第2話 天使の祈りと私の財布 ―神様、再び彼に加護を与えてください―
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あらすじ
商品企画職として働く高瀬美咲(たかせ・みさき)の前に、ある日、この世のものとは思えないほど美しい青年が降臨した。 北欧男子風の超絶イケメン ―― マティエルと名乗る彼は、圧倒的な輝きを放ちながらこう告げる。 「汝よ、君を助けるためにやってきた」 ……そんな運命的な出会いに、人生の救済を確信した美咲。 しかし、その期待はわずか数日で音を立てて崩れ去ることになる。 私の部屋を占領するこの男は、俗的で驚くほど世間知らずだったのだ! 神々しい外見に隠された、彼の真実とは。 そして、前途多難な二人の同居生活の行方は――? 顔は良い天使と、振り回されっぱなしの働く女子。 噛み合わない二人が織りなす、日常系ドタバタ同居コメディ、開幕!
本文
―― 休日、澄み渡るような青空の下。
相変わらず外に出ようとせず、リビングのソファでゴロゴロと「自称・修行」に励むマティエル 。
「僕はここを守ってるから大丈夫だよ」
「何からよ」
「わからないけど、美咲のソファーもね。何があるかわからないからね」
「占領してるだけだろ」
私は、重い腰を上げようとしない居候の襟首を掴んで、無理やり外へと連れ出した。
「いい? 今日は特売日なの。あんたの食い扶持を稼ぐのも大変なんだから、せめて荷物持ちくらいしなさいよ」
「……日差しが強いね、美咲。僕のデリケートな肌が、地上の紫外線に焼かれてしまうよ。聖典の続きもいいところだったのに」
隣を歩くマティエルは、不満げに目を細めながら、ひらひらと手で顔を扇いでいる。
その姿はどこまでも優雅で、すれ違う女性たちが思わず振り返るほどの輝きを放っているが、中身はただの「外に出たくないニート」だ。
「贅沢言わないの。ほら、行くわよ」
商店街に入ると、マティエルは珍しそうにあちこちの店を眺め始めた。
「ほう……あの円盤状の食べ物はなんだい?」
「あれは今川焼き。今は買わないわよ」
「あっちの、魚の形をした……」
「たい焼きね。さっきお昼食べたでしょ」
一つ一つに反応する彼を引率しながら、私はスーパーへと急ぐ。
と、その時。
「おや……」
マティエルが足を止めた。
視線の先には、大量の買い物袋を抱え、さらに横断歩道の段差で足を取られてフラついているお年寄りの姿があった。
袋からは今にもリンゴが転げ落ちそうだ。
私が「あ、危ない」と声を上げるより早く、マティエルが動いた。
驚くほど滑らかな動作でその背後に回り込み、倒れそうになった体を支え、地面に落ちそうになった袋を片手で軽々と受け止めたのだ。
「大丈夫ですか、汝。あ、いや……お婆さん。足元には『悪意』に満ちた段差があるから、気をつけて」
「おや……まあ、ありがとうねぇ、お兄さん。助かったわ」
マティエルは、モデルのような完璧な笑みを浮かべ、お婆さんの荷物を持ち直してあげた。
その一連の動作には、確かに「天使」と呼ぶにふさわしい慈愛と気品が溢れている。
「―― 汝よ、案ずるな。この先にある君の聖域まで、僕がこの荷物を運ぼう」
「本当にかい? まあ、親切なこと」
そのまま、彼は私の返事も待たずに、お婆さんの付き添いを始めてしまった。
数分後、無事に送り届けたらしい彼が戻ってきた。
その表情は、どこか誇らしげだ。
「見たかい、美咲。これが天使としての本来の姿だよ。慈愛、奉仕、そして美。完璧だろう?」
「……。……確かに、今のあんたはちょっとだけ天使っぽかったわね」
私は少しだけ感心した。
なんだ、やればできるじゃない。
少しだけ彼を見直し、私はふと自分の手元を見た。
