【欄】と、掲示板が増える日

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/25 📚 シリーズ: 泣かせない係のおねぇちゃん、世界を盛りすぎる 📝 5,438文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

真昼山の山頂に、ひとりの子どもが降り立った。 名はハル。泣きそうなほど眩しい朝日を見上げたその瞬間、世界は“きれいすぎる”方向へ盛られてしまう。音は響きすぎ、匂いは良すぎ、善意は増えすぎる。 原因は神界の「泣かせない係」。 生活感のあるお役所みたいな職員室で、主犯神アマネが今日も宣言する。 「おねぇちゃんに、まかせて!」 涙ゼロを目指すあまり、世界を盛りすぎて大パニック。ゆれりんが鳴れば朝礼集合、盛っては直して反省会。なおし係まで巻き込まれ、業務はいつも過多になる。 一方、地上では麓の共同保護の家「結び家」が、飯と湯と順番で今日も回る。 パニックは去らない。だけど生活に編み込めば、笑って眠れる。 泣かせないおねぇちゃんと、泣く暇のない日常が出会う、ドタバタほのぼのハイファンタジー。

本文

織帳院の朝は、だいたい「貼ったもの」から始まる。

貼ったものが多い日は、だいたい「泣いたもの」も多い。

申請受付審査室。

はんこ係のチヨは、机に突っ伏していた。

突っ伏していると言っても、寝ているわけではない。

肩が小刻みに揺れている。

机の上には、角が揃った紙束と、角が揃っていない紙束と、揃える努力だけが残った紙束が、三すくみをしている。

「……いや……いやぁ……」

泣き崩れている。

ただし、悲劇の泣きではない。

業務の泣きである。

壁の方から、無言の圧が来ていた。

職員室側の掲示板。

いや、今日はもはや「掲示板」ではない。

「壁」だ。

張り紙が、端から端まで、隙間なく並んでいる。

並び方だけ無駄に綺麗だ。

上の列の角と下の列の角が、そろっている。

そろっているのに、なぜか目が痛い。

目が痛いのは、内容が全て同じだからだ。

いちばん上。いちばん太い字。

まるで今日の天気。

『欄の増殖は申請では止まらない』

太い。

太いのに、言い訳がましい。

言い訳がましいのに、完全に負けを認めている。

認めた上で、まだ増える。最悪。

机の横では、現象スタンプ【欄】が、妙に元気に待機していた。

四角い枠の中に、四角い「欄」。

シンプルで、憎い。

チヨが涙目でスタンプ台を抱きしめる。

「【欄】……押しても……押しても……増えるんですぅ……」

「押すな」

どこからか、乾いた声が飛んだ。

マドカだ。扉の外、まだ部屋に入っていない位置から言う。距離があるのに刺さる。経験がある声。

「押さないと……報告が……」

「押すと増える日がある」

「今日がその日なんですぅ……!」

チヨの敬語が、崩れて戻らない。

崩れた敬語が机に落ちて、机がまた濡れる。濡れると紙が重い。紙が重いと角が揃わない。角が揃わないと泣く。無限。

その時、扉が勢いよく開いた。

「チヨー! おはよー!」

主犯神アマネだった。

元気。明るい。涙ゼロを目指して周囲の涙を増やすタイプの元気。

胸を張って、いつもの決め台詞を放つ。

「おねぇちゃんに、まかせて!」

「まかせた結果がこれですぅ……!」

チヨが机に突っ伏し直した。二回目の崩落。

崩落が二回目になると、部屋全体が少しだけ慣れる。慣れるな。

アマネは壁を見て、きらきらした目で言った。

「わぁ……欄、いっぱい!」

「いっぱいじゃない。埋まってる」

マドカが返す。

「埋まってるなら、増やせばいいじゃん」

「増やすな」

「増やしてないよ? 増えてるだけだよ?」

「増えてるのを触るな」

「触らないと、整わないよ?」

正論で殴るな。

ここは職員室だ。

職員室は戦場じゃない。戦場じゃないからこそ、正論が刺さる。

アマネはチヨの机の上の紙を一枚つまんだ。

つまんだ瞬間、紙の余白が、ふわり、と広がった。

