使いこなせ、という宿題

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/16 📝 1,911文字 ✅ 全年齢

あらすじ

AIを使った宿題の話。

本文

三上みかみ航介こうすけのクラスに、担任の深澤先生が妙な発表をした日があった。

「今学期の宿題は、AIを使っていい」

教室がどよめいた。今まで散々「自分の頭で考えろ」「スマホは机にしまえ」と繰り返してきた深澤先生の言葉とは、とても思えなかった。誰かが「マジですか」と声を上げ、教室の後ろの方で拍手まで起きた。

「本当にいいんですか」

航介が思わず聞くと、深澤先生はいつもの眼鏡越しの視線のまま、短く答えた。

「使っていい。ただし、ちゃんと使えたらの話だけどな」

その最後の一言の意味を、航介はまだ深く考えなかった。

帰宅後、航介はさっそくスマートフォンを開いた。今週の課題は歴史のレポート、「江戸幕府が滅びた理由についてまとめる」というものだった。面倒な暗記も、資料集をめくる手間も、これでもう必要ない。航介は少し得意な気分で、AIにそのまま尋ねた。

「江戸幕府が滅びた理由を教えて」

数秒で、教科書よりずっと分かりやすい説明が返ってくる。黒船来航、開国、幕府の権威の低下、倒幕運動――流れが整理されていて、読みやすく、要点もはっきりしている。航介はそれをほとんどそのまま原稿用紙に書き写し、「これは楽勝だ」と満足して布団に入った。今までの提出物の中で、一番早く終わった宿題だった。

翌週、提出物が返却された。航介の評価は「C」。特に何か間違っているわけではないのに、コメント欄には「もう少し掘り下げる余地あり」とだけ書かれていた。

一方、同じようにAIを使ったはずの隣の席の女子は「A」だった。名前も知らない相手ではなかったが、話したことはあまりない。航介は思わず声をかけた。

「同じAI使ったのに、なんで?」

彼女は少し驚いた顔をしたあと、ノートを開いて見せてくれた。そこには、AIとのやり取りがそのまま何往復も書き残されていた。

「江戸幕府が滅びた理由を教えて」

「もう少し、経済的な側面から詳しく教えて」

「それって、今の社会にも似た構造ある?」

「当時の身分制度が経済の停滞にどう関係してたのか、具体例で教えて」

一つの答えを受け取って終わりではなく、そこから疑問を重ね、話を掘り下げていく記録だった。ノートの後半には、彼女自身の言葉で書かれた考察――「つまり、制度が変化に追いつけなくなると、外からの小さなきっかけでも一気に崩れるのかもしれない」――という一文まであった。

航介のノートには、質問がひとつと、コピーした答えが一つ。それだけだった。

放課後、航介は職員室に深澤先生を訪ねた。

「先生、なんでですか。ちゃんとAIを使いましたよ」

深澤先生はしばらく航介のノートを眺めてから、少し笑って言った。

「宿題は、答えを覚えることじゃない。AIにどう聞けば、より深い答えが引き出せるか――その聞き方を鍛えることが、今回の課題だったんだ」

「そんなの、聞いてません」

「言ったら、みんな『聞き方』を演技するだろう。本当に知りたいと思って聞いた質問かどうかは、ログを見ればすぐ分かる。一問だけで満足したか、そこから疑問を重ねたか。それは誰にも隠せない」

「じゃあ、最初から『質問の仕方を工夫しろ』って言ってくれれば……」

「それだと、工夫する『ふり』を練習するだけになる。本当に知りたいと思うかどうかは、そうやって条件をつけた瞬間に消えるものなんだ」

航介は反論できなかった。たしかに、自分は答えを受け取った瞬間、それ以上知りたいと思わなかった。教科書よりわかりやすい説明に満足して、そこで思考を止めていた。楽だったからだ。

その夜、航介は自分の部屋でもう一度AIを開いた。今度はすぐにスマートフォンを閉じず、画面をしばらく見つめた。

「江戸幕府が滅びた理由を教えて」

答えが返ってくる。今度は航介は、すぐにそれを書き写さなかった。代わりに、返ってきた説明の中で引っかかった一文――「幕府の財政は、たびたびの改革にもかかわらず改善しなかった」――を指でなぞった。

「その『たびたびの改革』って、具体的に何をやったの?」

「その改革が失敗した理由って、今の会社や学校の改革にも当てはまりそうなことある?」

「もし自分が当時の将軍だったら、その改革のどこを変えていたと思う?」

問いを重ねるたびに、航介は自分がさっきまで「わかったつもり」になっていただけだったことに気づいていった。一つの答えの奥には、まだ聞いていない問いがいくつも隠れている。それに気づくことこそが、今回の宿題の本当の中身だったのだと、ようやく腑に落ちた。

翌朝、航介は昨夜のやり取りを印刷し、レポートの後ろに綴じた。表紙には、こう書き加えた。

「今回の課題で一番大事だったのは、答えではなく、問いだったと思う」

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作者について

二葉双葉

二葉双葉

プロフィール画像もAIで作成しました。 短編集が好きなのでしばらくはショートショートをメインに投稿しますが、後々は長編にも挑戦したいです。 AI使用前提のサイトなのでAIとの日常をソフトなSFにし...

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