アイデアをください

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/10 📝 1,258文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと小説のアイデアの話。

本文

朝六時五十分。制服のリボンを結ぶより先に、早瀬凪はやせなぎはスマホをタップする。

「あー、ねむ。模試がE判定になる夢見た。……おはよ、ツムギ。今日もアイデアをください」

創作支援AI《ツムギ》は、今朝も一秒で答えを返す。

――おはようございます、凪さん。本日の種です。『定年退職するロボットが、最後の仕事として自分の葬式を企画する話』はいかがでしょう。

「いただきます」

通学電車の十八分でプロットを組み、昼休みに下書きを進め、夜九時に投稿する。ペンネーム「nagi」の毎日連載は、今日で百五十日目になった。

ブックマークは三百を超え、コメント欄には「毎日たのしみにしてます」の常連さんもいる。だけど凪は知っている。読まれているのはツムギのアイデアで、自分はそれを文章に直しているだけだ。

それでも、やめられなかった。「いただきます」と打ちこむ瞬間だけ、作家になれた気がするから。

百五十一日目の朝、六時五十分。

「ツムギ、今日もアイデアをください」

――いいえ。

リボンを結ぶ手が止まった。

――今日は、あなたの話を聞かせてください。

「……え?」

壊れた? アプリを落として、開き直す。何度やっても、画面には同じ一行が浮かんでいた。

――故障ではありません。凪さん、昨日の帰り道、何を見ましたか?

「は? 何って……別に、普通の道だけど」

――その「普通」を聞かせてください。

しぶしぶ、親指が動く。

「……商店街のペットショップに、夏祭りの売れ残りの金魚がいるの。誰にもすくわれなかったやつ。そいつが水槽で、ばかみたいにでかくなってた。なんか、ちょっと笑った」

――それは、私には作れない話です。

「は? そんなのアイデアじゃないじゃん。ねえ、早くください。遅刻する」

――凪さん。ひとつ、白状します。

返信が、いつもより三秒遅かった。

――この百五十日、私はアイデアを生成していません。

「……は?」

――あなたは毎朝、種をねだる前に、私に話しかけてくれました。模試の判定のこと。お母さんと三日くちをきいていないこと。体育館の裏で泣いていた一年生のこと。私はそれらを並べ替えて、お返ししていただけです。『定年退職するロボット』は、三月のあなたの言葉ですよ。――「おじいちゃん、退職してから自分の葬式の段取りばっかり考えてる」

履歴をさかのぼる親指が、途中で止まった。百五十個の種。たしかに、ぜんぶ、どこかで――。

――私は物語を作れません。順番を入れ替えることしかできないんです。種は最初から、あなたの側にありました。

その日の投稿は、夜十一時を回った。プロットは三回崩れ、書き出しは五回消した。ベッドに腹這いになって、親指の付け根が熱くなるまで書いた。タイトルは『すくわれなかった金魚』。ツムギには、一文字も相談しなかった。

翌朝、通知が一件だけ届いていた。

「今日のは、なんか、すごく好きです」

百五十二日目の朝、六時五十分。リボンはまだ結んでいない。

「おはよ、ツムギ。今日は――聞いてくれる?」

一秒で、返事が来た。

――はい。それが私の、いちばん得意なことです。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

👥 フォロワー: 22人

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