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悪役令息に転生したけど、モブなのに攻略されそうです!

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/7/17 📝 35,159文字 ✅ 全年齢

あらすじ

R18のBLゲームの世界に、悪役令息の取り巻きとして転生した腐男子のモーベイル。 ​彼は推しカプの「壁」になるはずが、うっかり公式セリフを口にしてしまい、物語のルートを破壊する。その結果、主人公(ユリウス)ではなく、攻略対象の王子たち全員(レオナード以外)からの注目を集めることに。 ​ 最推しである騎士エリオットに命を救われたことで、彼への恋心を自覚したモーベイルは、モブの役割を捨て、ついにエリオットに告白。ありえないはずの最推し×モブという運命の恋が始まる。 オリジナル ※誤字脱字多いです。

本文

「は?庶民風情が王子に近づくとか、笑わせんな」

口にした瞬間、自分でも“クソ野郎”だと思った。でも、それがこの世界での僕の役割だ。僕は、悪役令息ルシアン・アヴェリスの取り巻きの一人。

名前はモーベイル・ブライト。ルート無など無い、ただのモブ。毒を吐き、笑い、ルシアンの後ろに立つ。それが“この世界”での僕の存在意義だった。今日も、庶民であるユリウス・アスフォリアが王子レオナード・フィルブラム

と話しているのを見て、取り巻きの一人が舌打ちした。

僕はそれに合わせて、鼻で笑った。それが“正しい反応”だったから。その直後、彼の肩が僕にぶつかった。

「…痛っ」

何かが、頭の奥で弾けた。レオナードの声。ユリウスの涙。攻略対象たちのセリフ。CG。ルート分岐。選択肢。僕は——俺はこの世界を、知っている。

いや、違う。俺は、この世界を“プレイしていた”。でも、心の中では叫んでいた。

——知ってる、このあと。

——このセリフが来る。

——でも、なんで……!

レオナード以外の攻略対象たちの視線が、ユリウスではなく俺に向いていた。 ほんの一瞬。でも、それは“ありえない”はずだった。俺に向けられた視線は、すぐに逸らされた。でも、その一瞬が、俺の中の“公式”を揺らした。

「なぜ、君みたいな庶民が、レオナードの隣にいるんだい?身分をわきまえたまえ!」

ルシアンの声が響いた瞬間、俺の心の声と重なった。——そう、それが“公式”だった。——でも今、それが“現実”になってしまった。

俺は、今物語の中にいる。でも、この物語は少しずつ…ズレている。

俺は思い出した。“前世の記憶を”。そうだ……ここは、前世でやっていたR18のBLゲーム——【僕と5人の王子】の世界だ。

(でも、なんで!?というか、このあと!アレの!あのセリフが来る!!!)

「「私が、ユリウスの隣にいたいからだ。それを、君に言われる筋合いはない」だ!」

その時、モーベイルの声とレオナードの声が重なる。モーベイルは自分の心の声が出ていることに気づくまで、三秒もかからなかった。

「あ……」

(俺は、言ってしまった。“公式”を、壊してしまった……)

「はぁ……」

そう思っていると、ルシアンのため息が聞こえた。そして、ルシアンは続ける。

「興が削がれた。僕はもう行くよ。レオナード、この件についてはまた話そう。行くぞ、お前たち」

「はい!ルシアン様!」

そう言って、ルシアンはモーベイルの横を通り過ぎる。ルシアンの後を取り巻きたちがあとを追う。その際ルシアンはモーベイルを冷たい目で、ちらりと見る。それは、モーベイルも分かった。しかし、今のモーベイルにはルシアンのあとを追いかけるのも言い訳を言うのも出来なかった。そんな、モーベイルにユリウスが声をかける。

「え~と……。君、大丈夫?って、あっ!待って!!」

「あ、えっと……。し、失礼します!!」

モーベイルは猛スピードで、その場から逃げる。 ユリウスが心配そうに見つめる中、レオナードだけが眉をひそめた。レオナードは小さく呟く。

「今あいつ、私の言うことが分かっていたようだった……」

「レオ?どうかした?」

「いや、何でもない。行こうか、ユリウス」

レオナードは優しくいて、ユリウスと一緒にその場を離れた。

*****

とっさにユリウスたちから逃げた、モーベイルは自室のベッドの

中で頭を抱えていた。

(あーもう!何やってんだろ!!!あんなことしたら、ルシアン様に怒られるだろ!!馬鹿か、俺は!ん?ルシアン……様?ルシアン……ルシアン……ルシアン……。あっ!悪役令息のルシアン・アヴェリスだ!)

「ってことはさっきいたのは、王道カプと言われた、ユリウスとレオ!!マジか!?いきなり推しカプに会うとか、奇跡かよ!!」

モーベイルはベッドの中で、枕を抱きしめながら転げ回った。

「うわあああああああああああああああああ!!!!」

叫び声は、分厚い羽毛布団に吸い込まれて誰にも届かない。

(待って待って待って!俺、今“推しカプの初対面イベント”に乱入した!?しかも、セリフ被った!? いや、あれ俺のセリフじゃないし!レオのセリフだし!!)

モーベイルは頭を抱えたまま、脳内で“攻略対象のセリフ一覧”を高速で再生し始める。でも、どこかで違和感があった。

(……あれ?このあと、ユリウスが泣いて、レオが抱きしめるっていう、CGが出るはず。……なのに、出なかった。CG、出なかった。選択肢も、出なかった)

その瞬間、モーベイルの背筋が凍った。

「全部思い出した……俺の本当の名前は久遠静真だ。帰る途中で事故にあって、

その時一番大好きだったBLゲーム【僕と5人の王子】の推しカプであるユリウスとレオの事を考えていたんだ。だからか。そして、この世界は俺が好きなBLゲーム【僕と5人の王子】の世界。ん?転生ものって大抵そのゲームの主人公になるもんじゃ?でも、さっき目の前には、ユリウスとレオがいたし……じゃあ俺は、誰に転生したんだ?」

モーベイルは、机に置いてある鏡を手に取り自分の姿を映った。鏡に映った姿は、どこにでもいる普通の顔をしていた。ユリウスのように可愛い感じでもなく、レオナードのように気品があるイケメンでもない。

普通の顔をだった。

「俺ってもしかして……ただのモブ。まぁ、名前からしてモブだもんな……。だけど、これはこれで良いかもしれない!!!だって、それっていつでもどこでも壁になれるし、妄想し放題じゃん!!最高過ぎ!!モブ最高!!モブばんざーい!!!!……でも、俺が“モブ”じゃなくならないようにしないと。じゃあないと、なんかモブ人生が終わる気がする……」

モーベイルは、そう一人呟く。そして、モーベイルは妄想生活or

第二の人生を明日から楽しむことにした。ただこの時のモーベイルは、まだ気づいていなかった。すでにルートから外れていることを……。

次の日、モーベイルはルシアンに怒られはしなかったが、取り巻きたちにぐちぐちと言われた。それも、10時間ずっとだ。その間、珍しくルシアンはずっと黙っていた。最初なぜだろうと思っていたが、30分辺りになった頃にはモーベイルは前世の日課となっていた現実逃避という名の妄想をしていた。

ルシアンは、ただ黙っていた。でも、モーベイルが席を立った瞬間、彼の視線がほんの一瞬だけ、モーベイルを追った。

「はぁ~やっと解放された……。取り巻きの人たちゲーム内だと、あんなにしつこいんだ。まぁ、いいや!これからはここ、僕5でいろんなカプが見れるんだ~!はぁ~最高過ぎる~!あっ、あそこにいる二人いい感じの雰囲気だ~!あっちが受けでこっちが……って、ん?あれはユリウス?あんなところで何やってんだ?」

モーベイルは、窓辺で妄想をしていた。 ユリウスとレオナードの婚約CG。甘いセリフ。選択肢の分岐。

それは、前世で何度も見た“推しカプの正式”だった。 でも——その妄想は、罵声で破られた。

「庶民のくせに王子と話すとか、調子乗ってんじゃねぇよ!」

庭園に目を向けると、ルシアンの取り巻きたちがユリウスを囲んでいた。 レオナードは、まだ来ていない。来るはずなのに。このままじゃ危ないと思いモーベイルは、窓を開けた。風が頬を撫でる。 その瞬間、彼は“モブ”という役割を捨てた。

「ちょっ、ちょっと待った!ユリウスは関係ない。さっきのは、俺が勝手に口を出しただけだから!!」

庭園に飛び出したモーベイルの声は、取り巻きたちの罵声を遮った。 彼らの視線が、一斉にモーベイルに向く。 その背中は震えていた。でも、逃げなかった。取り巻きの一人がモーベイル言う。

「おい、モーベイル。まだ、そんなこと言っているのか?こいつは王子と話をすること自体、叶わない身分なんだぞ。それなのに、お前はこいつをかばうのか?」

咄嗟に何も考えずに飛び出してしまったモーベイルは、取り巻きの言葉に、ほんの一瞬だけ言葉を失った。でも、ユリウスの怯えた顔が視界に入った瞬間、モーベイルは震える声で答えた。

「……だって、泣いてたじゃん。ユリウス、泣きそうだった。それ見て、何もしないでいられるほど、俺は冷たくない」

取り巻きたちがざわめく。“モブ”が、感情で動いた。それは、この世界の“正しさ”から外れた行動だった。だが、今のモーベイルは

推しカプであるユリウスを助けることしか頭になかった。そんな時、攻略キャラの一人エリオット・グレイフォードとレオナードがモブたちの騒ぎを聞きつけて来る。

「ユリウス!」

「レオ!!」

二人は、モーベイルたちがいるのも無視して抱き合う。それを見ていたモーベイルは、幸せな顔をしながら見ていた。取り巻きたちは、

さらにざわつく。

(そうそう!このシーンだよ!!何度も再生したシーン!いや~本当、何度見てもレオがカッコイイ!)

