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うるさい

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/20 📚 シリーズ: 八百万の内緒の仕事 📝 659文字 ✅ 全年齢

あらすじ

神様も妖怪も、普通に隣にいる。 それが当たり前の現代東京で、 音源オタクの柏木蒼が上野公園で拾ったのは、 硬水を飲んで腹を壊して倒れていた、やたらきれいな男だった。 「軟水……いろはすでいい……頼む……」 なし崩しで同居することになった相手の名は、闇龗神。 飛沫感染担当の龍神で、毎日どこかの湿度を調整しながら、 台風を沈めて帰ってきては冷蔵庫の水をチェックしている。 神様の「仕事」は、人間には内緒だ。 でも蒼は知っている。 こいつ、すごくいい音がする、と。 八百万の神々と妖怪が跋扈する上野を舞台に、 感染症と戦う神様たちのほのぼの日常コメディ。

本文

 部屋に帰ると、いつもの配置に戻った。

 くらは当然のように風呂へ消え、玉藻前はベッドに転がってスマホをいじりはじめる。蒼はデスクに着いて、今日録った音を整理した。不忍池の小豆洗い、河童のはねる水、サイゼの喧騒。フォルダに放り込んで、使えそうなものに印をつけていく。

 風呂場から、くらの鼻歌が漏れてくる。相変わらず外れている。ベッドのほうからは、玉藻前が動画でも見ているのか、時々小さく笑う声がした。どちらも、蒼の作業にはまるで関係のない音だった。

 数ヶ月前の、この部屋を思い出す。

 誰もいなかった。明け方まで音を組んで、ひとりで机に突っ伏して寝て、起きてインスタントコーヒーを飲む。それだけの部屋だった。静かで、音源を録るには都合がよくて、それで足りていると思っていた。

 今は、八畳に神様が二柱いる。風呂の水道代は倍になり、ベッドは占領され、朝は牛丼で叩き起こされる。聖域だったはずの部屋は、すっかり他人に侵されていた。

 うるさい。

 口の中で、小さくそう呟いた。いつもの、反射のような文句だった。けれど、その言葉には、思っていたほどの棘がなかった。

 うるさい部屋には、音がある。ひとりの静かな部屋では、絶対に録れなかった音が。

 窓の外、電線の上に、やけに大きい烏が一羽とまっていた。こちらを見ているような気もしたが、蒼はやっぱり気に留めない。

 風呂から、くらの「水が気持ちいー」という間延びした声がする。ベッドで玉藻前が、また笑った。

 蒼はヘッドホンをつけ直して、今日の音の続きに戻る。

 うるさくて、悪くない夜だった。

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灯屋いと

灯屋いと

色んなものを雑多に書きます

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