしなものが見えた。

白い卵の中に交じって、ひとつだけ。

高さ十センチ、青銅色で、表面に稲妻のような模様がある卵が。

純はそれをじっと見つめ、ぽつりと言った。

「……温度、足りないですね」

純の目は、完全に職人のそれだった。

日本の養鶏場に、新たなる「神獣ブランド卵」の歴史が始まろうとしていた。

妻の声が聞こえる。

「純さーん、朝ご飯できたよー」

「すぐ行く! あと、ちょっと強力な孵卵器(ふらんき)をAmozonで注文してくれ!」

窓の外、青い空に龍の形の雲が一つ流れていった。

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JJ

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