送れなかった春

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/4 📝 1,723文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと添削の話。

本文

 最初のメッセージは、こんなものだった。

「すきです。つきあってください」

 我ながらひどい、と思った。平仮名だし、短すぎるし、これで伝わる気がしない。でも、どう書けばいいかわからなかった。三時間悩んで、結局AIに投げた。

「好きな人に告白するメッセージを添削してほしいんですけど」

 AIはすぐに答えた。

「もちろんです。どんな相手か、少し教えてもらえますか?」

-----

 相手は、隣の席の宮田くんだった。

 話しかけたことは何度かある。授業のプリントを渡すとき、係の仕事で一緒になったとき。そのくらいだ。特別仲がいいわけじゃない。でも、教室で彼が笑うたびに、胸のあたりが変な感じになった。それが何ヶ月も続いていた。

 AIにそういうことを全部話した。AIは「なるほど」とか「それは伝わる気持ちですね」とか言いながら、最初のメッセージをこう直してくれた。

「ずっと気になっていました。よかったら、もう少し話せませんか」

 なんかプロっぽい、と思った。でも、これを送る勇気はまだなかった。

「もう少し、自然な感じにしてほしい」

「わかりました。どんなエピソードか、一つ教えてもらえますか?」

 こうしてAIとの共同作業が始まった。

-----

 二週目。

「先週、係の仕事で一緒になったとき、宮田くんが『ありがとう』って言ってくれて、それがすごく嬉しかったんです」

「それを入れましょう。『先週、一緒に仕事したとき、すごく楽しかった。もっと話してみたいと思った』はどうですか?」

 いいかも、と思った。でもまだ送れなかった。もう少し、もう少しだけ良くしてから。

-----

 一ヶ月が過ぎた。

 メッセージは何度も書き直した。AIはそのたびに丁寧に付き合ってくれた。長すぎると言えば短くしてくれた。硬いと言えば柔らかくしてくれた。素直すぎると言えば少し奥行きを持たせてくれた。

 そのうち、添削の時間が楽しくなってきた。

 AIに宮田くんのことを話す。AIが質問してくる。答えながら、自分でも気づいていなかったことに気づく。「そういえば彼って、誰かが失敗したとき絶対に笑わないな」とか、「声が低いのに話し方はやわらかいな」とか。

 AIと話すたびに、宮田くんのことが解像度高く見えてきた気がした。

-----

 二ヶ月が過ぎた。

 メッセージは完成に近づいていた。最新版はこうだった。

「突然ごめんなさい。ずっと言えなかったけど、宮田くんのことが好きです。話すたびに、あなたのそばにいると自分が少し落ち着く気がして。よかったら、もう少しだけ近くにいさせてほしいです」

 自分で読んで、悪くないと思った。むしろ、こんな言葉が自分から出てきたことに少し驚いた。

 AIに送ると、こう返ってきた。

「とても素直で、あなたらしい言葉になったと思います。あとは送るだけですね」

 そうだね、と思った。あとは送るだけだ。

 でも、その日も送らなかった。

-----

 三ヶ月目に入ったある朝、教室に入ると宮田くんの席が空だった。

 隣の子に聞いたら、転校したという。父親の仕事の都合で、先週急に決まったらしい。昨日が最終登校日だったと。

 昨日。

 昨日、自分は何をしていたっけ。放課後、AIとメッセージの最終調整をしていた。「もう少しだけ自然にしたい」と言って、また書き直していた。

 席に座って、スマートフォンを取り出した。保存してあるメッセージを開いた。

突然ごめんなさい。ずっと言えなかったけど、宮田くんのことが好きです――

 完璧な文章だった。

 誰にも送れない、完璧な文章が、そこにあった。

-----

 その晩、AIを開いた。

 何か書こうとして、やめた。また書こうとして、やめた。

 結局こう打った。

「宮田くん、転校しちゃいました」

 AIは少し間を置いてから答えた。

「そうですか。……残念でしたね」

 残念。そうだ、残念だ。でも、泣けなかった。泣けないのは、後悔しているからだと思った。

 もう一行だけ打った。

「メッセージ、完璧になってたんですけどね」

 AIは答えた。

「完璧じゃなくてよかったんだと思います、最初から」

 意味がわからなくて、でも何となくわかる気もして、しばらくその言葉を見つめた。

 窓の外で、春の終わりの風が吹いていた。

ジャンル・タグ

,

作品統計

👁️ 閲覧数: 9 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

作者ページを見る