下半身が悪魔で上半身が天使な俺がエロ本を読んだ結果、悪魔が勝ってしまった話
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あらすじ
下半身
本文
俺は少し変わった体をしている。
上半身は天使、下半身は悪魔。
背中には白く輝く翼が生え、頭上には金色の輪が浮かんでいる。だが腰から下は黒い鱗に覆われ、尻尾までついていた。
生まれたときからそうだったらしい。
天使の力と悪魔の力を同時に持つ希少な存在――と聞けば格好いいが、実際は毎日が大変だった。
「困っている人を助けましょう」
上半身の天使が言う。
「面倒だ。昼寝しろ」
下半身の悪魔が言う。
常に意見が割れるのだ。
朝食のメニューですら争いになる。
「野菜を食べましょう」
「肉だ」
「健康第一です」
「うまさ第一だ」
こんな感じである。
しかし長年付き合ってきた結果、俺たちは奇妙な均衡を保っていた。
ところが、その均衡を壊す事件が起きた。
ある雨の日だった。
古本屋で暇つぶしをしていた俺は、一冊の本を見つけた。
表紙には刺激的なタイトル。
いわゆるエロ本である。
「やめましょう」
上半身の天使が即座に言った。
「なぜだ?」
「健全ではありません」
「気になるだろ」
「気になりません」
「俺は気になる」
下半身の悪魔はすでに興味津々だった。
俺自身も少しだけ興味があった。
少しだけ。
本当に少しだけだ。
結局、俺は買ってしまった。
帰宅して机に置く。
天使が必死に止める。
「今ならまだ間に合います」
「買ったのにもったいないだろ」
「寄付しましょう」
「意味が分からん」
悪魔は大喜びだった。
尻尾をぶんぶん振っている。
そして俺はページを開いた。
最初の数分は平和だった。
天使は目を閉じて祈っている。
悪魔は食い入るように読んでいる。
問題はその後だった。
悪魔が急激に勢いづき始めたのだ。
「ほう」
一ページ。
「なるほど」
さらに一ページ。
「ほほう」
また一ページ。
読むたびに悪魔の鱗が艶を増していく。
尻尾は竜巻のように回転し始めた。
「危険です!」
天使が叫ぶ。
「精神のバランスが崩れています!」
「大げさだろ」
俺は笑った。
だが次の瞬間。
悪魔の笑い声が部屋中に響いた。
「ハーッハッハッハ!」
床から黒い炎が噴き出す。
窓ガラスが震える。
天使は顔面蒼白だった。
「まずいです!」
「何が!?」
「悪魔側の好奇心が限界突破しています!」
どうやらエロ本の内容そのものより、「もっと知りたい」「次は何だ」という欲望が悪魔の力を増幅させているらしい。
天使は対抗して聖なる光を放った。
部屋が真っ白になる。
悪魔は黒炎で応戦した。
俺の体の中で天使軍と悪魔軍が戦争を始めたのである。
「自制心を!」
「欲望こそ進化だ!」
「理性を!」
「好奇心を!」
光と闇が激突する。
本棚が吹き飛ぶ。
観葉植物が宙を舞う。
冷蔵庫まで少し浮いた。
そして最後のページをめくった瞬間。
決着がついた。
ドォォォン!!
黒いエネルギーが天使の光を押し流した。
輪っかは斜めになり、翼はしょんぼり垂れ下がる。
悪魔は勝利のポーズを取った。
「勝った!」
「そんな……」
天使は膝をついた。
俺は恐る恐る聞いた。
「これでどうなるんだ?」
悪魔は不敵に笑った。
「世界征服だ」
「最悪じゃねえか」
だが次の瞬間、悪魔は机に向かった。
そして紙とペンを取り出した。
「まず感想文を書く」
「は?」
「分析だ。なぜ人はこういう本を読むのか。市場規模はどれくらいか。表現技法にはどんな特徴があるか」
俺も天使も固まった。
悪魔は真面目な顔でメモを書き続ける。
一時間後。
二時間後。
三時間後。
完成したのは百ページを超える研究レポートだった。
天使が呆然とつぶやく。
「欲望が知識欲に変換されている……」
悪魔は鼻を鳴らした。
「欲望は力だ。ただし方向を間違えなければな」
俺は思わず笑った。
結局、悪魔は勝った。
だが世界征服もしなかったし、暴走もしなかった。
代わりに妙な探究心を発揮しただけだった。
それ以来、天使は以前ほど悪魔を嫌わなくなった。
悪魔も以前ほど天使をからかわなくなった。
そして俺は学んだ。
天使だけでも駄目だ。
悪魔だけでも駄目だ。
大事なのは、その両方とうまく付き合うこと。
……もっとも。
後日、そのレポートが出版社の目に留まり、俺が謎の評論家としてデビューすることになるとは、このとき誰も知らなかったのである。
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