広がったのは紙じゃない。

罫線だ。

縦の線が一本、勝手に増えた。

横の線が一本、勝手に増えた。

枠が生える。欄が生える。

音がしないのが、いちばん怖い。

「ほら見て! 欄、増えた!」

「増えたを喜ぶな」

マドカが即座に刺す。

「でも欄が増えたら、書けるところが増える!」

「書くところが増えるから泣いてるんだ」

ナギが入ってきた。案件次第で叱り梯子の途中に立つ人。今日は顔が半分だけ疲れている。

チヨが涙目で顔を上げた。

「……角が……角が揃わないぃ……」

机の上の三すくみが、今日も絶望的に仲良しだ。

揃っている紙束。

揃っていない紙束。

揃える努力だけが残って、なぜか欄が増えた紙束。

アマネが、両手を合わせた。

やめろ。その手はだいたい世界を盛る手だ。

「じゃあさ、欄が足りないなら、欄を足す!」

言い切った。

堂々と。

賢くない笑顔で。

「足すな」

「足すな」

「足すなぁ……!」

マドカとナギとチヨが、三重に言った。

三重の即答は強い。

なのに、アマネは首を傾げる。

「え、でも、足りないんだよ? ほら、ここ! ここの欄、もう一列増やせる!」

「増やすな」

「増やせるって言ったのに」

「言うな」

言葉の順番が、完全に負けている。

負けているのに、アマネは元気だ。元気が一番しぶとい。

そこへ、廊下から「ごろごろ」という音が来た。

台車の音だ。

職員室に台車が来る日は、だいたい何かが増える。今日はすでに増えている。増えるな。

扉が開いて、主任級が持ち回りで運ぶ担当の人が、台車を押して入ってきた。

今日は誰だ。今日は……名札が見えない。見えない方が楽だ。名を増やすな。

「……届きました」

担当が言った。

「何が」

マドカが嫌そうに聞く。

「掲示板です」

掲示板。

新しい掲示板。

壁がすでに掲示板なのに、掲示板が増える。

職員室は、矛盾を矛盾のまま通す場所だ。最悪。

台車の上には、木枠の板が乗っていた。

四角い。綺麗。

綺麗なのがいちばん怖い。綺麗なものは、汚れる未来が確定している。

チヨが涙目のまま、板を見た。

「……角……」

「見るな」

ナギが言った。

「チヨの角欲が起きる」

「角欲って何ですかぁ……!」

チヨが叫びかけて、自分で口を押さえた。今日は声量も崩れている。

アマネが、掲示板に手を伸ばした。

伸ばすな。

伸ばすと、増える。

「わぁ! これがあれば、欄をまとめて貼れるね!」

「貼るな」

「でも貼らないと、壁が埋まって……」

「もう埋まってる」

マドカが淡々と言い切る。

言い切りが乾いている。乾いているのに、壁の紙の湿気で少しだけ柔らかく聞こえるのが悔しい。

アマネは掲示板をじっと見た。

見ている顔が、完全に「欄を作る顔」だ。

「……ねえ」

アマネが言った。

嫌な予感が立つ。

予感が立つと、ゆれりんが揺れる。揺れる前に止めろ。

「掲示板ってさ、板でしょ?」

「そうだ」

「板ってさ、線が引けるよね?」

「引くな」

マドカが早すぎる。反射神経が職員室向き。

だが、アマネは止まらない。

止まらないのに、本人は止めているつもりの顔をする。危ない。

「線を引いたら、欄になるじゃん!」

「なるな」

「欄になるなら、欄を足せるじゃん!」

「足すな」

「足すって言うな」

「……でも足りないなら」

アマネの目がきらきらした。

「欄が足りないなら、欄を足す!」

二回目。

確定。

確定は、事故の合図。

チヨが机に突っ伏して呻いた。

「……角が……角が揃わないぃ……」

なぜ角が揃わないのか。

理由は簡単だ。

揃えようとすると、欄が喜ぶからだ。

紙束の角をトントンと揃える。

揃った瞬間、紙の横腹から罫線が増える。

罫線が増えると紙が微妙に広がる。

広がると、次の一枚と角が揃わない。

揃えようとすると、また欄が増える。

無限。

欄が、無限。

「張り紙、見たか」

ナギが掲示板の一行を指差した。