私の両手には、さっき買ったばかりの、ずっしりと重い洗剤の詰め替えパックと、2リットルのペットボトルが2本入った買い物袋。
対するマティエルの両手は――。
「……ねえ、マティエル」
「なんだい、美咲」
「あんた、他人を助けるのはいいけど……なんで同居人で、一応あんたの主である私の荷物は一ミリも持とうとしないわけ?」
マティエルは、不思議そうに小首を傾げた。
「え? 君は元気そうじゃないか。それに、身近な人に親切にするのは、なんだか照れくさいというか……あ、あそこの『たこ焼き』というのも気になるね」
「……っ!!」
私の怒りが頂点に達した。
「他人には親切なくせに、私には一ミリも利益をもたらさないなんて、どういうことよ! 天使なら、まず身近な人間を救済しなさいよ! ほら、これ持って! 全部持って!!」
「わっ、重いよ美咲! 僕の聖なる腕が筋肉痛になってしまう!」
「うるさい! そのまま家まで運べ!!」
結局、見直した時間は一分も持たなかった。
私は絶叫しながら、ひょろひょろと荷物に振り回される自称・天使を追い立て、帰路についた。
これが最近、私の相変わらずな休日の風景だった。
* * *
―― 3日後の夜
「ただいま……。あー、もう、今日も散々だったし、足はパンパン……」
ボロボロになって帰宅した私は、玄関でパンプスを脱ぎ捨て、定位置でアニメの深夜放送を録画でチェックしているマティエルを無視して、バッグの中を探った。
「……あれ?」
指先に触れるはずの、使い古した革の感触がない。
嫌な予感がして、バッグを逆さまにして中身をぶちまけたが、出てくるのは化粧ポーチとモバイルバッテリー、そしてくしゃくしゃのレシートだけだ。
「ない。……嘘でしょ? 財布がない!」
一気に血の気が引いた。
中には数日分ほどの生活費と、全てのカード類が入っている。
「どうしよう……。どこで落とした!? 会社? それとも帰りのコンビニ?」
パニックになりかける私の横で、マティエルがポテトチップスを咀嚼しながら、事も無げに言った。
「ああ、財布なら大丈夫だよ、美咲。僕には見えるんだ。君がさっき通ってきた、あの大きな銀杏の木の根元に、それは鎮座しているよ」
「……えっ? 見えるの?」
私はすがりつくような思いで彼を見た。
普段は無能を絵に描いたような男だが、こういう時こそ「天使の千里眼」的な何かが発動したのではないか。
「確かなのね!? 木の根元ね!?」
「間違いない。僕の聖なる直感がそう告げている。急げば間に合うよ」
「信じるわよ、マティエル!」
私は再びパンプスを履き、全力で夜道を逆走した。
息を切らし、マティエルが指定した銀杏の木の下に辿り着く
街灯に照らされた根元を、膝をついて必死に探した。
「……ない」
あるのは、枯れ葉と犬の散歩の跡らしい不審な土の盛り上がりだけだ。
私はそこから駅までの道を、文字通り地面を舐めるようにして探し歩いた。
けれど、どこにもそれらしき影はない。
結局、絶望に打ちひしがれながら駅の改札に辿り着き、ダメ元で駅員さんに声をかけた。
「あの……財布の落とし物、届いてませんか?」
「どういった財布ですか?」
「えっと……色はピンクで、こんな形でこれくらいの大きさなんですけど」
両手を使い、形と大きさを伝える。
「ああ、このピンクの財布ですか? ついさっき、親切な方が届けてくれましたよ」
「……あった!!」
駅長室で無事に財布を受け取った時、私の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
よかった。本当に、日本が平和な国でよかった。
天使の予言より、見知らぬ通行人の善意の方がよっぽど奇跡だ。
