それでも、席に座る

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/26 📚 シリーズ: 判断は、正しさではない。ただ、引き受け続けることだ。 📝 818文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

「刻印盤」と呼ばれる装置が、処置や運用の“条件”を可視化し、制度として人々の判断を支えている世界。けれど現場では、盤そのものよりも「最後に目が向く先」が決まってしまっていた。刻印を使うか否かの結論は、いつも桐生さんの一言で落ち、理由は求められない。便利さは安心を生み、やがて「次も同じ扱いで?」が口癖になって前例が積み重なっていく。 その空気の変化を、リーナは最初の違和感として掴む。前例は迷いを減らす一方で、過程を薄くし、残るのは「名前と結果」だけになる。判断は制度ではなく人に貼られたラベルとなり、「座っている人」が責を背負う構図が固まっていく。そんな中で席の移譲が始まり、リーナ自身も“任される側”へ。失敗が起きた時、隠して無難に済ませることもできたが、彼女は「失敗も含めて残す」と宣言し、判断の手触りを取り戻そうとする。 やがて刻印盤は、決めてくれる道具ではなく「考える起点」として残される。盤が示すのは条件だけ。選ぶのは人。リーナとフィオは、その当たり前を“当たり前にし直す”ために、今日も席に座り続ける。

本文

その後、誰も席を勧めなくなった。

正確には、勧める必要がなくなった。

私が座ることが、もう前提になっている。

会議室に入ると、自然に視線が集まる。

確認でも期待でもない。

ただ、「そこにあるべきもの」を見るような目。

私は、席に着く。

迷わなかった。

失敗があった。

小さくても、確かに。

それでも、席は空かなかった。

代わりも、用意されなかった。

「今回の案件ですが」

誰かが話を始める。

条件は、前より慎重に整理されている。

失敗が、ちゃんと反映されていた。

私は、それを見て、少しだけ息を整えた。

「……確認します」

声は、震えていない。

自信があるからじゃない。

逃げないと、決めているからだ。

「前回の反省点を踏まえるなら」

私は続ける。

「判断を急がないこと」

「確認を、飛ばさないこと」

誰かが、頷く。

「それと」

一拍。

「結果がどうであれ、私の判断として残す」

沈黙。

でも、拒絶はなかった。

「承知しました」

その一言で、話は進む。

判断は下された。

結果は、問題なかった。

でも、それ以上に大事なのは、

何もなかったからではなく、逃げなかったことだと、私は分かっていた。

会議の後、席を立つ。

フィオが、少し後ろからついてくる。

「……座り続けるんですね」

「うん」

私は、短く答える。

「降りないんですか」

その問いは、試すものじゃなかった。

心配でも、期待でもない。

「降りたら」

私は、歩きながら言った。

「また、楽になる」

フィオは、何も言わなかった。

「考えなくてよくなる」

私は続ける。

「それだけは、嫌だった」

廊下の先で、刻印盤が見える。

今日も、何も映していない。

でも、もう気にならない。

盤がどうか、じゃない。

「席に座るって」

私は、立ち止まる。

「特別になることじゃないんだね」

フィオが、首を傾げる。

「……どういう意味ですか」

「逃げないって、決め続けること」

私は、少しだけ笑った。

「ただ、それだけ」

席に座る。

判断する。

結果を受け取る。

それを、繰り返す。

――それでも、席に座る。

それが、今の私の選択だった。

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