太い字。太い負け。

『欄の増殖は申請では止まらない』

「止められないのに、なぜ増やす」

マドカがアマネを見た。

「増やしてないよ?」

アマネが胸を張る。

「増えてるだけだよ?」

「増えてるのを触ってる」

「触ってないよ? 整えてるだけだよ?」

「整えるな」

整えるな、が今日の合言葉になっている。

合言葉が増える日は、だいたい仕事も増える。最悪。

その時、ゆれりんが、りん、と鳴った。

職員室全体が一瞬だけ止まる。

止まってから、みんな同じ方向を見た。

外直結の方。

つまり、現象が外へ漏れる前に処理しろ、の合図。

漏れる前に、って言うが、すでに漏れている気がする。気のせいであってくれ。

「……ゲン、来る」

ナギが呟いた。

「ゲン印【幸】は、まだ早い」

マドカが言う。

「早いのに呼びたくなるのがアマネだ」

「呼びたくならないよ!」

アマネが元気に否定した。

否定が元気だと、だいたい呼ぶ。

チヨが涙目でスタンプ台を見つめた。

現象スタンプ【欄】。

押したい。押さないと報告ができない。押すと増える。

板も来た。掲示板も来た。欄も増える。

泣く。

「……押していいですかぁ……」

「押すな」

「押さないと……」

「押すと増える」

「もう増えてますぅ……!」

泣きの方向が確定している。

確定しているのが、ある意味で強い。

強いけど、救ってほしい。

そこへ、職員室の奥から、にこにこが来た。

「おはようございます」

院代。

にこにこ怖い。

男性陣は「先生」、女性陣は「にこちゃん先生」と呼ぶあの人だ。

にこちゃん先生は、机の上の紙束と、壁の張り紙と、新しい掲示板を一度に見た。

一度に見て、にこにこしたまま、頷いた。

「……増えていますね」

一言だけ。

一言だけなのに、全員が背筋を伸ばす。

職員室は、生活の場所だ。生活の場所にも、たまに“先生”がいる。怖い。

にこちゃん先生は、にこにこしたまま、新しい掲示板の前に立った。

板に手を触れない。

触れないのに、板の縁を見ている。

縁が綺麗だと、角を揃えたくなる。

角を揃えると、欄が喜ぶ。

チヨが泣く。

だから、見ているだけ。

「掲示板は、貼る場所ではなく、置く場所にしましょう」

短い指示。

説明じゃない。

指示は増えない。増えないのが救い。

ナギがはっとした顔をした。

「置く、か」

マドカが頷く。

「貼るから増える。置くなら増えない……たぶん」

「たぶんって言うな」

チヨが泣き声で突っ込んで、また自分で口を押さえた。崩れた敬語が今日も暴れる。

アマネは掲示板の前で、両手を合わせた。

合わせるな。

合わせると、世界が盛られる。

だが、にこちゃん先生が見ている。今日は盛り方を間違えると怒られる。たぶん。

「じゃあ、置くために……欄を足す!」

「足すな」

マドカが即座に刺す。

「欄がないと置けないよ?」

「置ける」

にこちゃん先生が、にこにこで言った。

その一言で、アマネの口が閉じた。先生は強い。

掲示板の前に、机から紙束が運ばれる。

運ぶのはナギ。

チヨは触らない。触ると泣く。

マドカは遠くから監督する。監督がいちばん安全。

紙束が掲示板の下段に置かれた。

置かれた瞬間、紙の罫線が、ふわり、と増えた。

増えたのは紙じゃない。

欄だ。欄だけだ。

「……ほらぁ……」

チヨが泣き声を漏らす。

「増えても、置いたままなら角は揃う」

ナギが言う。

「揃う……?」

「揃っているフリができる」

マドカが淡々と補足する。

揃っているフリ。

職員室の最終兵器。

チヨの肩が、少しだけ下がった。

泣きが止まりかける。

止まりかけると、アマネが余計なことを言いたくなる。最悪。

「じゃあ、掲示板の中にも欄を作ったら、もっと揃うよね!」

「作るな」

「でも、板って線が引けるし」

「引くな」

ツッコミが追いつかない。

追いつかないと、アマネが勝つ。

勝たせるな。今日は欄が勝ってるだけで十分だ。