一時間後。私は疲労困憊で帰宅した。
「おかえり。どうだった? 僕の言った通り、あの木の下で輝いていただろう?」
マティエルは、私の名前の書かれたアイスを片手にのんきな顔で出迎えた。
「……あのさぁ」
私は財布をテーブルに叩きつけた。
「銀杏の木の下なんて、一ミリもかすってなかったわよ! 結局、駅に届いてたのを自力で見つけてきたの。あんたの聖なる直感、ただの勘以下じゃない!」
「ええっ、おかしいな。天界の予報では、あの木の下が一番『それっぽい』気がしたんだけど」
「気がしただけじゃない! 使えない……本当、使えないわねあんた!」
「ひどいな。僕は君を元気づけようとして……」
「余計に疲れさせただけよ!」
私はマティエルからアイスを奪う。
蓋を開け食べ始めた。
天使としての権威は、今夜もまた一つ、音を立てて崩れ去ったのだった。
* * *
―― 1週間後の夜
夜の静寂を切り裂くように、私のスマホが鳴り響いた。
「……えっ、お母さんが!? 階段から落ちて救急車で……!?」
電話の向こうの父の震える声に、私の心臓は一気に跳ね上がる 。
頭の中が真っ白になり、手に持っていたリモコンが床に滑り落ちた。
「どうしよう、今すぐ行かなきゃ……! でも、こんな時間に電車は……ああっ、もう!」
震える手でバッグを掴み、玄関へ向かおうとするが、膝が笑って上手く歩けない。
パニックで涙が溢れそうになったその時、肩に温かい手が置かれた。
「落ち着いて、美咲。大丈夫だよ」
いつもはソファでポテトチップスを齧っているはずのマティエルが、いつになく真剣な、そして静かな眼差しで私を見つめていた 。
その青い瞳には、ふざけた様子など微塵もない。
「……マティエル」
「深呼吸して。お母さんは強い人だ。君が今倒れてどうするんだい」
彼の透き通るような声に、荒れ狂っていた私の鼓動が少しずつ落ち着きを取り戻していく。
私は彼に促されるように、必死でタクシー配車アプリを操作した。
数分後、建物の前に一台のタクシーが滑り込んできた。
私はサンダルを突っ掛けるようにして外へ飛び出す。
マティエルは玄関先まで付いてくると、夜風に金の髪をなびかせながら、私に向かって静かに手をかざした。
一瞬、空気が震えたような気がした。
「マティエル……?」
「僕はここで、君の道が拓けるように祈りを込めて見送るよ。……さあ、行って」
彼が何を言っているのか、その時の私には理解できなかった。
でも、彼が私をまっすぐに見つめる瞳に背中を押され、私はタクシーに飛び込んだ 。
「運転手さん、聖ルミナス総合病院まで! できるだけ急いでください!」
車が走り出す。
窓の外の景色が、ほんの一瞬だけ明るく見えた気がした。
運転手の男性がバックミラー越しに申し訳なさそうな顔をする。
「お客さん、今夜はあいにく事故が重なり道がかなり混んでましてね……。到着まで少し時間がかかるかもしれませんよ」
「そんな……お願いです、早く、少しでも早く着いてほしいんです……」
私は座席の端を握りしめ、祈るような気持ちで窓の外を見つめた。
涙で滲む視界。
心の中で何度も「お母さん、無事でいて」と繰り返す。
「……わかりました。お客さんの力になれるよう、なんか頑張ってみますよ」
運転手さんの力強い言葉とともに、タクシーは夜の街を加速していった。
しかし、現実は非情だった。
大きな通りに出ると、テールランプの赤い列がどこまでも続いている。
「想像以上に道が混んでますね……。運悪く、またこの先の方で複数台の事故があったみたいだ。余計に詰まってるな」
運転手さんの無線から流れる不穏な情報。
私は絶望感に襲われ、唇を噛んだ。
(マティエル、助けて……お母さんのところに、早く……!)
