好きだった、と思う

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/9 📝 1,197文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと数学のテストの話。

本文

 AIを使い始めたのは、二年の夏だった。

 きっかけは数学の定期テストだ。どう勉強しても点が伸びなくて、試しに問題をスキャンして投げてみたら、解説が恐ろしいほど分かりやすかった。教科書より、学校の先生より、ずっと。

 それから勉強のやり方が変わった。

 問題を解く前にAIに解法を確認する。ノートに写す前に要点を聞く。応用問題は自分で考える前にパターンを教えてもらう。効率が上がった。点数も上がった。親は喜んだ。担任には「努力が実ったな」と言われた。

 嘘はついていない、と思った。努力はしていた。ただ、少し方向が変わっただけだ。

 三年になって、志望校が固まった。県内トップの進学校。数学の配点が高い。

 対策は完璧だった。AIが過去問を分析して、頻出パターンを洗い出して、優先順位まで整理してくれた。律は毎日それをこなした。機械みたいに、でも確実に。

 模試の結果はA判定だった。

 面接の練習も、AIとやった。想定問答を百本ノックで叩き込んだ。「志望動機は?」「得意科目は?」「高校でやりたいことは?」全部、よどみなく答えられるようになった。

 本番は十二月だった。

 学科試験は手応えがあった。見たことのあるパターンばかりだった。

 面接室に入ると、面接官が三人いた。真ん中の年配の男性が、最初の質問を投げた。

「得意科目を教えてください」

「数学です」

 想定通り。

「数学のどんなところが好きですか?」

「答えが一つに決まるところと、プロセスに論理的な美しさがあるところです」

 練習した通り。面接官がメモを取った。

「なるほど。では――」

 男性が少し前のめりになった。

「数学が好きになったのは、いつ頃ですか? きっかけがあれば聞かせてください」

 律は、答えようとした。

 口が開かなかった。

 好きになったのは、いつだろう。小学校のとき、図形の問題を解いていたら時間を忘れた記憶がある。でもそれは本当に自分の記憶だろうか。中学で初めて証明問題を解けたときの達成感。でも最近の自分は、証明問題をAIに確認してから解いている。

 好きだった、と思う。

 思う、だけかもしれない。

「……好きになったきっかけ、ですか」

「ええ、エピソードがあれば」

 面接官の目が、まっすぐこちらを向いていた。

 律の頭の中に、練習してきた言葉が並んでいた。でもどれも、今この質問への答えじゃなかった。AIが用意した想定問答の中に、これはなかった。いや、あったかもしれない。でも律は、その答えを自分の言葉だと思えなかった。

 沈黙が、五秒続いた。

「……すみません、少し考えてもいいですか」

「どうぞ」

 また沈黙。

 律は、自分がいつから数学を好きだったのか、本当に思い出せなかった。点数を上げることに集中するうちに、好きという感覚がどこかへ行ってしまったのか。それとも最初から、好きだったわけじゃなかったのか。

 分からなかった。

 模範解答が、どこにもなかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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