ガリンペイロ AI支援版
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
設定厨のわたしがある世界観を構築するために紡ぎ上げた3万字の設定をSTORYMAKERに呑み込ませたら、こんなお話しを書いてくれました。
本文
第一章
第1話「砂の海の上で」1/3
どうして、ここに来ることができたのだろう。
ネーブルは、足を止めた。
止めたつもりはなかった。けれど、気がつけば身体が動かなくなっていた。膝が笑っている。喉はひび割れて、呼吸のたびに熱い空気が肺を擦る。
前を行く背中が、蜃気楼の向こうで揺れている。
「……ネーブル?」
振り返ったのはルークだった。逆光で表情は見えないが、立ち止まったことには気づいたらしい。
「大丈夫。すぐ行く」
声は出た。思ったより普通に。
ネーブルは一歩、足を前に出す。砂が沈む。靴の中まで熱が染み込んでくる。
――暑い。
そんな言葉で済ませていいものではなかった。焼かれている。じわじわと、全身が。
ここは、そういう場所だ。
来る前から分かっていたはずなのに、実際に足を踏み入れると、理解していたつもりの何倍も現実は重かった。
視界の端で、ミラがふらついた。
ほとんど反射で、ネーブルはそちらへ視線を向ける。
ミラは何も言わない。けれど、ほんのわずかに、空気が変わった気がした。
さっきまで刺すようだった熱が、少しだけ、ほんの少しだけ遠のく。
気のせいかもしれない程度の差。それでも、確かに違う。
ネーブルは息を吸い込んだ。肺が焼ける感覚が、ほんの少しだけ和らぐ。
ミラは前を向いたままだった。誰とも目を合わせない。ただ、歩いている。
その小さな背中に、どれだけ助けられているのか。
考えないようにしているだけで、分かってはいる。
「あと少しだ」
ルークの声が飛んできた。
「地形的に、そろそろあってもおかしくない」
根拠があるのかどうか、ネーブルには分からない。
でも、ルークはそう言った。
だから皆、前を向く。
――この人は、迷わない。
ネーブルはそう思う。
同時に、別の考えも浮かぶ。
――迷えないだけかもしれない。
どちらが正しいのかは、まだ分からない。
ただ一つ言えるのは、立ち止まれば終わるということだけだ。
風が吹いた。
熱風だった。砂が舞い上がり、視界が白く霞む。
ネーブルは目を細める。
そのときだった。
――あれ?
違和感。
ほんの一瞬、視界の上の方に何かが引っかかった。
ネーブルは顔を上げる。
空。
青とも白ともつかない、焼けつくような空の中に、
――何かが、ある。
「……見える?」
思わず口に出していた。
「何が?」
すぐ後ろにいたナナが首を傾げる。
「いや……」
ネーブルは目を凝らす。
確かにある。点のようなもの。でも、砂でも、鳥でもない。
動いていない。そこに“ある”。
ありえない位置に。
「何もないけど」
ナナはそう言った。
ルークも、他のメンバーも、誰も上を見ていない。
見えていないのか、それとも見ていないのか。
ネーブルは少しだけ迷う。
――無視してもいいかもしれない。
今はそれどころじゃない。
水も、体力も、限界に近い。
それでも。
それでも、目が離せなかった。
あれは、“放っておいていいもの”ではない。
理由はない。ただ、そう思った。
ネーブルは背中の弓に手をかける。
「ネーブル?」
ルークの声。
「ちょっとだけ」
短く答える。
止められなかった。
矢をつがえる。
弦を引く。
狙いは曖昧だった。距離も分からない。風も読めない。
それでも、
――当たる気がした。
指を離す。
矢が空へ走る。
一瞬の静寂。
次の瞬間、
小さな影が、崩れた。
「……え?」
誰かが声を漏らす。
空にあった“何か”が、落ちていく。
ゆっくりと、しかし確実に、砂の海へ。