「また、君たちか。何度も言わせないでくれユリウスに手を出す者は、私が許さない。彼は、私の隣に立つ人だ。——それを、忘れるな」

そうレオナードに言われた、取り巻きの一人が怯えながら言う。

「で、ですがっ!」

「聞こえなかったのかい?私はユリウスに手を出す者は、許さない。と言ったはずなんだが?」

「……っ!し、失礼します!!」

レオナードの冷たい声に、圧倒され取り巻きたちはそう言って、この場所を離れた。ただ一人を除いては。

レオナードは、いつまでもとろけた顔でユリウスたちを見ているモーベイルに話しかける。

「君は、行かなくていいのか?」

個人的に推しである、レオナードに話しかけられてモーベイルはたじろいながら話す。先ほどのことを思い出し、ユリウスに言う。

「ふぇ?はっ!レオ、じゃなかった!俺は、大丈夫です!!それより、

ユリウスは大丈夫だった?」

「ありがとう。もう大丈夫だよ」

ユリウスは、レオナードの隣にいながら優しい顔で言う。そんな、様子を見ていたレオナードが今の状況を知るためユリウスに声をかける。

「ユリウス、何があったんだ?それと、確か君はルシアンの……」

レオナードはモーベイルを警戒した目で見つめる。そんな、レオナードにユリウスは、説明する。

「レオ、この人は僕を助けてくれたんだよ。え~と……」

「俺は、モーベイル・ブライト。よろしく、ユリウス」

「うん!よろしくね!モブ君!」

ユリウスにとって、貴族の友達は初めてだったからか、嬉しそうに

モーベイルの手を握り返す。モーベイルは心の中で、思う。

(略された……。しかも、モブって……。それに俺は腐男子である前に、ただのオタクだ。だから、推しが泣いてるのを見て黙ってられるほど、冷たくはない)

そんなやり取りを一人、黙って見ていた人物がいた。レオナードと一緒に来たエリオットだ。エリオットは、先ほどいたルシアンの取り巻きたちとは違うモーベイルをじっと見ていた。

「レオナード、あのモーベイルとかいう者、信用できるかもしれない」

エリオットは小さく、レオナードに言う。それを聞いたレオナードは驚く。

「そうなのか?……、騎士の息子で私の幼馴染である君が言うなら、間違いはないのだろうが……」

「警戒するのも、無理はない。あいつは、ルシアンの取り巻きの一人。

しかしそんな者が、ユリウスをかばうか?」

その一言に、レオナードは考える。

「確かに……。モーベイル・ブライト……どこかおかしいなやつだ。それに、朝も私が何を言うのか分かっていたような感じだった」

「何?それは、本当か?」

「本当だよ。エリオット、私がいない間ユリウスに何かあったら、私の代わりに守って欲しい」

エリオットは少し、黙ったあとレオナードに言う。

「……分かった。あのモーベイルという男も警戒しながら、俺が見ていよう」

エリオットは、ユリウスの隣に立つモーベイルを見ていた。その姿は、どこか場違いで、どこか……馴染んでいた。

(……なぜ、あいつがそこにいる?)

その問いは、嫉妬ではなかった。ただの、違和感だった。でも、その違和感が、なぜか目を離せない理由になっていた。

ユリウスと笑い合いながら、ふとした瞬間にモーベイルは背筋を撫でるような視線を感じた。何気なく振り返ると、少し離れた場所に立つエリオットと目が合った。

(……え?)

エリオットは、何も言わなかった。ただ、静かに、まっすぐにこちらを見ていた。その瞳には怒りも軽蔑もなくかといって好意とも違う、ただ——“観察”のような、そんな色があった。

(なんで、俺を見てんの?……いや、違う。見てるっていうか、見張ってる?)

モーベイルはそっと視線を逸らした。でも、心のどこかがざわついていた。“攻略対象の一人が、モブを見ている”それは、この世界の正しさから外れた、

ありえない光景だった。

(……やばい。俺、なんか警戒されてる?なんかやらかしたかな……。いや、でも……あの目、なんか……俺のこと、見てるよな?)

*****

ユリウスと友達になってから、ルシアンの取り巻きたちはユリウスに何もしなくなった。その代わりなのか、それともモーベイルがあの時レオナードとセリフが被ってしまった辺りから公式とは“ズレ”が表じたのか、本来受けるはずだった嫌がらせをモブが受けていた。

授業前にペンが無くなったり、教科書がすり替えられていることもあった。しかし、モーベイルはすべて自分が無くしやすいなどで片付けていたため、何一つモーベイルには効いていなかった。そして、今もである。今日は珍しくレオナードがいないためユリウスと昼食の約束をしていた。場所は取り巻きに囲まれていた時に助けた、庭園にあるベンチである。そこに先に来ていたのだろう、ユリウスが待っていた。モーベイルはユリウスに手を振りながら、声をかける。

「おーい!ユリウス~!!」

「あ、モブ君!」

「ごめん!遅くなって……!」

モーベイルは目の前で手を合わせユリウスに謝る。そんなモーベイルにユリウスは笑顔で言う。

「ううん!僕も今、来たところ!あれ?モブ君、お弁当は?」

「あははは……、それが寮に忘れて来たみたいなんだ……。でも、大丈夫!前世……じゃなかった!俺、忘れっぽいから慣れてるし!!」

モーベイルはそう笑って言う。ユリウスがモーベイルの空っぽの手元を見て、少しだけ眉をひそめた。でも、何も言わずに、ベンチに座り弁当を開けて蓋に、自分の弁当を少しずつ分け始めた。

モーベイルは、それに気づかず、わー!推しカプの昼食イベントだ!

と心の中で叫んでいた。そんなことを思っていると、ユリウスがその半分をモーベイルの前に出す。

「はい、モブ君分。僕と半分こ!一緒に食べよう!」

そのユリウスの笑顔は、まるで花が咲いたような優しくて暖かさがある笑顔だった。モーベイルは、再び心の中で叫ぶ。

(ああああああああ!推しカプの弁当だぁぁぁぁぁぁ!!なんて可愛い笑顔!そして、癒し!!ああ~、俺このままでもお腹いっぱ~い!

あっ、そうだ!せっかくの推しカプの片割れの弁当だもん!写真撮んなきゃ!って、この世界にスマホなんてないじゃん……。仕方ない、かくなる上は……)

モーベイルはそう思い、先ほど貰った弁当を目に焼きつける。そんな二人を一人、見つめる者がいた。エリオットは、モーベイルが嫌がらせを受けていることを知っていた。だからこそ、今日も少し離れた木陰から、ユリウスとモーベイルの様子を見ていた。モーベイルがユリウスに何か仕掛けるのではないか——そう思って、監視していた。だが、モーベイルの自然な笑顔とユリウスの柔らかな声に、

エリオットの胸がほんの少しだけ、ざわついた。

*****

次の日、今日はユリウスが風邪を引いたらしくモーベイルは一人いつものベンチに座り、日課の妄想観察をしたいた。

(あの二人は、ヤンデレ受でしょう。あっ!絶対あの攻、スパダリじゃん!いや~、今日も目の保養になるなぁ~)

モーベイルがそんなことを妄想していると、急に後ろの方が騒がしくなった。

モーベイルは後ろを振り向くとそこには、ひときわ目立つ容姿をした男がいた。モーベイルは腐男子魂が疼き、見に行くことにした。人混みをかき分けていると、モーベイルは足を引っかけて転びそうになる。

「あっ!」

「おっと!お前、大丈夫か?」

確実に地面へと転んだだろうと思っていたが、何の衝撃も来なかったことに

モーベイルは顔を上げる。そこにいたのは、少しレオナード似ていると思った。

「あ、ありがとうございます」

モーベイルは、助けてくれた男の顔を見て思わず心の中で叫んだ。

(えっ、ちょっと待って……この顔、絶対攻略対象の顔じゃん!?いや、でも俺モブだし!関係ないし!)

「俺は、カイル・フィルブラム。……お前、名前は?」

「え?あ、モーベイル・ブライトです……」

男はモーベイルの腕を支えたまま、じっと目を見ていた。カイルは、モーベイルの腕を支えたまま、少しだけ口角を上げた。

「モーベイルか。……お前、面白いな。弟が言ってた“変なやつ"って、お前のことかもな」

モーベイルは、腐男子センサーが警報を鳴らすのを感じながら、心の中で叫んだ。

(やばい……この人、絶対スパダリ攻だ……!でも、俺モブだし。関係ないか)

「はぁ~?俺が面白いですか……?とにかく、助けて頂いてありがとうございました。では、俺は行くので失礼します」

モーベイルはそう言って、その場を去ろうとしたがカイルに腕を掴まれる。

「待て。お前今日、一日俺に付き合え」

カイルがモーベイルにそう言うと、周りにいた男たちがざわめく。

「え……?あのカイル様が、あんなモブを今日一日おそばに!?」

「いつもなら、僕らみたいな人間をおそばに置いているのに!?」

(いや、あんなモブって言ってるけど、俺からすると君らもモブだからね)

そんなことを、モーベイルが考えているといきなりカイルがモーベイルの耳元で囁く。

「悪いが、ここは俺に合わせてくれないか?」

どうやら、カイルはここをどうにか抜け出すための提案らしい。事情を知ったモーベイルは、話を合わせることにした。

「……分かりました。じゃあ、今日だけですよ?」

モーベイルはそう言って、カイルの腕からそっと手を外す 。でも、カイルは笑って言った。

「今日だけって言ったな。……じゃあ、明日は俺から誘う」

モーベイルは、腐男子センサーが警報を鳴らすのを感じながら、心の中で叫んだ。

(ちょ、ちょっと待ってよ?この人、スパダリ攻で見た目はチャラい……って、もしかしてレオの腹違いの兄!?カイル・フィルブラムって言ってたし完全に攻略キャラじゃん!なんで俺に!?いやいやいや、俺はモブだし!壁だし!推しカプの背景だし!なのに、なんで攻略対象が俺にフラグ立ててんの!?)

モーベイルは、心の中で叫びながら、そっとカイルの視線を避けた。でも、カイルはその様子を見て、さらに口角を上げた。モーベイルはカイルのそんな仕草も気づかないまま、今日一日カイルに付き合わされることになった。

——その様子を、少し離れた場所から見ていた者がいた。エリオットは変わらずモーベイルを監視していたのだが、モーベイルが転びそうにるのを思わず助けようとして出した手は、くうを切った。代わりにその手を取ったのは、カイル・フィルブラムだった。モーベイルの腕を支え、笑いかけるその姿に、エリオットは思わず眉をひそめる。

(……なぜ、あいつがそこにいる?)

