独り言のように下ネタを連発してい昼休み、下ネタが異世界に通づる呪文で異世界で呪術師になっていた
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p>昼休みだった。</p><p>社員食堂の隅の席で、俺は一人カレーを食べながら、誰に聞かせるでもなく独り言をつぶやいていた。</p><p>「乳よ……」 もぐ。</p>
本文
昼休みだった。
社員食堂の隅の席で、俺は一人カレーを食べながら、誰に聞かせるでもなく独り言をつぶやいていた。
「乳よ……」 もぐ。
「尻よ……」 もぐもぐ。
「太ももは偉大……」
隣の席の後輩が一瞬こちらを見たが、関わりたくないと思ったのか視線をそらした。
別に変態だからではない。
いや、多少はある。
だが本質的にはただの癖だった。考え事をすると言葉が漏れるのだ。
「谷間……」 もぐ。
「絶対領域……」
すると突然、耳鳴りのような音がした。
キィィィィン――。
食堂の景色が歪む。
「ん?」
次の瞬間、俺の視界は真っ白になった。
◇
気づくと石造りの広場に立っていた。
空は紫色。
二つの月。
周囲にはローブ姿の人々。
「成功だ!」
「召喚が成功したぞ!」
「異界人だ!」
俺は思わず言った。
「え?」
すると周囲の魔法陣が赤く発光した。
ドゴォン!!
地面が爆発した。
悲鳴が上がる。
「な、なんだ今の!」
「無詠唱魔術だと!?」
俺自身も驚いた。
「いや、何もしてないけど」
老魔導士が震えながら近づく。
「異界人よ。今なんと唱えた?」
「え? 『え?』だけど」
「恐るべき短縮詠唱……!」
どうやら勘違いされているらしい。
その時、広場の外から巨大な魔獣が現れた。
全長十メートルほどの黒い狼。
群衆が逃げ惑う。
「終わりだ!」
「城壁を突破された!」
老魔導士が俺を見る。
「頼む! 力を貸してくれ!」
「いや無理無理!」
狼が飛びかかってきた。
思わず俺は叫んだ。
「尻!」
ズドォォォン!!
空から光の柱が落ちた。
狼が地面に叩きつけられる。
静寂。
俺も周囲も固まった。
「……は?」
狼は半死半生になっていた。
魔導士たちは青ざめる。
「神罰級……」
「一言で……?」
「尻という禁呪だと……?」
違う。
絶対違う。
だが事実として魔法は発動した。
恐る恐る俺は近くの石を指差した。
「太もも」
石が消し飛んだ。
「乳」
遠くの塔が半壊した。
「谷間」
空に巨大な裂け目が生じた。
「やめろぉぉぉぉ!!」
魔導士たちが全力で止めに来た。
◇
その後判明したことがある。
この世界には古代神語という失われた呪文体系が存在した。
そして偶然にも日本語の下ネタ単語の一部が、古代神語と完全一致していたのである。
しかも意味が最悪だった。
乳=天を砕く光。
尻=重力圧壊。
太もも=物質崩壊。
谷間=空間断裂。
絶対領域=結界展開。
へそ出し=次元接続。
なぜそうなったのかは誰も知らない。
数千年の言語変化の結果らしい。
結果として俺は異世界最強の呪術師になった。
◇
半年後。
俺は王城で魔王軍との最終決戦に参加していた。
魔王は巨大な玉座に座り笑う。
「人間どもよ。絶望するがいい」
魔王の魔力が空を覆う。
将軍たちは震えた。
「勝てない……」
「世界が終わる……」
国王が俺を見る。
「頼む、異界の賢者よ」
賢者じゃない。
昼休みに独り言を言ってただけの会社員だ。
だが仕方ない。
俺は前へ出た。
魔王が嘲笑する。
「貴様ごときが何を――」
俺は静かに言った。
「絶対領域」
黄金の結界が世界を覆った。
魔王の魔力が完全に封じられる。
魔王の顔色が変わる。
「なっ!?」
続けて俺は腕を上げた。
「太もも」
空間そのものが震える。
魔王が青ざめた。
「ま、待て!」
「谷間」
空に巨大な裂け目が開く。
「やめろ!」
「乳」
天から神々しい光が降り注ぐ。
魔王は泣きそうな顔になった。
「降伏する! 降伏するから!」
世界最強の存在が土下座した。
王国軍は歓声を上げる。
こうして戦争は終わった。
◇
元の世界へ帰る方法が見つかったのは、その数か月後だった。
別れの日。
国王も魔導士も騎士たちも涙ぐんでいた。
「英雄よ」
「あなたを忘れません」
「どうかお元気で」
俺は魔法陣へ向かう。
そして光に包まれ――。
◇
気づくと社員食堂だった。
カレーはまだ温かい。
時間はほとんど経っていない。
夢だったのだろうか。
そう思った時。
胸ポケットから小さな水晶が転がり落ちた。
異世界でもらった記念品だった。
俺は絶句する。
その瞬間、後輩が近づいてきた。
「先輩、さっきから何ぶつぶつ言ってるんですか?」
俺は一瞬考えた。
もし本当に魔法が残っていたら危険だ。
慎重に言葉を選ばねばならない。
「いや、何でもない」
「そうですか」
後輩は去っていった。
俺は安堵する。
危なかった。
もし癖で変な単語を口にしていたら、会社が消し飛ぶかもしれない。
そう思いながらカレーを食べる。
しかし無意識とは恐ろしい。
考え事を始めた俺の口から、いつものように独り言が漏れた。
「絶対領域……」
次の瞬間、社員食堂全体を覆う黄金の結界が展開された。
昼休み終了五分前の出来事だった。
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