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助けを求める美少女 幼き兄妹を救い出せ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

家族の高い期待に応えられず、努力することを諦めた少年・鷹見蓮。 そんな彼の前に現れたのは、異世界の王女リヴ・クリュスタ。 彼女が挑むのは、王女たちが最後の一人になるまで騎士と共に戦い続ける、過酷な王位継承戦【クイーンズ・クレスト】。 「信じています。鷹見蓮は最強の騎士なんだって」 2人が世界も立場も違えながら惹かれ合い、絆を深める時── 無気力だった少年は、彼女を女王にするための「最強の騎士」へと覚醒する。 「彼女の愛が、俺を誰よりも強くする」

本文

「美咲、帰りにカラオケ寄って行かない?」

「ごめーん。今日、妹と弟の面倒見なきゃならないの」

 美咲は、そう言い残して足早に校門を後にした。

「美咲も大変だよね。小さい子の面倒見なきゃならなくてさ」

 南條美咲は三人兄妹の長女。親は離婚しており父はいない。

 母は看護師をしており、日によっては夜から朝まで働く。そんな日、美咲はまっすぐ家に帰り、小学生の弟と就学前の妹の面倒を見ていた。

 今日も、既に弟が妹の面倒を見てくれているだろう。だが食事の支度などは、美咲の仕事だ。

 彼女の自宅は二階建ての古びた雑居ビルの一室。そこを目指す道中、周りの様子が何やらおかしいことに気がついた。

 ある通行人が話す。

「この先で火事だってよ」

(火事?……まさかね)

 美咲は嫌な予感がして、自宅へと走り出した。

 * * *

「この先の中華料理屋で火事だってよ」

 蓮もまた、ざわめく通行人からただ事ではない様子を感じ取っていた。

 進路方向から煙が見える。足を止めずに進み続けると、目に映るのは既に燃え盛る建物と野次馬。

 2階建てのビルの1階が中華料理屋となっており、そこが火災の原因のようだ。

 蓮は、野次馬に見慣れた人影が混ざっていることに気がついた。そしてその女性は蓮に気づくと、こっちへと駆け寄って来た。

「鷹見! どうしよう! あの中に弟と妹が!」

 美咲は泣きながら、縋り付くように蓮に話しかける。

「なんだって?」

 彼女が指差す屋上には、小さな人影が二人見える。

 あのビルは2階が賃貸になっていて、そこで彼女達は暮らしているのだという。燃え盛るビルに異変を感じた彼らは、二人で屋上に避難したのだろう。

「どうしよう。あたし、あたし……」

 美咲はぺたんと地べたに座り込む。

 既に消防署には連絡がいっているらしい。それならば、後は素人にできることなんて何もない。

「誰か……助けて……」

 力無く助けを求める彼女を前に、蓮は何かを考えている。

「……残っているのは、お前の兄妹だけか?」

「……うん。部屋を借りてるのはあたし達だけだから」

 それを聞くと、蓮は鞄から飲みかけのお茶のペットボトルを取り出し、それを頭から振りかけた。

「えっ……鷹見……?」

 びしょ濡れになった彼は、彼女を安心させようと語りかける。

「お前の兄妹は俺が助ける。安心して待っててくれ」

 そして燃え盛るビルの入り口へと駆け出した。

「鷹見!」

 なんと彼は、そのまま迷いなく中へと突入していった!

 野次馬から悲鳴のような声が上がる。

「今、子供が中に入っていったぞ!」

 だが誰にも蓮を止めることなどできない。

 それは勇気ではなく無謀だと誰もが知っているからだ。

 中はすでに地獄だった。

 目にするのは、火の海となっている店内。辺り一面が赤と黒に染まっている。

 濡れたこの体も、すぐに乾いてしまうだろう。そうなればこんがりと焼死体が出来上がりだ。

 だが彼は、この環境を苦としていなかった。

 普通の人間が浴びれば痛いと感じるほどの熱気に、難なく耐えることができている。

 暑いとは感じるのだが、それだけ。まるで真夏の気温のように、快適ではないがそういうものとして順応していた。

 蓮は、火と煙を避け店内を駆けていく。

 階段を登った後、そこには南條と名札の掲げられた一つのドア。さらに奥にはもう一つの階段がある。そこを抜ければ屋上へと辿り着けるだろう。

(あそこだ!)

 その時──

 ガラガラガラッ!

 天井が崩落した。

 いくつものコンクリートの塊が、彼の頭上に降り注ぐ。

「──っ!?」

 その轟音は、ビルの外で見守る人々にも届いていた。しかし中で何が起きていようとも、美咲は黙って立ち尽くすしかなかった。

(……鷹見……!)

 蓮は、容赦なくコンクリートの雪崩を浴びた。

 だが彼は無傷だった。何事もなかったかのようにそこに立っていた。

 火も煙も、そして瓦礫の崩落も、今の彼にとっては障害ではなかった。

(……普通じゃねえな。俺の体)

 ふと、自分の左手で輝く指輪に目をやる。

 心の中で変わってしまった自分に慄きながら、今自分がしなければならないことを確かめる。

 自分は、南條の兄妹を救うためにここまで来たのだ。今は、ただ目的を果たすために進む。

 蓮は2階を走り抜け、階段を駆け上がり、屋上へ続くドアを開ける。

 そこにあったのは、新鮮な空気と青い空。そして寄り添うように存在する、二人の幼い兄妹だった。

「無事か!?」

 蓮が声をかけると、二人はぶんぶんと首を振った。

 彼の到着に安心したのか、一際泣き声が大きくなる。どうやら大した怪我はしていないようだ。

(……さて、どうする)

 既にビルの中は火の海。戻って脱出は困難だろう。

 この二人を抱えて、一か八か飛び降りるか?

 3階相当の高さなら、常人なら助かっても大怪我だろう。自分はともかく、この二人を抱えてそんな博打のようなことはしたくない。

 周囲を見渡すと、蓮は屋上に大きなタンクが存在していることに気がついた。

(これ……貯水タンクか?)

 これを開けることができれば、ビルの火災を消すことができるかもしれない。

 よく見るとバルブが存在している。だが同時に鍵もかかっており、勝手に開けることはできないようだ。

「………」

 蓮は、念じるように目を瞑ると、淡く青い光に包まれた。

 それは収束し、昨日と同じように騎士としての姿となる。

 彼は、タンクに向かって剣を勢いよく振り抜いた。

 ドドドドド!

 轟音が鳴り響いた後、ビルの屋上に大量の水が出現する。それは階下へと流れ込み、みるみるビルを飲み込んでいく。

 命を奪う猛る火は、全て消し止められた。

 残ったのは、水浸しになった黒焦げのビル。野次馬は、ビルに突入した少年がやったのだと歓喜の声を上げた。

「……鷹見……!」

 美咲は嬉し涙を溢す。自分の最愛の兄妹は、地味なクラスメイトによって救われたのだ。

 * * *

 蓮の眼前にあるのは、水を全て吐き出した貯水タンク。

 彼の剣は、容易くその壁を切り裂いた。彼が成し遂げたのは全て、常人には説明のつかない超常現象だった。

 蓮は自分の左手の薬指で輝く銀の指輪を見つめて、昨日の情景を思い浮かべる。自分を変えてしまった、出会いを。

(俺は……もう一度、あいつに会いたい)

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