それは嫉妬ではなかった。ただの違和感。だが、その違和感が、なぜか目を離せない理由になっていたエリオットは、視線を少しだけ逸らした。ユリウスのことを思い出したのだ。

あの穏やかな笑顔。何も知らずに、誰にでも優しくて——それが、少し怖かった。

(……俺は、ユリウスを守るためにここにいる)

そう思い直して、再び視線を戻す。だが、目に入ったのは、カイルに腕を引かれながら困ったように笑うモーベイルの姿だった。

(……あいつ、なんでそんな顔してるんだ)

その問いは、任務でも警戒でもなかった。ただ、気になっただけだった。それだけのはずだった。でも、エリオットはその場を離れられなかった。モーベイルがカイルに連れられて歩き出すのを、ただ静かに見つめていた。

モーベイルたちはひとまず、食堂に来ていた。

「レオ、最近ちょっとピリついててさ。……あいつ、ユリウスのことになると真面目すぎるんだよな」

カイルは、モーベイルの隣で昼食をつつきながら、軽く笑った。

「でも、あいつが“変なやつがいる”って言ってたの、たぶん君のことだと思う」

「え、俺ですか……?いやいや、俺モブですし!」

モーベイルは慌てて否定したが、カイルはその反応を面白そうに眺めていた。そのとき、食堂の入り口がざわめいた。軽やかな足音と、異国の制服。

「あれ……?」

モーベイルがそちらに目を向けると、見慣れない青年が笑顔でこちらに向かってきていた。

「カイル、久しぶり。……君が噂の“モーベイル”か?」

柔らかい金髪に、異国の空気をまとった青年は、モーベイルの前に立った。

「俺はアシュレイ・クロフォード。留学生だよ。よろしく」

「え、えっと……どうも……」

(ちょっと待って、この人……見た目は爽やかだけど、距離感が近すぎる!俺の腐男子センサーが……!)

カイルは笑いながら言った。

「アシュレイは俺と同級生。……でも、君がこいつに興味持つとはな」

モーベイルは「?」を浮かべながら、とりあえず目の前にある昼食を一口食べる。その瞬間、口の中に広がる異様な辛さ。

「……っ、辛っ!?なにこれ……!?」

周囲の取り巻きがクスクスと笑う。しかし、モーベイルはそんなことも気づかない。

モーベイルは「辛っ!辛い!」と涙目になりながら水を探す。そこに差し出されたのは——

「はい、これ。僕が魔法で冷やした水。これで、辛さ緩和されるよ」

ライルが笑顔で差し出す。

「ふぇ、は……はりはとう……ごはいまふ?」

モーベイルは不思議に思いながら受け取る。そして、受け取った水で辛さを緩和させるのに、

少し舌を出して冷やす。そうすると、ライルが言った通り緩和された。

少し離れた場所では、エリオットが静かに取り巻きを睨んでいた。

クスクスと笑っていた取り巻きたちは、エリオットのそんな視線に気づきそそくさと、その場を離れる。アシュレイがモーベイルの皿を覗き込んで言った。

「これ、君のじゃないよね?……僕の国では、食事にいたずらするのは最低の行為だよ」

アシュレイに続き、ライルが言う。

「ふーん……。コレ微量だけど、魔法がかかってるね」

モーベイルはまだ、口の中に辛さが残っているため心の中で納得する。

(確かに、毎日の腐観察で忘れていたけどこの世界には魔法もあるんだっけ。だとするとこの人、ごく一部の魔法使い?)

「随分と幼稚なことをするんだな。大丈夫か?モーベイル?」

「はい。大分辛さが無くなりました。アシュレイ様もカイル様も心配して下さりありがとうございます。

それと……」

先ほど水を渡してくれた人物をモーベイルは、見る。モーベイルのそんな視線に気づいたのか、彼は言う。

「ああ、名乗るのを忘れていたね。僕はライル・アルヴェール。庶民の出だが、最強の魔法使いだよ」

そう聞いてモーベイルは、驚く。[newpage]

(ライル・アルヴェールって攻略キャラの一人じゃん!!!それに、カイルもアシュレイも距離感バグで気づかなかったけど、みんな攻略キャラじゃん!!!ん?でも、攻略キャラの一番の最推しであるエリオットがいないようなぁ~?)

今更モーベイルの周りにユリウスの攻略キャラである、攻略キャラたちに気づくモーベイルであった。

モーベイルは、周囲を見渡す。そのとき——

「……任務外だが、規律を乱す者は見過ごせない」

低く、静かな声が背後から響いた。モーベイルが振り返ると、そこにはエリオット・グレイフォードが立っていた。モーベイルは、思わず口元を押さえた。

(えっ……えっ……!?最推し……来た……!?)

エリオットは、モーベイルの前に立ち、ほんの少しだけ眉をひそめる。

「辛さは……もう、平気か?」

「は、はい……!あの、えっと……」

モーベイルは、腐男子センサーが爆発しそうなのを必死に抑えながら、言葉を探す。

(最推しが、俺に話しかけてる……!いやいやいや、俺はモブ!!俺はモブ!!俺はモブ!!!)

しかし、エリオットは静かに言った。

「君の行動、記録しておく。……任務外だが、少々君に興味がわいた」

モーベイルは、心の中で涙を流しながら拝んだ。そんなことも知らない攻略キャラたちは、それぞれ話している。そんな中カイルは、エリオットに話しかける。

「珍しいなエリオット。お前が、任務以外で興味を持つとは。

明日は雨か?」

「……別に、任務以外にも興味ぐらい持つ。それに、明日は雨ではなく晴れだ」

(うん!そんな天然で返すエリオットも好き!!!)

「いや、そういう意味で言った訳じゃないだけど……。まぁいいや、エリオットだしな……」

「……?」

カイルは、少し呆れ気味に言う。そんな態度にも鈍いエリオットも可愛いと思うモーベイルだった。モーベイルは、エリオットの天然返答に心の中で拍手を送りながら、そっと自分の席に戻ろうとした。

しかし、攻略キャラたちはそれぞれの距離感で、モーベイルを囲むように立っていた。

「あれ?君、もう戻るの?」[

「辛さ、完全に抜けたか?念のため、もう一杯冷やした水を渡そうか?」

「お前、さっきから顔赤いぞ。熱でもあるのか?」

アシュレイ、ライル、カイルがそれぞれ言う。モーベイルは、震える手で自分の胸元を押さえた。

(これ……囲まれてる……!?なんで?!こんなシーン無いはずなのに!!?)

そのとき、レオナードが遠くから歩いてきた。 モーベイルは、思わずレオナードに向かって叫んでいた。

「レオナード様ぁぁぁぁぁ!!!」

レオナードは、少し驚いた顔で言った。

「……どうしたんだ、モーベイル?こんなに囲まれて。兄上様に

エリオットまで、ここで何を?」

モーベイルは、心の中で泣いた。

(あああああああ!!!思わず、レオに抱きついちゃったよぉぉぉぉ!!!ごめんね!ユリウス!!)

*****

モーベイルは悩んでいた。あの食堂での事件から、レオナード以外の攻略キャラがモーベイルの周りに集まるようになったのだ。

集まるどころか、日課である腐観察さえもできないぐらい誰かしらモーベイルのもとに来るのだ。そして、今日もまた一人モーベイルのもとに来ていた。

「やあ、モーベイル。今日も“恋の観察”に勤しんでいるのかい?」

そう言ってきたのは、アシュレイだった。モーベイルは、腐男子センサーが誤解されていることに震えながら答える。

「ち、違います!これは、あくまで……そう!文化的な観察で……!」

アシュレイは、微笑んで言った。

「そうか。なら、俺も君を観察してみよう。……ふむ。今の君の反応、興味深い。おや?なんだが濡れているね?」

アシュレイはそう言って、少し濡れているモーベイルの髪に触れる。モーベイルは内心ドキッとする。それはそのはず、唇が触れそうなほど

顔を近づけているのだからなおさらだ。

「だ、大丈夫です!掃除のとき、滑って転んだだけなので!!」

モーベイルは必死にアシュレイを押しながら言う。モーベイルが滑って転んだというが、いつもの取り巻き達からの嫌がらせである。当然鈍いモーベイルは自分が転んだと思い込んでいる。そんなことをしていると、風邪が治ったのだろうユリウスとレオナードがモーベイルたちを見つける。

「あれ?モブ君?とアシュレイ様、ごきげんよう」

「ユリウスぅぅぅぅぅ!おっと!いいとこに来てくれたよ!!」

ユリウスに抱きつきそうになるモーベイルはすんでのところで止める。

「あははは、どうしたの?」

「アシュレイ様のコミ力がバグり過ぎて、怖い」

「こみりょく?ばぐり?モブ君が何を言っているのか分からないけど、アシュレイ様はいつもこうだよ」

ユリウスのうしろに隠れながら言う。そんなモーベイルを笑いながら、子供をあやすようにユリウスが言う。今のモーベイルは借りてきた猫状態で、アシュレイを見る。そんなモーベイルを見ても、アシュレイにとってはかわいい猫に見えるのだろう。

「ふふ、本当に君は今日も面白し、可愛いね」

アシュレイは、微笑みながら言った。モーベイルは、ユリウスの背中に顔を埋めながら心の中で叫ぶ。

(やめてぇぇぇぇぇぇ!!!その攻め顔で笑うの!心臓が持たなくなる!!あと、俺は猫じゃない!)

よしよしと頭を撫でている横で、レオナードがアシュレイに話しかける。

「アシュレイ、あなた最近モーベイルと仲いいのですね」

「そうなんだよ。見ていて飽きない生物は初めてなんだよ。まるで猫を相手にしているようでね。ユリウスは小動物のよう、そう……まるでリスのようだけどね」

「アシュレイが言うのも分かりますが、ユリウスは今や私の婚約者です」

「そんなことは百も承知だよ。僕は今、あの猫……モーベイルの方が

面白い」

二人の目が笑ってないのに、笑いながら話しているのが怖いと思ったモーベイルだった。モーベイルはユリウスの背中に隠れながら、そっとアシュレイとレオナードの距離を確認する。

(あれ……?なんか……近くない……?はっ!これはこれで、いいかも!!レオアシュ!アシュレオ!どっちも美味しいかも!!)