その時だった。
「……よし、少し迂回してみましょう」
運転手さんがハンドルを大きく切り、裏道へと入る。
そして、事故があった現場のすぐ近くの交差点に差し掛かった瞬間、奇跡が起きた。
「おや……。偶然、今しがた事故車両の処理が終わったみたいですね」
つい一分前まで封鎖されていたはずの道路が、私たちの目の前でスッと開いたのだ。
まだ他の車が殺到する前。
私たちのタクシーが、一番乗りでその道を走り抜けていく 。
「運が良いですね。信号も……おっと、また青だ」
不思議なことに、その後の信号はどれも私たちが近づくタイミングで青に変わっていく 。
無線からは「続々と事故処理が解消されている」という朗報が次々と飛び込んでくる 。
「すいすい進みますね。これなら、当初の予定よりずっと早く着けそうです」
タクシーは一度もブレーキを踏むことなく、魔法にかかったかのように夜の幹線道路を滑走していった。
病院の白い建物が見えてきたとき、私はようやく、マティエルが最後に送ってくれたあの眼差しを思い出していた 。
* * *
深夜の病院は、冷たい静寂に包まれていた。
自動ドアが開くたびに滑り込んでくる夜風が、私の焦燥を煽る。
消毒液の鼻を突く匂いと、遠くで規則的に響くモニターの電子音。
そのすべてが、私の心臓を激しく揺さぶった。
「……お母さん!」
案内された処置室のカーテンを勢いよく開けると、そこには真っ白なシーツの上に横たわる母の姿があった。
頭には痛々しいほど白い包帯が巻かれ、いつもはうるさいくらい元気な母が、今はひどく小さく、頼りなく見える。
その姿に、視界が一気に熱くなった。
「美咲……。ごめんね、こんな夜中に……」
私の足音に気づいたのか、母がゆっくりと、重たそうに目を開けた。
声は掠れていて弱々しかったけれど、私を見つめる瞳には、いつもの穏やかな温かさが宿っていた。
「お母さん、大丈夫なの!? どこが痛むの? 階段から落ちたって聞いて、私……」
「大丈夫よ。ちょっと派手に転んじゃっただけ。大げさなんだから」
母は無理に笑おうとして、少しだけ顔をしかめた。
付き添っていた父が、私の肩に手を置いて安堵の息を漏らす。
「今は落ち着いているよ。検査もしたが、幸い骨には異常がなかった。一晩様子を見て、問題がなければ明日には帰れるそうだ 。……それにしても、本当に驚くほど早く着いたな 」
父のその言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
私はその場にへたり込み、母の手をぎゅっと握りしめた。
カサカサに乾いているけれど、確かに温かい母の手。
生きている。ちゃんと会話ができる。
その当たり前の事実に、胸の奥の塊が溶け出していく。
「本当によかった……。本当によかった…… 」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、私は何度も何度も頷いた。
母が無事だったという安心感に包まれながら、ふと、夜の街を魔法のように駆け抜けたタクシーの光景が頭をよぎる 。
(……あいつ、本当に何かしたのかな)
普段はポテトチップスを片手にテレビに齧りついている、あの「駄天使」の真剣な眼差しが、なぜか鮮明に思い出された。
母が穏やかな寝息を立てるのを見届け、手続きを終える頃には、窓の外は白み始めていた。
私は一度着替えに戻るため、父に後を託して病院を後にした 。
朝の冷たい空気が、火照った頬に心地よい。
家に戻れば、きっとあの居候が、いつものようにマヌケな顔でソファに転がっているはずだ。
私は足早に、自分の家へと向かった。
* * *
玄関の扉を開けると、そこにはいつもの光景が広がっていた。
……けれど、ほんの少しだけ、空気が違った。
テレビは消えている。
いつもなら散乱しているはずのポテトチップスの袋もない。
マティエルはソファに浅く腰掛け、私が帰るのを待っていたかのように、じっと玄関の方を見つめていた。
「……ただいま」
「おかえり、美咲」
彼は立ち上がり、いつになく穏やかな声で私を迎えた。
「お母さん、大丈夫だったよ。検査の結果も異常なし。一晩様子を見るだけで済んだわ」