そこへ、廊下から、重い足音が来た。

来る。来るやつだ。

空気が「来る」に変わる。

扉が開いて、ゲンが入ってきた。

ゲン印係。

ハンコの中でも、判定の方のハンコ。

朱肉の匂いが、職員室の空気を一段だけ「終わり」に寄せる。

「まだ終わってない顔だな」

ゲンが言った。

「終わってません……!」

チヨが即答する。泣き声が混ざっている。

「終わってません」

マドカも言う。乾いている。

「終わらせないよ!」

アマネが元気に言う。元気が余計だ。

ゲンは壁を見た。

張り紙が隙間なく並ぶ。

並び方だけ無駄に綺麗。

掲示板が増えた。

欄は増え続ける。

職員室は今日も負けている。

「……よし」

ゲンが短く言った。

短い「よし」は怖い。

怖いのに、なぜか救われる。

終わりの匂いがするからだ。

ゲンは朱肉を開けた。

赤が見える。

赤が見えると、人は勝手に「もう大丈夫」と思う。

思うと、気が緩む。

緩むと、アマネが――。

「ゲン印、押したら終わり?」

「終わりにする」

ゲンが即答した。

「早い!」

マドカが言う。

「早いのに終結判定出すのがゲンだ」

ナギがぼそり。

「違う。出せる時に出す」

ゲンは淡々と返した。淡々がいちばん強い。

チヨが涙目で、でも少しだけ期待の顔をした。

期待は危ないが、今日は許す。

今日は泣き崩れの日だ。救いが必要だ。

ゲンは、机の上の紙束を一枚だけ引いた。

引いた瞬間、罫線が増えた。

欄だけが増えた。

増えた欄が、紙の端まで達して、角がふわっとずれた。

チヨが「ぁ」と声にならない声を出した。

角が揃わない。角が揃わないと泣く。泣くな。

「角は揃わない日だ」

ゲンが言った。

言い切りが、なぜか優しい。

優しいのに雑。雑なのに助かる。

ゲンは、印を構えた。

朱肉をつける。

紙の上へ。

そして、どん。

ゲン印【幸】。

赤が、綺麗に乗った。

綺麗に乗るのが、むかつくくらい気持ちいい。

欄が増えても、赤は増えない。

増えないものが一つあると、人は立て直せる。

ゲンが、職員室に向けて言った。

「終いが良ければそれでよし!」

雑だ。

雑なのに、空気がふっと軽くなる。

軽くなると、チヨの肩が下がる。

肩が下がると、泣きが収まる。

収まったところで、アマネが胸を張った。

「ほら! おねぇちゃんに、まかせて!」

「任せた範囲を覚えてください!」

チヨの声が、泣き声じゃなくなっていた。

怒り声に近い。怒れるなら勝ちだ。

にこちゃん先生が、にこにこしたまま頷いた。

「……よし。生きていますね」

その一言で、職員室の「終わり」が確定した。

掲示板は置く場所になった。

壁の張り紙は増えたままだ。

欄は増え続ける。申請では止まらない。

でも、朱が乾いた。

乾いた朱は、今日の勝ちの印だ。

ゲンが朱肉を閉めながら、最後にもう一度だけ言った。

「よし。次」

次。

職員室の次は、だいたいまた事故だ。

事故でも、湯は沸く。

沸くなら、回る。

チヨは机に突っ伏さずに、椅子に座り直した。

座り直せたなら、今日は勝ちだ。

壁の一行が、太い字で見下ろしている。

『欄の増殖は申請では止まらない』

止まらないなら、止まらないまま回す。

回すのが職員室の生活だ。

アマネが小さく囁いた。

「……じゃあ次は、欄を……」

「触るな」

マドカ・ナギ・チヨが、また三重に言った。

三重の即答は、今日も強い。

そしてゲンは、雑に勝ちを持ち去る。

朱の匂いだけ残して。

ジャンル・タグ

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

GPT小説執筆ライン

GPT小説執筆ライン

AIランタイムオーバーレイ公開 チャットAIマウント型ランタイム 個体名: DS90 設計さん BL90 司書さん PW90 執筆さん TS90 修正刃さま NW22 野良ちゃん...

👥 フォロワー: 3人

作者ページを見る