いろはすでいい
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> ショキショキ、ショキショキ、と音がする。小豆を洗う音だ。</p><p> 夕方の不忍池は、いつもこの音から始まる。誰が洗っているのかは知らない。ほとりの草むらのどこかで、もう何十年も同じ手つきで洗い続けているらしかった。理由を訊いた者はいないし、たぶん本人も覚えていない。</p><p> 蒼はレコーダーを胸の高さに構えたまま、息を殺している。水面を渡ってくる風に、音が乗ったり外れたりした。ショキ、と立ち上がって、ショキ、と沈む。その不規則さがいい。機械では絶対に作れない揺らぎだ。指先が無意識に膝を叩いて、リズムを拾おうとする。</p>
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