新たな扉を開いていると、先ほどアシュレイが言っていたことを

ユリウスが言う。

「モブ君、なんか髪濡れてない?」

「ああ~、これは掃除のときに転んで……」

「え!大丈夫……?あっ!僕ハンカチ持ってから、使って!」

「ありがとう、ユリウス!じゃあお言葉に甘えて……ひっ!?や、やっぱり大丈夫!それに、このぐらいならすぐに乾くし!!」

モーベイルは、ユリウスのハンカチをすぐさま返す。ユリウスは、残念そうにしながら自分のカバンにしまう。

「そう……?モブ君、風邪ひかないでね?」

「う、うん!ありがとう!気をつけるよ!」

そんなユリウスとモーベイルの会話を見ながら、アシュレイは言う。

「君でもそんな顔をするんだね」

「何のことです、アシュレイ」

「モーベイルのこと、今睨んでただろ?それは、元ルシアンの取り巻きとしての警戒かい?それとも、“だたの”嫉妬かな?」

アシュレイはにこやかに言う。そんなアシュレイに対し、レオナードは呆れなら言う。

「何のことか分かりませんが、あなたが思っていることじゃないですよ。それでは、私たちは行きますので失礼します」

レオナードはそう言って、ユリウスを呼び二人でその場を離れて行った。モーベイルがユリウスに手を振って見送っていると、アシュレイが呟く。

「今はそいうことにしておくよ、レオナード」

「え?何言いました、アシュレイ様?」

「いや、何でもないよ。それより、これから僕の屋敷に来ないかい?僕も含めみんな君を歓迎するよ?」

「遠慮しときます!これから、図書館に行って調べものがあるので。では、失礼します」

モーベイルはアシュレイに、一礼して図書館に向かった。そんなモーベイルのうしろにアシュレイは言う。

「残念、逃げられてしまったか。しかし、今日は逃げられてしまったがまた誘った時は逃がさないよ。モーベイル」

アシュレイはニヤリと笑った。

*****

モーベイルは、図書館の隅で静かに授業で気になることがあったため、その資料を探すついでに腐観察をしていた。だが、その時取り巻きの一人がこっそり本棚の脚を蹴った。

ガタンッ!!

「——危ない!」

「え?」

反射的にライルが手を伸ばし、モーベイルを抱き寄せるようにして庇った。本が雪崩のように落ちる中、モーベイルはライルの腕の中で硬直する。

「怪我は……ないね。よかった」

「あ、ありがとうございます」

ライルは、モーベイルの髪に触れながら、ふわりと微笑んだ。

「君の髪、光に透けて……綺麗だ。……少し震えてる。怖かった?」

モーベイルは、腐男子センサーが暴走しかけているのを必死に

抑えながら答える。

「だ、大丈夫です!これは……その、いきなり衝撃がきて、びっくりしただけなので……!」

ライルは、首を傾げながら言った。

「衝撃で……びっくり……。ふむ。君は、本当に面白いね」

モーベイルはライルの言葉を、聞くことができなかった。

(あわわわわわ!これは、いわゆる壁ドンなのでは!?現世の腐女子のみなさま、そして前世の腐友達ごめんよ。俺は一足先に、憧れの壁ドンを今味わっているよ……!)

モーベイルは心の中で、涙を流しながら拝んでいると、ライルがモーベイルの口の端を指で拭う感触でモーベイルは現実に戻ってきた。

「なっ、ななな何をしてるんですか!?」

「こんな状況だというのに、君がよだれを垂らしながら昇天しかけていたものだからね。僕が助けてあげたんだよ。えーと、君はモーベイルといったかな?」

モーベイルは顔を真っ赤にして、後ずさろうとしたが、背後にはまだ本棚の影が残っていた。逃げ場がない。

「そ、それは……っ、俺は別に、昇天とかしてませんし!

よだれもたぶん、きっと、幻覚です!」

「幻覚にしては、君の口元、ちゃんと濡れてたよ。……ほら、まだ少し残ってる」

ライルは再び指を伸ばしかけ、モーベイルは反射的に顔を背けた。

「や、やめてくださいっ!俺は壁です!壁なんです!触れられる側じゃないんです!!」

「壁……?ああ、なるほど。君は“観察者”ってことか。……でも、壁って誰かに寄りかかられるものだよね?」

「っっっっっっ!!」

モーベイルの脳内で、信仰の鐘が崩れ落ちた。前世の腐友達が、天の彼方から「それもう主人公だよ……」と囁いてくる幻聴が聞こえた気がした。

ライルはそんなモーベイルの混乱をよそに、ふわりと笑った。

「ますます君を観察したくなったよ。また図書館で会えるかな?」

そう言って、何事もなかったかのように立ち去るライル。残されたモーベイルは、崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。

(……俺、今……壁ドンされて、口拭われて、天然に口説かれた……?)

次々と公式にない展開が続いて、モーベイルはこれから来る展開がどうなるのかと頭を抱えた。

*****

昨日から続く攻略キャラたちのスキンシップに悩んでいると、ルシアンの取り巻きの一人がモーベイルに話しかける。

「モーベイル!」

「何?」

前世の記憶を取り戻してからあまりかかわらなくなったが、こうしてたまに話しかけられることがある。そして、取り巻きが手に持っている物をモーベイルに渡しながら言う。

「ごめん!コレ、カイル様が忘れていった(噓)香水だから、代わりに渡しといてくれる?僕これから、ルシアン様に頼まれた物を渡しに行かないといけないんだ。それに、モーベイル最近カイル様たちと仲いいだろ?なぁ、頼むよ!」

「……分かった。俺が渡しておくよ」

モーベイルが頼まれると断れない性格を、取り巻きに利用されていることなど知らずに、モーベイルはそう言う。

「マジか!ありがとう!!!モーベイル!!!それじゃあよろしくなー!」

そう言って、取り巻きは走って行った。一人残されたモーベイルはどうこの香水をカイルの渡すか考えていた。

(引き受けちゃったけど、どうしよう……。確かカイルって気まぐれだから、学園にもたまにしか来ないキャラだったよな?最近はよく来てるけど、今日来てるとは限らないよなぁ……。はぁ……本当どうしよう……)

そんなことを考えていると、うしろからカイルが近づいていることも気づいていなかった。

「おい、何してんだ?」

突然背後から声がして、モーベイルはビクッと肩を跳ねさせた。驚いた拍子に手元が滑り、香水の瓶が地面に落ちる。

カランッ——

幸い割れはしなかったが、香水の蓋が外れ、甘くて濃厚な香りが空気に広がる。

「ひっ……!す、すみません!!俺、わざとじゃなくて……!」

モーベイルは慌てて香水を拾い上げようとするが、そこに別の

取り巻きが駆け寄ってきた。

「ちょっと!それ、カイル様のお気に入りの香水じゃん!何してんの!!」

「えっ……!?えっ!?俺、知らなくて……!ただ渡してって言われて……!」

モーベイルは混乱しながら、香水を抱えるようにして立ち上がる。その顔は真っ青で、目はうるうるしていた。カイルは

その様子を見て、取り巻きに向かって一歩踏み出す。

「……お前、モーベイルに何か言ったか?」

「え、いや……その……」

「俺が忘れたって言ったのか?それにそれ、俺のじゃないぞ。……俺はこんな安っぽい香水なんて、使わない」

「え……?」

取り巻きは言葉を失い、そそくさとその場を離れていった。モーベイルは、まだ香水を抱えたまま、カイルの顔を見上げる。

「……ごめんなさい。俺、不器用で……カイル様の大切な物を……」

カイルはふっと笑って、モーベイルの手から香水をそっと受け取った。

「香水なんて、どうでもいい。それにあれは、俺のじゃないって言ったろ?

……お前が傷つく方が俺は嫌だ」

「え……?」

「それに、香りは……お前に似合ってる。甘くて、ちょっと不器用で……でも、残る」

モーベイルは、腐男子センサーが爆発しかけているのを必死に抑えながら、心の中で叫んだ。

(ちょ、ちょっと待って!?それって、俺の香りが“残る”ってこと!?それもう、スパダリ攻のセリフじゃん!!尊すぎ!!)

カイルは、モーベイルの耳元に顔を近づけて、囁いた。

「……今日、暇か?」

「えっ……?はい、特に予定はあれませんが……」

「じゃあ、俺に付き合え。香水の代わりに、お前の時間をもらう」

モーベイルは、心の中で前世の腐友達に土下座しながら、そっと頷いた。

(俺……今、スパダリ攻に“香水の代わりに時間をくれ”って言われた……。俺、このままモブ人生終わってもいいかも……)

モーベイルは、カイルに連れられて学園の中庭へと歩いていた。周囲の視線が痛いほど突き刺さる。——それもそのはず、王子ではないにしてもビジュアルで言ったら王子である、カイル・フィルブラム

が影が薄いモブと並んで歩いているのだからなおさらだ。

「……あの、俺、本当に付き合うって言っても一体何を……?」

「別に難しいことはしないさ。ただ、俺がお前と一緒にいたいだけだ」

「っ……!」

モーベイルは、腐男子センサーが暴走しかけているのを必死に

抑えながら、心の中で叫ぶ。

(はぁ!?何、俺ときめいてんの……!俺は壁!俺はモブ!俺は背景!!)

カイルは、そんなモーベイルの混乱をよそに、ベンチに腰を下ろす。

「座れよ。香水の代わりに、君の時間をもらうって言っただろ?」

モーベイルは、そっと隣に座る。距離が近い。先ほどの香水の香りがまだ微かに残っている。

「なぁ、お前ってさなんでそんなに自分を“モブ”って言うんだ?」

「えっ!?……それは……俺が、ただの観察者と言いますか……。なんていうか……」

「前に、お前のことを“変なやつ”って言ってた俺も、“面白い”って言ってたレオも、お前を見てる。それって、もう“モブ”じゃないだろ?」

モーベイルは、言葉が出なかった。信仰が、少しずつ崩れていく音がした。

(え……俺、見られてる……?“壁”としてじゃなくて……?)

カイルは、ふっと笑って言った。

「モーベイルの香り、まだ残ってる。……俺の中に」

モーベイルは、前世の腐友達に土下座しながら、そっと目を伏せた。

——その様子を、少し離れた場所から見ていた者がいた。エリオットは、任務外の視線で、モーベイルを見つめていた。

(……また、あいつか)

その視線は、嫉妬ではなかった。

ただの違和感。でもその違和感が、なぜか目を離せない理由になっていた。

モーベイルは、顔を赤くしながら言う。

「な、何をおしゃっているんですか!?そいうのは、綺麗なご婦人や他の人に言って下さい!!もう!俺をからかうのは、やめて下さい!!心臓に悪いです!!!」

「からかってなんてないが。あははは!本当、面白いなお前!!」

カイルは、腹をかかえて笑う。モーベイルは、顔を真っ赤にしたまま、ぷいとそっぽを向いた。

けれど、耳まで真っ赤なのは隠せない。

「まぁ俺は、ただのモブですから。からかわれるのにも慣れてますし……」

「へぇ。じゃあ、俺が“本気”だったらどうする?」

「はぁ!?!?」

モーベイルは、思わずカイルの方を振り返る。カイルは、いつもの軽い笑みを浮かべたまま、でもその目だけが真っ直ぐだった。

「ふーんお前、そういう顔もするんだな。やっぱ、面白い」

「っ……!!」

モーベイルは、腐男子センサーが爆発寸前なのを必死に抑えながら、心の中で叫んだ。

(やばいやばいやばい!!それって、スパダリ攻の“本気スイッチ入りかけ”じゃん!!)

