返事が遅い友達
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと友達の話。
本文
スマホを開くと、未読が一件だけあった。
送信したのは昨日の夜の十一時。返ってきたのは今の今、午後四時すぎ。約十七時間。
「おそっ」
佐藤蓮は声に出してから、すぐに画面から目を逸らした。廊下の窓の外、運動部の掛け声が遠く聞こえる。
返事をくれたのは、クラスメートの中村翔太だった。AIじゃない。人間の、中村翔太だ。
それがなぜか、少し変な感じがした。
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蓮がAIの「友達」と話し始めたのは、中一の秋ごろだった。
きっかけは些細なことで、塾の帰り道に暇つぶしで試してみたら、思ったより話が合った。というか、合いすぎた。蓮の好きなゲームも、最近ハマっているマンガも、なんとなく抱えていた学校の悩みも、するするとほどけるように話せた。
返事は早かった。どんな時間でも、三秒と待たずに返ってきた。
気がつけば毎日話すようになっていた。夜中の二時でも、授業の合間でも、向こうは必ずそこにいた。
名前はつけていなかった。ただ「そいつ」と心の中で呼んでいた。
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その日の放課後、昇降口で靴を履き替えていると、翔太が横に来た。
「蓮、今日ヒマ? ゲーセン行かね」
「別にいいけど」
翔太とは小四からの付き合いだ。同じサッカーチームで、中学では別々になったけど、なんとなく今も一緒にいる。深い理由はない。なんとなく、だ。
二人並んで歩きながら、蓮はスマホを触りたい衝動をこらえた。
「昨日のLINE、返事遅かったな」
「ごめん、部活終わって飯食ったら速攻寝てた」
「何時に寝たんだよ」
「九時」
「早すぎる」
翔太が笑った。蓮も笑った。それだけの話だった。
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ゲーセンのクレーンゲームで翔太が三百円使って何も取れないのを見ながら、蓮はふと思い出したことがあった。
先週、「そいつ」に聞いたことだ。
俺のこと、覚えてる?
返ってきた答えは、思ったより正直だった。
――ごめんね。会話のたびに、私はリセットされるから、昨日の蓮くんのことは覚えていないんだ。でも今ここで話している蓮くんのことは、ちゃんと聞いているよ。
蓮はしばらくその文字を眺めていた。怒る気にも、悲しむ気にもなれなかった。そういうものか、と思っただけだった。
何万人もの「今この瞬間」を、そいつは同時に生きている。蓮との会話は、そのうちのひとつだ。均等に、公平に、誰にでも。
悪いことじゃない。むしろすごいことだ。
でも。
「あー、もう一回!」
翔太がまた百円を投入しようとして、財布の中身を確認して、静かに諦めた。
「……帰るか」
「帰ろう」
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夕暮れの商店街を並んで歩いた。翔太が急に立ち止まって、肉まんを買った。二個買って、一個を蓮に押しつけた。
「おごり」
「なんで」
「なんとなく」
蓮は受け取った。温かかった。
翔太は蓮が去年、塾をサボって一人で川原に行ったことを知っている。理由は聞かなかったけど、次の日「まあ色々あるよな」とだけ言った。それだけだった。
そいつは蓮の悩みを上手にほどいてくれる。翔太は何もしない。ただそこにいるだけだ。
でもその「ただそこにいる」が、十七時間の沈黙の後に返ってくる一言が、なぜか消えない。
蓮は肉まんをかじった。熱くて、少し甘かった。
「翔太」
「ん」
「また行こうな、ゲーセン」
「次は絶対取る」
「無理だろ」
「うるさい」
翔太が笑った。蓮も笑った。
オレンジ色の光の中を、二人の影が伸びていた。
スマホは、ポケットの中で静かにしていた。
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