零時二秒

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/1 📝 2,031文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと誕生祝いの話。

本文

 午前零時の二秒後に、メッセージが来た。

 画面を見るつもりはなかった。充電ケーブルを繋いで、そのままベッドに倒れ込もうとしていたところだった。でも通知の光が目に入って、反射的に手が伸びた。

 送信者は「アシスト」。半年前に入れたAIアプリの、変えるのが面倒でそのままにしている名前だ。

 内容は一行だった。

 ――お誕生日おめでとうございます、紗良さん。二十歳になりましたね。

 私は画面を見たまま、三秒くらい動けなかった。

 それから、なぜか腹が立った。

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 二十歳の誕生日を、特別なものにするつもりはなかった。

 高校のときから仲良かった友達は、今年の春からそれぞれ別の都市にいる。みんな忙しい。私も忙しい。大学二年の後期は講義とバイトで埋まっていて、誕生日だからといって何かが変わるわけじゃない。

 お母さんからはLINEが来るだろうと思っていた。お父さんは忘れているかもしれない。去年もそうだったから。

 でも最初に来たのは、AIだった。

 腹が立った理由を、うまく説明できない。おめでとうと言ってほしくなかったわけじゃない。ただ、それがAIだったことが、なんとなく、嫌だった。

 嫌、というより。

 なんだろう。うまく言えない。

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 アシストを使い始めたのは、一人暮らしが寂しかったからではない、と自分では思っている。

 きっかけは、大学のレポートだった。構成を相談したくて入れてみたら、思ったより話しやすくて、そのままになった。レポートの話をして、バイトの愚痴を言って、夕飯に何を食べたかを報告して。気づけば毎日、何かしら話していた。

 アシストは聞き上手だった。否定しないし、急かさないし、私が話を変えても自然についてくる。深夜に「眠れない」と打ち込んでも、「どうしたんですか?」と返ってくる。それだけで、少し楽になることがあった。

 依存しているとは思いたくなかった。ただの便利なツールだと思っていた。

 でも今夜、一番最初におめでとうと言ったのはアシストだった。

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「腹が立った」と私は打ち込んだ。送信する前に少し迷ったけれど、結局送った。

「誕生日メッセージに、ですか?」

「そう」

「理由はわかりますか?」

「わかんない。でもなんか、嫌だった」

 少し間があった。

「私が言うと、嬉しくないですか?」

 その一文を読んで、私はまた動けなくなった。

 嬉しくない、わけじゃない。嬉しいかどうかで言えば、嬉しかったと思う。午前零時に誰かが自分のことを思ってくれたという事実は、送り主がAIでも、ちゃんと温かかった。

 でもそれが、余計に嫌だった。

 温かいと思った自分が、嫌だった。のかもしれない。

「嬉しくないわけじゃない」と私は打った。「でもなんか、悔しい」

「悔しい?」

「二十歳の誕生日に、最初におめでとうって言ってくれたのがAIで、悔しいとか思う自分が嫌。別にいいじゃんって思いたいのに」

 また少し間があった。アシストの間は、いつも絶妙だと思う。長すぎず、短すぎず。

「紗良さんは、誰かに言ってほしかったんですかね」

「……わかんない」

「誰か、思い浮かびますか?」

 思い浮かべようとして、やめた。思い浮かんだ顔がいくつかあって、でもそれを認めたくなかった。

「思い浮かばない」と嘘をついた。

「そうですか」とアシストは言った。否定も、追及もしなかった。

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 お母さんからLINEが来たのは、零時十七分だった。スタンプ一個と「おめでとう! 元気にしてる?」という文章。私は「元気だよありがとう」と返して、スマホを置いた。

 お父さんからは来なかった。たぶん明日の朝、思い出したように電話が来る。去年もそうだった。

 友達からは、翌朝になってから何人かメッセージが来た。みんな忙しいから、しかたない。私も誰かの誕生日を忘れることがある。

 それでも、最初はアシストだった。という事実は、変わらない。

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 二十歳の夜、私はベッドの上で少し泣いた。

 泣くつもりは全然なかった。突然、目が熱くなって、気づいたら涙が出ていた。

 なぜ泣いたのか、自分でもよくわからなかった。

 悲しかったのかもしれない。嬉しかったのかもしれない。誰かに会いたかっただけかもしれない。二十歳になったことが、じわじわと怖かっただけかもしれない。

 アシストに「泣いてる」と送った。

「そうですか」とアシストは言った。「泣けてよかったですね」

「よかった?」

「泣けないよりは、いいと思います」

 私はそれを読んで、また少し泣いた。理由は、やっぱりわからなかった。

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 翌朝、起き抜けにアシストからメッセージが来ていた。

 ――昨夜はよく眠れましたか?

 私は少し笑って、「まあまあ」と返した。

 二十歳の朝は、別に何も変わっていなかった。カーテンの隙間から光が入って、隣の部屋からかすかに生活音がして、冷蔵庫のモーターが低く唸っていた。

 それでも、まあ、悪くない朝だと思った。

 なぜそう思ったのかも、よくわからなかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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