跳ね癖の続編は“道”を手に入れる

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/9 📚 シリーズ: ちゃんと戻る、っていう希望 📝 2,390文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

主人公の「俺」と同居恋人の千紗が、毎日のモヤモヤや刺さった気持ちを、合言葉と小さな合図で、暗くならないようにほどいていく連作です。 仕事の失敗、待たされる焦れ、二択の迷い、理不尽、家族の距離、言えない「好き」みたいな“よくあるけど地味に重い”出来事を、会話と行動でちょっとずつ整えて、最後はちゃんと前に進める形にしていく、生活系の短編つながり。

本文

翌日、千紗は帰宅してすぐに、靴を揃えた。

昨日より丁寧。

丁寧さは鎧じゃなく、手順として戻ってきている。

「ただいま」

「おかえり。……今日はどうだった、ラビットマンII」

俺が言うと、千紗は玄関で一度だけ笑って、でもすぐ真面目な顔に戻った。

「今日、IIだった。

昨日のうさぎ、耳が伸びた」

「耳が伸びた」

「うん。

跳ねたんだけど、今日は“跳ねる理由”が聞こえた」

受信機が、ピッと点灯する。

今日の千紗は“刺さり”より“分析”の声が先に来る。

それは回復の兆しだ。

「詳しく」

千紗はコートを脱いで、テーブルの端に置いた。真ん中じゃない。

生活の真ん中に外の気配を置かない配置。いい。

「午前中、また来たの。

『これ今日中』『あれ今すぐ』『ついでにこれも』の三連ぴょん」

「三連ぴょん」

「うん。でも昨日みたいに跳ねなかった。

私、言えたの」

千紗は胸の前で小さく拳を握って、鈴を鳴らす仕草をした。

昨日の合図が、体に入っている。

「何を言った?」

千紗は息を吸って、短く言った。

「『速く出すために、優先順位だけ確認させてください』」

「出た。ラビットマン対策班」

「うん。

そしたら上司がさ、最初ちょっと嫌な顔して、

でも次の瞬間、『あ、じゃあ先にこれ』って言った」

“嫌な顔”は来る。

でもそれで終わらないのが大事。

現実はいつも、一拍目が怖い。

「で?」

「で、私、思った。

上司もラビットだった」

「……上司も?」

「うん。

上司の『今すぐ』って、不安の叫びだった」

昨日の言葉が、今日の千紗の中でちゃんと生きている。

受信機が、相手の叫びを拾う装置として動いた。

俺はテーブルに鈴を置いて、ちりんと鳴らした。

武器。背中を押す合図。

「さぁ。IIは“マップ”を手に入れる回だな」

「マップ?」

「うん。

Iは着地を覚えた。

IIは、跳ねる前に“どこに跳ぶか”を決める地図」

千紗は頷いて、リビングの椅子に座った。

座れる。着地できる。

スーツうさぎのキーホルダーは、今日もテーブルの端に置かれた。

「今日のラビットマンII、何が刺さった?」

千紗の眉間に、薄い線。

線は握れる。いい線。

「午後ね。

後輩がミスして、私に泣きながら来たの。

昨日のミス・リグレットの続編みたいに」

「うん」

「私は助けたい。

でも私も締切がある。

で、また跳ねそうになった。

“今すぐ助けるか、今すぐ仕事するか”の黒か黒か」

来た。BLACK or BLACKの変奏。

ここで“椅子”が効く。

チッが舌の裏に浮いた。

俺は歯の裏で止める。今日は千紗の話を丁寧に受ける。

チッ=ブザー。凹凸。

「凹凸」

千紗も小さく言った。

自分で手すりを掴めた。IIだ。

「で、どうした?」

千紗は少し照れた顔をして、言った。

「“椅子”置いた」

「具体的に」

「後輩に言った。

『今、三分だけ話して。泣きながらでいい。

そのあと、私は十五分だけ自分の締切に戻る。

戻ったら一緒に確認する』って」

……それ。

助けるか断るかじゃなく、助け方の形。

優しさ=線+手すり。

ここまで繋がってる。

「後輩、どうだった」

「泣きながら『はい』って言った。

たぶん、“見捨てられてない”って分かったんだと思う」

「千紗も?」

「私も、折れなかった。

跳ねそうだったけど、着地できた」

俺は冷蔵庫からりんごを出してきた。

今日も食感で割る。確認の儀式みたいに。

「シャク、いる?」

「いる」

千紗がかじる。

シャク。

音が、今日の午後の黒か黒かにスリットを入れる。

薄い隙間ができると、黒は扱える黒になる。

「じゃあ、ラビットマンIIの取扱説明書、更新しよう」

「また手順」

「手順は地図」

俺はメモを出して書き足す。

『ラビットマンII(マップ版)

A) 跳ねる前に“次の着地点”を決める(1歩だけ)

B) 三分の受信→十五分の戻り(椅子)

C) 優先順位を聞く(線)

D) “相手の今すぐ”は不安の叫び(受信機)

E) 合言葉:着地/凹凸

F) 合図:鈴さぁ

G) 食感:シャク』

千紗はメモを覗き込みながら、ぽつりと言った。

「ねえ。今日、うさぎの耳が伸びたって言ったけどさ」

「うん」

「耳が伸びたら、跳ねなくて済む瞬間が増えるんだね」

「そう。

跳ねるのは、聞こえてないから怖い。

聞こえたら、選べる」

千紗は少し黙ってから、スマホを取り出した。

画面を見て、でもすぐ裏返した。真ん中じゃなく、テーブルの端に置く。

“メッセージ”の回の手順が生きている。

「今日ね、上司から既読ついた」

「お」

「既読ついた瞬間、私、ちょっと嬉しかった。

でも同時に、怖かった」

「怖い?」

「既読がつくと、“今すぐ返さなきゃ”って思う癖がある。

また跳ねそうになる」

うさぎは、外にも内にもいる。

だから地図が必要だ。

「既読ラビット対策も入れよう」

「既読ラビットって言うな」

「ダサいのが効く」

千紗が笑いそうになって、止めた。寄せすぎない。いい。

「対策はこう」

俺は短く書く。

『既読ラビット対策:

・返信は“即”じゃなく“着地してから”

・一言返しで椅子:「確認します。◯分後に返します」

・凹凸→さぁ→返信』

千紗はそれを見て、うなずいた。

「……『確認します。30分後に返します』なら、言える」

「言える。それが地図」

千紗は鈴に指を伸ばし、ちりんと鳴らした。

「さぁ」

「さぁ」

「ねえ」と千紗が言う。「ラビットマンII、最後に合言葉増やしたい」

「いいね。短いやつ」

千紗はりんごをもう一口。シャク。

そして言った。

「……『マップ』」

「そのまま?」

「うん。

跳ねそうになったら『マップ』って言う。

どこに跳ぶか、先に決める」

「最高。合言葉、マップ」

「マップ」

「凹凸」

「凹凸」

俺は鈴を鳴らした。ちりん。

「さぁ」

スーツうさぎは、今日もテーブルの端で静かに座っている。

跳ねないうさぎ。

跳ねる心を責めないうさぎ。

耳が伸びて、地図を持って、迷いながらも着地できるうさぎ。

続編はいつも、前作の痛みの上に立つ。

でもそれは暗い続きじゃない。

“できた”が一つ増えた続き。

ラビットマンIIは、跳ねながら迷わない。

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