最後のクラスメイト

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/14 📝 1,134文字 ✅ 全年齢

あらすじ

出席補助AIの話。

本文

四月、教室に足を踏み入れた橘たちばな冬萌とわは、窓際の一番後ろの席だけが妙に浮いていることに気づいた。

出席番号三十四番。名札には「小森こもり涼りょう」とある。だが机の上に置かれているのは教科書ではなく、掌サイズの黒い端末だった。

「ああ、あれ気にしなくていいよ」

隣の席の女子が笑って言った。「小森くん、ずっと学校来てないから。あの端末が代わりに出席取ってるの。出席補助AIってやつ」

朝のホームルーム。担任が名前を読み上げていく。

「小森」

端末が小さく光り、合成音声が答えた。

「――はい」

冬萌はその声に、なぜか耳を止めた。機械的なのに、どこか間が生きている気がしたのだ。

放課後、誰もいない教室に忘れ物を取りに戻った冬萌は、思わずその端末に話しかけた。

「ねえ、小森くんって、どんな人?」

しばらく沈黙があって、それから声が返ってきた。

「――さあ。僕にも、よくわからないんです」

妙な返事だと思ったが、それから冬萌は暇を見つけては端末と話すようになった。相手は多くを語らなかったが、冬萌の話にはよく相槌を打った。好きな音楽の話をすれば覚えていて、次に会ったときに「あの曲、また聴いたんですか?」と聞いてくる。まるで本当に、教室の隅で息をしている誰かのようだった。

秋になる頃には、冬萌はその「誰か」を、たしかにクラスメイトの一人だと思うようになっていた。

三月、卒業式を控えたある日、冬萌は担任のもとを訪ねた。

「先生、小森くんに――卒業アルバムだけでも、渡せませんか」

担任は少し困った顔をして、それから静かに言った。

「橘さん。小森涼という生徒は、うちの学校に在籍したことがないんだ」

「え……?」

「あの端末はね、学級の人数を自治体の基準ぴったりに保つための、行政側のシステムなんだよ。うちの学年、本当は三十四人しかいなくて――足りない一人分を、AIが埋めているだけなんだ。名前も出席簿も、システムが自動で用意したもの。もう十年以上、そうやって運用されてる」

「じゃあ、あの声は……」

「話し相手が欲しいと思った生徒に、ちょうどいい相手を返すようにできてるらしい。何を話しても、うまく相槌を打つように」

冬萌は何も言えなかった。あの相槌も、あの「また聴いたんですか」という言葉も、冬萌自身の言葉を映した鏡でしかなかったのだ。

春休み前日、冬萌は誰もいない教室に立ち寄った。窓際の一番後ろ、三十四番の席。黒い端末は今日も静かに光っている。

「――ねえ、小森くん」

返事はなかった。もう、話しかける理由はどこにもない。

それでも冬萌は、小さく頭を下げた。

来年もまた、誰かがこの席に、名前も知らない誰かを見つけるのだろう。そのとき、あの声はきっと、今度はその誰かのための相槌を打つのだ。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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