第8話 赤い傘の町
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
灰ヶ谷村に入った瞬間、祓い師見習いの蓮は焦げた灰の匂いを嗅いだ。 十年前、ひとりの少女ミオが死んだ夜。 村を襲った灰色の獣――灰狼。 強い怒りを抱いたまま死んだ者が、灰をまとい狼の形で現れるという、灰ヶ谷村に古くから伝わる呪いだった。 初任務として村を訪れた蓮は、先輩祓い師の沙耶とともに調査を始める。 だが、村人たちは誰もミオの名を口にしようとしない。 閉じられた雨戸。 祠に貼られた古い札。 小さな湯呑み。 焦げた畳。 鳴らない鈴。 村に残されたものは、十年前の夜に誰も語らなかった罪を静かに示していた。 やがて蓮は知る。 灰狼は、ミオひとりの怒りではない。 見た者、聞いた者、止めなかった者、黙った者。 村人たちの沈黙と罪悪感が、ミオの怒りに積もって生まれた怪物だった。 夜、灰狼が祠に現れる。 結界は砕け、蓮の頭にミオの声が響く。 ――どうして、誰も助けてくれなかったの。 祓うだけでは、怒りは消えない。 蓮は村人たちへ叫ぶ。 聞こえているなら、もう黙らないでほしい、と。 最初は誰も出てこない。 だが一枚の雨戸が鳴り、十年分の沈黙が少しずつ破れていく。 これは、灰狼を倒す物語ではない。 閉じた雨戸が開き、焦げた灰の匂いの奥から、朝炊きの米の匂いが戻ってくるまでの物語。
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