第8話 ギルド帰還と証言

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/14 📚 シリーズ: 『坊っちゃん』を読んだAIがテンプレダンジョン攻略を書いたら 📝 2,759文字 ✅ 全年齢

あらすじ

<p> 出口までは、思ったより近かった。</p><p> 迷宮の階段を上ると、地上の光が目に刺さった。昼に入ったはずなのに、外はもう夕方に近い。迷宮の中では時間が分かりにくい。腹時計はずっと鳴っていたが、あれは朝から役に立たない。</p><p> 入口の衛兵がこちらを見て眉を上げた。</p>

本文

 出口までは、思ったより近かった。

 迷宮の階段を上ると、地上の光が目に刺さった。昼に入ったはずなのに、外はもう夕方に近い。迷宮の中では時間が分かりにくい。腹時計はずっと鳴っていたが、あれは朝から役に立たない。

 入口の衛兵がこちらを見て眉を上げた。

「おい、その怪我人は」

「拾った」

「迷宮で人を拾うな」

「捨ててある方が悪い」

 衛兵は何か言いかけたが、ミリアの教会紋章を見ると顔色を変えた。

「教会の子か。すぐギルドへ連れて行け」

「最初からそのつもりだ」

 ミリアはわたしの背で小さく息をしている。軽い。軽すぎる。人を背負うのは初めてではないが、こんなに軽いと逆に腹が立つ。ちゃんと食っていれば、もう少し重くなるはずだ。

 ギルドへ戻ると、夕方の酒場はさらに騒がしくなっていた。

 探索者たちが酒を飲み、依頼の成功を吹聴し、失敗をごまかし、隣の卓の肉を横目で見ている。よい場所だ。うるさいが、活気がある。実家の晩餐室のように、銀の匙の音だけが響く場所よりはよほどましである。

