いい子を降りる勇気

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/24 📚 シリーズ: ちゃんと戻る、っていう希望 📝 2,083文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

主人公の「俺」と同居恋人の千紗が、毎日のモヤモヤや刺さった気持ちを、合言葉と小さな合図で、暗くならないようにほどいていく連作です。 仕事の失敗、待たされる焦れ、二択の迷い、理不尽、家族の距離、言えない「好き」みたいな“よくあるけど地味に重い”出来事を、会話と行動でちょっとずつ整えて、最後はちゃんと前に進める形にしていく、生活系の短編つながり。

本文

「いい子だね」

その言葉が嫌いだ。

嫌いなのに、嬉しくなる癖がある。

嬉しくなるから、もっと頑張ってしまう。

頑張ると、息が浅くなる。

息が浅くなると、顔が笑ったまま固まる。

固まった顔は、だいたい誰にも気づかれない。

だから私は、今日、ひとつだけ決めた。

“いい子”を休む。

朝、家を出る前に鏡を見て、私は自分に小さく言った。

「今日は、いい子しない」

言った瞬間、心臓が少しだけ軽くなった。

軽くなると同時に、怖さも湧く。

“いい子”をやめたら、嫌われる。

そう思い込む癖がある。

でもそれも、癖だ。癖なら、直せる。

会社に着く。

私は受付の笑顔を作る。

作るけど、いつもより薄め。

薄めにすると、顔の筋肉が楽だ。

楽だと、目がちゃんと見える。

目が見えると、周りの空気も見える。

同僚の佐倉さんが、朝一で言った。

「ごめん、これ今日中にお願いできる?」

いつもの私なら、反射で頷く。

頷いて、後で自分のタスクが燃える。

燃えると、夜に泣きそうになる。

泣きそうになっても、“いい子”は笑う。

笑うと、誰も助けてくれない。

助けてほしいのに、助けてと言えない。

だから今日は、呼吸してから言った。

「今日中は厳しいかも。

私、午前に締め切りが重なってる。

明日の午前ならできる。どうする?」

言った。

言えた。

世界が壊れなかった。

佐倉さんは一瞬きょとんとして、それから頷いた。

「そっか。じゃあ明日で。ありがとう」

ありがとう。

断ったのに、ありがとうが返ってくる。

その事実が、私の中の“嫌われる”を少し溶かした。

嫌われない。

少なくとも、今ここでは。

午前の会議。

上司が「これ、誰か手が空いてる?」と訊く。

空いてないのに、私はいつも手を挙げてしまう。

挙げると、上司は安心する。

安心する顔を見ると、私は“いい子”として満たされる。

満たされる代わりに、家で空っぽになる。

今日は、手を挙げなかった。

沈黙が一秒、二秒。

空気が少しざわっとする。

そのざわっが怖い。

でも、怖いまま座っていた。

すると、別の人が手を挙げた。

世界は回る。

私が“いい子”をやらなくても、回る。

回る世界に、私は今まで勝手に責任を背負っていた。

昼休み、私はコンビニで小さなチョコを買った。

ご褒美じゃない。

予防だ。

“いい子”を休む日は、罪悪感が後から追いかけてくる。

追いかけてくる前に、甘さで足止めする。

午後、上司に呼ばれる。

呼ばれるだけで、心臓が縮む。

縮むのは、叱られる予感じゃなくて、褒められる予感のせいだ。

褒められると、また“いい子”が起動する。

起動したら、今日の私が負ける。

「最近、よく回してくれて助かってる」

上司が言った。

来た。

褒め言葉の罠。

私は笑顔を作りかけて、止めた。

止めて、代わりに言った。

「ありがとうございます。

でも、最近ちょっと回しすぎてます。

私、残業が続いてて、正直しんどいです」

自分でも驚くくらい、声が真っ直ぐだった。

言った瞬間、胸の奥が熱くなる。

熱いのは、怖いから。

怖いのは、ちゃんと大事だから。

上司は眉を上げた。

でも、怒らなかった。

怒らない代わりに、頷いた。

「そうか。

気づいてなかった。すまん。

調整しよう。優先順位、出せる?」

また、世界が壊れなかった。

それどころか、世界が少しだけ優しくなった。

優しくなったのは、私が“いい子”をやめたからだ。

皮肉だけど、本当だ。

定時。

私は席を立った。

席を立つ時、周りを見た。

“いい子”なら、最後に誰かの仕事を手伝ってから帰る。

今日は帰る。

帰るのも、仕事だ。

「お先に失礼します」

声が震えない。

震えないのが嬉しい。

嬉しいけど、帰り道で罪悪感が追いかけてくる。

ほら来た。

“いい子”の亡霊。

私は駅前のベンチに座って、深呼吸した。

罪悪感は、慣れない靴擦れみたいなものだ。

新しい歩き方をすると痛む。

痛むけど、歩ける。

歩けるなら、慣れる。

スマホが鳴る。

恋人の千紗から。

『今日はどう?』

私は少し考えて、送った。

『今日は、いい子休んだ』

すぐ返事。

『最高。帰ってきたらプリン食べよう』

プリン。

私の生活は最近、甘いもので救われがちだ。

甘いものは、努力の味方だ。

努力って、頑張ることだけじゃない。やめる努力もある。

帰宅。

鍵。

カチッ。

千紗が「おかえり」と言って、テーブルにプリンを二つ置いていた。

私は靴を揃えながら言った。

「今日、断った」

「何を?」

「今日中のお願い。

あと、上司にしんどいって言った」

千紗が目を丸くして、それから笑った。

「えらい」

その“えらい”は、罠じゃない。

“いい子”を強制する言葉じゃない。

ただ、私の選択を見てくれる言葉だ。

「……いい子じゃなくて?」

私が聞くと、千紗は首を振った。

「いい子じゃない。

ちゃんとした大人」

ちゃんとした大人。

その言葉のほうが、ずっと嬉しい。

嬉しいのに、胸がきゅっとなる。

きゅっとなるのは、古い癖がほどける音だ。

プリンを食べながら、私は言った。

「明日も、いい子休んでいい?」

「いいよ。

でも、刺さったら合言葉」

「凹凸?」

「うん」

私は笑って頷いた。

今日は、いい子しない日。

その代わり、ちゃんと呼吸する日。

ちゃんと断る日。

ちゃんと帰る日。

いい子でいるより、ずっと難しい。

難しいけど、たぶん、私はそのほうが好きだ。

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AIランタイムオーバーレイ公開 チャットAIマウント型ランタイム 個体名: DS90 設計さん BL90 司書さん PW90 執筆さん TS90 修正刃さま NW22 野良ちゃん...

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