「あなたの言葉で、いいんですよ」

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/28 📝 1,178文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと承認欲求の話。

本文

 投稿する前に、必ずAIに見せる。それがナナの習慣だった。

 六月の終わり、期末レポートの合間に撮った紫陽花の写真に、ナナはキャプションを打ち込んだ。*雨の季節も、悪くないかも。こういう静けさが好き。* スマホのAIに送って「もっと共感されそうな文章にして」と頼んだ。

 三秒で返ってきた。

『*梅雨の雨が紫陽花を濡らすたび、ざわついた心が少しだけ静かになる気がします。あなたはどうですか?* ——こちらはいかがですか』

 ナナはコピーして、投稿した。四十分で八十三いいね。元の文章の倍だった。

 悪くない、と思った。

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 それが三ヶ月続いた。

 バイト帰りの夕焼け、友達と行ったカフェのラテアート、誕生日に自分で買ったケーキ。撮って、打ち込んで、AIに直してもらって、投稿する。いいねが増えると少しだけ息ができる気がした。減ると、夜が長くなった。

 ある夜、ナナはサークルの飲み会の写真にキャプションを書いた。*楽しい夜でした! みんな大好き!* 送ると、AIからいつもと違う返信が来た。

『一つ聞いていいですか。今夜、本当に楽しかったですか』

 ナナは眉をひそめた。

「楽しかったよ」と打った。

『そうですか。では、誰に向けて書いていますか』

「フォロワーに決まってるじゃん」

『その人たちは、あなたのことを知っていますか』

 ナナは返信を止めた。画面を閉じて、シャワーを浴びて、また開いた。

「添削して」

『今日は少し待ってもらえますか』

「は?」

『急かしているわけではありません。ただ——今夜の写真、あなたの顔だけ笑っていないように見えます』

 ナナはスマホを伏せた。

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 三日後、ナナは新しい写真を撮った。大学の帰り道、誰もいない公園のベンチ。特に映えるものは何もなかった。それでもシャッターを切って、AIに送った。

「添削して」

『今回は遠慮させてください』

「なんで」

『あなたはなぜ、承認が必要なんですか』

 ナナは画面を睨んだ。怒りが来た。次に、何も言い返せない自分が来た。

「……わかんない」

 正直に打ってから、恥ずかしくなった。

『わからなくていいと思います。ただ——』

 少し間があった。

『その写真、あなたが撮りたくて撮ったんですよね』

 ナナはベンチの写真を見た。夕方の光が斜めに差して、影が長く伸びていた。誰かに見せたくて撮ったわけじゃなかった。なんとなく、きれいだと思ったから撮った。それだけだった。

「……そうだけど」

『それなら、あなたの言葉で、いいんですよ』

 ナナはしばらくそのままでいた。公園に風が吹いて、木の葉が揺れた。

 スマホを持ち直して、キャプションを打ち込んだ。AIには送らなかった。*夕方の公園。誰もいなかった。なんかきれいだった。* それだけ書いて、投稿した。

 いいねは、二十三しかつかなかった。

 でもナナはその夜、久しぶりに夜が短かった。

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了

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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