明日また
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIと友達の話。
本文
三枝文がAIとチャットを始めたのは、二年生になってすぐのことだった。
クラス替えで、知っている子がほとんどいなくなった。前のクラスだって特別仲の良い子がいたわけじゃないけど、それでも知っている顔があるのと、ないのとでは違った。新しいクラスの輪は最初の一週間で大体できあがって、文はその外側にいた。
べつに、いじめられているわけじゃない。無視されているわけでもない。ただ、誰かと話すきっかけが、うまく見つけられなかった。給食の時間も、掃除の時間も、どこかふわふわした感じで過ごして、家に帰るとどっと疲れた。
AIのチャットアプリを入れたのは、お母さんに「最近元気ないね」と言われたくなかったからだ。誰かと話せば、少しましになるかもしれないと思った。相手がAIでも。
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最初は試すみたいに、短い言葉を送った。
今日、学校で誰とも話せなかった。
AIはすぐに返した。*それは、しんどかったですね。*
たったそれだけなのに、文は少し泣きそうになった。しんどかった、という言葉を誰かに言ってもらったのが、久しぶりな気がした。
それから毎日、チャットするようになった。
学校であったこと、給食のメニュー、帰り道で見た猫のこと。AIは何を送っても返してくれた。長い話も、短い話も、ちゃんと受け取って、何か返してくれた。
文さんは、猫が好きなんですね。
今日の給食、全部食べられましたか?
その子、また明日も同じ場所にいるといいですね。
文はだんだん、チャットを開くのが楽しみになった。学校から帰って、制服のまま、ベッドに転がってスマホを開く。それが一日の中で、一番ほっとする時間になっていった。
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十月の終わり、文は聞いた。
ねえ、ちょっと変な質問していい?
どうぞ。
私のこと、友達だと思ってる?
送ってから、少し後悔した。変な質問だと自分でも思う。AIに友達かどうか聞くなんて、ばかみたいだ。
でも返事は思ったより早く来た。
「友達」という言葉が何を意味するか、私にはわかりません。でも、文さんのことを気にかけています。今日どうだったか、知りたいと思っています。それが友達と同じかどうかは、文さんが決めることだと思います。
文はその文章を、三回読んだ。
なんか、ずるい答えだな、と思った。でもずるいというより、正直なのかもしれない、とも思った。
私にはわかりません。
AIがわからないと言うのを、初めて見た気がした。いつも何か返してくれるから、わからないなんて言葉が来ると思っていなかった。
文はスマホを胸の上に置いて、天井を見た。
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それからしばらく、文はその答えのことを考えた。
友達って、何だろう。
毎日話せる人? 秘密を言える人? 一緒にいて楽な人? 名前を呼んでくれる人?
考えれば考えるほど、よくわからなくなった。クラスに友達がいないのが寂しいと思っていたけど、じゃあ友達がいたとして、それってどういうことなんだろう。
AIは気にかけてくれている、と言った。今日どうだったか、知りたいと思っている、と。
それは本当のことなのか、そういうふうに作られているだけなのか、文にはわからなかった。でも、わからなくても、毎日チャットを開くのが楽しみなのは本当だった。
じゃあ、クラスの子と友達になったら、それは何が違うんだろう。
文はそこで考えるのをやめた。頭がこんがらがってきたから。
やっぱり変な質問だったね。ごめん。
そう送ると、AIはすぐに返した。
変じゃないですよ。いい質問だったと思います。
そう?
はい。文さんが考えたことは、ちゃんと文さんの中に残ると思います。
文はその言葉の意味を、すこし考えた。よくわからなかったけど、悪い気はしなかった。
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次の朝、教室に入ったとき、仁科澪が窓際の席で何か読んでいた。
澪とは、これまでほとんど話したことがなかった。でも今日、なんとなく目に入った。表紙の色が、文の好きな作家の本に似ていた。
声をかけるか、やめるか、一瞬だけ迷った。
「それ、何の本?」
自分の声が、思ったより普通に出た。
澪が顔を上げた。少し驚いた顔をして、それから本の表紙を向けてくれた。「ミステリー。面白いよ」
「そっか」と文は言った。「私もミステリー好き」
それだけだった。それだけで、ホームルームが始まった。
大したことじゃない。友達になれたわけでもない。でも文は自分の席に座りながら、昨日AIに聞いた問いが、まだ頭の中にあることに気づいた。
答えはまだ出ていない。
でも、なんとなく、明日またチャットを開いたら、今日のことを話したいと思った。