私がそう伝えると、マティエルは「そうか」と短く頷き、ふっと肩の力を抜いた。
「ねえ、マティエル」
私は、喉の奥に引っかかっていた問いを口にした。
「……あんたの祈りで、病院まで導いてくれたのか? あのタクシー、信じられないくらいスムーズに走ったの。まるで、見えない何かに道を開けられているみたいに」
マティエルは一瞬だけ、いたずらっ子のような、あるいは全てを見透かしたような笑みを浮かべた。
「どうだろうね。僕はただ、君の道が平坦であるように願っただけだよ。……それより」
彼は急に、いつもの調子に戻ってお腹をさすった。
「僕、お腹が空いたよ。朝からずっと君を心配していたからね。……朝ご飯、いや、もう昼近いけど、何か食べたいな。できれば、お寿司なんて最高なんだけど」
そのあまりの切り替えの早さに、私は拍子抜けして、思わず吹き出してしまった。
「お母さんの無事を聞いて最初の一言がそれ!? ……もう、いいわよ。今日は特別にお寿司でも取ってあげる」
「やったー! 寿司! 寿司が食べられるなんて最高だ!」
さっきまでの神聖な雰囲気はどこへやら。
リビングでピョンピョンと跳ねて喜ぶ「駄天使」の姿を見て、私はようやく、心から笑うことができた。
* * *
―― 翌朝。
目が覚めてリビングへ行くと、マティエルが窓の外を眺めていた。
その背中は、最初に出会った時のような、どこか遠い世界の存在であることを思い出させる、神妙な空気を纏っていた。
「美咲。……僕の役目も、どうやら終わったみたいだ」
彼は静かに振り返った。
「そろそろ、行くね。最後のお寿司、最高においしかったよ。ありがとう」
「え……?」
冗談だと思った。
けれど、彼の瞳は真面目だった。
急に胸の奥がギュッとなる。
あんなに「早く帰れ」「このニート」と思っていたはずなのに、視界がじわりと熱くなった。
「……そう。……そっか。うん、わかった。ありがとう、マティエル。意外と迷惑だったけど……助かったわ。元気でね」
「うん。美咲も、お幸せに」
マティエルは最後に一度だけ微笑むと、光の粒子を撒き散らしながら、朝焼けの空へと高く飛び立っていった。
……本当に、行っちゃった。
静まり返ったリビング。
ソファにはまだ、彼がさっきまで座っていた窪みが残っている。
あいつ、本当に天使だったんだな。
私のために居たっていうのも、嘘じゃなかったんだ。
色々腹も立ったけれど、感謝くらいはしておこう。
飼っていたペットがいなくなるような、そんな切ない寂しさが、私の心に染み渡っていく。
「……あーあ。静かになっちゃった」
私がポツリと独り言を漏らした、その時。
―― トントン。
背後から、軽やかに肩を叩かれた。
「あのさぁ」
聞き覚えのある、抜けたような声。
振り向くと、そこには今まさに昇天したはずの天使が、照れくさそうに立っていた。
「……マティエル?」
「あ、いや。帰ろうと思ったんだけどさ、もう少し居てもいいかな?」
私は涙を引っ込めて、呆然とした。
「……どうしたのよ」
「ダメ?いいでしょ?」
「まぁ……」
「やったー、良かった! どうしようかと思ったんだ。これで成果も上げられたし、戻れると思ったらさ。上司に『この程度の成果で帰ってくるんじゃねぇ』って追い返されちゃったよ。酷くない!? また寄生先を探さないといけないところだったよ」
「……寄生だとっ!?」
私の感動を返せ。
私は込み上げてきた怒りと共に、拳を握りしめた。
「お前―― やっぱり、あれ全部偶然だったんじゃないの!? 帰れ! 近づくな! こっちに来るな、この駄天使っ!!」
「そんなこと言わないでよ! 僕、行く場所ないんだからさ! 食べ終わったお皿くらい運ぶから! ねっ、ねっ、これからもよろしくねっ!」
「皿運ぶくらいで許されると思うなーー!!」
こうして、私の平穏な生活は再び霧散した。
私は、ふと空を見上げる
「……まあ、いいか」
自然な笑みとともに呟いていた。
私はこの、愛すべき『怠惰の駄天使』を、これからも飼い続けることになるらしい。
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