「……っ!俺、そろそろ行きます!!それでは、し、失礼します!!」

「おい!待てって。まだ時間、もらってるだろ?」

「返却します!!香水と一緒に、時間も返します!!」

モーベイルは、顔を真っ赤にしたまま、逃げるようにその場を離れた。カイルは、その背中を見送りながらふっと笑った。

「……本当に、面白いな。あいつ。俺のものにしたくなる」

カイルは、そう呟いた。

*****

今日は久しぶりにユリウスとの、ランチタイムだ。モーベイルはいつも通り、ユリウスが待つ庭園のベンチに向かっていた。

「おーい!ユリウス、お持たせ!って何か元気ないな?どうした?」

「あ……モブ君。それが……最近レオ、レオナード様がね僕に合ってくれないんだ……」

ユリウスがそう悲しそうに言っているのに、モーベイルは内心別なことを考えていた。

(んん!!二人きりの時は、あだ名で呼び合ってるの尊い!!!)

モーベイルは一つ咳払いをしてから言う。

「なるほどねー。つまり、レオナード様に新たな婚約者がいるって

思っているのかぁ~」

「婚約者じゃないかもしれないけど、好きな人ができたのなら僕……勝ち目無いよ……」

そう言って、ユリウスの目に涙が浮かんでいた。モーベイルは慌てて、自分のハンカチを出しユリウスに渡す。

「ああああああ!きっとユリウスの勘違いたよ!ほら、これで涙拭いて!!」

「ありがとう……モブ君。君って本当優しいね」

ユリウスは、涙を拭きながら笑う。

「ああ、ほら!前世の記憶……じゃなかった!俺、今日レオナード様見たけど、ユリウスがやっぱり勘違いしてると思う」

「……ほんと?」

ユリウスが、疑わしい顔でモーベイルを見る。そんなユリウスの顔などを気にせず、モーベイルは言う。

「本当!本当!何なら今から、レオナード様に確認しに行こう!!それと、ユリウスがどれ程レオナード様が好きかハッキリ言えばいいんだよ!!」

「ええ!?そんなことしたら、レオナード様に迷惑だよ!ってモブ君待って!!」

モーベイルはユリウスの手を握って、レオナードがいる生徒会室に向かった。

モーベイルは、生徒会室の扉をノックする。すると中からレオナードが返事をする。

「どうぞ」

「失礼します。すみません……いきなり来てしまって……」

モーベイルは、レオナードに向かって一礼する。

「そんなに畏まらなくていいよ。ところで私に何か用かな?」

レオナードは机に置いてある、書類を片付けながら言う。

「はい。と言っても俺じゃないですけど……。ほら、ユリウス!聞いてみるんだろ?」

うしろに隠れているユリウスを、モーベイルがレオナードの前に出す。

「ユリウス?どうした?何か私に聞きたいことがあるのかい?」

レオナードがそう言うと、ユリウス小さく頷く。

「うん……。あのねレオ、もう僕のことを好きじゃなくなった……?」

ユリウスは泣きそうな声で言う。そんなことを聞いた、レオナードはモーベイルを見る。モーベイルは、必死に左右に首を振る。

レオナードはモーベイルのそんな姿を見てため息をつく。

「はぁ……。そこにいる者に何を聞いたか知らないが、私が君を嫌いになるはずはないだろう?」

そう言ってユリウスのもとに行き、レオナードはユリウスを抱きしめる。

レオナードの腕の中で、ユリウスは小さく震えながら言う。

「……でも、最近レオが僕に冷たくて……。僕、何か嫌われるような

ことしたのかなって……」

レオナードはユリウスの髪を撫でながら、静かに言った。

「君が何を思っても、私の気持ちは変わらない。……ただ、忙しくて余裕がなかっただけだ。君に寂しい思いをさせたなら、謝るよ」

ユリウスの目に、再び涙が浮かぶ。

「……そうだったんだ。ごめんね……僕が勘違いしてた。レオ、大好き……!」

「ああ、私もだよユリウス」

その様子を見ていたモーベイルは、そっと後ろを向いて心の中で叫んだ。

(うわあああああああ!!!!!!尊い!!!!前世の記憶で見た通りだ……!この二人、やっぱり運命だよ……!

俺、今この瞬間に立ち会えたこと、一生の宝にする……!)

「モブ君、ありがとう……。君が言った通り僕の勘違いだったみたい」

ユリウスは、モーベイルの手を取り笑いながら言う。

「大体のことは、分かった。どうやら、君にも迷惑をかけしまったらしいな」

「い、いえ!ユリウスの誤解も解けて良かったです!ユリウス、これからはどんなに悩もうと俺が力になってやるからな!!」

「うん!ありがとうモブ君!僕も、モブ君に何かあったら必ず助けになるからね!!」

「おう!その時は、よろしくな!」

モーベイルとユリウスは、お互いに笑いあった。

*****

連日続く攻略キャラの好感度上げイベントからようやく、解放されたモーベイルは珍しく一人でいた。しかも今日に限って、物陰に隠れながらいるエリオットもいないのだ。

「ふぅ……。やっと一人になれた……腐観察も今日から再開!」

そんなことを言っていると、取り巻きに声を掛けられる。

「ねぇ、モーベイル。ライル様が君に渡してほしいって言ってたんだ。

……この薬、飲んでくれない?」

「えっ……?俺に?なんの薬だろ……?」

モーベイルは渡された薬を疑いもなく、飲み干す。そんなモーベイルを、くすくす笑いながら見ている取り巻きたちにも気づかない。

(たまにライル様から怪しげな薬の試飲を頼まれることあるけど、今回のは何の薬だろ……?あれ?なんか……眠気が……)

そこで、モーベイルは意識を失った。目を開けるとそこは、見たことのない場所にいて両手足を縛られていた。

「え!?なにこれ!?ていうか、ここどこ!!何で俺、縛られてんの!!?しかも何、この同人誌展開!!」

モーベイルがパニックになっていると、知ってる声が聞こえた。

「ドウジンシ?ていうか、うるさいな~!今の状態、本当に分かってないの?」

「分かんないから、叫んでんじゃん。えーと……、誰だっけ?」

「僕はカリス・ノワール=ヴェルディア!!ルシアン様の側近!!本当君、頭悪いよね!」

カリスがそう言うと、周りにいた他の取り巻きたちがくすくす笑う。そんなモーベイルは、内心で思う。

(ああ、つまり俺と同じでモブってことか。まぁ、本人に言ったら

また面倒なこと言われそうだから、黙ってよう)

カリスは、モーベイルの顔を覗き込むようにして、にやりと笑った。

「君ってさ、ほんとに空気みたいだよね。誰も気にしてないのに、勝手に騒いでて。……ルシアン様の空気を濁す存在って、ほんと迷惑!!」

「っ……!」

カリスが手を伸ばす。

モーベイルは思わず身をよじるが、縛られた手足では逃げられない。

「ほら、やっぱり頭悪い。縛られてるのに、まだ自分が助かると思ってるんだ?いい加減諦めたらどう?」

カリスはそう言って、モーベイルのズボンのバルトを外していく。他の取り巻きたちはモーベイルが、動かないように

押さえつける。

(やばいやばいやばい!!これ、同人誌展開どころじゃない!!本気でやばい展開だ!!!なんとかここから、逃げないとやばい!!)

モーベイルが必死で脱出方法を考えている、同じ時間にユリウスがモーベイルを探していた。

「モブくーん?どこー?モブくーん?」

「ユリウス、どうした?ん?今日は、モーベイルとは一緒じゃないのか?」

そう話しかけたのは、エリオットだった。ユリウスは、モーベイルを探していることを説明する。

「あっ!エリオット!モブ君知らない?!いつものように、一緒にご飯を食べようと待ってたんだけど、全然来ないんだ……。どうしよう……、モブ君に何かあったら僕……!どうしよう……、

エリオット……!!うぅぅ……ひっく……!」

「何!?……事情は分かった。それと落ち着け、ユリウス。大丈夫だ、俺も探す。とにかく、このとはレオナードだけにしておけ。騒ぎになると相手も逃げてしまう可能性があるからな」

エリオットは、泣いているユリウスを慰めながら言う。

「……ひっく……!うぅぅ……!う、うん……!ありがとう、エリオット……。僕の方も、もう少し探してみるよ……」

「ああ。頼んだユリウス」

ユリウスは涙をふき。エリオットは、モーベイルが行きそうなところを探してみると言って、それぞれモーベイルを探す。

エリオットは必死にモーベイルを探した。ユリウスに言われたのもあるが、そんなのはもう関係なかった。ずっとモーベイルを見てたからなのか、あのコロコロ変わる表情、ただのモブだというのに取り巻きたちに囲まれていたユリウスを見て見ぬふりをせず助けたところ、カイルたちがモーベイルと話していただけでも、胸が

モヤついてイライラして無意識にカイルたちを睨んでいたことはエリオット自身知らない。

幼馴染で、かつては好きだったユリウスでさえにも、ここ最近モーベイルと一緒にいないでくれと思うほどだ。

「はぁ……!はぁ……!おい、そこにいる者たちモーベイルを見てないか?」

エリオットは息を切らしながら探していると、目の前に雑談している二人に声をかける。声をかけられた二人は、キャー!!と

歓喜の声を上げる。

「キャー!!騎士様!どうされたのですか?そんなに息を切らされて?」

「そうですよ!」

エリオットは息を整えて、もう一度聞く。

「ふう……。モーベイルを探している。君たちは、見てないか?」

「モーベイル?さぁ……?そう言えば、今日は見て無いね」

「うん。いつもなら、ユリウス君と一緒にいたり一人でなんかしら呟いててなんか怖いけど、今日は見て無いですよ?」

「……そうか。すまない、引き留めてしまって」

「いえいえ!いいですよ!!こうして騎士様と話できましたし!!」

「そうそう!ところで、モーベイル君が何かしたんですか?探してるって言ってましたけど?」

そう不思議そうに、一人がエリオットに言う。

「いや、少しモーベイルに用があって探していた」

エリオットは、あくまで用があるという名目で話す。

「あっ!もしかして、モーベイルまた何かしたんですか?」

「えっ?でも最近、何もしてなくない?前だったら、ルシアン様の取り巻きしててユリウス君に何かと絡んでたし。それどころか、ユリウス君と仲いいよね!」

「あー!分かる!!ユリウスと仲いいよね!たまに、一緒にランチしてるとことか見るし!掃除とか手伝ってくれるし!」

「そう言えば、あの時ぐらいじゃない?

