生成番号
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと画像生成の話。
本文
最初は暇つぶしのつもりだった。
画像生成AIのアプリをダウンロードしたのは、去年の冬だ。プロンプトに条件を打ち込むと、数秒で顔が生成される。目の形、鼻の高さ、輪郭のライン。細かく指定するほど、理想に近づいていく。
澄香は最初、芸能人の顔を参考にした。好きな女優の目元、モデルの骨格、海外アーティストの雰囲気。それらを少しずつ混ぜて、自分だけの「理想の顔」を作り始めた。
気づいたら毎晩やっていた。
仕事から帰って、ご飯を食べて、風呂に入って、ベッドに横になってアプリを開く。プロンプトを少し変える。目を大きくする。輪郭を細くする。肌のトーンを上げる。生成ボタンを押す。
どこかが違う。
また変える。また押す。
三ヶ月で、生成した顔は二千枚を超えた。
完成したのは、ある夜だった。
何気なくプロンプトを調整して、生成ボタンを押した瞬間、画面に現れた顔を見て手が止まった。
これだ、と思った。
理由は説明できなかった。でも確かに、これが自分の求めていた顔だった。目の形も、鼻筋も、唇の厚みも、肌の質感も。何一つ直すところがなかった。
澄香はその画像を保存して、しばらく眺めた。満足感があった。同時に、奇妙な感覚もあった。
どこかで見たことがある気がした。
芸能人の顔を参考にしたのだから、似ている人がいても不思議はない。そう思って画像検索にかけた。
一致した。
検索結果の一番上に、同じ顔が出てきた。名前はなかった。どこかのフリー素材サイトのモデルらしかった。プロフィールには「Model ID: 00847」とだけ書いてあった。
澄香は画面を閉じた。
再び開いた。
やはり同じ顔だった。
自分が三ヶ月かけて辿り着いた理想が、すでに存在していた。どこかの撮影スタジオで、番号で管理されていた。その人に名前があるのか、今どこにいるのか、何も分からなかった。
澄香はアプリに戻って、保存した二千枚の画像フォルダを開いた。最初の一枚から順番にスクロールする。少しずつ変化していく顔。どれも自分ではなくて、でも自分が選び続けた顔だった。
ふと思った。
この顔に近づきたかったのか。それとも、この顔に近い自分を肯定したかったのか。
答えは出なかった。
澄香はフォルダを閉じて、検索結果の画面をもう一度開いた。「Model ID: 00847」。
探せば、会えるだろうか。
会って、どうする。
澄香は画面をオフにして、スマホを伏せた。部屋が暗くなった。天井を見上げたまま、しばらく動かなかった。