消えないコメント

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/6 📝 1,759文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとゲーム攻略の話。

本文

 攻略サイトが閉鎖されたのは、去年の春だった。

 中学二年の南雲陸は、そのことをニュースで知った。小学生のころから何度もお世話になったサイトで、管理人のおじさんが「もう更新する体力がなくなりました。長い間ありがとうございました」と書いていた。コメント欄には「お疲れ様でした」が何百件も並んでいた。陸もそこに一件書き込んで、ページを閉じた。

 それからは、AIに聞くようになった。

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 今夜も陸はヘッドフォンをつけて、ゲームの画面に向かっていた。

 古いRPGだ。小学三年のとき、兄の紘にもらった。「俺はもうクリアしたから」と言って、ソフトだけぽいっと渡された。ケースはなく、攻略本だけが別についてきた。

 そのRPGを、陸は今になってまたやり始めていた。理由は自分でもよくわからない。なんとなく引っ張り出してきたら、止まらなくなった。

 スマホを横に置いて、AIのチャット画面を開く。

「地下迷宮の三階、東の隠し部屋の開け方は?」

 三秒も待たずに答えが返ってきた。壁の特定のパネルを調べる順番、必要なアイテム、注意すべきトラップの位置まで、過不足なく整理されている。

「ありがとう」

 と打ってから、陸はすぐにゲームに戻った。

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 問題が起きたのは、ダンジョンの最深部に差し掛かったときだ。

 ボス手前のセーブポイントで、陸はいつものようにスマホを取った。

「最終ボスの攻略を教えて」

 返ってきた答えは、いつも通り正確だった。弱点属性、攻撃パターン、推奨レベル、おすすめの装備構成。読めば読むほど、勝ち筋が見えてくる。

 陸はそれを読んで、スマホを置いた。

 ゲームコントローラーを持った。

 でも、すぐには動かせなかった。

 なんだろう、この感じ。

 答えは全部わかっている。負ける気がしない。なのに、なぜかコントローラーを握る手に力が入らなかった。

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 ふと思い出して、陸は部屋の押し入れを開けた。

 段ボールの奥に、それはあった。

 紘にもらった攻略本。表紙は日焼けして、角が折れている。ぱらぱらとめくると、鉛筆の書き込みがそこかしこに出てきた。紘の字だ。小学生のころの、少し不格好な字。

 最終ボスのページを開いた。

 攻略情報はAIに教えてもらったものとほぼ同じだった。弱点も、パターンも。でも余白に、一言だけ付け加えられていた。

ここ難しいけど絶対楽しいから頑張れ

 それだけだった。

 陸はしばらく、その七文字と十一文字を眺めていた。

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 紘は今、大学で東京にいる。

 仲が悪いわけじゃない。お盆と正月には帰ってくるし、たまにLINEもくる。でも毎日話すような関係では、もうなかった。当たり前のことだ。

 陸がこのゲームをもらったのは、九歳のときだ。紘は十四歳だった。渡すとき、紘は特に何も言わなかった。「俺はもうクリアしたから」。それだけだ。

 でもこの書き込みは、確かにそこにある。

 紘がこれを書いたのは、誰かに見せるためじゃなかっただろう。自分用のメモのついでか、それとも本当にただのひとことか。動機なんてわからない。

 でも陸に渡すとき、紘はこの本を一緒に渡した。それだけは事実だ。

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 陸はゲームに戻った。

 スマホは、画面を伏せて置いた。

 最終ボスは、強かった。AIに教えてもらった弱点をついても、三回死んだ。四回目は装備を変えて挑んだ。五回目は作戦を変えた。六回目、ようやく第二形態まで削れた。

 七回目。

 長い戦いの末、ボスのHPバーがゼロになった。

 派手なエフェクトが画面を覆って、勝利のファンファーレが流れた。ヘッドフォン越しに、それがやけに大きく聞こえた。

 陸は少しの間、画面を見ていた。

 楽しかった。本当に、楽しかった。

 紘の言った通りだった。

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 翌朝、陸はLINEを開いた。紘との最後のやり取りは、三ヶ月前だった。

 なんと送ればいいか、少し考えた。

 結局、短くした。

昔くれたRPG、やっとクリアした

 送信して、スマホを置いた。

 返事は夕方に来た。紘らしく、素っ気なかった。

おそ

 それだけだった。

 陸は笑った。スタンプを一個返した。それで終わりだった。

 でも、それで十分だった。

 攻略本はもう押し入れに戻さず、机の端に立てかけておくことにした。日焼けした表紙が、夕日を受けてオレンジ色に光っていた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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