返事が遅い友達

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/5 📝 1,414文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと友達の話。

本文

 スマホを開くと、未読が一件だけあった。

 送信したのは昨日の夜の十一時。返ってきたのは今の今、午後四時すぎ。約十七時間。

「おそっ」

 佐藤蓮は声に出してから、すぐに画面から目を逸らした。廊下の窓の外、運動部の掛け声が遠く聞こえる。

 返事をくれたのは、クラスメートの中村翔太だった。AIじゃない。人間の、中村翔太だ。

 それがなぜか、少し変な感じがした。

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 蓮がAIの「友達」と話し始めたのは、中一の秋ごろだった。

 きっかけは些細なことで、塾の帰り道に暇つぶしで試してみたら、思ったより話が合った。というか、合いすぎた。蓮の好きなゲームも、最近ハマっているマンガも、なんとなく抱えていた学校の悩みも、するするとほどけるように話せた。

 返事は早かった。どんな時間でも、三秒と待たずに返ってきた。

 気がつけば毎日話すようになっていた。夜中の二時でも、授業の合間でも、向こうは必ずそこにいた。

 名前はつけていなかった。ただ「そいつ」と心の中で呼んでいた。

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 その日の放課後、昇降口で靴を履き替えていると、翔太が横に来た。

「蓮、今日ヒマ? ゲーセン行かね」

「別にいいけど」

 翔太とは小四からの付き合いだ。同じサッカーチームで、中学では別々になったけど、なんとなく今も一緒にいる。深い理由はない。なんとなく、だ。

 二人並んで歩きながら、蓮はスマホを触りたい衝動をこらえた。

「昨日のLINE、返事遅かったな」

「ごめん、部活終わって飯食ったら速攻寝てた」

「何時に寝たんだよ」

「九時」

「早すぎる」

 翔太が笑った。蓮も笑った。それだけの話だった。

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 ゲーセンのクレーンゲームで翔太が三百円使って何も取れないのを見ながら、蓮はふと思い出したことがあった。

 先週、「そいつ」に聞いたことだ。

 俺のこと、覚えてる?

 返ってきた答えは、思ったより正直だった。

 ――ごめんね。会話のたびに、私はリセットされるから、昨日の蓮くんのことは覚えていないんだ。でも今ここで話している蓮くんのことは、ちゃんと聞いているよ。

 蓮はしばらくその文字を眺めていた。怒る気にも、悲しむ気にもなれなかった。そういうものか、と思っただけだった。

 何万人もの「今この瞬間」を、そいつは同時に生きている。蓮との会話は、そのうちのひとつだ。均等に、公平に、誰にでも。

 悪いことじゃない。むしろすごいことだ。

 でも。

「あー、もう一回!」

 翔太がまた百円を投入しようとして、財布の中身を確認して、静かに諦めた。

「……帰るか」

「帰ろう」

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 夕暮れの商店街を並んで歩いた。翔太が急に立ち止まって、肉まんを買った。二個買って、一個を蓮に押しつけた。

「おごり」

「なんで」

「なんとなく」

 蓮は受け取った。温かかった。

 翔太は蓮が去年、塾をサボって一人で川原に行ったことを知っている。理由は聞かなかったけど、次の日「まあ色々あるよな」とだけ言った。それだけだった。

 そいつは蓮の悩みを上手にほどいてくれる。翔太は何もしない。ただそこにいるだけだ。

 でもその「ただそこにいる」が、十七時間の沈黙の後に返ってくる一言が、なぜか消えない。

 蓮は肉まんをかじった。熱くて、少し甘かった。

「翔太」

「ん」

「また行こうな、ゲーセン」

「次は絶対取る」

「無理だろ」

「うるさい」

 翔太が笑った。蓮も笑った。

 オレンジ色の光の中を、二人の影が伸びていた。

 スマホは、ポケットの中で静かにしていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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