いいね、の数

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/7 📝 1,847文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIとSNSのいいねの話。

本文

 投稿する前に、必ずAIに通す。

 それが、中学二年の春から続けている柚木このはのルーティンだった。

 写真を選んで、キャプションの下書きを書いて、AIのチャット欄に貼り付ける。「この投稿を、十代女子に刺さるように最適化して」と打つ。十秒も待たずに、改善案が返ってくる。言葉の選び方、句読点の位置、ハッシュタグの組み合わせ。このははそれをほぼそのままコピーして、投稿ボタンを押す。

 効果はあった。フォロワーは半年で三倍になった。いいねの平均も、以前の倍近い。

 悪くない。全然、悪くない。

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 問題が起きたのは、十月の連休だった。

 家族で祖母の家に行って、帰りの電車の中で暇を持て余していた。窓の外を流れる景色をぼんやり眺めていたら、夕焼けが妙にきれいだった。

 なんとなく、スマホを取り出した。なんとなく、シャッターを切った。構図も考えず、フィルターもかけず、ただ窓の外の光をそのまま撮った。

 帰宅して、AIに通そうとした。

 でも、なんとなく、やめた。

 理由はうまく説明できない。この写真をAIに渡したくない、という感覚だけがあった。

 キャプションも短くした。

夕焼けがきれいだった、それだけ

 投稿して、スマホを置いた。

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 翌朝、通知を確認した。

 いいねは、いつもの半分以下だった。

 やっぱり通せばよかった、と思った。でも削除する気にもなれなかった。

 授業中、スマホをこっそり確認するたびに、数字はじわじわ増えていた。でも伸び方が遅い。AIが最適化した投稿とは、明らかに違う動き方だった。

 放課後、鞄を持って教室を出ようとしたとき、後ろから声をかけられた。

「このは、昨日の投稿見た」

 振り返ると、幼なじみの相馬れいが立っていた。

 れいとは小学校からの付き合いだ。中学で同じクラスになって、席は離れているけど、なんとなく帰り道が一緒になることが多い。

「あの夕焼け、どこで撮ったの」

「電車の中。帰り」

「そっか」

 れいはそれだけ言って、並んで歩き始めた。

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 夜、DMの通知が来た。

 相馬れいからだった。

あの投稿、これ好き

 それだけだった。

 このははしばらく、その三文字を眺めた。

 れいがこのはのSNSにリアクションしたのは、フォローして以来、初めてだった。いいねすらなかった。れいはSNSをあまり使わない。スマホを持っているのに、投稿もほとんどしない。「見るのも疲れる」と言っていた。

 AIが最適化した投稿には、れいのいいねはひとつもなかった。

 このははそのことに、今はじめて気づいた。

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 次の日、このははいつもより早く登校した。

 教室でスマホを開いて、過去の投稿を遡った。

 自分のアカウントなのに、少し他人の投稿みたいだった。言葉のひとつひとつが、どこかよそいきで、うまく着地している。写真の選び方も、光の入れ方も、どれも正しい。どれも、正しすぎる。

 このはが撮ったものなのに、このはが選んだ言葉じゃない。

 そう気づいたら、少しだけ気持ち悪くなった。

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 帰り道、れいと並んで歩きながら、このははずっと考えていた。

 聞くかどうか迷って、結局聞いた。

「ねえ、あの投稿のどこが好きだった?」

 れいは少し考えてから、答えた。

「なんか、このはっぽかった」

「このはっぽい?」

「うん。いつもの投稿ってなんか、雑誌みたいじゃん。きれいなんだけど、このはがどこにいるかわかんない感じ」

 このははその言葉を、すぐには返せなかった。

「あの夕焼けのやつは、このはが窓の外見てるのが見えた気がした。それだけ」

 れいはそう言って、コンビニの前で立ち止まった。「肉まん買う、入る?」と聞いた。

 このははうなずいた。

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 コンビニを出て、肉まんを半分に割って食べながら歩いた。

 このはは、AIに最適化をやめる、とは思わなかった。フォロワーは増えた。いいねも増えた。それは本当のことだ。

 でも、何かが少しだけ変わった気がした。

 全部通すんじゃなくて、通さないものがあってもいい。雑誌みたいな投稿の間に、このはが窓の外を見ている瞬間があってもいい。

 うまく言葉にはできないけれど、そんな感じのことを思った。

「ねえ、れい」

「ん」

「また何か撮ったら、送ってもいい? 投稿する前に」

 れいは少し間を置いてから、言った。

「AIより先に?」

「AIより先に」

 れいが笑った。このはも笑った。

 夕方の住宅街を、二人の影が並んで伸びていた。

 スマホのカメラを、このははそっと向けた。シャッターは、まだ切らなかった。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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