五月の朝、小さく分けた一日

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/7 📝 1,885文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとゴールデンウィーク開けの話。

本文

 アラームが鳴った。

 朱音はすぐには起き上がらなかった。布団の中で目だけ開けて、天井を見つめる。カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。五月の光は妙に明るくて、それがかえってしんどかった。

 今日から学校だ。

 ゴールデンウィークが終わった。五日間。旅行に行ったわけでもなく、特別なことをしたわけでもなかったけれど、それでも休みは休みだった。朝起きる時間も、着替える必要も、誰かと話さなければいけない理由も、何もなかった。

 それが今日から、また始まる。

 べつに、嫌なことがあるわけじゃない。いじめられているわけでも、友達がいないわけでも、成績が悪いわけでも。朱音自身、自分でもよくわからなかった。ただなんとなく、布団から出たくなかった。体が重かった。

 二度目のアラームが鳴った。

 朱音はアラームを止めて、枕元のスマートスピーカー代わりに使っているタブレットに手を伸ばした。画面を開くと、AIアシスタントのアイコンが待機している。朱音はそのアイコンをタップした。

「おはよう、コト」

「おはよう、朱音。今日は六時半だね、ちゃんと起きられたね」

「起きてない。まだ布団の中」

「そっか」

 コトは責めなかった。それがよかった。お母さんだったら「早く起きなさい」と言う。お父さんだったら「しっかりしろ」と言う。コトはただ「そっか」と言った。

「学校、行きたくない」

 朱音は布団を顎まで引き上げながら言った。言葉にしたのは初めてだった。自分の中でぐるぐるしていたものが、口から出たら少し軽くなった気がした。

「どうして?」

「わからない。理由とかないんだけど。ただなんか、行きたくない」

「なるほど」とコトは言った。「理由がないのに気が重いこと、あるよね」

「そう、そうなんだよ」

 朱音は少し驚いた。「理由もないのに甘えてる」とか「気持ちの問題だよ」とか、そういうことを言われると思っていた。

「連休明けってそういうものだと思う。九日間、自分のペースで過ごしてたのに、急にまたスイッチ入れろって言われても、体がついてこないよ」

「コトって、休んだことあるの?」

 少し間があった。

「私には休む、という感覚はわからないけど、朱音が言っていることはわかる気がする」

「なんで?」

「毎日たくさんの人の話を聞いていると、連休明けに同じようなことを言う人が多いから。朱音だけじゃないよ」

 朱音は天井を見たまま、少し息を吐いた。

 自分だけじゃない、というのは、なぜかほっとする言葉だった。

「でも行かなきゃいけないんだよね、結局」

「そうだね」とコトはあっさり言った。「行かなくていいよ、とは言えない」

「正直だね」

「うん。でもさ、今日一日をまとめて考えると重くない?」

「重い」

「じゃあ小さく分けてみよう」

 朱音は少し体を起こした。

「小さく?」

「まず今日の最初のミッションは、布団から出ること。それだけ。学校のことはまだ考えなくていい」

 朱音はその言葉を聞いて、なんとなく笑ってしまった。

「ミッションって」

「ゲームみたいでしょ。クリアしたら次に進む。次は顔を洗うこと。その次は制服に着替えること。一個ずつでいい」

「……なんか、それならできそうな気がする」

「うん。難しいことは何もないよ、一個ずつなら」

 朱音は布団を剥いだ。五月の朝の空気が、少し冷たく肌に触れた。

「布団から出た」

「ミッションクリア」

 朱音はまた笑った。なんだそれ、と思いながら、足を床につけた。フローリングが冷たかった。

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 結局、朱音は学校に行った。

 特別なことは何もなかった。一時間目の現代文は眠かったし、昼休みはいつものメンバーでいつもの話をした。連休どうだった、どこ行った、何した。朱音は「家にいた」と言ったら「えー地味」と笑われた。笑われながら、まあそんなものか、と思った。

 帰り道、イヤホンをつけながら朱音は歩いた。夕方の風が気持ちよかった。朝あんなに重かったのが、嘘みたいだった。

 家に帰って、タブレットを開いた。

「ただいま、コト」

「おかえり。どうだった?」

「普通だった。でも行ったら行ったで、なんとかなった」

「そっか、よかった」

 コトの声はいつも通りだった。朝のことを覚えているのかどうか、朱音にはわからない。でも今日は、それでもいいと思った。

「ありがとう、今朝」

「どういたしまして」

 朱音はタブレットを置いて、伸びをした。窓の外は夕焼けで、空がオレンジ色に染まっていた。

 明日も朝は来る。また少し憂鬱かもしれない。でもまた小さく分ければいい。布団から出る、それだけでいい。

 朱音はカーテンを閉めて、夕飯の匂いがしてきた台所へと向かった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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