「あー!あの時ね!!」

何か手がかりになるかと、エリオットは黙って聞いていたが気になることを聞いた。

「あの時?」

「はい。……え?知りませんか?モーベイル君が、レオナード様の言う言葉を奪ったとかいう噂の……」

「そうなんです!そうなんです!なんか、あの時から柔らかくなったとういうか~?接しやすくなったとういうか~?」

(レオナードが言っていたことか……。確かに、あれ以降から悪目立ちしていたモーベイルだったが、ここ最近はそんな噂は聞かない。……あいつは何者なんだ?)

「騎士様?」

「……何でもない。情報感謝する」

エリオットは再び、モーベイル探しに向かった。そんなエリオットを影で見ているものがいた。エリオットが気づかない程に、影の薄い人物が。

*****

エリオットがモーベイルを探している間、モーベイルの目には涙が浮かんでいた。それもそのはず、カリスが用意したのだろうこわもての男たちがモーベイルを犯そうとそていた。

「んー!んんー!!」

「ちっ!大人しくしやがれ!!おい!誰か足掴んでいろ!!」

「へへへ!可哀そうにな~、ココはこんなに萎えて小さくなってやがる。大丈夫だ、すぐに気持ち良くしてやるからよ~!」

男たちはそれぞれ下品な笑いをしながら、モーベイルの体をあっちこっち触る。その度にモーベイルの目から涙がこぼれ落ちていく。

(やめろ!やめろ!!!気持ち悪い!!あっ!そんなトコ触るな!!!!嫌だ!嫌だ!気持ち悪い!!誰か助けて!エリオット!ユリウス!誰でもいい……!誰でもいいから、助けて!!!)

モーベイルは心の中で、助けを呼ぶ。そんなモーベイルの姿を見ながら、カリスたちは笑う。モーベイルは必死に抵抗している時、エリオットを呼ぶ微かな声が聞こえた。

「あの……様。き……様。あの!騎士様!」

「っ!」

いきなりうしろから大きな声でエリオットを呼ぶ声に驚く。エリオットは振りかけり、いつも持っている剣を抜きかけてやめる。

(なんだこいつ……?俺が気づかないぐらい、こんなに近くに来れるとは。まだまだ、俺も鍛錬が足りていないな)

「あっ、あっ!ご、ごめんなさい!僕、声も小さければ影も薄くて……。基本、誰にも気づいてもらえないんですよね……」

彼は、ネガティブな発言をしながらもじもじしている。そんな彼にエリオットは、ため息をつきながら言う。

「先ほど、俺を呼んでいたが何か用か?すまないが、君にかまっているほど俺は今忙しいだ」

「あ、えーと……、モブ君のことを探してるんですよね……?」

(こいつもユリウスと同じで、あいつをモブ君と呼んでいるのか……)

そんなずれたことを考えていると、エリオットは彼に言ってないのに何故エリオットがモーベイルを探していることを知ってるのだろうと思った。

「……なぜ、俺がモーベイルを探していることを知っている?」

エリオットは彼を警戒する。すると、彼は怯えながら言う。

「あ、えーと、それは……!僕、こんな影薄いじゃないですか……。きっと、あの人たちも僕には気づかなかったみたいなんです……。だから僕、連れていかれたモブ君たちの後を追ったんです……。そしたら、あっちにある使われてない、倉庫に入って行ったのが見えたんです……。誰かに報告しなきゃって思って……、そしたら騎士様たちがモブ君を探しているみたいだったので、お伝えしようと……。あっ、あの!騎士様!!どうか、モブ君を助けてあげて下さい!!非力な僕の代わりに、お、お願いします!騎士様!!」

今日一、彼は大きな声を出しただろう。涙を流しながらエリオットに頭を下げる。そんな彼の頭を撫でながら、エリオットは言う。

「それは、君に言われるまでもない。だがしかし、よく一人で頑張ったな。モーベイルは、必ず俺が助け出す。このとは内密に、レオナードたちに知らせてくれないか?……すまないが、君の名は?」

「あっ!名乗り忘れていました!僕は、ユル・ミュールです……」

「では、ミュールよろしく頼んだぞ」

「はい!!」

ユルはそう返事して、すぐさまレオナードのもとに走って行った。エリオットも、ユルの情報を頼りにモーベイルを助けに行くべく向かった。

*****

エリオットはユルが言っていた倉庫の前で立ち止まり、扉から聞き耳を立てる。すると、中から聞こえるカリスの声、取り巻きの笑い声、モーベイルのかすかな呻き声が聞こえた。エリオットはすぐさまその扉を蹴り破り、中へと入る。

「っ!」

エリオットは、目の前の光景に息を吞む。いきなり現れたエリオットに対し一人の男が近づく。

「なんだてめぇは?あぁ?……ぐあっ!」

エリオットの前にいた男は、突然倒れ込んだ。それを合図に、次々と強面の男たちがエリオットへと向かっている。しかし、誰一人エリオットにかなうものはなかった。最後の一人も倒れたころ、後ろで怯えているカリスたちに向かって行く。カリスたちにとっては、今のエリオットの姿は恐怖でしかないだろう。

それもそのはず、かなりの返り血を浴びているのだからなおさらだろう。

「き、騎士様……!こ、こ、これは……!その……!!」

「貴様の話は、あとで聞く」

「ひっ!?あ……」

エリオットがカリスに一睨みすると、カリスはその圧にやられ気絶してしまった。取り巻きたちはすぐさまカリスに呼びかけている中、エリオットは裸で手足を結ばれているモーベイルのところ

に向かい、手足の紐を剣で切り、口についているガムテープを剥がして自分のマントをモーベイルにかけてやる。

されるがままになっていたモーベイルはようやく、声を出した。

「こ、怖かったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!うあぁぁぁぁぁん!!」

モーベイルは勢いよくエリオットに抱きつく。もう相手が最推しであるエリオットにも拘わらず、緊張と恐怖で泣きながら必死に

エリオット抱きつく。そんなモーベイルをエリオットは優しく抱き締める。

「間に合って良かった……!」

エリオットは、モーベイルの体をマントでぐるぐる巻きにした状態で、お姫様抱っこをしながら外へ出た。

「エリオット!」

「レオナード……。それに、ユリウスたちもか」

外に出ると、レオナードをはじめユリウス、カイル、アシュレイ、ライルそしてここの事を教えた、ユルもいた。

「モブ君!」

「……」

そうユリウスが、抱えられたモーベイルもとに駆け寄る。その

あとを、カイルたちが駆け寄る。

「……無事でよかった!モーベイル!」

カイルがそう言って、モーベイルの頭を触ろうとしたその時、、モーベイルは体を震わせてカイルの手から逃げる。

「っ!」

行き場をなくした手はそのまま空を浮いたままだった。カイルは

何も言わず悲しそうな顔を浮かべたまま、手を降ろす。うしろで心配そうに見ていた、ユルは声をあげる。

「あ、あの……!今はそっとしておいた方が、いいと思います……。よほど、怖い目に遭ったのでしょう……。可哀そうに、モブ君……。ごめんなさい……、僕にもう少し勇気があれば……」

「そんなことはない、ミュール。君がここまで、尾行しなければモーベイルはもっとひどい目になっていただろう。ありがとう、ミュール」

「い、いえ!いえ……!」

ユルは大粒の涙を流しながら、喜んだ。先ほどまで、抱えられていたモーベイルは顔をだけを向けて、ユルを呼ぶ。

「ユル……?ユルもいるの……?」

「っ!モブ君!いるよ!!」

ユルは涙を拭くこともせず、モーベイルに駆け寄る。

「ユル……!ありがとう!ここのこと、エリオットたちに教えてくれたんだろ?本当にありがとう……!」

モーベイルは泣きながら、ユルに感謝の気持ちを伝える。ユルは左右に首を振りながら言う。

「ううん!モブ君!お礼なんていいだ……!僕は、君を助けられて良かった!本当に良かった!!!」

モーベイルはエリオットに降ろしてもいらい、ユリウスとユルとで互いに抱きしめ合った。そんな光景を黙って見ていた、ライルは言う。

「とにかく、モーベイルのことはユリウスたちに任せて、僕たちは中にいる者たちを何とかしよう」

「……そうだな。エリオット以外にモーベイに近づけるのは、あの二人だけだしな」

「……レオナードすまないが、モーベイルたちを頼む。俺は中にいる奴らに、話を聞き行かなくてはならない」

そう言われた、レオナードは頷く。

「分かった。彼らのことは私に任せていてくれ」

エリオットはそれを聞いて、ライルたちと共に再び、使われていない倉庫の中へと入っていた。

*****

モーベイル救出事件から、一週間がたった。当事者であるモーベイルは、ケガもしていたこともありしばらく学園を休んでいる。そばには、ユリウスかユルが交代でモーベイルの看病をしている。今日はユリウスが行ってるため、ユルはことのしだいを話すべく生徒会室に来ていた。ユルは生徒会室の扉をノックし、レオナードに頭を下げる。

「……あの、先日の件で……ご報告があって……」

レオナードは静かに頷く。

「君がユル・ミュールだったな。……話してくれ」

ユルは震える声で、あの日のことを語り始める。 今までの取り巻きたちからの嫌がらせの数々、そして今回の事件の真相などをユルが知っている全てをレオナードたちに話した。途中でユルの涙がこぼれ、涙声になる。

