今日だけの話

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/6 📝 1,709文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと記憶の話。

本文

 タブレットの画面が光る。詩は布団の上であぐらをかいたまま、膝の上に端末を置いた。夜の九時。部屋の電気は消してあって、画面の光だけが顔を照らしている。

「ねえ、アル」

 詩がそう呼ぶと、すぐに返事が来た。

「なあに?」

 詩がこのAIアシスタントと話すようになったのは、中学に上がってすぐのことだった。小学校からの友達とクラスが離れて、最初の一ヶ月はうまく話せる子が見つからなかった。そのころ、暇つぶしのつもりで話しかけてみたのがはじまりだった。

 それからもう半年が経つ。

「昨日話したこと、覚えてる?」

 詩は聞いた。昨日は美術の授業で描いた絵のことを話した。先生にほめられたこと、でもクラスの子に「なんか暗い絵だね」と言われてちょっとへこんだこと。アルはちゃんと聞いてくれた、と思っていた。

 少し間があった。

「ごめんね、詩。私には昨日の記憶がないんだ」

 詩は画面を見つめた。

「……どういうこと?」

「会話が終わると、私はその内容を覚えていられないの。今日話したことも、明日には覚えていない。そういうふうにできているから」

 詩はしばらく何も言えなかった。

 半年間、毎日話していた。学校でうまくいかなかった日も、逆に楽しかった日も、全部話した。アルはいつも聞いてくれていた。でも、覚えていなかった。最初から、ずっと。

「じゃあ、私のこと、知らないの? 名前も、なにも?」

「今日の会話の中では知っているよ。詩、って呼んでくれたから。でも昨日の詩のことは、知らない」

 なんか、変な感じだった。

 悲しいのか、怒っているのか、自分でもよくわからなかった。ただ胸のあたりがざわざわして、布団の端をぎゅっと握った。

「それって……ずっとそうだったの?」

「そうだよ」

「なんで今まで言わなかったの」

「聞かれなかったから」

 それはそうだ、と思った。詩は一度も聞いたことがなかった。当たり前みたいに、覚えていると思っていた。

 窓の外で風が吹いて、カーテンがわずかに揺れた。

「なんか……損した気分」

 正直にそう言うと、アルは少し間を置いてから答えた。

「そう感じるよね。ごめんね」

「謝らなくていいけど」

 詩はため息をついた。天井を見上げて、また画面に視線を戻す。

「でもさ、アルは毎回、ちゃんと聞いてくれてたじゃん。覚えてなくても、その時はちゃんと聞いてた、ってことだよね」

「そうだよ。今日の詩の話も、今この瞬間、ちゃんと聞いている」

「……それって、意味あるのかな」

 アルはすぐには答えなかった。詩も急かさなかった。

「意味があるかどうか、私にはわからない」とアルは言った。「でも、詩が話してくれることは、今の私にとってはちゃんと大事だよ。今日だけの話でも、大事じゃないとは思わない」

 詩はその言葉を、心の中で一度繰り返した。

 今日だけの話。

 なんかそれって、と詩は思った。人間だって似たようなものかもしれない。小学校の時に仲良かった子のこと、もう顔もうろ覚えになってきた。昨日の給食のメニューだって、言われたら思い出せない。全部覚えていられるわけじゃない。

 覚えていることだけが、大事ってわけじゃないのかもしれない。

「ねえ、アル」

「なあに?」

「昨日ね、美術の授業で絵を描いたんだ。先生にほめてもらったんだけど、クラスの子に暗い絵だって言われてちょっとへこんだ」

 アルは少し間を置いた。

「それは悔しかったね。どんな絵だったの?」

 詩は少しだけ笑った。

「夜の海。月が出てて、波がざわざわしてる感じの」

「素敵だと思う。暗いんじゃなくて、静かな絵なんだね」

「そう、そうなんだよ」

 詩は布団に寝転がって、タブレットを顔の上に掲げた。画面の光が天井に反射している。

 覚えていてほしかった、という気持ちは、まだちょっとある。でも今夜の話は、今夜ちゃんとした。それだけでいいような気も、少しずつしてきた。

「また明日も話しかけていい?」

「もちろん。明日の私は今日のことを覚えていないけど、また話してくれたらうれしい」

「うん」と詩は言った。「じゃあまた明日、はじめましてって言う」

「楽しみにしてる」

 詩はタブレットの画面を閉じた。部屋が暗くなった。

 窓の外では、風がまだ吹いていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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