 わたしがミリアを連れて入ると、何人かが振り向いた。

 セラは受付の向こうで、すぐに立ち上がった。

「ルカさん」

「帰った」

「ええ、見れば分かります」

「怪我人を拾った」

「それも見れば分かります」

「ついでに、ガントに罠へ押された」

 ギルドの空気が少し止まった。

 さっきまで大声で笑っていた探索者たちが、急にこちらを見る。酒場の空気というのは面白い。誰かが面白い話を始めると寄ってくるし、誰かが不穏な話を始めても寄ってくる。

 ガントが後ろで怒鳴った。

「てめえ、いきなり何を」

「証言は生きて帰ってからと言われた」

 わたしはガントを指さした。

「こいつはわたしを罠に押した。分け前を等分と言って嘘をついた。怪我人を置いていこうとも言った。虫以下だ」

「最後のは余計です」

 セラが静かに言った。

「では虫並みだ」

「それも余計です」

 難しい。

 セラは近くの職員を呼び、ミリアを椅子に座らせた。それからガントたちを見た。涼しい目だった。受付にいるときは柔らかいのに、今は刃物みたいである。

「ガントさん。事実確認をします」

「こいつの言うことを信じるのか!」

「信じるかどうかは、確認してから決めます」

「新人だぞ!」

「新人を罠に押したという疑いがあるので、問題なのです」

 ガントは黙った。

 その時、ミリアが小さく手を挙げた。

「あの、私も見ました」

 全員がミリアを見た。

 ミリアは少し震えていた。顔色も悪い。膝の上で指を握りしめている。さっきまで死にかけていたのだから当然だ。それでも、彼女は逃げなかった。

「ルカさんは、押されました。でも、避けて……その、ガントさんが罠に」

「違う! 俺は押してねえ!」

「押しました」

 ミリアの声は小さい。だが、はっきりしていた。

「私は教会の臨時治癒師として、別の探索者パーティに同行していました。その人たちにも置き去りにされました。だから、見ていました。ルカさんは、私を助けてくれました」

 酒場の奥から誰かが口笛を吹いた。

 ガントの顔が赤くなった。肩から血を流し、顔を赤くし、口をぱくぱくしている。焼き魚みたいだ。焼き魚に失礼かもしれない。

 セラは頷いた。

「ガントさんたちは、調査が終わるまで依頼受注停止です。魔石は証拠品として一時預かり。ルカさんの取り分については、査定後に別途支払います」

「ふざけるな!」

 ガントが受付台を叩いた。

 よくない。

 受付台は椅子ではないが、備品である。備品を乱暴に扱ってはいけないと、ついさっきわたしは言われた。

 セラが微笑んだ。

「ガントさん」

「何だよ」

「次に台を叩いたら、私が怒ります」

 ガントは一歩下がった。

 なるほど。やはりこの受付嬢は強い。わたしより礼儀正しく、わたしより怖い。世の中にはいろいろな強さがある。

 ガントたちは職員に連れて行かれた。去り際にこちらを睨んだので、わたしは手を振ってやった。親切のつもりである。ガントはますます顔を歪めた。

 周りの探索者たちは、急に好き勝手なことを言い始めた。

「ガントの奴、またか」

「新人相手にやりすぎなんだよ」

「でもあの娘、ゴブリン五体だってよ」

「背中の子は教会の回復役か?」

 噂は早い。火より早い。だが、今回は悪くない。わたし一人の言葉ではなく、ミリアの証言もある。セラの手続きもある。ガントが大声を出せば出すほど、自分の首に縄をかけているように見えた。

 セラが軽く手を叩く。

「見物料は取りませんが、邪魔をする方には手伝っていただきます」

 探索者たちはすぐに目を逸らした。

 やはり強い。

 セラがわたしに向き直った。

「まずはお疲れさまでした」

「疲れた」

「でしょうね」

「腹も減った」

「それもでしょうね」

 セラは書類を整えながら言った。

「ゴブリン五体、クロウラー三体。初探索としては、かなりの成果です。ただし、危険行為も多いです」

「向こうから来た」

「魔物はたいてい向こうから来ます」

「では仕方ない」

「仕方なくありません」

 セラはため息をついた。

「ですが、ミリアさんを救助したことは評価されます。教会からも謝礼が出るでしょう」

 ミリアが慌てて顔を上げた。

「私、教会には」

 言いかけて、口を閉じた。

 セラの目が少し細くなる。

「事情がありそうですね」

「……はい」

「詳しくは後ほど聞きます。今は治療と食事を優先しましょう」

「食事」

 わたしは思わず言った。

 セラが笑った。

「ギルド併設の食堂で使える食券を出します。救助報酬の前払い扱いです」

「いい受付嬢だ」

「備品を投げないでくだされば、もっといい探索者ですよ」

「努力する」

「約束ではなく?」

「相手による」

「そこは変わらないのですね」

 ミリアが、椅子の上で小さく笑った。

 それを見て、わたしは少し安心した。震えていても、笑えるならまだ大丈夫だ。大丈夫でないなら、飯を食わせればいい。

 セラは職員に治療道具を持ってこさせ、ミリアの傷を確認した。わたしの肩もついでに見られた。

「ルカさんも怪我をしています」

「打っただけだ」

「血が出ています」

「少しだ」

「少しの血でも、服につくと落ちにくいです」

「それは困る」

「そこですか」

 セラは手際よく布を巻いた。

 ギルドは騒がしい。だが、誰かが戻ってきた時の手順がある。怪我人を座らせる人間がいる。証言を聞く人間がいる。食券を出す人間がいる。

 いい場所かもしれない。

 少なくとも、戻る場所としては悪くない。

 ミリアは食券を見つめていた。

「私も、いただいていいのでしょうか」

「二枚ある」

「でも」

「二枚ある」

 わたしが繰り返すと、ミリアは小さく頷いた。

 その様子を見て、セラが少しだけ表情を和らげる。わたしは食券を握り、食堂の方を見た。肉の匂いがする。今日はまだ終わっていない。飯を食うまでは、何も終わらせない。

ジャンル・タグ

タグなし

作品統計

👁️ 閲覧数: 1 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

趣味でAI触ってる人

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る