やがて見えなくなった。
ネーブルはしばらく、その方向を見つめていた。
何も起きない。
風の音だけが戻ってくる。
「今の……何?」
ナナが言う。
「分からない」
ネーブルは答えた。
本当に、分からなかった。
ただ一つだけ。
確かなことがある。
――たぶん、あれは重要だった。
「行こう」
ルークの声で、現実に引き戻される。
前方に、揺れる緑が見えた。
水だ。
オアシス。
誰かが小さく笑った。安堵の音だった。
皆、そちらへ歩き出す。
ネーブルも歩く。
でも、一度だけ振り返った。
自分が撃ち落とした“何か”が消えた場所を。
砂しかない。
何も残っていない。
それでも。
目を離すのが、少しだけ怖かった。
やがて、ネーブルは前を向く。
歩き出す。
――私たちは、まだ何も知らない。
第1話「砂の海の上で」2/3
水面に飛び込んだとき、自分の身体がどこまで自分のものだったのか、ネーブルにはよく分からなかった。
冷たい。
それだけで、十分だった。
全身を包んでいた熱が、音を立てて剥がれていくようだった。肺に入る空気さえ、さっきまでとは別物に感じる。
誰かが笑っている。誰かが叫んでいる。
そのどれもが遠く聞こえた。
ネーブルはしばらく水の中に沈んだまま、動かなかった。
動けなかった、と言った方が正しいかもしれない。
やがて顔を上げる。
眩しい光と、揺れる水面。
オアシスは、思っていたよりも小さかった。
それでも十分だった。
生き延びるには。
「……ネーブル」
声をかけられて振り向く。
ミラだった。
水には入っていない。岸に立ったまま、こちらを見ている。
「大丈夫?」
「そっちこそ」
ネーブルは言う。
「入らないの?」
ミラは少しだけ首を振った。
「もう、大丈夫」
短い返答。
ネーブルはその言葉の意味を考える。
“もう大丈夫”なのは、何がだろう。
体力か、気温か、それとも。
ミラの足元の砂が、ほんのわずかに湿っていることに気づく。
そこだけ、空気が違う。
ネーブルはそれ以上聞かなかった。
聞いていいことと、聞かない方がいいことの区別はついているつもりだ。
水から上がる。
服が重い。けれど、さっきまでの重さとは違う。
生きている重さだった。
「全員無事かー?」
ルークの声が響く。
簡単な点呼が始まる。
人数は揃っている。
誰も欠けていない。
それだけで、十分すぎる成果だった。
「今日はここで休む」
ルークが言う。
「日が落ちるまで動かない。夜は……様子見だな」
誰も反対しない。
動ける状態ではなかった。
ネーブルは近くの木陰に腰を下ろす。
ようやく、思考が戻ってくる。
そして同時に、さっきの“違和感”も。
空にあったもの。
撃ち落としたもの。
「……ナナ」
「ん?」
近くにいたナナが振り向く。
「さっきの、見えてなかった?」
「うん、全然」
あっさりした答えだった。
「何だったの?」
「分からない」
本当に分からない。
形も、距離も、正確には思い出せない。
ただ、“そこにあった”という確信だけが残っている。
「でも、落ちたよね?」
「落ちた」
ナナは少しだけ顔をしかめた。
「取りに行く?」
その一言で、ネーブルの中で何かが繋がる。
――取りに行く。
その発想はなかった。
いや、正確には、考えないようにしていたのかもしれない。
今は休むべきだ。
ここは安全だ。
そんな当たり前の判断が、頭の中に並ぶ。
それでも。
それでも、あれを放置することに、強い違和感があった。
「……行くなら、日が落ちてからかな」
ネーブルは言う。
ナナは肩をすくめた。
「じゃあルークに聞く?」
ネーブルは少し考える。
ルークに報告すれば、おそらく止められる。
優先順位の問題だ。
生存が第一。
探索はその後。
正しい判断だと思う。
でも。
――あれは、“後回しにしていいもの”なのか?
