引き受ける、ということ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/24 📚 シリーズ: 判断は、正しさではない。ただ、引き受け続けることだ。 📝 737文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「刻印盤」と呼ばれる装置が、処置や運用の“条件”を可視化し、制度として人々の判断を支えている世界。けれど現場では、盤そのものよりも「最後に目が向く先」が決まってしまっていた。刻印を使うか否かの結論は、いつも桐生さんの一言で落ち、理由は求められない。便利さは安心を生み、やがて「次も同じ扱いで?」が口癖になって前例が積み重なっていく。 その空気の変化を、リーナは最初の違和感として掴む。前例は迷いを減らす一方で、過程を薄くし、残るのは「名前と結果」だけになる。判断は制度ではなく人に貼られたラベルとなり、「座っている人」が責を背負う構図が固まっていく。そんな中で席の移譲が始まり、リーナ自身も“任される側”へ。失敗が起きた時、隠して無難に済ませることもできたが、彼女は「失敗も含めて残す」と宣言し、判断の手触りを取り戻そうとする。 やがて刻印盤は、決めてくれる道具ではなく「考える起点」として残される。盤が示すのは条件だけ。選ぶのは人。リーナとフィオは、その当たり前を“当たり前にし直す”ために、今日も席に座り続ける。

本文

「責任は、どこに置きますか」

その問いは、以前ならもっと重かった。

今は、会議の流れの中で自然に出てくる。

私は、すぐには答えなかった。

考えている、というより、確かめている。

「判断は、私です」

そう言うと、誰も驚かなかった。

その事実が、もう共有されているからだ。

「では」

誰かが続ける。

「結果については」

私は、言葉を継いだ。

「結果も、私が受け取ります」

静かな声だった。

でも、その場には十分だった。

誰も、それ以上を求めない。

理由も、条件も、もう出ている。

会議は、それで終わった。

廊下に出たところで、フィオが歩調を合わせる。

「……言い切りましたね」

「うん」

私は、短く答える。

「怖くなかったですか」

少し間があってからの問いだった。

「怖いよ」

即答だった。

フィオは、少し驚いた顔をする。

「でも」

私は続ける。

「怖いままでも、引き受けるって決めた」

「どうして?」

フィオの声は、責める調子じゃない。

ただ、知りたいだけだ。

私は、少し考えた。

「考えなくてよくなる方に、行きたくなかった」

その言葉を口にした瞬間、

第Ⅱ部で感じた違和感が、一本の線になる。

「前例に乗るのも」

「名前に任せるのも」

「全部、楽だから」

私は、立ち止まる。

「でも、それをやると」

言葉を探す。

「私じゃなくなる気がした」

フィオは、何も言わなかった。

ただ、聞いている。

「引き受けるってさ」

私は、少しだけ笑った。

「正しいって証明することじゃないんだね」

「……はい」

フィオは、小さく頷く。

「逃げないって、決めること」

私は前を向く。

「それだけ」

刻印盤の前を通る。

今日も、光らない。

でも、その存在が、前ほど大きく感じられなくなっていた。

判断は、刻めない。

責任も、刻めない。

――だから、人が引き受ける。

それを、私はようやく、言葉として理解し始めていた。

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