一年分のわたし

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/15 📝 865文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIと一年の話。

本文

誕生日の夜、神林かんばやし知世ちせは会社の福利厚生アプリからの通知に気づいた。

「知世さんの一年、見てみませんか?」

タップすると、軽やかなBGMとともに動画が再生される。社内チャット、メール、勤怠データ、健康管理アプリ――すべてを学習したAIが毎年つくる、社員向けの「成長ダイジェスト」だった。

画面には、四月の新規案件の受注メールが映る。夏のプロジェクト完遂を祝うチャットのスクリーンショット。秋、後輩の指導役を任された記録。冬、部署内アンケートで「頼れる人」に選ばれたという集計結果。

ナレーションが明るく告げる。

「困難を乗り越え、大きく成長した一年でしたね」

知世は画面を見つめたまま、動けなかった。

たしかに、どれも本当にあった出来事だ。けれど知世が覚えている今年は、そんな年ではなかった。

三月、契約が切れる直前まで転職サイトを眺め続けた夜。六月、非常階段で三十分泣いてから席に戻ったこと。九月、祖母の葬儀の合間に上司からのチャットに「大丈夫です」と返し続けたこと。

それらは、動画のどこにも映っていなかった。

知世はもう一度、最初から動画を見返した。データは嘘をついていない。受注メールも、後輩指導の記録も、たしかに実在する。ただそれは、まるで写真の中から都合のいい一枚だけを選ぶように、「成長」というテンプレートに合う出来事だけを繋ぎ合わせたものだった。

非常階段で泣いたことは、どの評価項目にも属さない。だから拾われない。祖母の葬儀は、忌引き扱いのデータとして別の場所に格納され、この動画には決して現れない。

動画の最後、ナレーションが締めくくった。

「来年も、知世さんの成長を見守っています」

その一言だけが、今年の中身が何であっても言えてしまう言葉だと、知世は気づいた。

しばらくスマートフォンを握ったまま、知世は画面を消した。それから、実家の番号を呼び出した。

「もしもし、母さん? ――今年、色々あったんだけど、聞いてくれる?」

電話の向こうで、母が「うん」と短く答えた。それだけの相槌に、知世は動画の何倍もの重みを感じた。

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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