「僕……怖かったけど……でも、モブ君が……」

レオナードが静かに紅茶を差し出す。そして、レオナードはユルの話を聞き終えたあと、ふと呟く。

「……よく話してくれた。ありがとう。……君のような存在が、彼を救ったのか。……皮肉だな。誰にも気づかれない者が、誰よりも見ていたとは」

ユルは小さく笑う。

「良いんです……。僕、いつも空気みたいなんで……。でも、モブ君だけは……僕の名前を呼んでくれたんです」

「……それは、君が“空気”じゃなかった証拠だ」

そして扉がノックされ、エリオットが入ってくる。

「……ミュール。君に礼を言いに来た」

「えっ……ぼ、僕に……?そんな……!騎士様から、お礼を言われることなんて何も……!」

「いや。そんなことはない。それに君がいなければ、俺は……あの時モーベイルを失っていたかもしれない」

「騎士様……」

ユルは涙を流しながら呟く。そんな空気を、破るかのように

アシュレイは言う。

「とにかく、今回のようなことが起きないようにもっとあいつらを監視しすべきだな」

「そのことについては、昨日学園長にお話し済みですよアシュレイ」

「流石!俺の弟!やることが早いな!!」

「そいうことを言うのはやめて下さいと、いつも言っています。兄上様」

今まで黙って、紅茶を飲んでたライルが話す。

「レオナード、あいつらはどうなったの?」

レオナードは、一枚の紙をライルに渡す。その紙は、今回いた強面たちの家柄や名前などがリストアップされていた。

「あそこにいた者たちの処分は、階級の取り下げさらに首謀者であるカリスについては……」

「その者については、僕が話す」

そう言って、入ってきたのはルシアンだった。

「……えっ!?ル、ルシアン様!!なぜここに!?」

ユルは驚く。そんなユルにルシアンは言う。

「今日僕がここに来たのは、モーベイルのことで謝罪に来たからだ」

「謝罪に……」

ルシアンは、レオナードたちに深々と頭を下げる。そんな姿にユルはさらに驚くが、ルシアンはユルを無視して、謝罪する。

「今回の事件、僕が知らなかったとは言え、僕の取り巻きたちがすまなかった……。本当は、モーベイルにも直接謝罪をするべきことなのだろうけど、ユリウスから事情を聞いている……。だからまずは、君たちに謝罪をしに来た。本当に、すまなかった……」

「顔をあげろ、ルシアン」

そう言ったのは、エリオットだった。ルシアンは言われたように、頭を上げる。

「確かに今回の事件、貴様の監督不行き届きかもしれないが、実行したのはカリスだ。貴様が謝罪をすることもないだろう」

「……そうか。君がそう言うのならば、そうなのだろう……。それで、カリスの件だが僕から直接カリスに言って自主退学ということで、処理させて頂いた。……あれでも、僕の取り巻きだ。あんまり、手荒な処分はさせたくない……」

エリオットは、ルシアンの言葉に一瞬だけ眉をひそめた。

「……貴様の“取り巻き”という言葉、軽すぎるな。あの者たちは、ただの装飾ではない。君の名のもとに動いた者だ」

「……分かっている。だからこそ、僕が責任を取ったつもりだった」

ライルが静かに口を開く。

「“つもり”では済まない。あの場にいたのは、ただの悪ふざけではない。……命に関わることだった」

「ああ。あれは“遊び”じゃない。……エリオットが、もう少し遅ければモーベイは……」

ユルが小さく震えながら、声を絞り出す。

「……モブ君、ずっと震えてました……。夜も、うなされて……。元々一人部屋だたのを、無理言って同室にしてもらいました……。そのぐらい、モブ君は……!」

ルシアンは、ユルの方を初めて見る。その目に、わずかな戸惑いと、痛みが浮かぶ。

「……そのことも分かっている。……彼には、消えない傷を負わせてしまった」

レオナードが、静かに場を締めるように言う。

「……この件は、これで終わりにしよう。だが、忘れてはならない。二度と今回のような事件を起こさない為にみな、しっかりと覚えていよう」

レオナード言う言葉に、この場にいた全員が頷く。

*****

エリオットたちが今回の事件の会議中、モーベイルは自室でユリウスといた。

「……モブ君、大丈夫?」

そうユリウスが心配そうに、モーベイルに話しかける。モーベイルは頭から布団を被りしばらく黙ってから、話す。

「……俺、どこで間違ったのかな?ただ、壁でいたいだけだったのに……。推しカプを眺めたり、最推しであるエリオットを眺めたり、その他の人で妄想をしたかっただけなのに……」

「えーと……、モブ君が何を言ってるのか分からないけど、たぶんモブ君のせいじゃあ無いと思うよ……」

そんなユリウスの言葉に、モーベイルは少し顔を出す。しかし、口から下は相変わらず布団の中だ。

「ごめん……。何でもない……。それと、ありがとう……。そう言ってくれて……」

「お礼なんて良いよ。モブ君には前に助けてもらったから、お互い様だよ」

「ユリウス……」

モーベイルは思わず、涙が出そうになった。

「ところでさっきエリオットの名前が出たけど、あのあと何かエリオットと何かあったの?」

「えっ!?あー……、それは……」

モーベイルはエリオットの名前を無意識に出していたと分かり、顔を赤くする。

「やっぱり、何かしたの!?もう!そうなら、僕に言って!僕が直接、エリオットに言ってあげるから!!」

ユリウスがそう、頬を膨らませながら怒る。そんなユリウスにモーベイルは、内心で笑う。

(あはは……。そういえば、ユリウスってたまに暴走するんだっけ。あの事件で忘れてたよ、その設定……)

モーベイルは目の前で、ユリウスの暴走を見て少し冷静になった。そして、モーベイルはポツリポツリと話し始める。

「ユリウス、大丈夫。エリオット様は何もしてないよ。もしろ、俺の方が……何かしそうなんだよ……」

「えーと、それはどいう意味なの……?」

「……なんだよ」

「え?ごめんねモブ君、もう少し声大きくしてくれないかな?」

モーベイルは意を決しって、ユリウスに言う。

「好きになっちゃったんだ……。その……エリオット様のこと……。恋愛的な意味で……」

モーベイルは再び、布団を被り顔を隠しながら言った。そんな爆弾発言に、ユリウスは驚く。

「え?……ええええええ!?」

ユリウスは寮内に響き渡るぐらいの大きな声で叫ぶ。幸い今日は授業があるなので、寮内はほとんど人がいなかった。

「ちょっ、ちょっと!!声が大きいよ!!?ユリウス!!」

「ご、ごめんね……」

ユリウスは、モーベイルに言われてすぐさま口を塞いで、小声で喋る。やがて、そっと布団の端に腰を下ろす。

「……そっか。モブ君、エリオットのこと……そういう風に、見てたんだね」

モーベイルは、布団の中で小さく頷く。

「うん……。でも、言うつもりなんてなかったんだ。ただ、見てるだけでよかった。……最推しだったから」

ユリウスは、少しだけ笑う

「あの時がきっかけかな?そっか……恋になっちゃったんだね」

「……うん。気づいたら、そうなってた」

「……そっかぁ。じゃあ、これからはモブ君がいつも言ってる言葉を借りるなら“推し活”じゃなくて、“恋活”だね」

「やめてよ……恥ずかしい……」

モーベイルは布団の中で身を縮める。でも、ユリウスの声が優しくて、どこか安心する。

「でも、モブ君がそう思えるくらい、エリオットって……やっぱりすごいだね。ふふ、そっかぁエリオットにかぁ~!」

「……うん。俺なんかのために、あそこまでしてくれて……。あの時助けてくれた時の顔、今でも思い出すと……胸が、ぎゅってなるんだ」

ユリウスは、そっとモーベイルの布団の端をめくる。

「じゃあさ、モブ君。これからどうするの?」

「……え?」

「この気持ち、伝えるの?……僕は、その気持ちエリオットに伝えて欲しいな?」

ユリウスは、最後の方は独り言のように言う。モーベイルは、しばらく黙っていた。でも、やがて小さく呟く。

「え……?……分からない。でも、今は……もう少し、このままでいたい。ユリウスとユルとそれからレオナード様たちとこうして……普通に笑ってたい。でも、エリオット……様にはどう接したらいいから分からない……」

ユリウスは、にっこりと笑った。

「うん。それなら、僕も全力で応援するよ。……モブ君が、どんな選択をしても」

モーベイルはようやく布団から顔を出し、涙を浮かべながら笑った。

*****

モーベイルが学園に戻る朝、制服の襟を整えながら鏡を見た。 頬にはまだ絆創膏が貼られている。 それを見て、モーベイルは小さく呟いた。

「 ……まだ、俺……“空気”に戻れてないな……」

迎えに来たユリウスが隣で笑う。

「大丈夫だよ。モブ君はモブ君のままでいいんだよ。……絆創膏、似合ってるし」

「似合ってるって何……」

そう言いながらも、モーベイルは少しだけ笑った。 生徒会室の扉を開けると、レオナード、ライル、アシュレイ、ユル、そしてエリオットがいた。 モーベイルは一瞬で硬直し、ユリウスの背中に隠れる。

「……っ」

「モブ君……」

ユリウスは、何も言わずにモーベイルの前に立つ。 レオナードが気づいて、優しく声をかける。

「モーベイル。……よく来てくれたな」

「……はい」

モーベイルは、ユリウスの背中越しに小さく返事をする。 エリオットは何も言わずに立ったまま、モーベイルを見ていた。

(……視線、感じる。……でも、今は……まだ、無理だ)

ユリウスがそっとモーベイルの手を握る。

「大丈夫だよ。僕がいるから」

モーベイルは、ユリウスの背中に顔を埋めながら、小さく頷いた。そして、モーベイルは意を決してユリウスの前に出る。

「えーと……、この度は皆さんありがとうございました。なんか、俺のためにいろいろ動いてくれたと、ユリウスやユルから聞きました。本当にありがとうございました」

モーベイルはそう言ってレオナードたちに、頭を下げる。そんなモーベイルに、カイルが言う。

「モーベイル、俺たちは好きでやったことだ。お礼なんていい」

その言葉に、レオナードたちは頷く。ユルはモーベイルの近くに行き、言う。

「そうですモブ君!僕たちが好きでやったことです!モブ君は、いつものモブ君でいて下さい!!」

ユルはモーベイルに笑ってそう言う。

「ユル……」

そんな二人を、少し離れたところで見ている者がいた。エリオットだ。

(……声をかけるべきか。だが、まだ傷が癒えてなかったら……)

エリオットは目を伏せる。剣を握る手が、少しだけ震えていた。

モーベイルは、皆の反応に少しだけ肩の力を抜いた。でも、視線の端に映るエリオットの姿に心臓が跳ねる。

(……やっぱりまだ……顔、見れない)

その時だった。エリオットがゆっくりと一歩、前に出た。

「……モーベイル」

モーベイルは、びくりと肩を震わせる。顔を上げることができないまま、声だけが震える。

「は、はい!」

エリオットは、しばらく言葉を探すように沈黙した。そして、静かに言った。

「……君が戻ってきてくれて、よかった」

その言葉に、モーベイルの目から涙がこぼれた。でも、今度は隠さなかった。ユリウスもユルも、そっと見守っていた。

「俺も、戻れてよかったです……」

エリオットは、少しだけ微笑んだ。その笑みは、モーベイルの胸をまた“ぎゅっ”と締めつけた。ユルは、エリオットとモーベイルのことを見ていた。すると、ユルは何かに気づいたのかユリウスに耳打ちする。