ネーブルは立ち上がる。
「私から話す」
「了解」
ナナは軽く手を振った。
ネーブルはルークの方へ歩く。
途中で、ミラと目が合った。
ほんの一瞬だけ。
何かを言いたそうな目だった。
でも、結局何も言わなかった。
ネーブルも、何も言わない。
すれ違う。
ルークのところへ辿り着く。
「どうした?」
「さっきの、空にあったやつ」
ネーブルは言う。
「落ちた場所、大体分かる」
ルークの目が、少しだけ細くなる。
「それで?」
「確認したい」
短く、はっきりと。
ルークはすぐには答えなかった。
周囲を一度見回す。
疲弊したメンバー。
限界に近い状況。
そしてネーブルに視線を戻す。
「理由は?」
「分からない」
正直に言う。
「でも、重要な気がする」
ルークは小さく息を吐いた。
「“気がする”か」
「うん」
沈黙が落ちる。
数秒。
ネーブルは視線を逸らさない。
ルークも逸らさない。
やがて、
「……分かった」
ルークは言った。
「日が落ちてからだ。単独行動はなし。最低でも二人」
「了解」
「ミラは連れて行くな」
即座に付け加えられた。
ネーブルは一瞬だけ迷う。
「……分かった」
ミラは必要だ。
でも同時に、消耗も激しい。
今は休ませるべきだという判断も理解できる。
「ナナと行く」
「それならいい」
ルークは頷いた。
「無理はするな。おかしいと思ったら引け」
「うん」
ネーブルはその場を離れる。
決まった。
今夜、取りに行く。
あの“何か”を。
木陰に戻ると、ナナがにやりと笑った。
「行ける?」
「行ける」
「いいね」
ナナは楽しそうだった。
ネーブルは少しだけ息を吐く。
疲れているはずなのに、不思議と意識ははっきりしていた。
空を見上げる。
もう、あそこには何もない。
ただの空だ。
それでも、
確かに“何か”があった。
そしてそれを、自分は撃ち落とした。
その意味は、まだ分からない。
でも。
――確かめに行く。
ネーブルは目を閉じる。
少しだけ、休むために。
夜が来る前に。
第1話「砂の海の上で」3/3
風が止んだ。
それは一瞬のことだったが、ネーブルには確かに「空気が変わった」とわかった。ミラのレドーム越しに感じていた熱が、ほんのわずかに揺らいだのだ。
「……今の、感じた?」
誰にともなく呟く。
返事はなかったが、ルークだけがこちらを見る。
ネーブルは弓を握り直した。
直感だった。理屈はない。ただ、何かが「そこにある」と確信していた。
「上」
短く言って、ネーブルは空を指差した。
全員が見上げる。
最初は誰も気づかなかった。
だが――
「……あれ?」
ナナが目を細める。
空の一点。
陽炎のように揺らいでいる場所。
そこに、確かに「何か」があった。
浮いている。
いや、“留まっている”。
風に流されることもなく、ただそこに在る。
「……撃てる?」
ルークが静かに問う。
ネーブルは答えなかった。
もう弓を構えていたからだ。
距離は遠い。
だが、問題ではない。
問題は――これが「撃つべきものかどうか」だ。
ほんの一瞬、迷う。
だがその迷いは、すぐに消えた。
理由は単純だった。
――放っておけない。
それだけだった。
「……いくよ」
弦を引く。
風の流れを読む。
熱の歪みを補正する。
ミラのレドームが、わずかに体の感覚をクリアにする。
すべてが整う。
そして――
放った。
矢は、まっすぐ空へ伸びた。
一瞬。
本当に一瞬だけ、時間が止まったように感じた。
次の瞬間。
――当たった。
小さな音。
そして、浮いていた何かが、ふっと揺れた。
「……!」
それはゆっくりと落ち始めた。
真下へ。
砂の海へ。
静かに。
まるで、役目を終えたかのように。
「……落ちた」
ナナが呟く。
ネーブルは何も言わなかった。
ただ、その落ちていく軌道を目で追う。
どこに落ちたか。
絶対に見失わないように。
砂に埋もれる前に。
それがどれほど重要なものか、この時点ではまだ分からなかった。
だが――
ネーブルの中では、すでに確信に近いものがあった。
これは、ただの“何か”ではない。
「探していたもの」かもしれない。
あるいは――
「すべてを変えるもの」。
「……行こう」
ネーブルは振り返る。
仲間たちを見る。
その目には、いつもの無表情とは違う、わずかな熱が宿っていた。
「回収する」
ルークが笑った。
「いいね。そういうの、嫌いじゃない」
砂上船が動き出す。
ゆっくりと。
だが確実に。
先ほど矢を放った地点へ向かって。
ネーブルはもう一度だけ空を見上げた。
さっきまで何かがあった場所。
今はもう、何もない。
ただ、青白い空が広がっているだけだ。
だが――
彼女は確かに感じていた。
これは始まりだ。
偶然ではない。
選ばれたわけでもない。
ただ、「触れてしまった」のだ。
この世界の仕組みに。
その瞬間から、すべては変わる。
砂の上に落ちた“それ”が、
どれだけのものを動かすのかも知らずに。
ネーブルは、ただ前を見ていた。