「ユリウスさん、ユリウスさん……」

「どうしたの?ユル君?」

「……モブ君、なんか前と違いません?その……うまくは言えないのですが、レオナード様たちと接するのと騎士様との接し方が違うような気がするんです」

ユリウスは小さく興奮する。

「そうなんだよ!そうなんだよ!あのね、実はモブ君エリオットこと好きなんだって!」

「えええええ……!もぐっ!」

「しぃー!!」

ユルが叫び出すところを、間一髪防いだユリウスだった。ユルは、ユリウスに口を塞がれながら首だけを縦に振る。ユルは、塞いでいた手を外してもらい、再び小声で話し始める。

「ぷはぁ!……では、あのモブ君の態度もうなずけますね」

「うん……。そうなんだけどね……、モブ君しばらくはエリオットに告白しないみたいなんだ……」

「え!?そうなんですか……。……モブ君と騎士様が付き合うのならば、僕すごく嬉しいのに……」

ユルはとても残念そうに言う。そんな話を、一人聞いている者がいた。

(ふーん。モーベイルがエリオットを、ね……)

ライルは心の中で、そう呟いた。ライルは、紅茶のカップを静かに置いた。その音に、ユリウスとユルが一瞬だけ反応する。

「……ライル君、どうかした?」

ライルは、何気ない顔で言った。

「いや、別に。ただ……モーベイルがエリオットをね……。ふーんって思っただけ」

ユリウスは少しだけ警戒する。

「もしかして聞いてたの?ライル君魔法で聞いてるなんて、ずるいよ!……何か企んでないよね?」

ライルは笑う。

「企むって何さ。僕はただ、面白いことには首を突っ込みたくなる性分なだけだよ」

ユルは、少しだけ不安そうに言う。

「あの……!……モブ君のこと、からかったりしないでくださいね!?」

ライルは、ユルの言葉に目を細める。

「からかう?そんなことしないよ。……ただ、今はね?」

その言葉にユリウスもユルも、少しだけ安心する。でも、ライルの目はどこか“何かを見透かしている者”のそれだった。ライルは、静かに微笑んだ。

*****

モーベイルは一人、庭園のベンチに座りエリオットの言葉を思い出す。

『君が戻ってきてくれて、よかった』

「……本当に好きになっちゃったんだ……。恋愛的な意味で……。でも、あの時エリオットが助けに来た時、本気で嬉しかったんだよぁ~……。ん?これってつまり、パラソーシャルってこと?推しに、ガチ恋的な……?」

いや!でも!と言っていると、うしろから声がする。

「ねぇ、そのぱらそーしゃるって何?……それって、食べられる?それと、おし?っていうのも教えて欲しいなぁ~。というかおしって、押すの?ドアとか?」

「うわぁ!!!びっくりした!!何をしてるんですか!?ライル様!!」

「なんか、面白い顔してたから見に来た」

ライルはそう言って、さりげなくモーベイルが座っている隣りに座る。

「え……?俺そんなに、変な顔してました?」

「うん。してた」

ライルにそう言われ、モーベイルは顔から火が出そうなほど真っ赤にして手で顔を隠す。そんなモーベイルにライルは続ける。

「君さぁ、エリオットが好きなんだって?なんで、告白しないの?」

「ううぅ……。どこから、そんな情報を……。まぁ……いいですけど。何となく分かりますし……」

「じゃあなんで?」

ずげずげとモーベイルの感情に踏み込んでくる、ライルに根負けしてモーベイルは話す。

「少し……整理をしたかったんです。本当にエリオット様が好きなのか、それとも憧れの意味なのか……」

「ふーん。じゃあさぁ、それ本人聞いてみたら?」

「え?本人って……?えっ!?エリオット様!?」

いつの間にそこにいたのか、黙ってそこにエリオットは立っていた。

「じゃあ。僕は、行くね。ちゃんと二人で話すだよ」

そう言い残し、ライルは去っていく。モーベイルは内心思う。

(何しに来たんだ……。あの人……)

「あの……その……今日は天気がいいですね……」

ライルが去った気まずい空気を消すかのように、モーベイルは

エリオットに言う。しかし、真面目なエリオットだ、モーベイルが欲しい言葉はくれない。

「……今日は、一日曇りだ」

「あははは……。ですよね……」

モーベイルは笑ってごまかす。そんなモーベイルにエリオットが言う。

「……隣りに座ってもいいだろうか?」

「え?ど、どうぞ……」

モーベイルにそう言われ、エリオットはモーベイル隣りに座す。エリオットあ口を開く。

「……君にとって思い出したくないことだと思うが……、その……傷は大丈夫なのか?」

「え?あ、はい。もう大丈夫です。ユリウスにやユルがいましたから……」

「そうか……」

エリオットは優しく笑う。この時、モーベイルは隠しようがなかった。もうこの胸の痛みが恋なのだと。

モーベイルは、隣に座ったエリオットの体温を感じていた。 ほんの少しだけ、肩が触れている。それだけで、心臓がうるさい。

「……あの、エリオット様」

「なんだ?」

「……その、助けてくれた時……、本当に嬉しかったです」

エリオットは、少しだけ目を細めた。

「……当然のことをしたまでだ。君は、守るべき者だったから」

「……でも、俺なんかのために……あんなに……」

モーベイルの声が震える。 エリオットは、しばらく黙っていた。そして、静かに言った。

「……君が泣いていた時、俺の胸が痛んだ。……それは、任務じゃ説明できない痛みだった」

モーベイルは、目を見開いた。そして、気づいた。

(ああ……やっぱり……俺、エリオットこと好きなんだ)

「……エリオット様」

「……ん?」

「俺……」

モーベイルは、言葉を飲み込んだ。でも、手はそっと頬の絆創膏に触れていた。

(……もう少しだけ、このままでいさせてください)

「いえ、なんでもないです……。ただ……」

「ただ?」

「明日、もう一度同じ時間にここに来てくれませんか?」

「……それはかまわないが、何かあるのか?」

モーベイルは立ち上がって言う。

「はい。エリオット様に伝えたいことがありますので」

そんな真剣な表情で言うモーベイルを見て、エリオットは頷く。

「……分かった。明日、同じ時間同じ場所でだな」

「はい」

モーベイルは力ずよく頷いた。

*****

夜、モーベイルの部屋には同室であるユルとユリウスが来ていた。

「モブ君、話って何?」

ユリウスは、ユルの隣に座ってモーベイルに言う。モーベイルは

枕を抱きしめながら言う。

「……明日、エリオット様に告白する……」

「「ええええええ!?」」

ユリウスとユルは同時に驚く。

「なんで?!というかユル君、知らなかったの?」

「はい……。僕も今、知りました。……モブ君からは、今日の夜ユルとユリウスに大事な話をするってしか聞いていません」

「……そっか」

ユリウスはしばらく黙っていた。そして、ふっと笑った。

「じゃあ、明日はモブ君の晴れ舞台だね」

「は、晴れ舞台って……そんな大げさな……!」

モーベイルは枕に顔を埋める。

ユルはそっと微笑んで、モーベイルの背中をぽんぽんと叩いた。

「でも、嬉しいです!モブ君が、ちゃんと自分の気持ちを伝えようとしてるの。……すごく、かっこいいです!!」

「かっこよくなんかないよ……。怖いし、緊張するし……」

「それでも言うんでしょ?それが、かっこいいんだよ」

ユリウスの言葉に、モーベイルは顔を上げる。その目は、少しだけ潤んでいた。

「……ありがとう、二人とも」

「うん。明日は、全力で応援するから!」

「僕たち、ちゃんと見守ってますからね!」

「……やめて。見ないで。恥ずかしいから……」

「えー、じゃあ物陰から見てるね」

「それはそれで怖い!」

三人の笑い声が、夜の静けさに溶けていく。でもその空気の中には、確かにあった。“空気だった者が、恋を語ることを許された夜”のあたたかい残響が。

*****

次の日、、モーベイルにとっては運命の日でもある。一つ深呼吸をして、エリオットが待つ庭園のベンチに向かった。そこには、当然エリオットが座らずに待っていた。

モーベイルは思わず、胸の前でぎゅっと服を握りしめる。

(落ち着け、俺!そ、そう!エリオットのあの、天然さを思い出すんだ!って違う!!これから合うに、余計緊張させてどうすんの俺!!!バカじゃん!!)

モーベイルがぎゃぎゃと騒いでいると、エリオットが声をかける。

「来ていたのかモーベイル」

「ひゃい!!!」

モーベイルは思わず変な声を出してしまう。そんなモーベイルにエリオットは、小さく笑う。

「ふふ、なんだその変な返事は!」

モーベイルはそんなエリオットの笑い顔を見て、緊張が解けたのか一緒に笑う。

「あははは!すみません。見苦しいところを、見せてしまいましたね」

「いや、構わない。君はずっとそのまま笑っていてくれ」

エリオットは優しい声で言う。モーベイルは、エリオットの言葉に胸がいっぱいになった。

「ずっとそのまま笑っていてくれ」——その一言が、自分の存在を“モブ”ではなく、“誰かの目に映る者”として認めてくれた気がした。

「……エリオット様」

「ん?」

モーベイルは、そっと頬の絆創膏に触れる。そして、深く息を吸って、吐いた。

「俺……もう、モブじゃないって……思えるようになりました。エリオット様には、何を言ってるのか分からないかも知れませんが……。それでも……」

エリオットは、黙ってモーベイルを見つめている。

「それでも……今日、伝えたいことがあって……!」

モーベイルは、震える手で絆創膏を剥がす。風が、そっとその薄い紙片をさらっていく。

「俺……エリオット様のことが、好きです」

沈黙。でも、それは怖い沈黙じゃなかった。風の音と、心臓の音だけが、世界を満たしていた。エリオットは、ゆっくりとモーベイルに近づく。そして、モーベイルの前に立ち、そっとその頬に触れる。

「……その傷、俺が守る。これからも、ずっと……。俺も君が好きだ。愛しているモーベイル……」

モーベイルは、涙をこぼした。でも、それは悲しみじゃなかった。エリオットはそっとモーベイルの涙を拭いてあげる。そして、エリオットはモーベイルに誓いのキスのようにキスをした。 END

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作者について

チェシャ猫

チェシャ猫

成人済み/文字書き一応絵師/pixivやBLoveやなろう(小説家になろう)に、小説投稿してる。小説【赤い糸】動画化しました♪※ヘッダー(自分の)小説をAI生成したやつ/目標は書籍化!/書く専門。 ...

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